半分少女のヒーローアカデミア   作:Akafuku2000

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半分少女とそれでも

半分少女のヒーローアカデミア

 

死柄木弔が地に伏せる。

 

灼かれた体は黒煙を上げ、受けた熱に身を捩っている。決して無傷じゃない。それでも致命傷に至った様子はなく、エンデヴァーの一撃を食らってなお人型を保っていた。

 

「野郎…まだ生きてやがる。」

 

苦々しげに爆豪が声を漏らす。パニシングフィストの直撃、耐性のある私でもキツい。如何に死柄木の耐久力が優れているかよくわかる。

 

「終わりだ、死柄木弔。いくら力を得ようとも、信念なき破壊に我らが屈することはない!」

「……うぅ、ああぁ……」

 

エンデヴァーが見下ろし、お前は敗北したのだと告げた。並のヴィランならとうの昔に心が折れている状況だ。なのに、むしろ死柄木はそれに反発するように立ち上がり始める。

 

熱いはずだ、苦しいはずだ、ヴィランが相手だとしても受けているだろう苦痛に痛ましさを覚える。覚束無い動きで立とうとする姿、何が死柄木をここまで突き動かすのか。

 

……信念のない人間にできることじゃない。

 

「お前たち、ヒーローは…!他人を救けるために家族を傷つける、父の言葉だ。信念なら、ある。あったんだ……!」

 

重い、それでいてある種の核心をついている。

 

奴の父親は、先々代の継承者である志村奈々さんの子だって聞いてる。オール・フォー・ワンとの戦いに巻き込まないため養子に出したと。そのときの彼女は泣いていたと、悲しんでいたと、グラントリノは言っていた。

 

なら、きっと息子さんもそうだったはずだ。

 

具体的に彼がどう思っていたのか知る由もない。死柄木にどう語ったのかも分からない。でも、「母はヒーローをするために自分を捨てた」そんなことを話していたと思う。

 

ヒーローはヒーローをやるためなら、家族を蔑ろにするような人間だと。

 

私も心当たり、あるから。

 

「お前たちは、社会を守る「ふり」をしてきた。過去、何世代も守れなかったものを見ないふりして、傷んだ上から蓋をして、浅ましくも築き上げてきた……!」

 

語る。

 

「結果、中身は腐ってウジが湧いた。小さな…小さな積み重ねだ。守られることに慣れきったゴミ共、それを生み出し庇護するマッチポンプ共!これまで目にした全て、お前たちの築いてきた全てに否定されてきたッ!……だからこちらも否定する。だから壊す、だから力を手に入れる。ヒヒッ、シンプルだろ?」

 

笑う。

 

「理解出来なくていい。出来ないから…ヒーローとヴィランだ!」

 

そう、吠えようとした。

 

「──わざわざインターバルをどうも!」

 

再びエンデヴァーから炎熱の直撃を貰う。

 

「貴様も虫の息だろう、観念……」

 

が、死柄木は動いた。

 

焼かれても衰えを見せない超パワー、グラントリノが抑えに動く。それをものともせず跳ね除け、逆に地面へ叩きつけた。足を砕き、腹に拳を突き立てる。

 

エンデヴァーたちが死柄木を止めにかかった。緑谷くんは怒りの頂点だ。オールマイトに次ぐ第2の師匠、彼が傷つけられたことに我武者羅な突撃をかます。

 

私も加勢すべきだ。緑谷くんほどじゃなくても、グラントリノに何度も助けられた。彼が殺されるのを黙って見ているわけにはいかない。

 

──でも動けなかった。

 

死柄木を見た瞬間、ビリリと痺れるような悪寒が走った。五感以外の何かが告げている、今ここで行動するのはベストじゃないと。

 

予感の正体はすぐにわかった。

 

来る、死柄木が。今までよりもさらに速く。彼らを見向きもせずこちらへ一直線に。狙いは私……じゃない!先生だ、未だ抹消を潰すことを諦めてないんだ!

 

リューキュウが遮る。死柄木の突き出した腕は、彼女の硬い鱗を砕いて貫通していく。そこへ緑谷くんが組み付いた。最大出力の黒鞭が動きを縛る。本当に満身創痍のはずなんだ、無策に突っ込んで打開できる状況じゃなくなってる。

 

それでも尚、止まろうとしないのは、奴に何としても通したい秘策があるということ。でも分からない。今の死柄木に何が残ってる!?

 

見つめた先、飛び出した手に握られているのは……

 

 

 

 

 

 

 

「……消失弾?」

 

血にまみれた色とは違う赤!あの形状!治崎廻の作った消失弾で間違いない!手に入れてたのか!!!クソっ!先生の個性を壊す気だッ!

 

脇目も振らずに走る。

 

そこからは一瞬の交錯だった。

 

同時に気づいた緑谷くんのスマッシュ。自損覚悟の100%のそれを死柄木は噛んで止めた。私の纏炎発動。狙いは一直線、予測できた射線上に割り込む。消失弾は無慈悲にも放たれた。

 

鈍く輝く赤が迫る。

 

防げる。ただし消失弾の効果は受けられない。私に刺さる前に燃やし尽くす!下手に放出を選べば焼き切れない、拳に溜めた炎熱ごと殴り飛ばす!

 

私にだって真似できる。今ここでやれ!

 

あの技を何回も見てきたんだろッ!目の前で!

 

 

体の熱を限界まで引き上げろ──

 

 

「──赫灼熱拳ッ!」

 

力いっぱい振り抜け!!!

 

「陽炎煌々!」

 

砕いた、という確かな手応えがあった。外殻は粉々になり、中身と一緒に跡形もなく消し炭になる。

 

間に合った、これで……

 

「飛べ!加山ァッ!!!」

「──え、」

 

怒号に似た先生の声が聞こえた。

 

眼前に広がるのは赤黒い拳、死柄木弔のものだ。反射的に飛び退く、先生に言われなければ頭が潰されていた。

 

伝う冷や汗を知覚する間もなく、拳は軌道を裏拳へと変える。死柄木がさっきよりも更に速い。サポートアイテムがゴミクズになったのを見たときには、肋を砕く、鈍い音が内から響いていた。

 

「ぅ、かはッ……」

 

何時ぞやの林間合宿で体験した激痛を再び味わう。痛覚の許容を超え、視界が真っ赤に染まる。

 

 

でも、そんなことよりも、ずっと頭を埋めつくしてる疑問。

 

 

死柄木は無個性でも化け物じみた身体能力だった。だけど、今の今までリューキュウと緑谷くんの拘束を受けていた。傷だらけの疲労した肉体では説明出来ない。

 

あの瞬間の奴はいくらなんでも速すぎた。

 

その答えは……明白なんじゃないか???

 

 

 

 

 

 

 

 

──聞きたくない。

 

死柄木が口を開こうと──黙れッ!

 

 

「ありがとな、"遮って"くれて。」

「ぁ、あぁぁ……」

 

全部、私の招いたことだった。

 

 

私が先生の視線を塞いでしまった。

 

 

私の前で、相澤さんの目が抉られていく。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イレイザー!おい、イレイザー!気をしっかり持て!!!」

「…、……」

 

今年になってこんな体験をするのは2度目だろうか。沈んでいた意識が浮かんでいく感覚。

 

背中に瓦礫が当たって痛い、倒れているのか俺は。視界が悪いな、声からして今聞こえたのはロックロックだ。徹底して声掛けだけに努めてるのは、俺が重傷だからなんだろう。

 

直前の記憶を探る。

 

死柄木が死に物狂いで発射した「消失弾」、水穂が防いでくれなければ直撃は免れなかった。……ただあの一瞬、アイツの体と炎で抹消が綻んだ。その僅かな隙をつかれた。

 

水穂のミスとは思わない。純粋に俺を救けようとしてくれただけなんだ。もし消失弾を食らっていれば、個性を失わないために俺は躊躇なく撃ち込まれた部位を切り落とすつもりだった。

 

手足が無事で済んでいる。これ以上は望むべくもない。例え、目を失おうとも出来ることはある。

 

具体的には、またべそをかいてる子供の相手とか、だな。

 

「……助かった。ありがとう…ロック。」

「気づいたかイレイザー!増援が来てる、救助もすぐ来るからな!それまで死ぬなよ!」

「あぁ、でもその前にそこの泣き虫を呼んで欲しい。」

「…そりゃあ……気持ちはわかるが、喋りすぎると体に響くぞ。」

「今、言わなくちゃならない。」

「そうか…」

 

渋々という顔だが、ロックは俺の気持ちを汲んでくれる。彼に揺すられ、腹の上に伏せていた顔が上がった。

 

……酷い顔だ。

 

涙と土埃で泥だらけ、ちょっと人前には出せないくらいには泣き腫らしている。俺の服が湿っぽいのはこれが理由か。胸部の傷も深いな。マスキュラーにやられたときとそう違わない。本来なら俺と同じく即座に救急搬送されるべき重傷。

 

一呼吸、一呼吸が激痛だろうに、ずっとしゃくり上げてる。そんな口がようやく開いた。

 

「あい、ざわさん…相澤さん……ごめんなさい、ごめんなさい…!わた、私の、私のせいで!」

 

ボロボロとまた泣き出す。どこにそんな水分を隠し持ってるのかと、変に感心してしまった。……まぁ、そこはいい。

 

水穂は誰がどう見ても心が折れている。白雲に死なれたときの俺もそうだった。だからわかる、胸をかきむしりたいほどの辛さが。自分がもっと強ければ、自分が身代わりになれば、と悔やんでも悔やみきれない。己の無力さに心底が腹が立つんだ。

 

本当は優しく慰めてやるべきだろう。お前のせいじゃないと言ってやりたいし、出来ることをよくやったと褒めてやりたい。そんな…親心、みたいなのが主張している。

 

だが教師としての俺は、加山に必要なのはそれじゃないと断じている。

 

確かに耳障りのいい言葉をかけてやれば、この子は落ち着く。でも二度と立ち上がれない。ヒーローとはどうあるべきかを見失って、それを取り戻せずに傷を塞いではいけない。挫折しても立ち上がれる人間は、折れた心を必ず直してきたから立ち上がれる。

 

今、慰めるのは優しさじゃない。教師の言葉で接することが加山のためになる。

 

「アモルファス、お前何してる。」

「ッ、それ、は……」

「お前のやるべきことは、ここでガキみたいに泣くことなのか。」

「いや、え…ぁあ、私そんなつもりじゃ……」

 

瞳孔が狭まる。

 

ただでさえ荒かった息は過呼吸寸前。

 

「──言わなきゃ分からないか?」

 

俺が、仲間が、倒れたことに動揺するのはいい。いくら自制しても、心を持っている限り捨てることは出来ない。ましてや仮免の高校生、そんなメンタルを備えろというのが無理な話。

 

──それでも動けない役立たずになるのは許さん。

 

それはヒーローが最もしてはいけないことだ。

 

「お前を友達と言ってくれた奴が戦ってるんだぞ。お前をここまで強くしてくれた人が戦ってるんだぞ。この瞬間もみんなが命を懸けているんだ。」

「だって……相澤さんが……」

「俺を言い訳にするな!目を逸らすなら突きつけてやる!お前が目指すヒーローは仲間を見捨てるのか?!」

「うぅ…ぁ、」

「本当は分かってるはずだ!見捨てられないから、緑谷と来たんだろ!負傷覚悟で死柄木から庇ってくれたんだろ!答えろ、アモルファスッ!!!」

 

目が泳いでいる。ガタガタと体が震えている。

 

悪いとは思う。俺自身を棚に上げている自覚もある。だが、言わないと。

 

気絶している間に戦場はさらに混沌としている。あの場に殴り込める力がお前にはある。やるべきことをやるべきときに出来なかった後悔をするな。

 

「わかり、ました。」

 

涙を乱雑に拭う。

 

「私も戦います。」

 

立ち直ったとは言えない顔。でも、その目にはさっきまでなかった光があった。

 

「何人もの人に繋いで貰った命です。次は私がそれでみんなを救けます!」

「勝ってこい、アモルファス。」

「はいッ!!!」

 

ヒーローとは辛い職業だ。怪我は当たり前、命だって紙屑のように吹き飛ぶ。ときには人の死にも立ち会う。

 

だからこそ、力の強さよりも心の強さが必要なんだ。

 

 

それでも──と立ち上がれる強さが。

 

 

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