半分少女のヒーローアカデミア   作:Akafuku2000

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半分少女と急転

半分少女のヒーローアカデミア

 

「ワン・フォー・オールを寄越せ、緑谷出久。」

 

死柄木の手が伸びる。過ぎったのは明確な死の感覚。

 

体が硬直する。

 

死柄木の放つ、圧倒的な「格」、それに気圧されてしまった。「オール・フォー・ワン」を手に入れたということを甘く見ていた。奴の個性を受け継げる才能がどれほどの恐ろしさを持つのか。

 

 

 

──でも、ビビって動けず死にましたとかダサすぎるぞ私。

 

緑谷くんと死柄木の距離はまだ一呼吸分はある。纏炎は発動中、水蒸気爆発を起こすのに溜めは要らない。

 

ここはデカイのぶっぱなして仕切り直す!

 

「……ぐっへぇ!?」

 

首締まっ!潰れる潰れる!急に襟を掴まれて引っ張られてるんだけど!

 

死柄木じゃない、でも誰!?後ろだから見えない!

 

「グラントリノ!」

「通信でワン・フォー・オールと聞いて嫌な予感がしたよ!」

 

は、グラントリノ???

 

精一杯、首を回して見れば確かにグラントリノだった。2人を両手で引っ張りながら飛んでいる。ついでに言うと襟掴んでるのは爆豪でした、サンキュー。まぁすぐに水蒸気を噴射して慣性殺さなかったら窒息してたけど……

 

「お前ら戦うつもりだったかあれと!死柄木の崩壊は全てを消す、降り注ぐ瓦礫に触れただけでも死ぬ!ヒヨっ子3人でどうにかなる相手じゃねぇ!」

「でも…!」

「……ヒーローはまだ死んじゃいねぇ!あれは残った全員で討つ!」

 

その言葉にさっきいたところを見る。

 

見れば、緑谷くんを一旦諦めたか、死柄木が動きを変えていた。上空へ高く飛んだ奴の元に振り下ろされる鉤爪、あれはリューキュウだ。難なく回避し、慣れた手つきで崩壊を発動しようとしたのが見える。

 

しかし、リューキュウにはひび割れ一つ入らない。そのまま死柄木が投げ飛ばされる。

 

「相澤先生!」

 

よかった、生きてて……

 

この状況で、いきなり死柄木が個性を使えなくなったのは先生の「抹消」としか考えられない。蛇腔病院の壊滅は唐突だった、原因が「崩壊」ともなれば生存は絶望的、故に内心穏やかじゃなかった。

 

多少の怪我はあるかもしれない。それでも先生が今戦っているという事実だけでずっと安心出来る。

 

エンデヴァーもリューキュウも先生もいるなら、突入班の生き残りは多い。後方班からも集まってくるだろう。ヴィラン一人討つに足る戦力。

 

……しかし、不安の種はまだある。

 

死柄木の能力が未知数だからだ。「オール・フォー・ワン」の継承とそれに見合った肉体の改造、ドクターの手によるものなら相当な改造を受けていても不思議じゃない。特に身体能力が疑わしい。

 

オール・フォー・ワンは個性が強すぎるために頼りすぎた。だからこそ、超パワーを持つオールマイトに真正面から破られている。奴は狡猾で執念深い、必ず反省して対策を打っているはず。

 

ならば、

 

「そうするよね……」

「マジでバケモンになってんな。」

「うん。」

 

個性に頼らない手段を用意していて当然。

 

たった今、エンデヴァーの攻撃を腕の一振りで避けた。個性を使えない中、素の身体能力のみで。それは死柄木は何もしなくとも、人間離れした筋力と耐久力を有しているということ。でなきゃナンバーワンの火力を受けて無事で済むはずがない。

 

しかも、ちゃんと前例があるから有り得ない話じゃない。

 

──USJの脳無は「個性なし」でオールマイト並の力を持っていた。

 

まさにドクターたちの研究の集大成だ。上位の脳無は出現の度に大きな被害をもたらしてきた、死柄木弔がその完成形なら秘めている実力は本家のオール・フォー・ワン以上だろう……

 

そう歯噛みしていると、体がいきなり宙に浮く。

 

「ここらでいいか。」

「ぐっ…!」

「へぶぁっ!?」

「うぅっ!」

 

グラントリノ運送は荒っぽかった。……いっつつつ。

 

「グラントリノ!今、相澤先生が!」

「あぁ、死柄木の個性を封じとる。」

「ジイさんもっと離れた方がいいだろ!」

「あっ、グラントリノ、彼は……」

「爆豪、秘密の共有者じゃろ?俊典から聞いとる。そしてそこの加山もな。」

 

流石にそこら辺は共有されてるか。秘密のことでゴタゴタせずに済む。

 

「ここいらが限度じゃ。奴の移動速度が想像以上に速い、追える者は限られる。通信が封じられた以上、離れすぎはかえって奴を自由にさせる!ここに留まらさせ、民衆から引き離し、イレイザーの視界に入れた!……既に十分な成果じゃ。」

「それは…そうですけど。」

 

現状での最悪は、死柄木弔相手に市民を巻き込んだ戦闘に陥ること、再び崩壊を使われること……

 

これ以上、被害の出ようがない蛇腔市で戦闘に入れたのは、まぁ大戦果だと思う。ワン・フォー・オールを囮にした死柄木の足止めと誘導は成功してるんだ。

 

学生の私たちを戦わせないには十分すぎる理由。

 

「俺はイレイザーの足になりに戻る。」

「僕たちは隠れてろってことですか!?」

「…奴はオール・フォー・ワンの個性を移植されたらしい。DJヒーローが言っとった。」

「オール・フォー・ワンの、個性を……」

「やっぱりですか。崩壊以外に使ってきた探知系の個性、多分ラグドールの「サーチ」だよ。それに奪うってさっきのセリフ、死柄木がアイツの後継者なんだろうね。」

「ほぉ、伊達に二度もオール・フォー・ワンから逃れてねぇな。よく見とる。その通り、万が一にもワン・フォー・オールを奪われたら取り返しがつかん。」

 

グラントリノの言うことは正しいと思う。ワン・フォー・オールは譲渡の意思がなければ移動しないらしいけど、それは個性の絡まない場合のみ。「オール・フォー・ワン」は、分からない。だから分からない相手に無闇に近づくのは得策じゃない。

 

でも、ワン・フォー・オールなしで勝てるのか。ヒーローが力不足とは思ってなんかない。ただ、この個性もまた未知数、抗うために生まれた力だと言うなら

 

──有効な手段に成りうる、かもしれない。

 

「なに、浮かない顔をするな、敵は一人……これを討てねば何のためのヒーロー飽和社会か!」

 

そう不敵に笑うグラントリノ。

 

オールマイトを鍛えたというベテランヒーローの言葉、これほど頼もしいことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瓦礫の山

 

「なぜ……」

 

荒れ果てた街

 

「なんで、無事なんだ。」

 

その下から

 

「病院は死柄木が壊したのに……」

 

10を超える真っ黒な脳無が現れなければ。

 

「なぜ、なぜここに脳無がおるんじゃ!?」

 

全員が目を見張る。

 

研究室は病院ごと崩壊に巻き込まれた。仮にまだ出してない脳無が保管されていたとしても全て塵になっているはず。なのに奴らは平然と現れた。遠く離れた私たちが驚愕に包まれる中、脳無はエンデヴァーに集められたヒーローと激突する。

 

そして数十秒もしないうちに戦況は明らかとなった。

 

「……強い。」

 

トップヒーローには並べずとも、この作戦に招集されたのは精鋭のはず。はずだが、彼らと脳無は拮抗、いや押されている。となればアレらは博多に現れたものに匹敵する力があると見ていい。

 

エンデヴァーが辛くも勝利した個体と同等のが何体もいる、いてしまう。

 

──最悪の事態、それも想定外の。

 

「いかん!2体、イレイザーの方に向かいよる!お前らは隠れていろ!!!」

 

返事も聞かずに飛んで行っちゃった。

 

そうは言うけどグラントリノ!

 

確かに事態は最悪、死柄木and脳無の大乱戦だ。でも本当の本当に最悪なの?

 

私は思わない。

 

これ以上がある。

 

このギリギリの状況を保っている要は相澤先生だ、イレイザーヘッドだ。先生の「抹消」があるからこそ、死柄木を縛れている。「崩壊」という即死技も「オール・フォー・ワン」というチートも奴は満足に使えない。

 

死柄木弔は、USJでも、今この瞬間にもイレイザーヘッドに煮え湯を飲まされている。

 

それを放置するほど、死柄木は甘いだろうか。否だ。

 

「行くよッ!」

「了解!」

「たりめぇだわッ!!」

 

死柄木は相澤先生を必ず狙う。

 

最悪の事態は相澤先生を失うこと!!!

 

息を合わせずとも、飛び出したのは3人同時だった。エンデヴァーが引き付けていた死柄木、その影が高速で動くのを捉える。

 

先生が見つかった!抹消を潰しに来る!

 

「デク!先行して死柄木を抑えて!」

「わかった!」

 

超パワーには超パワーを、3人の中で緑谷くんが最も速い。

 

「バクゴーは私と合わせて攻撃!」

「命令すんな!」

「効くか知らん!」

「あぁ!!?」

 

爆破の火力は頼りになるけど、エンデヴァーと至近距離でいてケロッとしてる死柄木にどれだけ効くか微妙!もちろん私も!

 

死柄木は既に先生の眼前、応戦の構えに入れてるけど小刀一本じゃ力不足。護衛に着いていたロックロックたちも躱された。グラントリノは間に合わない。

 

だが、ワン・フォー・オールなら手が届く!

 

あと僅か、瞬きをする間もなく死柄木が辿り着くその手前、紙一重の差で緑谷くんは割って入った。プロヒーローでさえ対処の遅れたスピードを彼は見事に相殺して見せる。

 

「なんで……!」

 

グラントリノの驚く声がした。

 

──水炎転身・蒼輝

 

個性の準備に入る。

 

「死柄木が個性を使えないなら僕たちも戦力にッ!!!」

 

崩壊も「オール・フォー・ワン」も使えない今だからこそ、全戦力をぶつける他ない。

 

ただでさえ強敵の死柄木、なのに脳無が暴れてヒーローが散らされている。圧倒的に手が足りない、先生を守る手が!

 

「最悪は先生を失うこと!ずっと僕たちを守ってきてくれた!先生を失うことです!!!」

 

その通り!

 

死柄木なんかにくれてやらない!

 

黒鞭が死柄木を捕らえる。

 

「合理的に行こうぜェ!──A・P・マシンガン!!!」

 

爆破が直撃する。

 

「返せてない恩が山ほどあるんだよ!」

 

水針の掃射、刺さった端から炸裂していく。接触で爆発するように個性を混ぜた。

 

爆炎と立ち込める水蒸気──

 

「……花火に水鉄砲、季節感のねぇ奴らだな。」

 

ほんとに効いてない!硬いのは切島くんで間に合ってるんだよバカが!

 

 

 

……て、速ッ!?

 

動き出しを一瞬だけ黒鞭が抑える、が容易く引きちぎられる。注意を逸らしてなんかいなかったのに、死柄木は目の前にいた。

 

爆豪を突き飛ばしてどかす。

 

死柄木の進路を遮る。

 

と言っても、別に保須のときのことを繰り返すつもりはない。

 

あのときは咄嗟だったが、今回はちゃんと後を考えて動いた。水炎転身で体質を限りなく水に近づけている。超パワーだろうと受けられる自信がある。

 

頭は多少揺れるかもしれないけど。

 

「……はぁ、邪魔すんなよ、出来損ないが。」

「うっさいな、白髪頭。」

 

心底つまらなさそうな死柄木の言葉に言い返す。そっちの基準で失敗作認定とかたまったもんじゃない。

 

さぁ、来い。ここは絶対にどかないぞ。

 

「──ハァッ!」

「ぐっっ…!?」

 

鞠のように死柄木が跳ねていく。割り込んだ私のあとに、さらにエンデヴァーが割り込んでぶん殴ったのだ。

 

「エンデヴァー!」

「ショートは?!」

「3人だけです!」

「そうか。アモルファス、無茶はするな!」

「ッス!」

 

エンデヴァーがカンカンに切れてる……この状態が物理ほぼ無効なんて話してないや。私が全面的に悪いな、これ。

 

ほぼ無効なだけで無敵じゃないから、死柄木を妨害してくれたのは本当に助かる。エンデヴァーのおかげで体力を温存できた。死柄木の方もピンピンしてるみたいだが。

 

「礼は言わねぇぞ。」

「うん、いらない。」

 

あの瞬間、爆豪がやられるより私が消耗覚悟で庇った方が合理的だった、それだけだ。

 

立場が逆なら爆豪だってそうしてくれたと思うし。

 

「オールマイト並のパワーとタフネスだ……」

「オールマイト……」

「目を閉じない限りはその力だけです。なるべく長くもたせます!」

 

抹消は先生が見てないと発動しない。ドライアイはマニュアルが個性でカバーしてくれてるけど、限界が来て閉じてしまったら再発動までインターバルがある。

 

……死柄木を縛れるのもそう長くはない。

 

「デク!バクゴー!アモルファス!来てしまったものはしょうがない。なぜかは今問わぬ。」

 

動いた!

 

「イレイザーをサポートしろ!2人はデクを守れ!!!」

 

やっぱり速い!

 

蒼輝状態は扱い慣れてない上に、移動だけは水蒸気爆発を使えない。死柄木のスピードについていけない。ここは燃費のいい纏炎に切り替える!

 

「俺の物になれ、弟よ。」

「──ヘルスパイダー!!!」

 

弟!?

 

確かに死柄木は「弟」と言った。奴にそんな人がいたとは聞いたことがない。エンデヴァーの攻撃を軽く避ける姿からビリビリと嫌なものを感じる。

 

執着と傲慢、オール・フォー・ワンと同一の……

 

オール・フォー・ワンと、同一?

 

まさか、

 

「呆けてるときじゃねぇぞアホッ!」

「…っあ!ごめん!」

 

爆豪に怒鳴られてハッとする。

 

「オール・フォー・ワン」に宿った意識が死柄木の中にいるかもしれない。相当厄い考えだけど、それがわかったところで奴が脅威であることは同じ。拘ってる場合じゃないな。

 

グラントリノが突っ込み、死柄木を撹乱している。後ろからエンデヴァーが本命の攻撃をする連携を取った。それでも奴は体を捻って両者を一度に蹴散らす。見据えているのはもちろん緑谷くん、ワン・フォー・オールだ。

 

爆豪の方は既に飛んだ。地面と挟んだ攻撃で逃げ場を減らす良い動き。なら私はアイツに合わせる。下から同時、同威力の技でさらに挟んでやる。

 

「貰うぜ、ワン・フォー・オール。」

 

興味のないものに一切の関心を示さない。

 

悪癖までそっくりだよ、死柄木弔!

 

「ソイツはエサだ!!!」「出来損ないで悪かったね白髪頭ッ!」

 

篭手から放たれる大規模爆破に死柄木が飲まれた。一時的に高めた熱を水塊に叩き込む。一気に爆ぜた水蒸気は爆撃を下から突き上げる。膨冷熱波を参考にした大技だ。

 

二方向からの爆発に巻き込まれた中心で奴が焼かれるのを見る。

 

「──スマッシュッッ!!」

 

緑谷くんの足技が刺さる。抵抗は無い、なすがままに吹き飛んだ。

 

そこへ復活したエンデヴァーが飛んでくる。右腕を煌々と燃やして。

 

「パニシング…フィストォォォ!」

 

激突──

 

弾けた大火力、それが空をさらに明るくした。

 

 

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