半分少女のヒーローアカデミア
冬のインターン、その報告会があった日の夕方、私たちはオールマイトの呼び出しで仮眠室に集められていた。ワン・フォー・オールに発現した歴代継承者の個性、その話があるらしい。
「まずは黒鞭おめでとう。よくこの短期間で身につけたものだ。」
「ありがとうございます!」
「加山少女も。今朝見せてもらった新技、実に見事だった。」
「恐縮です。」
「爆豪少年、君どこまで上り詰めるの?って具合だ。」
「んだそりゃ!」
話の切り出しも兼ねて、報告会の感想を貰う。嬉しいぜ。
爆豪は相変わらず素直じゃないが。
「結局、全ては分からなかった。だが、進めねばならない……次のステップへ。」
オールマイトが取り出したるは一冊の大学ノート。
表紙には『歴代継承者 個性 緑谷少年ノート FIGHT!』とある。センスが弟子と同じだ。もちろん悪い意味ではないよ?
「歴代継承者の詳細を可能な限りまとめておいた。残念ながら、2代目3代目に関しては手がかりも見つからなかった。時代とワン・フォー・オールの性質が相まって記録から辿るのは不可能……個性が宿るとわかっていれば、継承者たちも何らかの記録を残したと思うが……」
「どうでもいいから話進めろ。俺の貴重な時間をアンタらに割きたかねんだよ……!」
「君ねぇ……」
私たちがワン・フォー・オール自体に関係なくても、あのニヤケ面をぶっ飛ばすのにはいい情報でしょうが。
まぁ、それは分かってるから彼は今ノートを見てるんだろうけど。てか私にも見せてよ。
「黒鞭ですが、まだ1秒くらいしか持続できないので、瀬呂くんや相澤先生のようには行きませんが、サポート能力として既に強力な個性だと思います。」
「あれ以来、継承者との接触はないんだね?」
「はい。」
2人の会話に耳を傾けつつ、ノートに書かれてる内容を読んでいく。
まず目に留まるのは、「黒鞭」の元保有者である5代目だ。ヒーロー名 ラリアット、本名は万縄大悟郎。緑谷くんの使う黒鞭と同様、ひも状のエネルギーを放出して、捕縛や空中機動を得意とした、と……
ラリアット…聞いたことがない。活動していた時期からして私たちの祖父母世代よりも前の人だから当然っちゃ当然か?オリジナルの黒鞭は器用な個性だけど決定力に欠けるので、使用者のセンスが相当問われる。少なくとも前線をバリバリに張るタイプではなかったはず。
他の継承者たちの内容も目を通して見るけど……
「5代目もそうだが、どれも特に強ぇ個性持ちってわけじゃねぇんだな。聞いたこともねぇ奴ばっかだしよォ。」
「パッとはしないよねぇ。」
「えっ!めちゃくちゃ凄い個性だらけじゃない!?」
「テメェは個性ならなんでもすげぇんだろうが!雑魚価値観がッ!」
「それ色々な方面に酷いよ……」
「──爆豪少年の言うことも間違いじゃない。」
しかしオールマイトは肯定する。
「オール・フォー・ワンはワン・フォー・オールに固執していた。今では考えられないほどに悪が力を持っていた時代、奴は強い者を徹底的に潰して行った。歯止めの利かない悪意と支配が、それを可能にしていたんだ。」
『………』
「地獄の中を藻掻き、息絶える中、歴代はこの力に未来を託し紡いで行った。彼らは『選ばれし者』じゃない、繰り返す戦いの中でただ『託された者』であり『託した者』だった。」
託し託され……か。
オール・フォー・ワンが強個性持ちを殺し、あるいは奪っていた最中、対抗し得る人はほとんどいなかったんだろう。オールマイトが台頭するまで奴の独壇場だったはずだ。命を狙われ、めぼしい者もいない、そんな状況でゆっくりと後継者を見極める暇があるわけない。
故に、強さではなく、志を同じくする人に彼らは託した。オールマイトと緑谷くんを見ていればそれは分かる。確かな正義心を持つ人だから。
「道理で、どいつも早死だ。」
「……えっ」
「そう…だね。」
「………」
死んでなきゃ託す理由がないからね。保持し続ける余裕があるなら、それこそ腰を据えて後継者を探すなり、育てるなりできる。ワン・フォー・オールは命懸けで手渡されてきたバトンなのだ。
……ただ、今の言い淀みは少し引っかかった。
7代目までの継承者は皆早死に、死因まで書かれている細さ。しかし4代目だけは、一度書いて無理やり後から塗りつぶしている。余程教えられないことだったのか?
「で?次はクソナードに何習得さすんだ?」
「次に習得を目指すのは……『浮遊』、お師匠の個性だ。」
考えても分からないことは置いておこう。今はワン・フォー・オールについて知っておきたい。
7代目の個性は浮遊か、便利だな。緑谷くんは空中機動の手札にまだ乏しいからありがたい個性だと思う。黒鞭はくっつけるとこないと使えないからね。オールマイトが超パワーだけで高速移動してたのは、彼が脳筋才能マンだったからで、多分例外。
「……勝ったァァァ!ハッハッハッハッハ!!!」
「「!???」」
「急にうるさい。」
爆豪がいきなりクソデカイ声で高笑いしだした。耳元で叫ぶな!痛い!
こっちは真剣に考え事してんのに。
「俺は爆破で浮ける!テメェは俺が既に可能なことに時間を費やす!その間、インターンで俺はさらに磨きをかける!つまりテメェより先にいる!!!QEDィッ!!!」
「うわぁ……」
また勝ち誇りたかったのね……才能も実力もあるのに、いつまでもみみっちいやつ。
「てか、爆風で浮くのムズいでしょアレ、めっちゃリソース食うじゃん。ただ浮くだけな浮遊の方が楽だよ。」
「うっせぇ!そりゃテメェが雑魚なだけだ!ちょっと出来るようになっただけで調子くれてんじゃねぇ!デクと一緒に足踏みしてろ!!」
「はァ?言ったな〜爆発さん太郎め!緑谷くん頑張ろうね!コイツぶっ飛ばそうね!」
「う、うん!ぶっ飛ばすのはよくないけど、置いてかれたくないし……すぐに習得して追いつくよ!」
「無理だ!どうせパニクって暴発して死ぬぅ!」
「いや黒鞭で要領は把握してるわけだから……」
「死ぬぅ!!!ついでにクソメッシュもくたばれッ!」
「いい度胸してるじゃん。その口に風穴空けて、二度と無駄口叩けなくしてやる。」
やかましい爆豪の頬をみょーんと引っ張ってやる。
これか?これだな悪い口は?あれこれ考えてたのアホらしい、お前は今日こそ泣かす。
※ ※ ※
仮眠室でのすったもんだから何日かした頃、私たちはTDLに集まっていた。
私は身体変化の練度向上、水化できる範囲の拡大と炎化の習得を目指している。緑谷くんは、黒鞭の練習したあと「浮遊」習得の予行練習をするらしい。爆豪は、黒鞭を練習するときの相手。
冷水と熱湯へ交互に手を突っ込む、周囲と自身の境界を曖昧にする練習は意外と順調で、昨日はついに凍らせられなくてもON/OFFできるようになった。なので、今日からは相澤先生も轟くんもいない。そもそも先生の方は忙しいらしくて全然捕まらないんだけどね。
ちなみに、この練習見ての通りクソ地味です。デカイ氷をゴロゴロ入れた金タライと自分で沸騰させてる熱湯入りの金タライに手を入れてるというだけなので。ただ、効果は抜群。
皮膚の感覚が無くなるくらい冷やし、煮立ったお湯にぶち込む。このときのジワっと熱が広がって、段々と腕が馴染む感覚に集中する。あとは個性を使ったり、解除したりを覚えてる間に繰り返すだけ。
「ふぅ〜〜、割と疲れるな。」
使い続けるのもしんどいが、発動にも体力持ってかれることに気づいた。今の疲労感としては長距離走やったあとくらいかな?……キツイな??
でも、まだやれるので続行します。
真面目にやりつつも、地べたに座ってるだけじゃつまらないので緑谷くんたちの特訓を眺めてみる。黒鞭の扱いは、冬休みの頃からまた一段と上手くなったみたいだ。発動の速さも出せる数も良くなってる。
ただ、動くものを捕らえるとなると、結構難しいらしい。さっきから何回もスカってる。今は実用レベルの出力を制御するのが主体だから致し方なしか。人って意外と小さいからね。
「あ……」
爆破された。髪の毛がアフロになってる。
タッチしたら勝ち、ってルールだったのに遠慮がなさすぎる。
そうこうしてると、梅雨ちゃん、お茶子さん、瀬呂くんらが体育館へ入ってくる。実は今日の特訓相手は爆豪に加えてこの3人。案の定、アフロ頭を指摘され、犯人の爆豪はお茶子さんから怒られている。まぁ、反省する気は更々ないみたい。
てかお茶子さん、爆豪に物申せるの……強い。
「私は何すればいいんでしょうか?ワイヤーは教わってる側ですが!」
「技術ってんなら相澤先生じゃね?」
「麗日少女には、空中制動時の身のこなしをご教授願いたい。彼はパワーと共に滞空時間も増してるんだ。今後は空中での動き方も覚えていかなければならないのさ。」
「ほほう!」
………上手く誤魔化すなぁ。嘘は言ってないけど、この訓練の本命は「浮遊」の予行練習だ。それを匂わせずに3人を納得させた。超有名人でありながら、ワン・フォー・オールを秘匿し続けてきた人の話術……
でも思うのは、この先の不安。見立て通りなら緑谷くんには、黒鞭の他に5つの個性が発現する。それはより彼の個性が超パワーで説明できない、非常に異質な個性であることを証明してしまう。
とても、隠しきれるとは思えない。
「それと…相澤くんは今多忙を極めてる。あまり授業以外で雄英にいられる時間は少ないそうだ。」
「相澤先生ったら、そんなに忙しいのね……」
この話、私も詳細を聞いてない。別に仕事内容を喋る人じゃなかったが、それでも今回の仕事はほんとに全く教えてくれない。そんなに機密性の高い内容なのかな?
帰ってくるとグッタリしてるから心配なんだけどな。ワン・フォー・オールのことに加えて、気になることが最近増えるばかりだ。
「みんなと先生の技は書いてて覚えてるんだ。体の使い方というか、感覚部分で共有出来ることを教えて欲しくて──」
いよいよ彼らとの特訓が始まるみたい。私も一旦切り上げて休憩挟もう。漬けていた腕を引き抜く。
中身どうしよう。ま、霧にしちゃえばいっか。
……ん?んん???
「マジか。」
特訓の光景を見て、ちょっと驚いた。
最初はお茶子さんと空中制動、なんだけど……結構センスあるみたいで、あっという間にエアフォースで移動する練習に移ってる。
爆風にしろ、風圧にしろ、反作用で動きを変えるってのは難しいのによくやるよ。サラッとやってるが、マジで凄いからね。威力や方向の調節がキツイんだよ、あれ。やはり爆豪に並ぶ才能マンだ。
水を片付けたタライを小脇に、体育館の端へ歩く。ちょっとした休憩スペースがあるのだ。爆豪とオールマイトもそこで休んでるし。
「……やれてんな。」
「浮遊は体を宙に留めておく個性、無重力と近い。先にイメージを固めておくことで暴発も防げるはずだ。あとは飛びたいと意識し、解錠するだけ。」
嘘じゃないんだけどねぇ、事情知ってるとやっぱり騙してるみたいで気が引ける。
もう…A組なら、いいんじゃないんですか?さっきも考えた通り、無理がある。
「なぁ。」「ねぇ、オールマイト。」
「「………」」
考えてることは同じね。目線で爆豪に促す。親友のことだ、先に切り出すのは爆豪であるべきだと思う。
「何だい?言いたいことがあるんだろう?」
「……そろそろ誤魔化し利かねぇと思うんだが。」
「………」
「超パワーだけだった時でも、あなたと似てると言われることありました。ここへ更に全く違う個性まで増えたら……隠しきれると思えません。」
オールマイトだって分かってるはずなんだ。黒鞭の時点でかなり無理があった。次は浮遊、残りもまだ4つある。超パワーと関連性のない力……
この先、緑谷くんの個性が特別であることは、誰もが気づき始める。
「黒鞭以外は他者に開示しない。しかしまた暴発させないために習得はしてもらう。君たちが既に理解しているように、大いなる力を継承させられるという事実が、人々にどのようなリスクをもたらすのか……それを慎重に考えなきゃいけない。」
「「………」」
「力を求めるのは、悪い人だけじゃない。」
やっぱりそこで止まってしまう、ワン・フォー・オールを譲渡できるという事実。
──悪い人だけじゃない。
オールマイトだって、人々を守りたいという想いのために7代目に師事した。そしてワン・フォー・オールを受け継いだ。
そう、聞いている。
「デクは信じきってっけどさ。継承者のノート、4代目だけ記述が半端に終わってる。5、6、7は死因まできっちり書いてあるのに、なんで?」
継承者のノートを見た日のことを思い出してみる。
確かに、黒塗りのところがあった。私も違和感を覚えたし、それに
「オールマイト、言い淀んでましたよね?」
「なんか気づいちまったんじゃねぇのか?ワン・フォー・オールが──」
「──まだ、分かってないんだ。」
爆豪の言葉は遮られた。
「わかってないことを断言はできない。少年を…、案じているからこそだ。君と同じように。」
「………」
私を、見た?
一瞬だったが、緑谷くんに送るオールマイトの視線はこちらを見た気がした。
意図的に隠された4代目の記述──
それが私にも関わる内容、だったなら……一体何をオールマイトは隠してる?
いや、下手に考えるのはやめとこう。さすがにまた心配事が増えるのはしんどくなってしまう。爆豪もこれ以上押してもオールマイトは話さないと察したのか黙り込んでいる。
黙り込んでいた。
「アイツは、根っこのとこで自分を勘定に入れてねぇ。きっと昔からずっとそうで。やれることが増えた今も……」
「……爆豪?」
ポツリと語り出した。
「それが不気味で、遠ざけたくて、理解できねぇテメェの弱さを棚上げして──虐めた。」
は…?
「律儀に訓練に付き合ってくれるのは、その贖罪も含まれてる。そうだろう?緑谷少年はそんなふうに思ってもいないだろうがね。」
コイツ、こんなあっさりと……
オールマイトはすんなり受け入れてるけど、私はそうはいかない。めちゃくちゃびっくりした、ていうか腹立ってきた。
私がどれだけやきもきしたと思ってるッ!?
「エンデヴァーと似てると言ったのはその変化さ。私はこんな様になるまで省みることも出来なかった。……また話し合える時が来るさ。」
「………あぁ。」
「ダメだよ。いい感じで終わらせないからね???」
「何がだよ。」
君をだよ。
「爆豪が緑谷くんを避ける訳、それ夏休み前に聞きたかった。」
「期末んときか?」
「うん。……やっぱり怖かったんだ、緑谷くんが。」
「言ってねぇ。耳腐ってんだろ。」
「大して意味変わんないでしょ。」
「違ぇ。」
頑固……
「で、仲直りできそう?」
「………テメェも大概お節介だよな。」
「そうかもね。…で??」
「チッ……!」
舌打ちしてもダメ、それ私全然怖くないし。
「今さら簡単に変えられねんだよ。……それくらい分かれや。」
「まぁ…そうだよね。じゃあ、私も待ってるし、その時になったら背中押してあげる。」
「いらねぇ。」
「いらないね、了解了解。」
よし、爆豪の背中押してやるか!
あんな自信の無い目してるのは見たことない。そもそも言葉の裏を無視するほど、私は君のこと嫌いじゃないからね。