あと11話が1万UA突破、お気に入りも1100件もいただいてしまいました。嬉しいです!完結まで頑張って走り切って行こうかと思いますのでよろしくお願いします。
半分少女のヒーローアカデミア
対抗戦でぶっ倒れてから1週間と少し、私は晴れて雄英に戻ってくることが出来た。体感時間としては数日なので、あまり久しぶりという気もしないけど。ちょっと出かけてましたって感じだ。
あぁ、でも。A組の寮の戸を開けたら、あの日に見舞いへ来れなかった人達から揉みくちゃにされたのは大変だったね。男子組は大騒ぎだし、女子組からは骨が折れそうなくらい抱きしめられるし、峰田くんはどさくさに紛れて太ももに手を伸ばしてくるし……
友達に囲まれるって感覚、私には縁のないものだった。A組にも仲のいい子は何人もいるけど、みんなの内側に私の居場所があるって実感させられた。もっと強くなって、余計な心配かけないようにならなくちゃね。
「むふー」
「なんだお前、急にニヤつきやがって気持ち悪ぃ。頭見てもらってねぇんか?」
「じゃあ一緒に見てもらおっか!」
「……前にも増してうぜぇな。」
というのを校舎を歩きながら思い出していた。隣の爆豪は心底気味悪そうな顔してる。なんだよー、私は爆豪と会えて嬉しいのに。この口の悪さが心地いい。
癖になってんだ、爆豪にちょっかいかけて遊ぶの。
いやぁ、にしても病み上がりみたいなものなのにバッチリ授業あるのは、さすがヒーロー科だよね。授業出ていいか帰寮した日に相澤先生へ聞いたら、当たり前だろって顔してたもんね。
「そういえば、仮免補講ってそろそろ終わりだったっけ?」
「……まぁな。」
「何すんの?」
「実戦演習、ギャングオルカと殺り合うんだとよ。」
「へー……ん?」
「おぉ!爆豪少年に加山少女、探したよ。」
「オールマイト……緑谷くんと一緒でどうしたんです?」
「どうせ内緒話だろ。」
「いつものやつね。」
「「ン"ッッッ!!!」」
同じ反応……仲良しだな、この師弟。前にも爆豪から目立つことするなって散々言われたのに。全然隠す気ないよね?たまたま誰も周りに居なくて良かった。
まぁ、ヤバくなったら手伝うけどさ。
「で、具体的になに話すんだよ。」
「え、えぇと、僕に起きたあの黒いのと……」
「加山少女のことだ。応接室を借りてある、そこで話そう。」
「おけです。」
「わァったよ。」
この前のこと、オールマイトたちから話しかけてくれたのはタイミングが良い。私もちょうど話したかったところだ。
応接室まで4人揃って歩くが、さすがにそこまで行くとなると人目につく。オールマイトと良くも悪くも目立ってる私たち、チラチラと目線を感じるよね。ほんとに大丈夫なんだろうか。
変な噂とか立ちませんようにと願っていると応接室に着く。来たのを知らせるようにオールマイトがノックをするのを見て、中に誰かいると気づいた。連れてきたのは私たちだけじゃないのか。
「すまない、待たせたね相澤くん。」
え、相澤先生……?
黒ずくめの人物がゆらりと振り向く。室内に居たのは紛れもなく相澤先生だった。
「……遅いですよオールマイト。」
デートの待ち合わせか???
知ってるオジサンとオジサンで、そんなそれっぽいことしないで欲しい。ムズムズする。
「デートかよ。」
「コラッ!」
「ってぇな!」
爆豪の頭を叩く。
ツッコんだら負け!!!
※ ※ ※
「では、人も集まったことだ、本題に入ろう。」
人数分の湯呑みにお茶を注ぎ、オールマイトが切り出す。今となっては痩せているが、見た目アメリカンな人が丁寧にお茶を入れてるのちょっと面白いよね。
……いかんいかん、意識が逸れた。
「緑谷少年と加山少女の個性に起こった異変、そのことについて情報共有したい。」
「……相澤先生がいるってこたァ、知ってんのかデクのこと。」
「夏休み前に私と聞いたの、ね?」
「あぁ、ショッピングモールの一件があった後にな。」
「どんだけペラペラ喋ってんだよ。」
「ゴフッ!??」
わぁ、チクチク言葉だ。そろそろオールマイトが吐血しちゃうから程々にね。今はお茶噴いてるけど、次は血だから絶対。
でも爆豪からしたら、あれだけ秘密にされて、教えられたあとは周りに絶対話すなって言われてたのに、いざ蓋を開けたら知ってる奴がポコポコ出てくる。呆れ顔の一つや二つ出てしまうというものだ。意外と振り回されるタイプ?
「んんっ、失礼。少し気管に入ってしまった。」
「前置き長ぇぞ。」
「急かさないの。」
「いや、すまない。今度こそ本題に入ろう。……まずは緑谷少年、ワン・フォー・オールについてだ。」
オールマイトが落ち着いたのを見計らって私も居住まいを正す。マジ話だからね。
「じゃあ俺から聞かせてもらいます。オールマイト、あなたがあの黒い個性について知っていることは?」
「そうだね……はっきり言うと何も分からないな。私も今まで知らなかったよ。先々代、私のお師匠からも聞いたことがない。歴代継承者の個性が備わっているなど、お師匠も把握していなかったんだろう。」
「今回のことは緑谷の代で初めて起きたと?」
「あぁ。緑谷少年の前に現れたというスキンヘッドの継承者、お師匠の先代は黒髪の青年だったと聞いている。お師匠たちより以前となると、情報を辿るのも難しいだろうね。」
ふむ?
……いや、そうか。
ワン・フォー・オールの歴史を考えたら継承者たちの情報が散逸、途切れていてもおかしくないんだ。
存在を隠されてきたから知る人は少ないし、オール・フォー・ワンに付け狙われてきた。現在、次代に継承してなお生きているのはオールマイトだけだ。年齢もあるかもしれないけど、先々代は継承後に殺されたと聞いている。もし、これまでもギリギリの継承が行われてきたんだとしたら、ワン・フォー・オールを詳しく知る人は恐ろしく少ない。
そして長い年月をかけて培われてきた力は、継承者自身も気づかない変化を積み重ねていった。ワン・フォー・オールに付随した歴代継承者たちの個性、それが今になって花開いたのなら、緑谷くんに起きた出来事も納得出来る。
ただ気になるのは……
「何がトリガーになったんだろうね?」
「だな、物事は何でも原因と結果だ。なんかきっかけらしいきっかけあったんか?」
「ううん、全く。でも『時は満ちた』とだけ言っていた。何か外的な因果関係があるのかも。」
「──オール・フォー・ワンが関係してんじゃねぇのか?ワン・フォー・オール、元々アイツから派生して出来上がったんだろ?複数個性の所持……なるほど、アイツと同じじゃねぇか。」
「言いたくなかったことを……」
「それ私にも刺さるからね?」
そのあたりはさすがにもう飲み込んでるから、一々気を荒立てたりしないけどね。
全く、デリカシーがあるのかないのかわかんない奴だ。遠慮がないのは間違いない。お前らならこのくらい言ってもいいという厚い信頼を感じる。
「今のところ分かっているのは、ここまでですか。」
「そうなるな。個性のことも継承者のことも未知なことばかりだ。しばらくは情報を集めつつ、様子を見るしかない。」
「分かりました。あなたの方がワン・フォー・オールに詳しいでしょうし、調査はお任せします。」
「時間はかかると思うが、色々ツテを当たってみるよ。」
担任と副担任の方針が一致したところで、少し間が空く。そして相澤先生と目が合った。
次は私の番ってことですね。
「じゃあ、私からもいいですか?」
「もちろん。あの時、君に何があったんだ?」
「まず端的に言うと個性の成長ってところですね。」
「成長……」
「デクと同じ感じか。」
「そう。でも私の主観だけど、ちょっと違うと思ってる。」
「僕と違うってどんな感じ?」
「子供っぽい例えをすると、緑谷くんはゲームのスキルツリーが解放された状態、私はステータス不足だったのが追いついた状態、かな。」
「なら、テメェの場合はやろうと思えば何時でもできたってことだな。」
「多分ね。」
と言っても、無理に使おうとしてたら個性側からより強くロックをかけられたか……最悪な事態になってた可能性も考えられる。シノさんには頭が上がらない。私の頭の中の人だけど。
「具体的にどう変わったかは分かるか?」
「分かります。身体の状態変化、体を水や炎に変えたりできます。対抗戦の日に暴発してから使ってないので、詳しいことはわかりません。」
「状態変化……リスクは?」
「これまで以上の体力消費、体力が切れても使ったときの代償があります。」
「………」
相澤先生の目が鋭くなる。
「加山さん……代償って、何?」
「私の存在そのものを消費する。やりすぎると──死ぬってことだね。」
その場の全員が表情を硬くした。
正直、散々に迷惑をかけた上に追い討ちをしたくはない。でも、隠すわけにもいかない。黙ってコソコソ練習していれば使えるようになるかもしれないが、また同じような事態に陥る可能性もある。そのとき、私が言わなかったせいで自滅なんてしたら目もあてられなくなる。
親友と恩人の前で、私はそんな死に方をするつもりはない。
なので、迷惑に迷惑を重ねることになっちゃうけど、全力でみんなを頼らせて欲しい。そうは思いつつも、反応が怖くて顔色を伺ってますが。
「……加山、よく隠さなかったな。」
「隠しませんよ。心配をかけながらじゃないと、心配をかけないくらい強いヒーローにはなれないかなって思うので。……だから、これからいっぱい心配をかけさせてください!」
「そうか。」
そうか……ってなに?沈黙は怖いです、先生。
「……合格点だ。死なないために死ぬ気でやれよ。」
「はい!!!」
元気いっぱいに返事をする。
──内心、冷や汗ダラダラだ。
あの一瞬でめちゃくちゃ試されてた。先生もとい、相澤さん相手に私の隠し事は通用しない。言わなければいけないことを黙っていた、言うべきことの優先順位を間違えていたら、どんな判断をされてたか……恐ろしい。背筋が冷える。
「だ、大丈夫なんですか先生!?」
「大丈夫、じゃないな。」
「あれ?相澤さん?」
「……それでも、加山は俺たちを信用して嘘をつかなかった。だったら俺も加山を信用しなくちゃならない。他人を素直に頼るっていうのは意外に難しいんだよ、緑谷。」
「………」
緑谷くんが浮かせかけていた腰を落とす。先生の言葉に納得したみたいだった。私もさっきのは身に染みた。
別に相澤先生が言ったそのままのことなんて考えてなかった。考えていたことは、ただここで嘘や誤魔化しだけはしちゃいけないということだけだ。
他人を頼る。誰も頼らないという人は強い人なんだろう。でも、その人は孤独なんじゃないかと思う。……私は寂しいのは嫌だな。
「加山少女、リスクは承知だが訓練はできそうかい?」
「できるかと。始めるなら水の個性から試してみるのがおすすめらしいです。」
「らしい?人から聞いたみてぇな言い方だな。」
「うん、だって本当に聞いたもん。」
「なに言って……あぁ、デクが見たっつう面影か。」
「面影!?君も面影を見たのか!」
「え?ま、まぁ。話もしましたよ。緑谷くんも会話出来たんだっけ?」
「一方的にだけどね。僕からは話せなかった。」
「ふーん。やっぱり個性が違うと、そこら辺も変わるかぁ。」
オールマイトがめちゃくちゃワタワタしてる。個性に面影が宿るかもって話、それこそ対抗戦のときにしなかった?うん?
「他人から受け取った個性には、その持ち主の人格が残るってことだろ。オールマイト、前に自分でクソメッシュにもワン・フォー・オールみたいなことが起きるかもしれねぇって言わなかったか?」
「……そうだったね。気が動転してしまっていたよ。面影の存在は、ワン・フォー・オール特有ではなく、譲渡された個性全般に言えるということか。」
「私が会った人は結構美人なお姉さんでした。シノさんって言うんです。」
「本名か?それ。」
「ニックネームですね。本人が名前忘れちゃったらしいんで。」
由来が名無しの権兵衛ってことは黙っておこうかな?安直すぎるし……
「そういえば、僕と加山さんが同時に個性が暴発した理由ってどうなるんだろう?」
「あ、それもシノさんと話した。やっぱりワン・フォー・オールから影響受けたっぽい。」
「だろうな。」
「確かに、それは有り得るかも。」
「私たちと加山少女は個性の由来が近しいからね。」
「はい。ワン・フォー・オールという強力な個性が急成長したことで、その衝撃が私も届いたんじゃないかって思ってます。」
「個性同士の感応、常識からかけ離れてるが、起きた以上はそれを前提に考えていくか。」
「つまりイレギュラーコンビ、私たちこれからそれで行く?」
「えぇ……」
「しょうもないことを言うな。」
「ッス。」
変なコンビ結成の夢は途絶えてしまった、残念。
「ふむ、これである程度は情報共有はできたかな。」
「あとは2人の今後の方針ですか。どうします?」
「緑谷少年はこのまま個性の使用上限を上げて行く方向でいいだろう。加山少女については慎重に行きたいが……」
「本人が言った通り、基本的に水の個性からやらせるのがいいでしょう。授業内の訓練か、自主練も俺の監督下でやれば危険も少ない。」
「分かった。相澤くんの言った方針で行こう。緑谷少年も加山少女も問題ないね?」
「はい!」
「よろしくお願いします。」
「爆豪少年も2人に付き合ってくれるとありがたい。君にもいい刺激になるはずだ。」
「……しゃあねぇな。」
「加山、もし俺が居ない時に問題が起きたら、轟か八百万を頼れ。2人なら上手く対処できる。周りを頼るって考え、忘れるなよ。」
「分かりました!」
半水半燃、その先の能力「身体の状態変化」
絶対、ものにしてやろうじゃないか。
※ ※ ※
「むぐぐぐ、ぐ?……あ〜〜、ふんぬぬぬぬぬ!」
ワン・フォー・オールと半水半燃について五者面談した翌日、寮にほど近い演習場で私は1人で百面相をしていた。
この演習場は、クラス単位でやるには少々手狭だが、少人数が自主訓練をするにはもってこいのスペース。つまり、1人で使うには余りすぎる敷地のど真ん中に座り込んでいる妙な状況だ。水を並々と張ったバケツに右手を突っ込み、あーでもないこーでもないと唸り続けている。
別に頭おかしくなったとか、変なものに目覚めたわけではないですよ?これも個性訓練の一環です。
新たに使えるようになった身体を状態変化させる技。しかし、対抗戦の日以来、発動する手応えがさっぱりと言っていいほどない。この超常社会で、体を伸ばしたり曲げたり、違う物質にするくらいの個性は割とありふれている。でも人の形を完全に変えてしまうレベルのものは少数派だ。なのでお手本になるものがなく、どうやって使うのか手探りをしてるのが今の状態なんですね。
一応、身近な身体変化系の個性を持ってる人達に聞いてみたけど、参考になる答えは得られなかった。ほとんどの人が生まれた時から使えて当たり前のものだったから、私みたいに0から1にするという感覚がない。スイッチのオンオフは息をするように出来るのが自然すぎて、やってることはオンにしたあと如何に思い通り動かせるかどうかの話。
そうした経緯があって、私は個性のやる気スイッチを探している。が、これがほんとに中々見つからない。
「うあーー!できなーーい!!!」
かれこれ1時間は漬けていた手を引き抜き、地面へ大の字に寝転がる。精神統一の修行でもあるまいし、じーーっと座っているのは詰まらなさすぎる。
「……炎の方はいける気がするのになぁ。」
「ダメだって何回言ったら分かる。」
「ぶーー」
進捗の見えない水化に見切りをつけ、最初に発動できた炎化をやろうかとボヤいてみたら、私を見下ろす相澤さんと目が合った。悪あがきにぶー垂れてみる。……目付きが余計に怖くなっただけだった。
せっかく時間を割いて見てもらってるし、こういうのはコツコツやるものとは分かってる。でも、楽そうな方が見えるとそっちに流れたくなるのは人間の性です。
「緑谷の方も難航してるんだろ?こういうのは積み重ねるしかないぞ。」
「はぁい。」
「加山、俺たちしか居ないからって気を抜きすぎだ。」
「……はい。」
相澤先生の声が一段低くなったのを確認して、私は訓練に戻る。冬の真水はさすがに冷たい。体質で皮膚はふやけないけど。
冷えすぎて指先の感覚が無くなってきたかも。
今すぐ熱いお湯に手を突っ込みたい。血管が広がってチクチクしてもいいから突っ込みたい。冬場のお風呂特有の、あの熱がじんわりと伝わってく感じに浸りたい……
──あれ……?なんか思いつきそうだったぞ?
「うーん???」
「どうした?………っと悪い、もう時間だ。」
「え、今いいとこだったのに。」
「次の予定があってな、通形たちを待たせてる。壊理ちゃんの個性訓練で試しておきたいことがあるんだよ。」
「壊理ちゃん!」
「……来るか?」
「はい!」
壊理ちゃんに久しぶりに会えると聞いて、一も二もなく返事をした。行くでしょうそりゃ。なんでちょっと驚いた顔するんですか?
バケツの水を始末して、寮の方向へ歩き出す。頭の中の八割くらいは壊理ちゃんの事だけど、2割くらいはさっき閃きかけた何か。こう、訓練の突破口になりそうなことが出てきそうだったのに引っ込んでしまった。知ってる単語が喉元まで来てるみたいなもどかしさがある。
「ん……?」
考え事をしていたら、すっかり寮に着いていたようで、玄関前で壊理ちゃんとミリオさん、あと一緒に緑谷くんが誰かと話している。
「雄英の、負の面……」
「アッハハッ!何言ってんのかなぁ?この子。」
「文化祭のとき、君のことを雄英の負の面と教えたんだ。」
「僕こそ正道ど真ん中を行く男ですけどぉ???」
なんだ物間か。
「あの、一体何が始まるのでしょうか?」
「緑谷、通形、悪いな呼びつけて。物間に頼みたいことがあったんだが、いかせん壊理ちゃんの精神と物間の食い合わせが悪すぎるんでな。」
「僕をなんだと思ってるんですか。アッハハッ!アッハハハッ!」
意外と辛辣に言う、相澤先生。事実でなければ悪口です。
まぁ、情操教育悪影響マンは置いといて、こちらに気づいた壊理ちゃんに挨拶だ。
「ちゃす。久しぶり、壊理ちゃん。」
「水穂さん……えと、ちゃす?」
「うん、ちゃすだね。」
「子供に雑な挨拶を覚えさせるな。」
「小学生くらいの子なら、普通の挨拶ですよ。……多分?」
「ツッコミ辛いのもやめろ。」
黒めのジョークも程々に、私たちは寮内へ移動する。先生の用事は、そこで済ませるようで入るなり、物間へ個性を使ってくれと指示を出した。
壊理ちゃんの手へ物間が触れ、コピーが発動する。彼女と同じ角が物間にも生えた。そこから数秒、何が起きるのかと静かに見守る。
「どうだ?物間。」
「……うーん、スカですね。残念ながらご期待には添えられません、イレイザー」
「そうか、残念だ。」
どうやら先生の思惑は外れたらしい。コピーしたわけ、スカとは?はて?
「壊理ちゃんの個性をコピー?一体何を。」
「物間くん、「スカ」って?」
「君と同じタイプってこと。君も溜め込む系の個性なんだろ?」
「溜め込む系の個性?」
「僕は個性の性質そのものをコピーするんだ。何かしら蓄積してエネルギーに変えるような個性だった場合、その蓄積まではコピー出来ないんだよ。」
「なるほど……」
なるほど……
器はコピー出来ても中身は違うってことね。ファットガムの個性「脂肪吸着」を例に緑谷くんが解説してくれる。彼の個性は脂肪を溜め込んで初めて意味を持つ個性だから、ただコピーしても痩せてる物間では発揮出来ないと。
ワン・フォー・オールも基本の能力は、「力のストック」と「他人への譲渡」だ。力をストックする能力はコピー出来ても、肝心のストックした力がないから物間はワン・フォー・オールを使えないわけか。対抗戦のとき、私がぶっ倒れてる間にそんな一幕があったらしい。
「で、なんでコピーを?」
「壊理ちゃんが再び個性を発動できるようになったとしても、使い方が分からない以上、またああなるかもしれない。だから、物間がコピーして使い方を直に教えられたら、彼女も楽かと思ってな。……そう上手くはいかないか。」
はー、壊理ちゃんにお手本を。私もぜひ欲しいところだ。私も私でスカりそうだけど。個性2つだし。
「……ごめんなさい。私のせいで困らせちゃって。私の力、みんなを困らせちゃう。こんな力無ければよかったな……」
「壊理ちゃん……」
そうだよねぇ、こういう難儀な個性に振り回されるのを受け入れるのは結構キツイ。私だってまだ飲み込めてない部分もある。他人に迷惑ばかりかける厄介な力だ。無ければ、もっと普通に生きられたんじゃないかって思う日もある。
でも、同じくらい向き合うことの大切さも知っているつもり。私は個性を人に役立てる道としてヒーローを選んだ。だから個性のことも少し嫌いじゃなくなった。壊理ちゃんにも、自分の個性を認めてあげられるようになって欲しい。
なら伝えるべき言葉はあれだけだ。君の力は自分で思っているより、ずっと誰かの為になる、優しい力だってことを。
彼女へ一歩近づいて目線を合わせる。それは緑谷くんも同じだった。
「困らせてばかりじゃないよ!忘れないで、僕を救けてくれた!」
「私のこともね!壊理ちゃんのおかげなんだよ?」
「そう!要は使い方だと思うんだ。包丁だってさ、危ないけど良く切れるものほど美味しい料理を作れるんだ。だから君の力は素晴らしい力だよ。」
「……!!」
さすがは緑谷くん、人を励ます言葉選びが的確だ。壊理ちゃんの悲しげな表情が見るからに明るく変わった。彼の打算のない言葉は、ストレートに応援する気持ちが伝わっていく。
私の言えることがほとんどなくなってしまった。だったら私は、私の経験から来る言葉を伝えたい。
「壊理ちゃん、私も昔は自分の個性が大嫌いだったんだ。」
「水穂さんも?」
「そう、私も。君と同じで使いこなすのにすっごく苦労した。それでも、嫌いでも向き合って来た。……そしたら、ほら!私、今高校生出来てる!壊理ちゃんは優しいから、たくさん悩んじゃうかもだけど、一緒に頑張ろ?ね。」
「うん、でも……」
「でも?」
「………」
壊理ちゃんがそう言って口篭る。
うーん……私なりに彼女を励ましたいと思ったけど、緑谷くんみたいに上手く出来ないや。
ここからどう挽回しよう。
「頑張っても……嫌いなままだったらどうしたらいいの?水穂さんは好きになれた?」
「……壊理ちゃん、よく賢いって言われない?」
「え、」
「ごめん、今のは冗談。」
そこまで考え至るとは……思わず声に出てちゃった。この頃の私より格段に賢い。
だけど、壊理ちゃんが思ったより前向きで良かった。この子は変わることを諦めてない。今のはきっと、諦めてしまった人には出てこない言葉だから。
「そうだねぇ。ちょっと嫌いで、ちょっと好き。」
「半分半分ってこと?」
「そゆこと。ちょっと嫌いなのは、今も個性の怖さを忘れてないから。ちょっと好きなのは、認めてくれた人と笑顔に出来た人がいるから。」
「私も、そうなれるかな。」
「なれるなれる!コツコツやることが大事だよ。」
「コツコツ……」
よし、よしっ!好感触!やれば出来るぞ、私!
「私……頑張る!コツコツ、頑張る!」
「頑張ろうね!コツコツ!」
「良いね、その意気だよ壊理ちゃん!俺も頑張るぞー!コツコツ!!!」
『コツコツ!!!』
いぇーい!壊理ちゃんハイターッチ!ミリオさんもハイターッチ!頑張ろう、コツコツを!
……コツコツを頑張るってなんだ???
あ、ちょ!?相澤先生、露骨にため息ついたでしょ!!!
最後まで読んでくださりありがとうございます。
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