半分少女のヒーローアカデミア
「俺がお前たちを育ててやる。」
事務所に設けられたトレーニング室で、仁王立ちしているのはエンデヴァー。『鍛錬』という達筆な字でデカデカと書かれた書道をバックにメラメラと炎を燃やしてる姿は、否応なく威圧される。コスチュームに着替えた私たちはその前で整列していた。
あれ書いたのエンデヴァーだったらウケるなとかは思ってないです、はい。自分の字を飾ってるナンバー1はちょっと可愛いのが悪い、えぇ。
「だがその前にデク、バクゴー、貴様ら2人のことを教えろ。今抱えている課題、できるようになりたいことを言え。」
初めに言ってた、育ててやるというのは本当のようで、自分の伸ばしたいところ、改善点を述べろと、エンデヴァーは言う。
「力をコントロールして、最大限のパフォーマンスで動けるようにしたいです!」
「個性は……自壊するほどの超パワー、だったな。」
「はい、壊れないように制御する方法を見つけました。……でも、ここに来てその、なんて言うか副次的な何かこう……違う形で発現するようになってて……」
「〜〜〜ッ!!!」
「かっちゃん、どうどう。」
隣の爆豪が自爆寸前です。
爆豪、緑谷くんとのあれこれはともかく、彼のぶつぶつモードはマジで嫌いだから……
「見せろ。」
エンデヴァーが端的に実演を促し、緑谷くんは個性を発動する。構えられた左手からピョロっと黒い紐が飛び出した。前にメディア演習で見たのと同じだ。黒鞭と言うらしい。
「集中した上で許容出力ギリギリ、これが今扱える範囲です。出力がブレると、溢れ出て暴走してしまいます。」
「最大限のパフォーマンスとは?これをどうしたい?」
「本来は鞭のようにしなる力なんです。この力をリスクじゃなく、武器にしたい。今考えているのは、新技エアフォースの要領を取り入れることは出来ないのか?あ、そのエアフォースというのは──」
「始まった……」
いつものやつだ。さっきの時点で、その予兆はあったけどね。緑谷くんは段々と早口になりながら、自分の個性について並べ立てていく。
まとめると、エアフォースという風圧を飛ばす技は、普段使ってる個性の許容上限を超えてしまう技である。負担が大きいので、一瞬だけ出力を上げて戻すことで、扱えるようにしている。同じことを黒鞭でもやりたいが、他の調節をしながらやるのは頭がパンクしちゃうので、どうにかなりませんか?
と、言いたいらしい。……長いな。
「長くて何言ってんのかわかんない!」
「自分の分析か。」
「あぁっ!うっぜぇ!」
「緑谷くん、多分学者とか研究者気質だよね。」
彼らは自分の調べたこと、見つけたことを人に語りたくてしょうがないので。
「つまり……活動中、常に綱渡りの調整ができるようになりたいと。」
「はい!」
「わかるんかい!ナンバー1は伊達じゃない!」
バーニンも喋りたがりですね……彼女の場合は、お喋りなタイプって感じだろうけど。
しかし、最初は何かと文句を言ってたが、いざ始まるとエンデヴァーは真面目だなと思う。ちゃんと話を聞いてくれるし。まぁ長年、トップヒーローとして走り続けてきた彼が、ヒーローに関して真面目なのは当然ではある。
「難儀な個性を抱えたな。君もこちら側の人間だったか……」
「???」
少し考えるように沈黙した後、エンデヴァーはそんな言葉を零す。緑谷くんはピンと来なかったみたいだが、轟家の事情を知る身としては結構切実な言葉だ。
オールマイトへの嫉妬に近い羨望と、己の個性では超えられないと思い知った挫折。
同じく難儀な個性を持つ側としても、わかるわかると内心頷いた。どうしようもない欠点、もがきながらでも付き合っていくしかない。
「次、貴様は?」
「逆に何が出来ねぇのか、俺は知りに来た。」
「ハハハハッ!ナマ言ってらぁ!」
「うるせぇな!さっきからテメェなんでここにいんだよ!」
「私、今待機!」
「……本心だクソが。」
いい性格してる。バーニンさんとは仲良くなれそう。
「俺の爆破は、やりてぇと思ったことなんでもできる。1つしか持ってなくても、一番強くなれる。それに、もうただ強ぇだけじゃ、本当の強ぇ奴にはなれねぇってことも知った。ナンバー1を超えるために足りねぇもん、見つけに来た。」
「………」
エンデヴァーはそれに何も言わない。でも、どこか感心したように見えた。昔の自分と重なるところを見たのかもしれない。
「いいだろう。では、早速……」
エンデヴァーはそう切って部屋の外へと向かう。
でもそれはちょっと困る。私も聞きたいことがある。ので、その前に話をしようと口を開いた。
「あ、私からも話が──」
「俺もいいか?」
「ショートは赫灼の習得だろう!!!」
「ひぅ……」
「「………」」
び、びっくりしたぁ。
轟くんの言葉に超反射したエンデヴァーの大声に体がビクッとなってしまった。私が怒鳴られたのかと思った……思ってもみないところから怒鳴られると、一瞬自分のことかと錯覚しない?私は今そうなった。
そして私が妙な反応を挟んだせいで、2人がこれまた妙な沈黙に陥っている。
「コホン……失礼しました。ちょっとびっくりしただけなんで、轟くんの方からどうぞ。」
「そうか、すまなかったな。で、なんだショート?言いたいことがあるなら聞こう。」
「あぁ。」
私が乱してしまった場の空気を戻したところで、轟くんはエンデヴァーへ語り出す。
「ガキの頃、お前に叩き込まれた個性の使い方を右側で実践してきた。振り返ってみればしょうもねぇ。お前への嫌がらせで頭がいっぱいだった……雄英に入って、こいつらと、みんなと競い合う中で目が覚めた。」
初期ろきくんだった時期の話か。確かに会ったばかりの彼はめちゃくちゃ尖ってたからねぇ。たった数ヶ月前のこととは思えない。それにA組のおかげで目が覚めたって言ってくれるのは嬉しい。ちょっとニヤケちゃいそう。
良い場所だよね、A組は。
「エンデヴァー、結局俺はお前の思い通りに動いてる。けど覚えとけ、俺が憧れたのは、お母さんと2人で見たテレビの中のあの人だ。俺はヒーローのひよっことして、ヒーローに足る人間になるために、俺の意志でここに来た。俺がお前を利用しに来たんだ。」
エンデヴァーに向き直った轟くんは言う。
「都合よくて悪ぃなナンバー1。友達の前でああいう親子面はやめてくれ。」
「………」
キッパリ撥ね付けられてる。そういうことをするためにインターンやりに来たんじゃないもんね。
けど、この人も今まで蔑ろにしてきた親としての在り方を探ってるんだろう。轟くんが来てくれて浮かれてたからな気もしなくもないが。
「あぁ、分かった。これからはヒーローとしてお前たちを見る。」
あ、切り替えた。やっぱり浮かれてたのかな?
そんな風に複雑な轟家の親子模様を見ていると、エンデヴァーが今度は私に視線を向ける。
「それでアモルファスはなんだ?先ほど何か言おうとしていただろう。」
「そうでしたそうでした。」
エンデヴァーの大声で聞きたいこと吹っ飛んでた。本当は緑谷くんみたいに個性のアドバイスを貰いたいところだけど、それ以上に気になることがある。
それは、
「エンデヴァーはどうして私を贔屓するんですか?いやに優しいですよね。」
今朝から思っていた疑問だ。
爆豪も言ってたけど、轟くんを贔屓するならわかる。事情アリとは言え、実の息子を直接育てたいと思うとは当然だからだ。そこから考えると、緑谷くんと爆豪の2人を最初は嫌がってたのもわかる。彼らが居ては、轟くんに集中出来ないからだ。
それなら私も同じくらいの対応をされてもおかしくはない。一応はインターンの誘いをくれてたが、いくらなんでも露骨な贔屓をするのは変だろう。
だから気味が悪い。そこに私を囲いこもうとする意思があるようで。
「贔屓、か……」
「もし、あのときの一件を諦めてないなら怒ります。」
「加山さん、あのときって?」
「あーー、職場体験でちょっとね。ま、こっちの話だから。」
縁談ぶち上げられそうだったなんて、クラスメイトには口が裂けても言えないです。
エンデヴァーは呟くような一言を言ったあと言葉を続けない。そんな彼をじっと見つめる。
さて、なんて言うのかな。私としては否定して欲しい。親子面とは違うが、私もそんなことのために来たんじゃない。さっき言ったことが本当だったら今すぐ帰る。
「そんなに、俺の態度は露骨だったのか……?」
「見え見えでしたよ。ねぇ?」
「まぁ…うん。」
「俺の言ったこと聞いてなかったんか!」
「確かにやたら褒めてた気がするな。」
「ですって。」
「そうか……」
私に続いて3人にも同じことを言われ、明らかに落ち込んだ顔になってる。特に轟くんから言われたのが効いてるらしい。
「で、どうなんですか。」
エンデヴァーの目の前に立ち、腰に手を当てて見上げる。そんな私を見て、彼の足が僅かに引いた気がした。
あれ?もしかして……たじろいでる?
有無を言わさぬよう強気に出てみたけど、ここまでとは。200センチ近い筋骨隆々の巨漢だよ?エンデヴァー。私、150ちょっとしかないんだけどな……
バーニンが吹き出すのを必死に堪えてるのが横目に見えるし、よっぽどアンバランスな光景なんだろう。
「君が……君が、焦凍の連れてきた初めての友人だったからだ。息子の友人に良くしようとするのは悪いことか?」
「まぁ、悪くはないですけど……そんなことが理由なんですか?」
「そんなことではない!!!」
「あ、はい!」
はい!!!
「最近少しずつ見えてきた、俺が焦凍から奪ってしまった物が。友人と呼べる人間が周りに誰1人として居なかった残酷さがな。……それを自覚すると、君が焦凍の友人となってくれたことの価値の重さが分かった。」
「……価値なんて大袈裟ですよ。」
「かもしれん。だが、君はこうして焦凍と共にインターンへ来てくれた。それは俺にとって大いに意味がある。」
「意味、ですか。」
「職場体験以降も雄英で何度も事件に関わっただろう?その渦中にいても変わらず焦凍の友としてあってくれた。これが理由の全てだ。」
「なるほど……よーーくわかりました。」
どこで謎のエンデヴァーポイントを稼いでいたのかよくよく分かった。要するに、息子と仲良くしてくれてお父さん嬉しい!インターンも一緒に来てくれてマジ最高!ってことだ。つくづく親バカですね、エンデヴァー。
──いや、恥ずいわ!
友達を家に呼んだとかじゃないんですよインターンは。真面目なところで何してるんですか……轟くんに父親ムーブしてた時点で大概だなとは思ってたけどさ。私たち3人ならともかく、緑谷くんたちがいる前で遠慮なくやってたの、とてもズレてる。轟くんの天然はこの人からで間違いない。
でも、とりあえず変な腹積もりが無いのは分かって良かった。
「エンデヴァーが心配しなくても、私たちは友達ですから安心してください。私以外にも彼にはちゃんとA組のみんながいますよ。」
「ならいい。これからもよろしく頼む。」
だから、よろしく頼まれるほどのことじゃないって言ってるのに……
「分かりました、分かりました!ので!私にも気遣いはやめてください!」
「だがな……」
「私は!ここに!インターンしに来たんです!!!ヒーローとして見るなら私もそこに入れてください!自分だけ優しくされたいなんて思ってません、逆に不公平です!それとも私にはナンバー1が指導するほどの素質はありませんか?」
「………」
また黙っちゃったな。別にエンデヴァーの厚意を無碍にしたくない。ズレてても彼なりに良くしようとしてくれてたのだ。でも、時と場合による。そしてそれは今じゃない。
私にだけ本気の指導をしてくれないのは、ヒーローになる才能がないと言われているようで嫌だ。全然嬉しくない。
「そうか、不公平か。」
「はい。」
「……ならば改めて言おう、俺がお前たち「4人」をヒーローとして見る。これでいいだろう?」
「もちろんです!よろしくお願いします!」
エンデヴァーへ、深く頭を下げる。
やるぞ、インターン!むん!!!
ここまで読んでくださりありがとうございました。明日も更新ありますので、どうぞそちらも。
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