半分少女のヒーローアカデミア
「お母さん、なんで……」
ふむ、呆然自失とはこういう顔を言うんでしょう。中々見れない轟くんの驚き顔です。てか、やっぱり彼のお母さんだったか。
私もね、さっき廊下で会った時に「あ、」って思ったもんね。わーお、って感じ。超美人だよこの人、轟家の顔面偏差値は半分ここから来てるのも納得。深窓の令嬢という言葉が当てはまるね。令嬢っていうご年齢ではないかもしれないが。……強いて言うなら婦人?
とにかく、前に会った冬美さんらと並んでるところに会って、ちょっと入るか迷ってる感じだったから、私がいい感じにしときますよと先に行った。
で、今に至る。
「家の話をするために来たの、家族みんなで。」
「……けど、」
「分かってる、平気になったわけじゃない。でも、清算しなくちゃいけない時が来たのよ。」
「………」
渋い顔してるね。両親の確執を目の前で見てきたんだから当然だ。今日まで彼女はずっと退院出来なかった。どれだけ傷つけられたのか、轟くんは良く知ってるから、すぐに肯定できない。
「焦凍、お母さんを信じてあげて欲しい。」
「私たちも一緒に向き合うから。」
「…………」
まだ踏ん切りがつかないか……
どうしよう、困ったぞ。誰かいい案浮かんでないかな。
……え、なんでみんなこっち見てるの。
切島くんたちはすっごい真剣な目で見つめてくるし。三奈さんに至っては行け!行け!って口動いてるし。これ、私がやらないとダメ?
口パクで聞いてみる。
ダメらしい。これを仕掛けた私が責任取れと。
はい。
ちょこちょこと近づいて轟くんを腕を突く。縮みすぎて、こんな簡単なことにも精一杯伸びをしないといけないの辛い……ほらほら、お耳拝借。ちこうよれ。
「私、無理に一人でやらなくていいって言った。」
「お前とお母さんたちじゃ話が違ぇだろ。」
「そうは言っても荼毘のことは轟家全体の問題でしょ?」
「だからなぁ……!」
この、意固地なヤツめ!私もムッと来たぞ。
「戦うって言ってないの、向き合うって言ってるの!」
「……向き合う?」
「そこから!?」
嘘でしょ。
……そうだ。
彼、ド天然だし、すぐ視野狭窄になりがちだった。自分がやらないとって思いすぎて、そのまま受け取ったな。
「話し合って、無くならなくても蟠りを解かないと、荼毘なんて相手に出来ない。だから向かい合いに来たの。違う?」
「………」
「それに、これを解決するには何だろうとケツを叩かないといけない人もいるじゃん。轟くんは無理だと思ったかもだけど、君のお母さんが来たのはそのためでもあるの。」
どうだ?行ける???
「………悪ぃ、頭凝り固まってた。」
「分かればよろしい!」
へ、へへ、乗り越えたぜ。
内緒話モードは終わり、待ちぼうけになってるご家族の方へ戻りましょう。
「ごめん、俺だけで何とかなる問題じゃなかった。……話し合うよ、家族で。」
「焦凍ッ!」
冬美さん感情豊かよね。口元を押さえて感極まるってリアクションしてる。
……やっぱりいいなぁ、家族って。
「加山さん、だよね?さっきは助かったよ。」
「え?いや、大したことないですよ。彼が気難しいのは良く知ってるので。」
「かもな、仲良くしてくれるのは兄貴として嬉しいよ。にしても、君そんなに小さかったか?」
「あー、これは無茶しすぎたしっぺ返しです。健康上の問題はないので気にしないでください。」
「ならいいんだけど……」
夏雄さん、思ってたより優しい人なんだ。前に会った時は割と怖かったけど。……あのときは機嫌が悪かったんだろうな。
そんな感じに轟姉弟のやり取りを眺めつつ、夏雄さんと話していると、また声をかけられる。轟くんのお母さんだ。
「手紙にあった通り、本当に焦凍に良くしてくれてるのね。」
「あ、轟くんの……えー、」
「ごめんなさい、挨拶が遅くなって。私は焦凍の母の轟冷です。」
「冷さん。一応改めて私も、えと、加山水穂です。轟くんのクラスメイトやってます。」
なに、なんだろう?妙にソワソワする。エンデヴァーだとそんなことないのに……緊張してる?
「そんなに畏まらなくていいの。焦凍のお友達なんでしょう?」
「は、はい……」
なんか急に申し訳なくなってきた。その優しすぎる笑顔勘弁してください。かなり好き勝手やったよ?私。
踏み込みすぎる悪癖が出たこと、今更ながらに気づいちゃったね……
「加山さん、そんな顔しないで。」
「いや、でも、ちょーっと不躾に言い過ぎたかなぁって……」
「焦凍が信用してる子だもの、私も信じます。」
「私、そこまで持ち上げられる程じゃ…むぐ!?」
いきなり、頭撫でられちゃった。なんでなんで?唐突なことで全然動けない。
ていうかさ……ダメだ、普通に嬉しくなってる。
あの、私もうそういう年じゃなくて……ただ相澤さんが特別枠なだけでして……さすがに他人のお母さんに撫でられて喜んじゃってるのはどうかと思いまして……
「あの子を守ってくれてありがとう。」
「………」
ぐっ、そう言われると更に弱い。お礼されたくてやったわけじゃないけどさ。
手つきが優しすぎて断るに断れないよ。髪を梳くみたいに、丁寧に丁寧にゆっくり撫でられる感覚が心地よくて、気づいたら素直に従ってる。
相澤さんのゴツゴツした手とは違う、細くて柔らかい手。またこんなふうにしてもらう日が来るとは思いもしなかった。少し報われたような、満たされたような気がする。ほんの少しだけ目頭が熱い。
くそぉ、私センチになってるぞ。
「……あ、ごめんなさい。勝手に触ったりして。」
「大丈夫…です。……嬉しかったですし、その、」
だから、ちょっと、溢れてしまった。
「お母さん、みたい、で?………あっ」
カーッと顔が熱くなる。
やらかした。
やらかしたやらかしたやらかしたやらかした……やらかした!!!
「ちがっ!いいい今のは違うんです!そんなつもりじゃなくて!口が滑ってしまったっていうか…!」
あれ!言い訳すればするほどドツボに嵌ってる気がしますよ!
冷さん!それはびっくりの表情でいいですか!ドン引きじゃないですよね!??
「あうう、すみませんほんとに。いきなりお母さんみたいなんて言って……」
「──なにしてんだ?」
「ぎゃあああああッ!?」
わぁ…今なら走り高跳びで世界目指せそう……
「なんですか!?轟くんさん!!?」
「いや、俺が聞いてるんだが……」
「あ、私!?なんにも!なんにもないけど!!!どうしました!?」
「どうってほどのことでもねぇけど。ただ撫でられてる理由聞きたかった。」
「あ"あ"あ"あ"!!!」
見られてんじゃんか!!!!
恥ずかしすぎて破裂しそうなんですけど!
「面白い子ねぇ。」
「いつもこんな感じだな。」
「かはっ!」
え、君からのイメージそんななの私?何気に傷つく……
はぁ、とりあえず深呼吸しよ。
「……すみません、取り乱しました。轟くんもごめん。」
「いい、気にしてねぇ。」
「そう…で、そろそろエンデヴァーのとこ行く感じ?」
「あぁ、あんまゆっくりしてる暇ないだろ。」
「確かに。」
事態は急を要するからね。冷さんたちも、少し緩んでいた空気とは打って変わって真剣そのもの。
轟一家の因縁に決着をつけるための一歩を今から踏み出すんだ。一般人の3人からすれば、その緊張は戦場に立つに等しいほどだと思う。
「じゃ、頑張ってね。私はここで三奈さんたちと待ってるから。」
「…?お前も行くぞ。」
「へ?」
私も、行く?
……待って、待て待て待て。
さすがに行かないよ……って、もう腕掴まれてる!?
「いやいや、色々あったし言ったけど、私はどこまで行っても部外者だよ!?」
「そうか、ならさっきの話は嘘だったのか。」
「はい??」
なにその悪い顔、初めて見ました。
「巻き込まれてくれるんだろ?」
は、え?
そんなこと言っ……
……あー、言ったなぁ。ニュアンスとしてそう言ったわ。
「けどぉ……」
「あれー?轟にはあれだけ言っといて、自分は守らないのー?」
「ぐぬぬ。」
「加山!漢に二言はねぇぞ!!!」
「ぐぬ、ぬ?…私は女!!!」
あーもうわかった!逃げません!
私は有言実行の女、加山水穂です!!!こうなったらエンデヴァーのケツ蹴り上げてでも向き合わせるから!!!私、加山だけどね!?
行く、行きますから……
「小脇に抱えるのやめて???」
恥ずいから。