最近はここ好きが付いてるとこを見るのが好き……
半分少女のヒーローアカデミア
エンデヴァー事務所でのインターンが始まって早1週間。ボロクソに成りながらand言われながら、エンデヴァーのスピードに追いすがる日々だ。インターン中かつ雄英に戻る時間も惜しいので、事務所の宿泊施設で寝泊まりさせてもらってるが、もうここが家な気がするくらい濃い時間を過ごしている。
これ以上ないほどに酷使されたコスチュームも傷みが目立ってきた。細かい傷や破損、解れなんかがおびただしい。
エンデヴァーの掲げるヒーロー像──思考から行動に移す速さ、最大限を瞬きの間に引き出す力のコントロール。どれも上達している実感はある。言われたように短期間で経験を山と積み上げた。自分基準でも結構頑張ってるんじゃないかと思うが、まだまだナンバー1を追い越すには至らない。彼は既にそれを山脈の如く積み上げ、今もなお積み続けている。
敵わない。でも届かない場所じゃないって、手を伸ばしてみて初めてわかった。
やはり全ては経験、経験値なのだ。ヒーローが対処するあらゆる状況を「識る」。それは知識となって「予測」を立てられる。どこに危険が潜むのか、誰を注視すべきなのか。予測を立てられれば、より「視野」が広がる。広がった視野をまた予測の元に「観察」していると、「見て動く」までの時間が短くなった。
それに手応えもある。個性を使い続けたことで理解度と言うべきか、そういうものが深まってきた。身体変化への糸口を掴みかけてる気がする。あと何かきっかけがあれば、扉を開けそうだ。
昨日より今日、今日より明日。私たちはもっと速くなれる。
そして、また一日とひた走って──
「今日も、追いつけなかった……!」
「クソが!」
「だが、初日よりは動きが確実に良くなってる。」
「伸びてる、よね。」
インターン2週間目の夕方、4人揃って荒い息をついている。
ご覧の通り、追いつけなかったんですね、また。あれだけ御託を並べてなんだその体たらくは、と言われても致し方ない不甲斐なさです。まぁ、いくら経験値を得られたとはいえ、2週間足らずでナンバー1を追い越せたら世のプロヒーローは苦労せんわけでして……
でも、それは女々しい言い訳か。私、女だけど。
もうすぐ冬休みも終わる。当然、こんなに密なインターン活動は出来なくなる。それまでにエンデヴァーの言った目標、是非とも達成したい。
「………行くぞ!!!」
「「あぁ!」」
「「はい!!!」」
さ、休憩終わり!パトロールに戻るぞ〜〜!
「なんでだ………!!!」
青筋を立てる爆豪。
──現在地、轟宅前。
え、パトロール?あぁ、巡回のことね。
そんなもの、うちにはないよ。
※ ※ ※
残っていたパトロールを切り上げ、何故かエンデヴァーに誘われるまま轟くんの家へ。今どき珍しいThe日本屋敷といった古式ゆかしい佇まいだ。デカいし立派、それでいて嫌味のない上品さ、マジリッチ。
しかしまさか、あの掛け声が「うちで飯食うぞ!」だったとは……
当然、そんな馴れ合いが大嫌いな爆豪はずっとキレてる。
「姉さんが飯食べに来いって。」
「なんでだッッッ!」
「友達を紹介して欲しいって。」
「今からでも言ってこい!やっぱ友達じゃなかったってよォ!!!」
「かっちゃん……!」
「友達の家……じ、人生初だ。」
やっべぇ、緊張するなぁ。爆豪の怒声もクソでかいはずなのに、ちょっと遠く聞こえる。
て、手土産とか用意した方が良かったのかな!めちゃくちゃドキドキしてますね、私!!!手汗がね!やばいかも!
後ろで焦ってる私のことなんて知りもしないエンデヴァーは、無言でさっさと引き戸を開けてしまう。その中からは待ってましたと言わんばかりの優しい声が聞こえた。
「いらっしゃーい!忙しい中、お越しくださってありがとうございます。初めまして、焦凍がお世話になっております。姉の冬美です!」
おぉ……写真は見たことあったけど、直に会ってみると確かに美人。なんというか、彼女の柔らかい物腰や笑顔はお姉さんというより、お母さんという印象があるかも。
ひと目でわかる。この人はすごくすごく心優しい人だ。
「こ、この度はお招きいただきありがとうございます!僕は轟くんのクラスメイトの緑谷出久といいます!」
……はっ!そうだ挨拶しないと!!!
玄関で固まってる場合じゃないよ!
エンデヴァーの背後から抜け出して、冬美さんの前に出る。
「あの!加山水穂です!初めまして!!!」
「わぁ!あなたが加山さん?焦凍からはいつも聞いてます!」
「そ、それはどうも……」
シュババッと寄ってきたかと思うと、私の手を握ってブンブンと振る。それはもう満面の笑みで。怖くはないけど圧がすごい、エンデヴァーの血筋を感じる。
てか、轟くんはお姉さんにどんなこと話してんだろ。
「でもびっくりしちゃった。ほんとに私に似てるのね!」
「えぇ……」
それ言って大丈夫なやつ?思ったこと素直に言っちゃうのは、ある意味解釈一致だけども。私は一瞬肝が冷えたよ。
そんな玄関での話もそこそこに、冬美さんの案内で居間へ移動する。途中の会話で、轟くんのお兄さんも来てると聞いた。ウキウキと話す彼女は、弟が私たちを連れてきたことが心底嬉しいらしい。
──しかし、忘れてはいけない。ここは「轟」家なんですよ。
※ ※ ※
「改めて紹介するわね。私は焦凍の姉の冬美です。小学校で先生をしています!こっちは焦凍の兄の夏雄、大学生!」
「どうも。」
なるほど、冬美さんは小学校の先生だったんだ。お母さんっぽいとも思ったけど、そう聞くと先生らしくも見える。お兄さんの夏雄さんは……ガタイがいい。いわゆる父似ですね。……お口チャック。
「焦凍、お友達紹介してくれる?」
「あぁ。ヒーロー科のクラスメイトで、緑谷と爆豪、加山。」
「は、初めまして!」
轟くんに紹介され、一応お兄さんの方に会釈する。一見和やかに見えるが、その実は針のむしろ。夏雄さんとエンデヴァーの間にピリピリと張り詰めた空気が満ちている。
まだ集まっただけなのに凄まじく気まずい。
「と…とりあえず冷めないうちに食べましょう!苦手な料理があったら無理しないで!食べなくていいからね!」
「はい、いただきます!」
同じく微妙な雰囲気を感じた冬美さんの取り成しで、食事会は何とか滑り出しをみせた。
私も手を合わせて料理に箸を伸ばす。何回でも言うけど、とても食事するような空気ではない。でも、目の前の料理とそれを用意してくれた冬美さんの厚意を無下にはできませんから──おぉ?
「……おいしい。」
口へ運んだ竜田揚げの味に体が固まる。別に料亭のような味だったわけじゃない、ごく普通の家庭料理。
そう、家庭料理だ。
丁寧な味付け、料理慣れた揚げ具合。家事をする身だからこそ分かる。作った人が相手に楽しんで欲しいと、心から思って作った「ありふれた」味がする。
もうずっと前に忘れてしまった、遠い遠い──
「………」
自然と笑みが漏れる。思わぬところで、ずいぶん懐かしいことを思い出した。誰かの料理を食べるってこんな感じだった。相澤さんが昔作ってくれたのも、きっと同じだ。
「どう?お口には合ったかな。」
「すっごく!」
「良かったぁ!」
冬美さんのぱぁっと華が咲いたような笑顔、眩しい。さすが、スマイルで心臓を射抜ける男の姉ですね。
「そりゃそうさ。いつも姉ちゃんが作ってたんだから。」
「へぇ〜、道理で。献立って考えるの大変ですよね。」
「そうなの!今も時々困るし。」
「お手伝いさんが引退しちゃってからずっとだもんな。俺も時々作ってたけど。」
冬美さん頑張ってたんだなぁ、夏雄さんも。子供が家を切り盛りするって大変なのだ。
「じゃあ…俺も食べてた?」
「いやぁ、どうだろう。俺のは味が濃かったから……エンデヴァーが止めてたかもな。こんなもん食うなってさ。」
「「「……ッ!」」」
夏雄さんのぶっ込んだ発言に、3人して喉が詰まった。予想はしてたけどやっぱりギスった。これを企画したのは冬美さんらしいが、かなりの強行っぽい。彼女の家族の仲を取り持ちたいという気持ちが感じられる分、ギスギスしてるとこっちも痛い。
「……気づきもしなかった。」
「………」
事情知ってても、直接見ちゃうのは刺激が強すぎる!!!!
「しょ、焦凍は学校でどんなの食べてるの?」
「学食で──」
「今度、夏雄の料理も……」
「ごちそうさま。」
やばい、ほんとに空気が終わってきた。会話をぶった切って夏雄さんが茶碗を置いたもんだから。
さっき冬美さんの料理食べて、若干目頭が熱くなってた私の気持ちを返して欲しい……しかも轟くんはこの状況でよくもりもり食べられるね???彼にしたら見慣れた光景だろうけどさ。私たちは完全に手が止まったよ。
「席にはついた。もういいだろ。」
「夏っ!」
「……ごめん、姉ちゃん。やっぱ無理だ。」
冬美さんの制止も聞かず、夏雄さんは居間から出ていく。もう空気がゲロ重です。
まぁ、こうなるかぁ。エンデヴァーがいくら変わろうとしても、普通受け入れられないもんだよね。轟くんみたいに向き合おうとしたり、冬美さんみたいに家族仲を保とうとしたりする方が珍しい
夏雄さんが冷たいわけじゃない。
※ ※ ※
恙無くとはいかなかったが、その後もたっぷりと夕飯をいただいた。料理はめちゃくちゃ美味しかった、ほんとに。
食後はご相伴にあずかった身としてお片付けの手伝い中だ。屋敷がデカいので台所一つとっても少し歩く。一般庶民には目眩のする豪邸です。
「やっぱり緑谷くん、轟くん家のこと知ってたんだ。」
「うん…体育祭のときにね。僕はかっちゃんが知ってたことの方がびっくり。」
「はぁ?俺のいるところでテメェらが話してたんだよ!」
「聞いてたの!?」
「壁に耳あり、障子に目あり……」
内緒話はね、ちゃんと内緒にできるところでしましょう。
『緑谷くんたちに片付け手伝わせちゃって悪いなぁ。』
『……手伝わせない方が3人に悪い。』
「「「………」」」
障子越しに聞こえてきた冬美さんたちの声に歩みが止まる。残りの食器も持っていきたいんだけど……今現在、轟家の方と目を合わせるのが物凄く気まずい。あの傍若無人が人の形してるみたいな爆豪でも空気を読んで大人しくしてるレベルだぞ。
『私もね、夏みたいな気持ちが無いわけじゃないんだ。でも、チャンスが訪れてるんだよ……焦凍はお父さんのことどう思ってるの?』
『──この火傷は、親父から受けたものだと思ってる。お母さんは耐えて、耐えて溢れてしまったんだ。お母さんを蝕んだアイツを簡単に許せない。』
何年もの間、顔も見れず話も出来ず、離れ離れだった母親を轟くんはずっと想っていた。彼にとってそれ程、良い母親だったんだと思う。そうでなきゃ、年頃の男の子がこんなにマメに会ったり、手紙を送ったりはしない。
そんな優しい人を壊れるまで追い詰めたエンデヴァーは憎くて当然だ。聞いただけの私だって、その点は全くもってエンデヴァーを擁護できない。嫌い、と断言出来る。親の、人のすることじゃない。
『でもさ、お母さん自身が今乗り越えようとしてるんだ。どうしたいか、正直自分でも分からない。親父をどう思えばいいのか、まだ何も見えちゃいない……』
エンデヴァーをどう思えばいいのか、か。難しいよね、彼に苦しめられた当の本人だもん。
「……つうかよォ。」
あ、爆豪の我慢が限界値を超えた。しんみりとした姉弟の雰囲気をぶち破って居間に入っていく。でも人んちの戸は優しく開けようね。
「客招くならセンシティブなとこ見せんなや!まだ洗いもんあんだろうがッ!!!」
「あっいけない!ごめんなさい、つい……」
「あの……僕たち轟くんから事情は伺ってます……!」
「私もです!」
「晩メシとか言われたら感じいいのかと思うわ普通!四川麻婆が台無しだっつの!」
四川麻婆気に入ったんだ。確かにそればっかり食べてたな。可愛いかよ。
しかしだ、今のはクソ乱暴だけど爆豪なりに空気読んでる。ウダウダすんな、家庭の事情なら人のいないところでやれって。最近のかっちゃんは優しいと思います。中学のとき毎日口喧嘩してた私が見たら、誰?って引くかもしれん。
……昔を懐かしむ前に片付けしよ。
「冬美さん、座椅子って片付けます?」
「それだったら重ねて端に置いといて。普段使ってるやつだから。」
「はーい!」
言われた通り、食卓の周りから座椅子を集めて重ねていく。そしてちょうど、2人のところまで来た時、緑谷くんは手を止めて轟くんへ話しかけた。
「轟くん…轟くんはきっと許せるように準備してるんじゃないかな?」
「えっ……」
「お父さんのことが本当に大嫌いなら、許せないでいいと思う。でも、君はとても優しい人だから……待ってるように見える。今はそういう時間なんじゃないかな。」
……さすがぁ。
毎度毎度思うけど、こういう人に寄り添うようなセリフをサラッとかけられるところ、本当に生粋のヒーローだな彼は。エリちゃんのときもそうだったし。
「轟くんも冬美さんも、お父さんにエンデヴァーに期待してるんだと、私は思うよ。どれだけ酷いことをしてきたとしても、きっとそれを省みて、自分たちが許そうと思える人になってくれるのを。」
「そうか……いや、そうだった。忘れてたな、自分で親父に言ったことなのに。」
「ふーん?じゃあ大丈夫じゃん。許せるかどうかはわかんないんけど、仲良くしたいと思えるかは、そのあとに考えればいいと思う。無理に親子をしなくていいんじゃないかな。」
轟家が普通の家族じゃなくても、全員が仲良く出来なかったとしても、お互いを想えるようになればいいなって思います、私は。家族の形は人それぞれだし。
当たり前だが、肉親というのは失えば二度と戻らない。そのことを痛いほど知っている。だから、どれほど拗れていても、お互いを想い合おうとする轟家の姿は尊いものに見える。
「……緑谷、加山、ありがとな。変なことで心配かけちまった。」
「そんな、大丈夫だよ。」
「それを言われると私の立つ瀬がないから。冬美さんも不躾なこと言っちゃってすみませんでした。」
「え…う、ううん気にしないで。焦凍のこと気にしてくれて嬉しかったし……」
うーん、冬美さんに言ったんだけどな。すっごい姉馬鹿、弟煩悩かも。
「おい、テメェら人に運ばせといて良いご身分だな???」
ちょっと話しすぎたみたい。ゴゴゴゴ……って聞こえた気がして振り向いたらブチ切れかっちゃんがいたわ。
「そーりー。」
「ごめん!すぐ持ってく!」
緑谷くんから1人で抱えきれない分を受け取る。
くあぁああ〜〜……欠伸出ちゃった。
なんか急に眠くなってきた。冬美さんの晩御飯食べすぎたかな?
ここまで読んでいただきありがとうございました。あと2日投稿するのでそちらも是非。
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