半分少女のヒーローアカデミア
第3試合を終え、負傷者の搬送が行われていた時のこと。
「もうちょいだったなぁ。」
「……ねぇ、ねぇ!加山!」
「ん?どしたの耳郎さん。」
勝敗とは別にハラハラさせられたのを思い返していると、耳郎さんに話しかけられる。なんだろうか?
「さっきさ、作戦タイムあったじゃん?」
「あったね。……あー、もしかして俺に着いてこいってやつ?」
何となく言いたいことが分かる。第2試合のインターバル中、試合が残ってる人達は休憩もかねて自分の試合をどうするか作戦を練っていた。ただ爆豪チームだけは、その、なんというか、アレだった。
「そうそれ。ウチら、もう次なのに何も作戦立てれてないんだよ。そっちからもさ、爆豪のこと説得してくれない?アイツ、全然話聞いてくれなくて……」
「説得かぁ……」
「ね、お願い!」
そう言って耳郎さんが拝んでくる。まぁ、そういうのも頼まれればやらなくはないけど……でも、私には爆豪へのある種の信頼がある。
確かに爆豪は、傲慢で俺様気質だけど、その身勝手さは自分さえ良ければいいという考えからじゃない、ひたむきなだけだ。それにアイツは底抜けに賢い、「オールマイトを超えるナンバー1ヒーローになる」、そのために何をすれば良いか考えてるし、分かってる。今回の言動も勝つのに必要なことを全て組み立てた上で言ってる。
だから、きっと……大丈夫だ。
「耳郎さんはさ、爆豪のこと信頼してる?」
「え?まぁ、頼りにはしてるけど……」
「そ、じゃあ勝てるよ。」
「いやいや!そんなあっさり言われても!」
「爆豪が着いてこいって言ったんだよ?なら、大丈夫。あれって俺が絶対勝つから全力でフォローしろってこと、耳郎さんたちがミスっても必ずフォローするって。」
「ほ、ほんとに大丈夫?」
「うん!アイツ、頭良すぎて逆に口下手なだけだから。」
「えぇ……」
うわぁ、不安そう。爆豪、いつも協調性が壊滅的だからなぁ。分かりすぎる。
「とにかく、ドンとぶつかればいいよ。ほんとほんと。」
「──人の前で陰口叩くたァ、いい根性してんな?おい。」
「うわ出た。」
「あ゛?」
後ろからぬっと出てきた爆豪がドスの効いた声を響かせてくる。
顔怖すぎでしょ。ていうか陰口じゃないし、君の口下手を補足してただけだし。
「爆豪と一緒なら対抗戦は大丈夫だよって話してたの。勝つんでしょ?心配してないけど。」
「違ぇな。」
「あれ、そうなの?」
「ただ勝つんじゃねぇ、完全勝利だ。」
「おぉ、いつになく本気じゃん。」
「俺はいつも本気だボケ。」
「だろうね。」
ほら、やっぱり勝てるよ。
「耳郎さん、おめでとう。勝ったよ。」
「いや、意味わかんないんだけど……」
「あれね、ヨンゼロで勝つってことだから。」
「余計わかんない。」
「えーー」
わかんない?足りないですよ、爆豪検定が。あ、爆豪検定っていうのは、まず爆豪の罵倒を耐えるところから始まるんだけど……
「おい!耳ッ!いつまで骨折女と駄弁っとんだ!行くぞ!」
「ちょ!?置いてかないでよ!あと耳じゃなくて耳郎!!!」
「行ってら〜」
チームメンバーを置き去りにして歩いていく爆豪を慌てて追いかけていく耳郎さんたちを見送る。
最後まで耳郎さん訝しげだったな……まさか爆豪への理解度がここで響いてくるとは。あんな気難しい奴の考えをまともに理解しようとしたら胃に穴が開くか。
「あ……」
爆豪、アイツまた私のこと骨折女とか言ったな?
※ ※ ※
両チーム配置に着き、第4試合が始まる。ブラキン先生は相変わらずの偏向実況だが、もう慣れた……この試合は私としても注目したい内容、爆豪のリーダーシップがどう発揮されるかしっかり見たい。
今回のA組チームは、爆豪と砂藤くんの火力担当、耳郎さんの索敵、瀬呂くんのサポート性能と、とてもバランスが良い。対して、B組チームは取蔭さん、凡戸くん、泡瀬くん、鎌切くんだ。4人合わさると搦手が怖い、特に迎撃性能の高さが光る。
映像を見るに、A組チームは爆豪を先頭にして攻める気みたいだ。さっき耳郎さんが言ってた通りの動き。一見、爆豪の独断専行に見えるがそうではない。普通なら取蔭さんたちの罠に嵌るのを嫌って索敵と不意打ちメインの消極的な作戦に出るだろう。
が、それは悪手だ。
その理由はB組チームの個性にある。凡戸くん、泡瀬くん、鎌切くんは、あの工業地帯なら好きに作り替え、罠を張れる。取蔭さんは体を切り離して、1人で広範囲を索敵、撹乱できる。一度陣地を構築されてしまえば、こちらから動くのは一気に難しくなる。
つまり、この試合で勝つための最低条件は……
「絶対に先手を取ること。」
だからこそ、作戦なしの「俺に着いてこい」ってことだ。先に仕掛けて相手の出鼻を挫き、次の動きを見るために。
そして何かに気づいた爆豪はいきなり動きを止める。
『耳ッ!』
『耳郎だって!』
あまりにもあんまりな呼び方に抗議するが、爆豪の意図を汲み、耳郎さんは索敵に入る。
よしよし、いい感じ。始まる前は不安そうだったけど、ちゃんとスムーズに動きを合わせられてる。
『全員、近くにいるはずだ!探れッ!』
イヤホンジャックを伸ばし、辺りの音を探るが、聴覚に優れる彼女にしては探知が遅い。これは……
……中々B組の動きも素早いな。
『……ッ!?やっぱやられた!』
耳郎さんが警戒を促すのと同時、紫の塊が爆豪を取り囲む。その中でも一際大きいものが口を開いた。
『──はい、終了。』
『チィッ!!!』
寸でのところで爆豪は取りつかれるのを回避する。
なるほど……道理で耳郎さんの探知が遅れたわけだ。
あれは取蔭さんの個性「トカゲのしっぽ切り」だ。体を分割して自由に動かせる個性、分かれた体がそれぞれ動いてノイズを出してたな?
爆豪が追われる間に瀬呂くんがテープを張り巡らせ、防御に動く。しかしそこへ待ってましたと言わんばかりに凡戸くんの接着剤が降ってくる。加えて間を置かずに鎌切くんがパイプを切断、接着剤付きのパイプとテープが一緒になって落ちてきた。
このままでは最悪一気に3人がやられる状況。でも完全勝利を宣言したあの才能マンが──
『……爆豪!?』
瀬呂くんが声を上げる。取蔭さんの破片に追われながらも、彼らに降り注いで来た瓦礫を丸ごと吹き飛ばした。しかしそれでもB組は攻撃の手を緩めない。
『好都合ッ!まずは耳郎から!!!』
『……ッ!?』
──遅れを取るはずがない。
鎌切くんに切りかかられた耳郎さんを蹴って退かし、間髪入れずに反撃を加える。
「相変わらず身体能力のバケモンだ……」
水蒸気爆発で似た応用をするから分かるけど、拡散していく爆風を使って空中移動をするのは、それだけで凄まじい難易度だ。推進力とする爆発と姿勢を制御する細かい爆発を使い分けなければならない。しかも爆豪は私と違って指向性を与えられない。なのに取蔭さんの猛攻を潜り抜け、耳郎さんたちのフォローまでするあの身のこなし、センスの塊としか言いようがない。
──正直、妬けちゃうな。
中学の頃から事ある毎に張り合って来たし、雄英で自分なりに頑張ってるつもり。それでも爆豪に一瞬でも優ったと思えたことはない。彼はいつも私の2歩も3歩も先を走っているから。あの状況、私だったら取蔭さんで手一杯だった。
負けてるのは悔しい、それはそれとして口と性格が悪いのは直せって思う。
『授業だろうが、なんだろうが関係ねぇんだよ……!決めてんだよ俺ァ、勝負は完全勝利……』
でも、
『4-0無傷!これがッ!』
その一点が誰よりも眩しく見えるから、私は
『本当に強ぇ奴の勝利だろ!』
爆豪を心底、尊敬して信頼している。
「勝つ」と言ったなら、彼は絶対にそれを掴む。
※ ※ ※
「あっれぇ……?」
チームを守り、反撃してみせた爆豪に信じてた通りだと満足してる私の横から不思議そうな声が聞こえる、物間だ。
「僕、目が変なのかな?彼、耳郎さんを庇ったような……」
「庇ったなぁ。……足蹴で。」
「アイツは意外とそういう奴だ。物間、大丈夫だ。目、変じゃないよ。」
「ぐあああ!?キャラを変えたと言うのかァ!?」
「うっさ……」
「これが黙らずにいられるかッ!」
なんだよもう。こっちは爆発さん太郎の良いとこ見れて気分良いのに邪魔しないでよ。
はぁ……
「リサーチ不足だね、物間。爆豪はチームプレーが出来ないんじゃなくてやらないだけ、だいたい一人で勝てるから。でも目標に、今回なら無傷で勝つことに必要ならちゃんと協力できるんだよ。」
「はァ……はァ……こ、この僕が情報収集を怠っていたと!?」
「そゆこと。」
「まぁ、身を呈すような分かりやしいのは初めて見るかもな。」
「そう?体育祭とか分かりやすかったけど。」
「あれを理解できんのは加山くらいだぞ。」
そっかぁ。神野のときとか結構助けてくれたよ?いや、あれは切島くんも知らないか。
ぎゃあぎゃあとうるさい物間は放って置いて、試合映像に視線を戻す。B組チームは出鼻を挫かれ一時撤退を選んだみたいだ。相手が何かする前に叩き潰す、爆豪のやり方は上手くいったらしい。
退いていくB組を耳郎さんが探る。取蔭さんの個性でノイズは多いだろうけど、分割された小さい体と人一人分が出す音は明確に違う。なら、彼女が聞き分けられないはずがない。そしてついに誰かの足音を捉え、爆豪に位置を伝える。
入り組んだ地形を跳ねるように移動し、その先にいたのは凡戸くん。しかし、それを守ろうと人影が飛び出してくる……泡瀬くんだ。
『早業着工!ウェルドクラフトッ!』
「音を立てずに潜んでた!?」
「また逆手に……!」
『──竣工ッ!!!』
彼の個性「溶接」によって、爆豪はコスチュームごと建物に固定される。
……さっき出てこなかったのは、失敗した時の足止め要員か。瀬呂くんのテープが伸びるがさすがに届かない。このままでは取り逃してしまう。
でもそのためのチームだ。
『うらあああ!!!シュガーラッシュッ!』
砂藤くんが溶接部分を破壊し、自由になった爆豪が泡瀬くんに迫る。向こうは再び対処しようと身構えるが、爆豪は目の前を爆破し方向転換する。その意図は……
『任せるぞッ!』
『『任された!!!』』
耳郎さんと彼女を抱えた瀬呂くん、2人との選手交代!爆豪の目的は泡瀬くんではなく、凡戸くん。あっという間に追いつき、容赦のない爆撃を浴びせる。
『冬は調子がクソでよ!やっとあったまってきたッ!』
爆破を連続で喰らい、弱ったところを砂藤くんが確保する。任せた泡瀬くんの方も耳郎さんの音響攻撃でノックダウンした。
「い、一瞬で俺の可愛い2人を確保ーー!」
まず爆豪自身が突貫し、B組の戦線を破壊する。相手の動きを撹乱し翻弄、ある程度ぶちのめしたら仲間に後詰を任せて次に行く。最も戦闘力に優れ、対応力のある自分が前に出て、足りないところを耳郎さんたちに補ってもらう。パッと見は荒々しいけど、実力への高い自負と彼女たちなら着いて来れるという強い信頼があってこそ成り立つ戦法だと思う。
体育祭のときから感じていた爆豪らしいリーダーシップだ。アイツ、態度は素っ気ないけど、クラスメイトの能力は結構ちゃんと見て分析してる。
『爆破式カタパルトッ!!!』
爆豪が鎌切くんを派手に投げ飛ばすのを見る。既にB組チームの作戦は瓦解した。取蔭さんたちは、真綿で首を絞めるような地道に集中力と余裕を削っていく戦いをしたかったはずだ。A組チームが爆豪頼りのワンマンなら、彼を機能不全に陥らせれば、そのまま動けなくなるって。
まぁ確かに爆豪はチーム戦苦手そうだけどね、見た目は。
でも実際は爆豪が耳郎さんたちを信頼したように、耳郎さんたちも爆豪を信頼して、各々が考えて動いている。彼が最大限に動けるよう自分たちの最大限を発揮する。
今の状況なら瀬呂くんを見ているとよく分かる。彼は移動、捕縛の補助だけでなく、運動場のあちこちにテープを巻き付けている。移動の痕跡にも見えるけど、進行方向とは関係ないところにもテープはあった。目を凝らしてみると取蔭さんの分かれた体を巻き込んでいる。これは明らかに取蔭さんへの削りだ。
取蔭さんは個性で体を分割して操れる、その数なんと今は50個。分割した体は一定時間で動かなくなるが、失った箇所は本体で再生できる。しかし、その再生も無尽蔵ではない。繰り返すほど彼女は疲れてしまう。耳郎さんを妨害するために目いっぱい分割してるなら、その消耗は激しい。見るに一部は本体に戻すことで再生の時間と体力を節約していた。
そこで瀬呂くんのテープが効いてくる。
彼女はもうチームが自分しか残っていない、余裕がない。そんな時に破片を戻せず再生に体力を削られる。当然、集中力も落ちる。なら、戻そうとしてる体にある違和感も気づきにくくなる。普段であれは絶対に見逃すはずのない違和感を。
──運動場の上空が突然爆ぜる。
黒煙の中から辛くも逃げて来たのは取蔭さん。そう、これが瀬呂くんの考えてたであろう「爆豪を助ける」自分の最大限。
さっき爆発したのは多分、爆豪のサポートアイテム、ニトロ汗を詰められる簡易手榴弾だ。瀬呂くんはそれを取蔭さんの破片に付けて飛ばした。自分が削れば彼女は集中を欠く、そこを突けば必ず手榴弾が刺さる、と。
取蔭さんを倒せてはいない。寸前で気づかれて回避された。でも瀬呂くんにとってはそれで十分すぎる。
だって彼が目指したのは「爆豪を助ける」こと。
体を分割し、浮遊できる取蔭さんの──居場所を見つけること。
『あ、あんた……変わりすぎなんだよッ!』
そう叫ぶ取蔭さんが爆破の光に包まれる。
第4試合、A組4-0無傷、完全勝利だ。
※ ※ ※
試合を終え、両チームが戻ってくる。当然、私は爆豪に声をかけた。この試合一番の功労者だ、友達として労ってやらねばなるまい。
「よっす、お疲れ爆豪。」
「……んだよ。」
「え、普通におめでとうって言いたかったんだけど……宣言通りに勝ったじゃん。」
「そーかよ。」
なんか冷たくない?それはそれで寂しいじゃん。オールマイトに褒められて力抜けた?
あ!さっき緑谷くんに噛み付いて、罵倒の語彙尽きたとか?……これはないか。
「なぁ、テメェは人の勝ち負けで一喜一憂してる暇あんのか?」
「ん?友達が勝ったら嬉しいし、負けたら悔しいでしょ。」
「ハッ、じゃあ一生俺の下だな、クソメッシュ。」
「おん?」
喧嘩ならタダで買うよ?
あと別に下じゃないし。爆豪の方がほんのり上かなって思ってるだけだし!勝つし!!!
「──俺ァ、強くなってんぞ。」
なるほど……この、
「気難し屋め。」
「知るかよ。わかったならとっとと這い上がって来いや。つまんねぇ怪我してる時間ねぇぞ。」
なんだよぉ。こんな爆豪、むず痒い。
でも、その挑発は受け取った。元気でたよ。
ていうか、気難しい癖に意外とわかりやすいとこあるんだよね、この子。
「……もしかして励ましてくれてる?」
「してねぇ。」
「あ、私がいないと張り合いがないってこと?」
「言ってねぇわカス!死ねッ!!!」
爆破しようと来てきた右手を避けて、追撃を貰う前に逃げる。
爆豪から競争相手って認識されてるの、案外悪くないな。
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