半分少女のヒーローアカデミア   作:Akafuku2000

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半分少女と一人より

半分少女のヒーローアカデミア

 

昼過ぎのナースステーション、蛇腔市で負傷したヒーローが担ぎ込まれたセントラル病院がようやく落ち着き始めた頃のこと。

 

「すみません!轟さんの病室ってどこですか!」

 

受付に声をかけたのは小学生ほどの女の子、身長が足りずよじ登るようにして顔を覗かせている。

 

エンデヴァーを取り囲む情勢を知る看護師たちの空気が張り詰める。が、その幼げな少女の姿を見て警戒心を霧散させた。

 

「ごめんね、今エンデヴァーさんは……」

「あ!そっちじゃなくて焦凍くんの方です!」

「息子さんの方?彼だったらそこを右に曲がったところの──」

「なるほど!ありがとうございます、失礼しましたー!」

「う、うん。走らないでね……」

 

外見的に案内がいるかと、内心思っていた彼を置き去りに少女はさっさと走っていってしまう。残されたのは、微妙な顔で手を振るしかなくなった親切な看護師だけだった。

 

「なんだか妙に物分りのいい子でしたね。ご親戚の子とか?病院着でしたけど。」

「あぁ、さっきの子は蛇腔市にいたって言う雄英生の1人よ。ここに纏められてる何人かの内の。」

「え!あの見た目で雄英生ですか!?」

 

先輩看護師の言葉に彼は驚きの声を上げる。どう上に見積もっても小学生低学年がいいところ。そんな見た目から実際は高校生なんてこと想像も出来ない。

 

「違う違う、元の見た目はちゃんと年齢通り。個性の副作用であぁなったみたいね、公にはなってないけど、激しい戦いだったことなんて見れば分かるもの。」

「はぁ、個性の……けど、先輩それ言っちゃっていいやつですか?僕、公式発表読みましたが、そんなこと書いてなかったですよ。」

「うーん、あまり他に話すのは良くないわね。でも言ったでしょ、見れば分かるって。彼ら彼女らが、あの日に最前線で命を懸けたことくらい、お上がいくら隠したって分かるわ。」

 

彼女は、仕事の手を止めず、後輩の方を一瞥もすることもない。しかし声音は、きっとそうだったという実感の篭ったものだった。

 

 

「僕らが今日も仕事に汗水垂らせるのは、あの子たちのおかげかもってことですね。」

 

 

※ ※ ※

 

窓に目を向ける。冬の晴空は澄んだ空気も相まって、どこまでも見通せそうなくらい綺麗だ。

 

だが、そう素直に思えるほど、俺の気分は明るいとは言えない。全くもって真反対、どんよりとした厚い雲が心の中を埋めている。

 

少し下を見れば、抗議に押し寄せた民衆が口々に不満や怒りの声を上げているからだ。親父の、エンデヴァーの、いや俺たち轟家の過去が世間に晒された、それも最悪の形で。

 

荼毘というヴィランは兄だった、昔に死んだはずの。その口から語られたエンデヴァーの所業は、アイツの信頼を失墜させるには十分すぎた。

 

「………」

「気にすんな。」

「大丈夫、だかんね……」

「轟さんのこと、私たち見てましたもの。」

 

切島たちの言葉は優しい。溜まった見えない澱が和らいだように思う。

 

でも無くなりはしない。

 

兄を見たとき、まるで鏡に映った自分だと感じたんだ。いつか陥れるため、只管に親父のことを憎悪していた自分と丸っきり同じに見えた。

 

強い、憎しみの炎──親父よりずっと強かった。

 

加山の手助けがなかったら、受けた傷は今の比じゃない。それでも火力で押し負けた。拮抗すら出来なかった。……情けない。アイツは真正面から立ち向かったのに。

 

確かに、燈矢兄が荼毘だったことに動揺したし、親父が動けないことに焦った。けれど、あの場で万全に近かったのは俺だったんだ。

 

加山が血塗れの相澤先生の側で、縋り付いて泣いていたのを見てる。両親がいないと言った加山にとって、親代わりの先生が傷つけられたことは、どれほどショックだったろうか。その憔悴ぶりに、とても戦ってくれと俺は言えなかった。

 

なのに立ち上がった。緑谷と並んで荼毘に抗ってみせた。敵わなかったとしても、荼毘と撃ち負けて力尽きてた俺を掴んで落下死からも防いだ。

 

家のことに巻き込みたくなかったのに、結局助けられてしまった。だからもうそうならないようにする。

 

「俺が、やらなきゃ……」

 

誰も巻き込まねぇ、こんなこと親父じゃやれねぇ。

 

燈矢兄は、俺がやるんだ。

 

 

 

 

 

「──何をやるの?轟くん。」

 

思考が止まった。ぐるぐる巡っていた考えが、電源でも引き抜いたみたいにぶち切れる。

 

目の前に現れた相手が、巻き込みたくないと思った人にそっくりだったから。

 

「あ、いつの間に!そいつ怪我人なんだ、ベッドに上がっちゃダメだって!」

「やだなぁ切島くん。私ですよ、わ、た、し。」

「はぁ…?」

 

下ろそうとする前に制止され、切島は怪訝な顔をしている。初対面に見える子供に、慣れた感じで名前を呼ばれれば無理もない。逆に八百万と芦戸は目を丸くし、障子はハッとした様子だった。

 

俺もたった今わかった。この冗談めかした、イタズラっぽい口調をするのは、俺の知ってる中だと一人しかいない。

 

普段の姿とは別人すぎて若干自信はないが……

 

「もしかして……加山、か?」

「せいっかーい!パチパチパチ!」

 

オーバーすぎるリアクションにまた少しフリーズする。本人がそう言ってるんだから間違いないはずだし、コイツはそういう奴だ。でもやはり、上手く目の前の光景と擦り合わせられない。

 

4人もさっきと同じ表情で固まって……いや、切島は顎が外れたのかというくらいあんぐりと口を開けてるな。実際、それほどの衝撃だった。

 

「本当に、本当に加山さんですの!?」

「え、えぇ!?だって、こんな縮んで…えぇ!?」

「ちょちょちょ!2人とも近いって!」

 

いち早く再起動した八百万たちが、加山(推定)に駆け寄って揉みくちゃにしている。残った俺たちは互いに顔を見合わせることしか出来ない。情報量が多すぎる。

 

ただ、その中でぼんやりと思ったのは。

 

人のベッド上で暴れないでくれ……

 

 

数分後──

 

 

「こほん、先程は皆様をお騒がせてしまい失礼いたしました。」

 

みんなも落ち着きを取り戻したところで、居住まいを正し、加山が仕切り直す。

 

……結局、下りないのか。

 

端にかけてるから、別に重たいとか言う訳じゃないが。

 

「で、その身体、何があった加山。」

「まず端的に言うと、個性の副作用です。」

「副作用って…今までそんなんになったことねぇだろ?」

「今まではね。三奈さん、私の新技覚えてる?」

「覚えてるよ、蒼くてキラキラしてたやつだよね。」

「そう、炎の方もできるようなったよ。……それでね、その、みんなには言ってなかったんだけどぉ……」

 

歯切れが悪くなる。言われてみれば、加山が報告会で見せた新技の詳細を聞いていなかった。先生の指示で、たまに練習に付き合ってたが、話をした記憶がない。

 

「新技、私が水炎転身って呼んでるこれね……使いすぎると物理的に体が消えます……」

 

その場、全員の表情が固まる。俺も自分の目付きが鋭くなったのを感じた。

 

それを自覚してか、加山も肩を小さくしている。

 

「……だから、そうなってるということだな。」

「うん。」

「でもよ!縮むだけなら大丈夫だろ!縮むのはヤバいけど、元に戻れるんだよな?」

「それがわかんないんだよ。可逆性はあると思うんだけどね。」

「………」

 

適当なことは言ってない…だろうな。自分のことだ、加山が可能性として考えてるってことは手段はあると見ていい、わかってないだけで。

 

それよりも、だ。

 

「肝心なことを聞いてねぇ。加山の新技、縮む以上のリスク…あるんだろ?」

「うっ……」

「教えてくれ。」

「いや、隠す気はない、ないよ?……でもいざとなると言いにくいなぁって。」

 

一拍置いて。

 

「……じゃう。」

「なんだ?」

「………死んじゃう、かも?」

 

やっぱりか。

 

蛇腔市で最後に見た大火力、自分の体を代償に使ってるなら見合った威力だったように思う。荼毘を殴り飛ばした今までにない規模の水蒸気爆発が説得力を持たせている。

 

黙っていたことにいい気はしない。だけど、同時に余計な心配をかけたくなかったんだろうなという気持ちも察せた。加山は、お節介な割に変なところで隠し事をしたがるから。

 

分かっても、納得できるかは別だけどな。……あんな風に。

 

「水穂!そんなことどうして黙ってたの!」

「三奈さん!?揺らさないで!落ちる落ちる〜!ちょ、続けさせ」

「みんないっぱい怪我して、ヒーローも何人も死んじゃったのに、水穂までいなくなっちゃうなんて私嫌だよ!」

「ごめんね!ほんと!でも初めから死ぬ気なんて一欠片もなかったから!ね!だから話の続きを」

「水穂のバカ〜〜!」

「うぎゃあ!?」

 

……さっき以上にやられてるな。そろそろ助け舟を出したいが、俺も加山が隠し事してたのにはちょっと思うところがある。

 

どうするかと、また人のベッドに暴れてる2人を眺めていると、八百万がサッと芦戸を引き剥がして止めた。

 

「芦戸さん、落ち着いてください。」

「うぅ〜だってー!」

「お気持ちは分かりますわ。私も彼女には言いたいことが2、3あります。」

「ヤオモモが怖い。」

「ですが、加山さんのお話には続きがあるようです。今はそれを聞いてからに致しましょう。」

「……わかった。」

「えぇ。……では加山さん、続きをお願いします。その後はさっきのことをじっくりと聞かせていただきますから。」

「ッス。」

 

こんなに怖い八百万は初めて見た。普段怒らない人を怒らせると怖いって誰かが言ってたのを思い出す。

 

「えーっと、話を戻すね。今の言い方だと、すっごい自爆技みたいだけど、これはね、はっきり言って使い方を間違えてた。」

「間違えてた?どういうことだよ。」

「キャパギリギリまで使ってわかったの。これだとあっという間に限界が来ちゃうって。よく考えたら、自分の一部を切り離すなんて正気じゃないでしょ?」

「確かにな。リスクのインパクトが強くて失念していた。」

「私もそう。上手くリソースを管理して使うものだと思い込んでた。」

「だから間違っていた、ということですね。正しい使い方が別にあると。」

 

本当の使い方か。個性を備わってる機能から逸脱して使えば、体の負担は大きい。俺の半冷半燃も両方を組み合わせて使うことで真価を発揮する個性だ。

 

「ならさ、その正しい使い方ってなんなの?」

「………」

「水穂?」

「おい……」

「まさか、加山さんあなた……」

「わかんないです。」

 

また揃って固まった。しかし理由は別だ。

 

ここまで引っ張って分からないという肩透かし。

 

「うん、分からない。分からないから使い方を探すの手伝って欲しい。」

「……はぁ、そのために今、話したんですのね。」

「ヤオモモ鋭い!……隠し事してたのはごめん。心配かけたくないってのは身勝手だった。だからより身勝手にします!私は何とかして元に戻りたい、力を使いこなしたい、なのでみんなを巻き込みます!助けてください!」

 

そう言い切った途端、加山は流れるように床へ下り、それはもう綺麗に頭を下げていた。

 

怒涛のカミングアウトから、気づいたらいきなり助けを求められている。俺を含めて全員がまだ咀嚼しきれてないが、一つだけ即座に出せる答えはあった。

 

「お前には言いたいことがあるんだがな。」

「そう言われると俺たちは弱い!」

「こんなに堂々とされたらね。」

「選択肢は決まりきってます。」

「助けてって言われたら断れねぇよな。」

「………ありがとう。」

 

俺たちの返答を聞いて、加山は噛み締めるように言う。

 

上手く誘導された気がする。本人は打算なく、心から頼んだつもりだったんだろうが。加山に合理的虚偽をマスターされたら、相澤先生並に恐ろしい。

 

はぁ、俺が何に悩んでたのか吹っ飛んじまった……

 

 

 

 

──おい、なんでこっち見て笑った加山。

 

「それでぇ、轟くんは何をやらないといけないの?」

「聞き間違いだ。」

「目の前で聞いたけど?」

「ぐっ……」

「私が隠し事してたって言った時はあんなに怖い顔してたのに。」

 

撤回する。

 

コイツ少し打算を混ぜてやがった。

 

「……荼毘、燈矢兄を止める。それは俺がやらなきゃいけねぇ。」

「一人で?」

「分かんねぇよ。でも、少なくとも加山を俺の家のことに巻き込みたくない。散々迷惑かけたから。」

「ふーん、私は恥を忍んで巻き込んだけどね。」

「………」

 

久しぶりにイラッときた。初めての戦闘訓練が、体育祭のことが鮮明に脳裏へ浮かぶ。加山の第一印象が最悪だったことを思い出す。

 

わかりきってたことだ。

 

加山水穂という人間は、自分を棚に上げてでも関わろうとする。あの緑谷に引けを取らないドがつくお節介だと。俺が線を引こうとしても、躊躇なく踏み越えてくるんだ。

 

「ねぇ、三奈さんどう思う?轟くん、ここまで来て私をハブろうとしてるよ。」

「ダメだねぇ。自分で言ったことは守らなきゃ。」

「お前らなぁ……」

 

頭を抱える。どうすればいいんだ。

 

「……これは切り札を出すしかない。」

「は?切り札?」

「お待たせしてすみません!どうぞー!」

 

おもむろに外へ声を掛ける。返事は無い。

 

だが、誰かが、戸を開けて……入ってくる。

 

「姉さん…兄さん……!?」

「来たよ、焦凍。」

「無理に動かなくて大丈夫。怪我してるんだから。」

 

2人が来るなんて聞いてない。来るなら連絡の一つくらい……まさか。

 

姉さんたちの方を向いて動かなくなった首をそのままに、横目で一枚噛んだであろう女を見る。ソイツは他所を向いて下手くそな口笛を吹いていた。

 

「私は?何もしてないよ?そこの廊下でばったりあっただけ。」

 

そうか……クソガキって言葉はこういう奴のためにあるのか。よくよくわかった。同級生のはずだが、縮んだ見た目も相まって憎たらしさが溢れてる。

 

「あと、もう一人いるよ。」

「加山、そういうことはもっと……」

 

なんてことないように言葉続けたことへ、文句を言う。そして言い切る前にその人は入ってきた。

 

「えっ……」

 

ずっと入院していたはずの、母だった。

 

 

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