半分少女のヒーローアカデミア
相澤さんにヒーロー科受けます宣言をしてから早いもので、雄英高校 入試試験の日となっていた。
元々、個性制御の一環で訓練はしてたし、中学までろくに学校も行けなかったので、中学校教育の内容まで叩き込まれている。実技、筆記ともに問題なし。
けど、いざ雄英を前にすると緊張してしまう。落ちる気はないが、初めて感じる受験の空気というものに当てられてしまう。なんせ周りを見れば、ガッチガチな人やら目の据わってる人やらで、ガチなオーラがビリビリ来るのだ。
「おし!やったりますかァ!」
頬叩いて気合いを入れ直す。できることはやった、あとはやることをそのままやるだけだ。
あ、ちなみに雄英敷地内に住んでる私が、なぜ正門にいるかと言うと、正門を通らず校内から現れる受験生なんて不自然極まるからである。そこまで見てる人もいないだろうけど念の為に、如何にも一般受験生を装って、裏門から正門までグルっと回ってきたのだ。
気を引き締め校舎に向かって歩き出した時、緑谷くんと爆豪を見つける。爆豪の声と緑谷くんのあたふたした様子を見るに、あの幼なじみお約束の会話でもしてたらしい。
「お、かっちゃん。やっぱり来たね。緊張してない?胃薬あげようか?」
「アァ!?いらんわ、そんなもん!俺が緊張なんかするかよ。クソナードと一緒にすんな。」
「そっかぁ……でもいつも「かっちゃん言うな!」って怒るのに、今日はないね。緊張してるんだって、ほらあったかいお茶も付けるよ。」
「いらねぇ!黙れやクソメッシュ!!!」
やっといつもの愛称で呼んでくれた爆豪は、その後でかい舌打ちを残してズカズカ校舎に歩いていく。
うん、面白い。
「あ、相変わらずだね、加山さん。こんな日までかっちゃんを煽るなんて。」
「面白いからねぇアイツは。まぁそれはそれとして、頑張ろうね緑谷くん、目指せヒーロー科!」
「……!そうだね。頑張ろう!」
盛大に爆豪を煽ってる私に、緑谷くんは苦笑いである。だって面白いからしょうがないじゃん……
爆豪とは違い分かりやすく緊張してた緑谷くんにも一声かけて別れる。お先に、と校舎に向かっていたら視界の端で緑谷くんが、自分で自分に引っかかって転けそうになっていた。
あっちゃーと思ったが通りがかった女の子に助けられて、ズッコケるのは回避する。
…………緑谷くん、女の子に話しかけられたの嬉しそうだけど、会話してないよ?…あと私も女の子なんだけど。
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なんとか筆記試験も終えて、実技試験の時間になる。他の受験生も各々の格好に着替えて、説明会場に集まっていた。ちなみに私は、普段訓練に使っている特別製ジャージではなくて、市販のジャージを着ている。さすがに入試試験で、ガチ装備を使うのは公平性に欠けるので、彼は家で留守番なのである。
山田さん、もといプレゼントマイクさんの説明がされると、割り振られた試験場に移動する。爆豪や緑谷くんと被ったらどうしようかと思ったけど、同中同士で協力や潰し合いを避けるためか、バラバラになったようだ。
——ヴィランロボ、1pt、2pt、3ptを倒して得点を稼ぐ試験か。0ptロボもいて、これはオジャマ虫だって言ってたけど、なにか意味がありそうだなぁ…
試験場まで歩く間、説明された試験内容について考える。標的を倒して得点を競うという内容は至極簡単で、受験生の単純な戦闘力を見るにはわかりやすいものだと思う。実際ただ倒せばいいだけじゃなくて、他受験生の妨害禁止のルールは、ロボを倒すとき周りを見ているかも大事ということだろう。
——けど、やっぱり0ptロボの存在が気になる…。戦闘力や判断力だけ見たいなら、有ptロボだけ配置してればいいし。ヒーローなら自分に益にならない相手でも戦わなくちゃいけないってこと?うーん、日々相澤さんの合理的虚偽に振り回されている経験からすると、なにか意図がありそうだって私のシックスセンスが言っているぞぉ。
テクテクと歩きながら試験場の前に到着する。会場には、スタート位置が設置されていて、合図と同時に開始って感じらしい。
軽く柔軟しながら、合図を待つ、
『はい、スタートォ!!!!!』
来たッ!
足元で水を爆発させて、スタートダッシュを決める。炎と水の合わせ技、個性を同時に使って加速力を得る。そのまま弾けさせると力が散ってしまうけど、水蒸気も水なので操作の適応範囲、指向性を与えて前にだけエネルギーを伝える。
「って……あれ?」
走りながら周りの出方を見ようと、後ろを見てもほとんど人が動いていない。2、3人が今、動き出したくらいだ。大半の受験生が真っ先に飛び出した私を不思議そうに見ている。
——あっれぇ?スタートって言われたから動いたけど違った?もしかしてフライング、え、私失格です???
『どうした!?実戦にカウントなんざねえんだよ。走れ走れ!賽は投げられてんぞ?ほらぁ!お前ら全員最初に飛び出したリスナーに置いてけぼりだぜ!?』
山田さんの言葉で、みんな一斉に駆けだした。よかったぁ!合ってた!
遅れてスタートした人たちが、私と同じ方向に数人来ているのを確認する。他の人たちは別の方向へと散っていった。
——やっぱり、バラけるよね。塊ったらポイントの奪い合いになるし、個性にもよるけど戦いにくくなる。私も攻撃に使うとなったら、範囲が広まるから好都合。…さて、ptロボはどこかなっと。
視線を前に戻して、ロボがいないか視線を泳がせていると、唐突に前方のビルがぶっ壊され、何かが現れる。
…出た、2ptロボだ。
派手な登場をしたヴィランロボが、体勢を整えてカメラをこちらに向ける。
* * *
<標的捕捉、ぶっ殺す!>
「いや、物騒過ぎない!??」
ロボのくせにやたら殺意マシマシで来た2ptロボを、真正面から迎え撃つ。登場の仕方と言葉には驚いたけれど、こっちは準備万端、大丈夫。
「よいっっっしょ!!!」
両手から水流を放って、ロボを捕らえる。ビル4階か5階くらいの高さまで一気に打ち上げ、さらに水流を操作して、地面に勢いよく叩きつける。深くめり込んだロボは沈黙したが、動けたら怖いので、足と胴体のつなぎ目を炎で焼いて破壊しておいた。
本当は焼き切れるくらいしてもいいけど、炎の個性は負担が大きいので試験時間いっぱい持たせるにはセーブしないといけない。
——てか、1体倒すのに時間食った!これなら高圧の水流を集中して頭部か、足を一撃で破壊しないと。せっかく先行を取れたんだから無駄にできない!
止めていた足を動かして、新しいロボを探す。もう各所で戦闘が起きていて、あちらこちらに破壊されたロボが転がっていた。
次々に現れるロボたちをできるだけ、1発か2発で沈めて会場を走り回る。一々止まって戦うのも時間の無駄なので、動きながら的確にロボを破壊する。
状況に合わせて炎も使うので、オーバーヒートしないように水での冷却も挟んでいる。だからあまりポイントを伸ばせている気がしないが、体力を残しながら戦えている。
——にしても懸念してた0ptは、まだ出てこない。誰かに倒されたってこともあるのかな?
『残り2分を切ったぜえ!』
マイクさんが残り時間をアナウンスしたとき、少し離れたところで轟音が鳴る。ビルが崩れ、もうもうと土煙が上がる中、巨影が一つ。
——でっっっっっっ!!!!!
『「でっかすぎるだろ!!!!!!!!」』
私を含む、会場内の受験生の悲鳴が響き渡った。
『いやいや無理だろ!』
『いくらオジャマって言ってもあんなに大きいとか聞いてない!』
『相手してられるかよ!』
周りの人たちが口々に叫びながら、逃げ出し始める。そりゃそうだ、こんなバカでかいやつ私だってごめん被る。みんなと同じように、0ptロボから逃げようと私も踵を返そうとする。
そのとき見てしまった。
———腰を抜かし呆然とする人、がれきに挟まれ動けなくなった人、退路をふさがれ逃げるに逃げられなくなってしまった人。
「あああああもう!これ見て逃げるとかできないじゃん!!!!」
気づいたら走り出していた。
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0ptロボが暴れる足元まで近づき、固まっている人に声をかける。
「君!動ける!?」
「あ、ああ。うわロボ目の前かよ…!」
「そ、の、前、に!がれきで動けない子を私が助けるから、君が連れて逃げて!」
「はぁ!?お前はどうすんだよ!」
「私はあのバカロボをぶっ飛ばす!!!!」
そう言い捨てて駆けだした私を、バカだろ…って目で見てくる。けど、がれきから出した子を手渡されると顔つきが変わり、コクリと一つ頷いてくれた。
私は、任せた!とだけ言い残し、次へと向かう。
がれきの山を飛び越え、取り残された人たちの前に降り立つ。
「そこの人たち!がれきで逃げられないんだよね!?」
周囲をざっと見渡して状況を把握する。逃げ道をふさがれたことに、かなり焦っていたようだが、動けないような怪我をした人はいないようだ。
「あなた、こんなところに来るとか何してんの!」
「いいから!ちょっと離れて、これ一気にどかすから。」
わざわざ危険なところにやってきた私を、残された女の子の一人が窘める。それを私は、声で制して他の人も下がらせた。
重心を下げて、反動に耐えられるように姿勢を整える。有ptロボ用に使ってた高圧水流だ。ふぅと息を吐いて、水流を放つ。
「開いた!行って!!!!!」
「わかった!あなたも一緒に…顔真っ青じゃん!」
「私は大丈夫だから。……行け!!」
「……ッ!ありがとう、ほらみんなも逃げるよ!」
できた隙間から声をかけてくれた子を含んで、みんなが逃げていく。なんの説明もなく個性を使ったので、咄嗟に動けない子もいたから、窘めてくれた女の子が号令してくれるのは助かる。
逃げ遅れた人が全員離れたのを確認して、0ptロボに対峙する。正直、体力は限界だし、個性もキャパギリギリだ。
——大丈夫って言ったけど、きっついなあ。でかいのはもう乱発できない。
「でも…ヒーローはいつだって、命がけ。だもんね。」
息を整え、両手を組んで前に突き出し、個性を集中する。
イメージするのは、細い、糸のように細い水流。
イメージするのは、鋭く、一点を貫く水流。
要領はウォータージェットだ。
「いっけええええ!」
ロボの駆動系を狙い、装甲ごと貫徹する。行動不能にするほどのダメージを与えることはできなかったが、これでこいつは動けない。
「標的捕捉 ぶっ潰す!」
「だから物騒なんだって!!!」
巨体に見合わず、高速で腕を振り下ろしてくる。その腕を、スタートのときと同じように足元を爆発させ、上空に飛び上がって回避する。高さはロボの頭、真ん前まで。
——見た感じ、機能の中枢が入ってる頭部の装甲はかなり厚そう。さっきの水流じゃ貫通できない。
なら……
ロボの脚を破壊した水流は、ウォータージェット加工の応用。けど私が使ってるのは、研磨剤のないモドキにすぎない。相手の硬さ、厚み、距離次第で簡単に有効性は失われる。
水流を使えないなら、残されているのは炎だ。水流のときとは負担が段違いにかかる。着地を考えると……余力は一発分しかない。
同じように組んだ両手を突き出して、炎の個性を集中させる。高熱を集め、圧縮していくイメージ。
静かに息を吸い込み、ロボを見据えた。
「……ぶっっっ壊れろ!!!!!」
手から煌々とした熱線が放たれ、ロボの装甲に激突する。炎の放出点である両手が熱を持ち、ぶすぶすと黒煙が上がった。体全体も急速に熱がこもり、沸騰していくのが分かる。今、水流を放ったら熱湯を出せるに違いない。
——クッソ硬いな!!??余裕ないんだけど!!!!私の実力じゃ、炎を使った大技なんて数秒で限界が来るから相当きつい。
そう考え、限界を迎える前に放出を止めようとしたとき、炎の手ごたえが変わる。霞始めた視界をこらしてロボを見ると、熱線が装甲を貫いて、後頭部から突き抜けるのを見た。
「標、、的捕、捉…」
——0ptロボは最後にノイズがかった音声を残し、体勢を崩す。
「やっ、た」
熱線を止め、体が自由落下していくのに任せる。物理的に沸騰していた意識の中、なんとかなけなしの水流で衝撃を殺し着地する。
私が覚えていたのはここまでだった。
* * *
「……あれ?私、」
額のひんやりした感触で、目が覚める。寝かされていたベッドの上で、上半身だけ起こして見渡す。
「おや、ようやく起きたかい。またずいぶん無茶したねえ。」
「リカバリーガール……あー私試験のあと倒れちゃった感じですか?」
「そうだよ全く。両手は重度の熱傷、体の方も熱がこもってアンタから湯気があがってたんだからね。」
「うーー、すみません。」
まぁ命に関わるほどじゃなかったから良いさね、と私の手にお菓子を置いてくれた。私が寝ている間に治癒してくれたらしく、栄養補給もかねてありがたく受けとる。
「まぁ今はゆっくり休みな。イレイザーヘッドが戻ってきたら、それどころじゃないだろうしね。」
「え、それはどういう?」
「ん?あの子も教師だからね、試験を見てたんだよ。アンタが無茶したところもバッチリ見てたってさ。」
「うええええー」
やだ、相澤さんの説教だけは嫌だ。
私は、毛布を被って絶対防御の姿勢に入った。
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毛布を被って貝になってから、数時間経った頃、ガラガラと保健室の戸が引かれる音がする。
「リカバリーガールさん、遅くなりました。水穂はどうですか。」
「あの子ならそこのベッドで、丸くなってるよ。」
「ありがとうございます。体調の方は?」
「治癒しといたからね。手のやけども軽くなったから、しばらくしたら治るさね。」
「なにからなにまでありがとうございます。」
あたしゃ看護教諭だからね。当然のことだよ。カラカラ笑いながら、リカバリーガールが椅子を降り、ベッドに近づいて来る。
——ひいいいい、リカバリーガール先生!そっとしておいてくれませんか?????
プルプル震えていた私に抵抗できるわけもなく、毛布をはぎとられてしまう。
「ほら、アンタもこもってないで出てきな。」
「うぅ……あ、相澤さんお疲れ様です。」
たっぷり5秒かけて沈黙が続いたあと、相澤さんがハァ、とため息をつき口を開く。やっぱりお説教だろうか。
「なんでそんなにびくびくしてるのか、俺にはわからないんだが。もう歩けるんだろ?帰るぞ。」
「え、お説教は?」
あれ、てっきり怒られるとばかり思ってたんだけど。全く相澤さんは怒ってないし、すごく優しいんだけど。
「そんなことしないよ。お前が頑張ってたのは見ていた。あの状況で人を助け、0ptロボを倒したのは立派だったよ。」
「へへへ~」
相澤さんは、厳しいところが目立つので、優しさが分かりにくい。だから、ここまで褒めてくれるのはうれしい。照れくさくなって、頬をかく。
ただ、と言葉を切って、相澤さんの空気が変わる。
「倒した後にぶっ倒れたのは、大幅減点。助けるのも倒すのもいい、だがそれだけで行動不能になるのはだめだ。お前が倒れたら誰かに助けてもらうつもりか?」
「……」
私を見下ろす相澤さんの目は氷点下だ。たまに見る、人を本気で注意しているときの。
褒められて浮かれていた気持ちが萎み、自分の行動を顧みて苦虫を噛み潰したような気分になる。
その通りだ、人を助けて、ヴィランを倒して動けなくなりましたじゃ意味がない。人を助けきるまで、ヴィランを倒しきるまで、ヒーローとして動き続けられないなら、ヒーロー失格だ。
自分の間違いを自覚し、眉を顰め俯いていると、相澤さんがしゃがみ目線を合わせてくれる。
「…分かってるならいい。疲れてるお前にガミガミ言うつもりはない。もしお前が雄英に来たなら、そこ含めてみっちり鍛えてやるよ。」
「うん、」
「よし。まだ荷物取ってないんだろ?職員用の更衣室に移してもらってるから。あと運動着も着替えてこい。」
「わかった。」
ずっと使っていたベッドから降り、リカバリーガールにお礼を言ってから、保健室をあとにする。
——まだ雄英に行けるかわからないけど、自分の課題は明確になった。頑張ろう。
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水穂が去り、教師2人になった保健室。
「あれからずいぶん経ったねえ。最初、アンタが雄英に来るってだけでも驚いたのに、子供まで連れてくるんだ。」
「あの頃は自分も水穂も必死で、苦労をおかけしました。今日も含めて感謝してますよ。」
「なに、若者の面倒を見るのは年長者の務めさね。アンタもあの子は、これからも見ていてやりな。今でこそ、人並みの女の子としてふるまえてるけど、奥底にはまだ過去がこびりついてる。」
「わかってますよ。水穂との約束でもありますから。」
イレイザーヘッド、リカバリーガール、それぞれの立場で、ヴィランの悪意に翻弄された少女を見守る。ヒーローとして、教師として、大人として、保護者として。
外の廊下からバタバタ走ってくる足音が聞こえ、保健室前で止まったかと思うと勢いよく戸が開く。
「相澤さん、着替えてきました!」
静かに開けろと、相澤は睨み、水穂を連れて出ていく。その様子は、親子のようで、兄妹のようで、保護者と子供という関係以上に二人がつながっているように見える。
戸が閉まり、相澤と水穂の姿が見えなくなってからも、リカバリーガールは優しく見つめていた。