半分少女のヒーローアカデミア
昏睡状態だった私がひょっこり目覚めていたため、大騒ぎとなった見舞い組を相澤先生が大人しくさせたあとのこと。先生たちとの話云々の前に、医者の診察が入り、ぐるぐると病院中を回らされた。
まぁ、特に異常はなかったです、はい。五体満足、内臓も脳も悪いところは見つからず、一日様子を見て明日にでも退院出来る運びとなった。
私が寝てる間に来てたリカバリーガールも含め、診察したお医者さんからは、なんで折れてた腕が跡もなく綺麗さっぱり治っているのかと首を捻ってたけど……
とにかく、今やっと落ち着いたわけです。
……まずは、全員出鼻をくじかれて誰も会話を切り出せないこの空気をなんとかしないと。
「えーっと、先生もなんですけど、みんななんで私のところなんかに?外出許可取るの大変だったと思うんだけど。」
「俺は経過を見にだ。あとのは勝手に着いてきた。最初は全員で来ようとしてたからな。何とか代表は選ばせたが。」
「だって1週間以上も眠りっぱなしだったんだよ!そりゃ心配にもなるよー!」
「い、1週間!?私そんなに寝てた!!?」
「本当だぞ、加山くん。」
「どれどれ、うっわ本当じゃん……」
飯田くんにスマホの画面を見せてもらい日付を確認する。……マジで1週間経ってる。体感時間としては一日寝てたくらいなんだけど!
溜まってる学校のあれやこれやや、心配かけた他のクラスメイトのことやらが一気に頭を過ぎる。どうしよう、血の気引いてきたな。
「相澤先生、顔には出さないけど水穂のこと心配して、ずっとソワソワしてたんだよ?」
「え、」
「……してない。余計な口を叩くな芦戸。」
「あー、照れてるんだー!」
「本当に帰されたいか……?」
「まぁまぁ………んんっ、おほん。その、心配してくれてありがとうございます、相澤さん。」
「当然のことをしてるだけだよ。……担任で保護者だからな、俺は。」
「はい!」
迷惑かけちゃったのは申し訳ないけど、心配してくれるのは素直に嬉しい。いつだって私の相澤さんは優しいのだ。誰にもあげないよ?
そんなわけでホクホク顔な私に対し、相澤さんは居住まいを正して真剣な顔つきになる。……先生モードだ。
「──でだ、あの時なにがあった?」
「やっぱり……」
「俺と先生ですぐ止められたが、結構な騒ぎだったぞ。緑谷の方も妙なことになってたからな。」
「そうそう!デクくんの手から黒いのがブワーって!試合終わって戻って来たら病院運ばれたって言うし!」
「ね!私、びっくりしすぎて、どっちに慌てたらいいのかわかんなかったもん!」
「おぉう……ちょーと纏めるから待って待って。」
本当に大騒ぎだったっぽいね、これ。落ち着いて話すためにも少し考えを整理しないと。
私に起きたことは、言わば個性の成長だ。元々備わっていた機能が、個性の習熟に伴って解放された形。シノさんと話した通り、ワン・フォー・オールの異変が私にも届いたため。ただ、切っ掛けが切っ掛けなので、今ここで全部話すわけにもいかない。シノさんのこともダメだね。オール・フォー・ワンとのことも明かせない。
先生には後で話すとして、ここはぼかすしかないか。
「あれは多分、個性のロックが外れた、みたいなことだと思います。無意識にかけてた制限をうっかり解除しちゃった感じです。でも、この個性にそんな力があるって、私も知らなかった。」
「……それは、災難だったな。本人が危機的な状況に陥った時、個性が急激に成長することはあるが……今回のは事故のようなものだろう。」
「ですね。緑谷くんに起きたこととの関係はわからないです。タイミングが悪かったとしか。」
「そうか……一旦は分かった。だが、あとでもう少し詳しく聞くぞ。」
「了解です。」
若干、相澤先生の目付きが鋭くなる。先生には元から隠すつもりはなかったし、誤魔化したのがバレても問題ない。何なら私がみんなの前で話せないことがあると察して、詳細な話は後回しにしてくれた。
「個性のロックがどうとか言ってたよな。何か変わったのか?折れてた腕も戻ってんだろ?」
「あー、それね。私の個性、放出型だと思ってたんだけど違ったみたい。」
「みたい?」
「うん、まだ分からないことが多くってさ。骨折が治った理由もよくわかんないし。まぁ、ぼちぼち探ってくよ。」
「分かんねぇか。緑谷と言い、加山と言い、個性っつうのは難しいな。」
「身体能力だからね。そう思い通りにはならないよ、仕方ない。」
「あぁ……」
難しい顔してるなぁ……
お互い全部話してるわけじゃないけど、事情を知ってる身だもんね。「人が個性を望んで」生まれた者同士、内心は割と複雑だ。私だって炎の個性なんて欲してない。そりゃ、中にシノさんって人が居てくれたことは頼もしく思った。でも、彼女から個性を奪ってしまったとも言える。生死も不明だし、私がいなければ彼女は普通に過ごせていたかもと考えなくはない。
人も個性も絵具じゃないのになぁ。あの白髪野郎には迷惑ばかりかけられる。何年経とうとクソッタレである。
はぁ……しんみりしちゃったじゃん。話題変えようか、ね!
「みんな来たがってたって言ってたけど、どんな感じだったの?」
「毎日毎日、口をひらけばお前の容態のことばかりだ。俺が見舞いに行くって言ったら蜂の巣をつついたみたいな大騒ぎだったよ。さっきも言ったが、さすがに人数は絞らせた。十何人と来たら病院側も困るだろ?」
「確かに。でも、よくここまで減らせましたね。」
「その辺りはジャンケンで決めたぞ!心理戦による高度な駆け引き、対抗戦にも迫る緊張感のある戦いだった!」
「俺が勝った。」
「人の見舞いで何してんの……」
「ただ芦戸と葉隠、麗日が頑なに行きたがってな。女子は複数人を認めざるを得なかった。」
「そこで委員長である俺がまとめ役に呼ばれたわけだ。」
「けど割と振り回されてなかった?」
「うっ……しかし君の言う通りだ。まだまだ委員長として精進せねば!」
よーし、話題転換成功!見舞いに行くってだけでかなりお祭り騒ぎしてたみたい。それ絶対面白かったでしょ、めちゃくちゃ混ざりたかった。
「そういえば対抗戦ってどうなったの?勝ち数的に負けはないと思うけど、第5試合は緑谷くんもトラブってたよね?」
「A組の勝ち〜!」
「お茶子ちゃんがね、緑谷くんにギューって──」
「うわわわ!言わんといて!」
「ふーーーん、なるほど。」
見たかったぜ!
「実際、麗日そして心操の働きが大きかったよ、あれは。心操に洗脳を使うよう上手く誘導してくれた。」
「へぇ、お茶子さん頑張ったんだね。」
「いやぁ、無我夢中やったというかなんというか……」
照れ照れしてるの可愛いな???
正直なところ、緑谷くんと同時に私がやらかしたので、相澤先生がすぐに動けなかったろうことが心配だった。でも、お茶子さんたちが上手く収めた上、A組が勝ってるから杞憂に終わった。めでたしめでたしだ。
普通に明日退院出来ると思うし、帰ったら緑谷くんとも話そう。彼に聞きたいことだらけだ。多分、向こうもそう。個性やら面影やらって話をした直後にあれだもん、共有したい情報がいっぱいあります。
「む!先生、そろそろ面会時間が終わります!」
「そうか。ありがとうな、飯田。おい、全員帰るぞ。」
「えー!話足りないーー!」
「葉隠、ヒーロー候補生なら規則を守れ。」
「……はーい。」
「明日帰れると思うし、すぐ会えるって。ね?」
「うん……」
うーーん、可愛い。顔を覆いそうになったのをギリギリ踏みとどまった私を褒めて欲しい。葉隠さん、透明で顔は見えないはずなのに、凄くはっきり表情が分かる気がする。今も見るからにしょんぼりしてるのが分かる。
「俺は加山の担当医と少し話して来る。先にロビーで待ってろ。」
「わかりました!さぁ、みんな一列に並んで行くぞ!加山くんもまた学校で会おう!」
「張り切っとるね。」
「さすがに学校の外で並んで歩いてるの恥ずかしくない?」
「うんうん。」
相澤先生が出て行ったのを皮切りに、どやどや騒ぎながら飯田くんたちは去っていく。来た時のテンションと全く同じだったね。
一人、一人と病室から居なくなっていく中、最後に席を立ったのは轟くんだった。彼はマイペースです。
そして、私は彼に言いたいことがある。
「ねぇ、轟くん。」
「……どうした?」
轟くんを呼び止める。
今日、来てくれた時から、これをずっと伝えたかった。
「──約束守ってくれてありがとう。」
轟くんは果たしてくれた。
保須でしたときの約束……
私が私の炎で灼かれたら救けてくれるって約束を。
「約束、だからな。」
「うん。」
「さっさと帰って来い。」
「もちろん!」
そう最後に会話して、彼が出て行くのを見送る。
「ふふっ」
ちょっとだけ笑い声が零れた。
あのなんでもないって顔は照れ隠しだ。男の子ってなんで変なところでカッコつけたがるというか、余裕を見せたがるのか。
ただ、そういうところが……
私は嫌いじゃない。
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