半分少女のヒーローアカデミア   作:Akafuku2000

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また溜まったので3日間投稿します!

2話のUAが2万を越えました。ありがとうございます。


半分少女と友のために

半分少女のヒーローアカデミア

 

黒霧と向かい合って座る。

 

強化ガラス越しに見える姿は、やはり白雲の面影すら見てとることはできない。シミひとつない真っ白な空間に、ただ人型をした黒い靄がそこにあるだけ。

 

「ハッ!白雲の執着を呼び覚ますだって!?思い出話でもしろってか!」

『頼むよ。』

「ご遺族には?」

『………君たちでダメなら、頼むつもりでいる。』

 

順当に行くならそうなるか。白雲に兄弟はいない、呼ばれるのは両親だろう。……だが、塚内さんの声音は苦虫を噛み潰したようだった。彼らにさせるには残酷すぎるということをよくわかっているからだ。

 

──あの子のことを思い出す。

 

肉親の死が、亡くした当人をどれほど傷つけるか俺は知っている。場合によっては、一生その傷跡を抱えなくてはならない。ふとした時に、家族を失ったことの痛みはぶり返してくる。言われずとも、共有できずとも、それが身を裂くような激痛であると、俺はずっとよく知っている。

 

なら……

 

「こんな気持ち悪い話、親御さんに聞かせてたまるか……!」

 

俺たちがその役目を完遂する。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

「ふぁ〜あ……おや?雄英襲撃以来ですかね。珍しい客だ。」

「………」

 

鎮静剤が切れ、黒霧が目覚める。完全な拘束状態、命すら握られている状況で欠伸とは呑気なものだ。既に個性を発動し、奴を睨んでいるがこちらも堪えた様子はない。

 

……やはり、靄が消えないのは変わらずか。

 

噛み締めた奥歯が鈍い音を立てる。わかりきっていたことでも、友人の死体がここまで弄ばれている事実は受け入れ難い。

 

「やっぱ間違えてんじゃねぇか?コイツと白雲に共通点なんざ──」

「死柄木弔は元気ですか?捕まったりしてませんか?」

「………知らねぇよッ!!!」

「そうですか……残念です。」

 

今の言葉をのらりくらりと言い逃れるための戯言、と俺は何故か切り捨てられない。黒霧は心底残念がっている──そう、思った。

 

確かに死柄木弔を第一に考えるようプログラムされている可能性はある。奴が姿を現したほとんどの場面で黒霧は側にいた。あらゆるサポートをするための世話役として用意されたと考えるのが妥当だろう。

 

理由は分からない。だがそこには「情」と呼べるものがあるように感じた。

 

──白雲朧の持っていたものと同じ。

 

「……死柄木が気になるのか?」

「えぇ、彼の世話が私の使命。」

「……ッ!」

「クソみてぇな使命だな!あんな陰気臭ぇガキンチョの面倒見るのが使命だなん、て……」

「苦ではありませんよ。放っておけない質なんでね。」

 

あぁそうだ、お前は……

 

 

直感的に感じたものが次第に確信へと変わっていく。

 

 

「お前は……俺が拾えないとやり過ごした子猫を、迷わず拾ってくるような奴だった。」

「………」

「……話が見えませんね。何をされにここへ?」

 

黒霧は反応する素振りを見せない。

 

それでも、奴から受けた印象は古い記憶を次々と呼び覚ましてくる。

 

「あの頃の俺は中途半端で二の足を踏んでばかりだった。」

 

昔を思い出す。

 

個性「抹消」、超常が当たり前になった社会で、俺の生まれ持った体質は確かに強力と呼べるものだった。しかし個性が強くとも、自分自身が弱くちゃ話にならない。力をどう活かすべきか、そのために何を成せばいいのか、迷うばかりでまるで定まらない日々。

 

人付き合いも上手くない、頼り方も知らない俺に迷いなく声をかけてくれたのが白雲だった。今や俺のトレードマークとなったゴーグルもアイツが渡してくれたものだ。

 

「そんな俺をいつも引っ張ってくれた。」

 

友としても、競争相手としても。

 

「懺悔でしょうか。ここを教会か何かと勘違いなされている。」

「お前はいつも明るくて、前だけを見ていた。後先なんて考えず……死んじまったら…全部、終わりだってのに。」

 

俺の、俺たちの将来に形を与えてくれた。3人で目指そうと、無邪気な笑顔で語って。

 

 

真っ先に逝った。

 

 

お前が死んだ日の後悔をずっと抱えて生きてる。あの日、俺に何か出来ることがあったはずだと。

 

──だから、二度と同じ思いをしないよう、今出来ることに力を尽くした。

 

「俺、保護者やってるよ。猫の世話すら出来ないって諦めた人間なのにな……でも危なっかしくて放っておけなかった。初めて誰かを引っ張ってやりたいって思ったんだ。」

 

そして、水穂と接していて……ある事を考えるようになった。

 

「今じゃ、山田と一緒に先生をやってる。生徒にも厳しく当たってきた。」

『除籍回数がえげつないって話だな。』

「……書類上はな。」

 

そう、何の自慢にもならないが、俺の除籍させた回数は雄英高校でも指折りだ。受け持ちの「除籍と復籍の権限」、教師になるにあたって俺がそれを求めたからだ。

 

命を懸けることと、命を捨てることは全く違う。それを実感させるため、望み通り除籍という死を与える。死んだら全て終わりなのだと理解させた上で復籍し、教育を施す。

 

──誰にも俺たちと同じ後悔をさせないために。

 

「……生徒たちには、お前のようになって欲しくなかった!正義のためにおのが命を軽んじるヒーローには……!」

 

ヒーローらしくあろうとする生徒ほど、危地へ飛び込んでしまうから。

 

「お前のようになって欲しかったッ!誰かを引っ張っていけるヒーローに!最高のヒーローには……長く生きて欲しいから……ッ!」

 

ドライアイが嘘のように涙が溢れて止まらない。

 

目の前にいるのは、かつて白雲朧だった人間の遺体だ。今さら何をしたところで生き返るわけでも、取り戻せるわけでもない。

 

それでも、生徒だった俺たちに夢を与えてくれた友が、大人になった俺たちに指針を示してくれたヒーローが……

 

 

消えていないと信じたかった。

 

 

「白雲ッ!まだお前がそこにいるなら!成ろうぜッ!ヒーローに!!3人で!!!」

 

立ち上がって訴えかける。アイツのくれたゴーグルを見せつけるように突き出して。

 

──黒霧の姿が揺らめき出す。

 

不定形の靄が揺蕩うのではなく、ノイズが走ったように大きく崩れる。

 

『脳波に異常アリ!』

『つまり……?』

『動揺しています!』

『……脳無の製造元!死柄木の居場所を!』

 

塚内さん、グラントリノの推測は正しかった。

 

脳無には素体となった者の人格が残っている。俺たちの言葉に反応を見せたのなら、そういうことなのだ。

 

黒霧の中に白雲はいる!

 

この隙は絶対に逃すわけにはいかない。

 

「言え!!!誰がお前を変えた!どこで脳みそ弄られた!」

「さ、さっき、から……」

「あのとき!俺を見ても何も感じなかったのか!?」

「さっき、か…ら……なに、を仰って……いる、のか!」

 

人ではありえない形に、黒霧の体が膨らみ縮み捻れる。

 

「白雲ォ!」「答えろ白雲!!!」

「私、は……黒ぎ、り……」

 

違う!黒霧なんかじゃない!!!

 

「お前は雄英高校2年A組ッ!!!」

「俺たちとヒーローを志した!!!」

 

「「白雲朧ッッ!!!」」

 

感情を吐き出してぶつけた。白雲との友情とヒーローとしての覚悟、その全てを。

 

頼む、答えてくれ……

 

 

 

 

「私は黒霧、死柄木弔を守る者。」

 

 

 

淡々とした温度のない声音。

 

「「………」」

 

あぁ、届かなかったか。

 

柄にもなく、子供じみた夢物語に縋るべきじゃ……

 

「何を仰っているのか、さっぱ…り……」

 

 

──黒霧の形が再び大きくブレる。

 

 

「白…雲……」

 

山田が呆然とした声を上げる。

 

俺たちはそこに黒霧と別人の顔を見た。

 

白雲朧の、友の、顔を……

 

「し、し…しょ……あ、や……」

「頑張れ白雲ッ!」

 

白雲自身の声、アイツは応えてくれた。夢半ばで死に、黒霧となっても俺たちの声を聞き届けてくれた。

 

その事実に、目的も忘れて叫ぶ。

 

只管に何度も名前を呼び、ただ頑張れと声をかけ続けた。私情を挟むなんて、ヒーローとして慎むべきことだ。それでも、そうせずにはいられない。

 

黒霧と白雲の顔が互いを打ち消し合うように揺らめく。黒霧の意識を跳ね除けようと足掻いているのが分かる。そして何度目かの揺らぎの末……

 

 

「う、ぁあ……びょ、病…院……」

 

 

確かにそう白雲が絞り出したのが聞こえた。

 

その反動か、黒霧の身体が大きく広がる。

 

ブツリ──

 

そして電源を落とした機械のように全く動かなくなった。いや、本当に電源が落ちたのだろう。俺たち3人が、本来ありえないはずのバグを引き起こしたのだから。

 

『……イレイザーヘッド、プレゼント・マイク、ここまでだ。ご苦労だった。』

 

身体の力が抜ける。

 

「目、大丈夫か?」

 

深く椅子に座り直した山田が呟く。

 

……心配されるのも仕方ない。抹消の連続使用が出来ないところを、無理して使い続けていた。

 

だが今は、

 

「乾いてしょうがねぇよ。」

 

陳腐な強がりを返すことしかできない。

 

 

※ ※ ※

 

雄英高校に戻り、少しの休憩と雑務を片付けていたら、日はすっかり落ちてしまった。途中、エリちゃんの容態が悪くなったが、今は落ち着いている。彼女の個性訓練も始めなきゃならん。

 

……今日はとにかく昔を思い出すことが多い。正直言って食傷だ。タルタロスであったこと、塚内さんとグラントリノには成果を期待するしかないだろう。

 

一方、ぐったりしてる俺とは違い、A組の奴らは全員元気いっぱいで、今晩は三学期開始を祝して鍋パーティらしい。報告会に結局来なかったことは、一部から文句を言われた。あんな話をするわけにもいかず、事情を話せないのは悪いと思っている。

 

キツいことも言ってきたのに素直に慕ってくれるA組は、俺には勿体ないくらいだ。

 

そう考えを巡らせつつ、寮の共有スペースを歩く。塚内さんからオールマイトに伝言を預かっているので、それを伝えようとずっと探している。あの人はふらっと居なくなって意外と捕まらない。

 

「あとは外くらいか?」

 

あまり真冬の、しかも夜に外にいるとは考えにくい。

 

が……

 

「本当にいた。」

「え?」

 

寮の玄関を開けてすぐのベンチで、思案気に座っているオールマイトがいた。

 

「外じゃ寒いでしょ。何してるんですか?」

「いやぁ、ちょっとね。何か?」

「塚内さんから言伝を預かってます。ステインとの面会を遅らせて欲しいと。」

「ありがとう。ところで、エリ少女は?」

「今はぐっすり眠ってます。今週中にでも訓練を始めさせます。」

「そうか、手伝うよ。」

「助かります。」

 

会話はできているが、どこか上の空な印象を受ける。見つけた時に見た物憂げな表情を隠しきれてない。

 

経験上、こういう感じで悩んでる相手は、それに気づいたこっちから聞きに行かないとずっと悩んだままだ。……全く世話の焼ける平和の象徴だな。

 

「どうしました?戻らないと風邪引きますよ。」

「………生きると、決めたんだ。」

「はぁ?」

「でもね、なんて言うんだろう。こう…無力感がね、沸々と湧いて来るんだ。」

「………」

 

少し息が漏れる。オールマイトを完璧超人だなんて思っちゃいないが、なんでも出来てしまった人間というのは、こうも予後が悪いか。今まで独りで出来てきた故に、自分がやれそうなことは片っ端から背負おうとしてしまう。

 

それは今のあなたが負うべきじゃないだろうに。

 

「生徒が成長する度に、何もしてあげられない歯痒さに苛まれる。」

「あんまり他人のこと言えた義理じゃないですが、ワーカホリックが治ってないんですよ、あなたは。」

「ワ???」

「何十年も日本を支えてきた、その落差から来る中毒症状です。」

 

オールマイトは自分が何でもやってきた。それが当たり前過ぎて、何もしてないように見える今の自分が落ち着かない、そんなところだ。

 

「手厳しいな。」

「してあげられてますよ。生きてここにいる、それだけで背中を押される人間が大勢います。」

「………」

「弟子だけじゃない、もっとたくさんの人を信じて託すべきだ。その後ろであなたは堂々とふんぞり返っててください。変わらずに。」

「……すまない。」

 

冬は空が澄んでて星がよく見える。わざとらしすぎる視線の逸らし方だが、目頭を押さえている姿はあまり見られたくないはずだ。

 

「そろそろ戻りますか……」

「あーっ!こんなところにいた!!!」

「「……ッ!」」

 

突然の大声に2人してビクっとなる。

 

大の大人が情けない。

 

「か、加山少女か。そんなに慌ててどうしたんだい?」

「どうしたもこうしたもないですよ!せっかく先生たちの分も用意したのにお鍋冷めちゃいますよ!」

「それはゆっくりしていられないね。」

「はい!オールマイトには鶏塩系のあっさり鍋で、相澤先生には火鍋系を用意してます。」

 

大人のことは気にせず、自分たちで楽しんでいればいいだろうに。

 

「今日は2人とも元気なさそうだから、鍋を食べて体を温めてもらいます!本当は辛口鍋でガツンと行きたいけど、オールマイトは胃腸がよくないからね。」

「そこまで考えてくれたのか、嬉しいよ。」

「いえいえ。でもみんなのと一緒にしちゃったんで、早くしないとなくなります。だから急いだ急いだ。」

「おっとと。」

「そんなに急かすな……」

 

ぐいぐいと後ろから押され、寮に戻される。

 

話を聞く感じ、俺ら向けの鍋を用意したのは水穂の発案か……

 

「うわわ!なに!?頭撫でても何も出ないよ!」

「……いつも、ありがとうな。」

「別に……大したことじゃないし。」

 

お前は恥ずかしそうだが、俺は感謝してもしきれない。

 

親友と同じ、俺に道を示してくれた。どうあっても他人を気遣える、その飾り気のない優しさに救われている。

 

今日、そう改めて思った。

 

「水穂、撫でられてるー!可愛いんだぁ!」

「写真撮らないでよ!ちょ、消して!!!」

「お、トマト鍋あんじゃーん!……辛ッ!??」

「上鳴くんはクリスマスから学びなさい!!!」

 

そんな時間も束の間、俺の手からすり抜けて行った水穂は、あっちにこっちにと早速忙しなく動いている。他人に世話を焼かずにはいられないやつだからな。

 

「相澤くん、少しご機嫌そうじゃないか。」

「そういうオールマイトもでしょう?」

「そりゃ嬉しいさ。若者が何の気兼ねもなく楽しく過ごしている、これほど得難い幸福はないからね。」

「……ですね。」

 

あぁ、全くその通りだ。

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。

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