半分少女のヒーローアカデミア   作:Akafuku2000

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半分少女と地獄の轟くん家2

半分少女のヒーローアカデミア

 

轟くんの腕から脱出し、横を歩く。彼の拘束程度、相澤さんの捕縛布に比べれば軽いもんです。ぬるりと抜けられます。

 

轟家の面々に囲まれる中、私の歩調は若干早足だ。幼児サイズの歩幅だと、普通に歩いてたら置いてかれるので。これはみんなの気が利かないわけじゃなく、逸っているのだと思う。それとなく顔を伺えば、さっきとは打って変わって張り詰めた表情をしている。

 

私もその緊張にあてられて、鼓動が早くなってきた。対面したとして、私はエンデヴァーに何を言えばいいんだろうか?いざその時が来るとなるとこんがらがってしまう。

 

ぐるぐると考えていれば、移動の時間なんてあっという間で、気づいたら彼の病室の前に立っていた。

 

患者が諸々の騒動の発端となった人物だからか、ここはしっかりと人払いされている。しんとしていて物音がしない。だから、聞き耳を立てずとも中から響くくぐもった声は聞こえてくる。どうやら起きているらしい。

 

一層、緊張感が増す。

 

しかし、誰が声をかけるかと発する前に轟くんは戸を開け放っていた。

 

「……俺自身が生き延びても、ヒーローとしてのエンデヴァーは死んだ……」

 

──マジか

 

「息子とは…戦えない……!」

 

──泣いてるよ、エンデヴァー

 

「お…」「うわぁ……」

「………」

 

ピシャリ──開いた戸はすぐ閉められた。

 

目、合っちゃったな。

 

「焦凍ォォォ!!!」

 

当然、なかったことになるはずもなく、エンデヴァーの精一杯な叫び声が返ってくる。凄いガラガラ、喉もだいぶやられてるね。

 

閉めてしまった轟くんに代わり、冬美さんが戸を開けて仕切り直した。

 

「お父さん!良かった…ようやくみんなで顔合わせられた。」

「ゴホッゴホッッ!お前たち、無事か?」

「……何、泣いてんだよ。」

 

夏雄さんの厳しい言葉、でも真っ当な言い分でもある。自分たちにあれだけの仕打ちをしておいて今更なのかと。

 

「すまん…!本当に、すまない……!遅すぎたんだ、後悔が……罪悪感が今になって……!──心が、もう……!」

「──心がなに?」

 

周りの空気が少し冷えた気がした。

 

「後悔も罪悪感も、みんな貴方よりうんと抱えてる。」

「冷!?なぜここに……」

「話をしに来たの。轟家(うち)のこと、そして燈矢のこと。」

 

その空気を払うようにして冷さんが前へと出る。彼女に続き、轟くんたちもエンデヴァーの傍へと立った。

 

私も遅れて中へ入り、しかし戸の近くですぐに止まった。呼ばれはしたけど、今は彼ら彼女らの時間だから。

 

「れ、冷…お前、大丈夫……なのか?」

「大丈夫じゃないよ、だから来たの。一番辛いのはあなたじゃないし、あの子を見なかったのはあなただけじゃないから。」

 

2人がぽつりぽつりと語り出したのは自分たちの過ち。

 

轟くんからの又聞きではない、当事者の口から出てくる内容は想像以上に澱んでいた。

 

個性婚のために冷さんを選んだエンデヴァー、家のために従うしかなかった冷さん。そんな中でも燈矢さんは普通に生まれて来た。そして自分より強い個性を発現した燈矢さんを見て、エンデヴァーは期待をかけた。

 

──きっとオールマイトを超えられる、と。

 

けど、期待という名の野望は打ち砕かれる。燈矢さんが炎熱の個性に対して、肉体は氷結に耐性のある矛盾した体だと判明したからだ。エンデヴァー以上に強い炎を持っているのに、それに耐えられない。私と似た体質だ。今聞いた話と轟くんから聞いた話が合わさって腑に落ちる。そのことがトラウマだったんだろう。前に一度、鍛えられないと突き放すように断られたのも……

 

そう、エンデヴァーは突き放した。

 

何度言い聞かせても訓練をやめない燈矢さんから目を逸らしたのだ。体質は変えられなくとも、親子で地道に向き合えば無茶のない個性の使い方を見つけられたかもしれないのに。

 

結果、2人は子供にとって最も残酷な手段を選んでしまった。それは諦めさせるために新しい子供を作ること。これは第三者の目から見ると両者に非がある、割合はエンデヴァーよりだけど。

 

まぁ、どちらが良い悪いはおいといて、こんなに酷いことはない。本心がどうであれ、「お前は要らない」と突きつけることに他ならないからだ。

 

勝手に生み出しておいて、勝手に期待をかけておいて、思っていたのと違ったら捨てて次?ふざけるな。人を踏みにじるのも大概にしろ。

 

だね。お前のことだぞ、オール・フォー・ワン。

 

実際、間違いなく理想の個性を持って生まれた轟くんへ、燈矢さんは襲いかかったそうだ。個性まで使うという隠しようのない害意を露わにして。燈矢さんの視点から見れば、自分への興味を完全に父から奪った彼を許せるはずもない。

 

それが轟家に走った決定的なヒビ。エンデヴァーは冷さんに全てを押し付け、燈矢さんとの関わりを絶った。当時、既に両親の事情を察していた燈矢さんに拒絶され、冷さんも止められなかった。そして誰も向き合って貰えなかった彼は隠れて訓練を続けてしまう。

 

エンデヴァーが知るところになれば、当たり前のように冷さんを責め立てる。子供たちの目も憚らず、暴言に暴力を繰り返した。そんなエンデヴァーへの恐怖が轟くんの火傷へと繋がる。自分を睨むギラついた夫と息子の青い目に、冷さんは耐えられなかった。

 

そして、増え続けたヒビは砕けた。訓練場のあった瀬古杜岳──そこに来て欲しいという燈矢さんのお願いを聞き入れなかったことで、彼は焼け、荼毘が生まれた。

 

燈矢さんはきっと、ただエンデヴァーに認めて欲しかっただけだったと思う。自慢の息子だと言って欲しかっただけだったはずなのに。誰も気づいてあげられなかった。

 

「あなたは瀬古杜岳に行かなかった。」

「……俺が行けば、あの子の感情に薪を焚べてしまうだけだと……いや、何と声をかけたらいいのか、分からなかったんだ。」

「私もそうだった……」

 

 

 

 

……キツイ、着いてきた以上は覚悟してたけど、キツイ。

 

目の前で瘡蓋を剥がして、生傷を抉っているのを見せられてるみたいだ。なんて生々しい。轟家が今日まで積み上げてしまったものの重みがよくわかる。清算なんて諦めてしまいたくなるほどにグチャグチャ……

 

「燈矢を殺してしまったことで、後に引けなくなっていた。焦凍に傾倒する他なくなっていた。」

「エスカレートしていく貴方が悍ましくて、子供たちにまで貴方の面影を見るようになってしまった。」

「壊れているのを知りながら、怖くて踏み込めなかった。上っ面で繕うことしかしてこなかった。」

 

けど、それを今この人たちは背負おうとしている。

 

「全部アンタが始めたことで、アンタが原因だ。でも、俺がぶん殴って燈矢兄と向かい合わせてやれてたら、荼毘は生まれてなくて、焦凍に盛り蕎麦をご馳走してやれたかもしれない。」

「責任は貴方だけのものじゃない。心が砕けても、私たちが立たせます…!貴方は荼毘と戦うしかないの。」

 

凛とした冷さんの声。今日が初対面だけれど、その姿は轟家の知る彼女とはきっと違う。子供を恐れる母でも、夫に従うしかない妻でもない、責任を果たそうとする一人の大人なのだ。

 

「お前、本当に……冷か…?」

 

エンデヴァーの驚く姿にさっきの考えを強くする。

 

原因であるエンデヴァーに押し付けたって誰も責めない。散々、擦り付けてきた、お前が責任を取れと見捨てても構わないはず。

 

それでも、一緒にと、肩を貸している。

 

だから私は喜んで巻き込まれたい。轟くんがそうであるように、彼のお母さんもお兄さんもお姉さんもそうだから。力になりたいと思うのだ。

 

「私たちよりよっぽど辛いはずの子が、恨んで当然のはずの私を再びお母さんと呼んでくれた。」

 

冷さんが轟くんを見る。

 

「雄英高校でお友達が、この子のためにって助けになってくれるお友達が出来た。」

 

私を見る。

 

もちろん。市民を守るためなら命張れるし、友達を救けるためなら命賭けれますよ、私は。捨てないけどね?

 

「私たち家族を繋ぎ止めてくれた……焦凍が轟家(うち)のヒーローになってくれたのよ。」

 

冬美さんと夏雄さんが家を守ってくれたから轟家はバラバラにならなかった。冷さんが精一杯愛情を注いでくれたから轟くんはヒーローを目指せた。

 

何より、冷さんの言う通り、轟くんが家族を省みて変わろうとしたから轟家はここに集まることが出来た。誰が欠けても今の光景はないと、私は思う。

 

「ここに来る前、加山に言われたんだ、独りで背負うことはないって。それは正しかったみてえだ。……泣き終わったら立てよ、みんなで燈矢兄を止めに行こう。」

「しょ、焦凍ォッ……」

 

ホッとため息が出る。感極まって更に涙を流しているエンデヴァーを見てだ。

 

やっっっと、轟家のお父さんとして一歩踏み出せたって感じするね。ずっとらしく成ろうと空回りしてたし。変に父親面するんじゃなくて、正面から向き合うべきだった。

 

……さすがに色々と偉そうすぎたな。彼のなんか違うよなぁという父親ムーブにモヤモヤしてたからかも。

 

え、どうしたの轟くん?こっち来いって何さ。

 

なに?お前もエンデヴァーに言うことないかって?

 

ふむ……ではお言葉に甘えて。

 

てちてちと近寄ってエンデヴァーの硬い手に触れる。未だにボロボロと泣いている彼の肩が少し跳ねた気がした。

 

もうご家族からメタメタに言われてるので、私からは純粋に励ましの気持ちを送ろう。

 

「エンデヴァー、私も手伝いますからね。今はこんなちんちくりんですけど、ドンと頼ってください。エンデヴァーも独りにはさせません。」

「君は……」

「なんです?」

「君は、なぜ俺にそうまでしてくれる。焦凍になら分かる、なぜだ。」

 

なぜと言われましても……

 

「だって、エンデヴァー困ってますよね?」

 

そりゃ、今だって初対面の最低発言は忘れてないけどさ。それはそれとして、過去に雁字搦めにされて傷ついてる人は見捨てられないよ。

 

ようやく家族と向き合う機会を得られたんだ、それを不意にするような目には遭わせられない。

 

「ヒーローが困ってる人を救けるなら、それはヒーロー相手でも同じですよ。」

「そうか……なのに、なのに俺は君に──」

「あ、それは貸しときます。絶対、清算してもらうので、それまでは。」

「………」

 

あっぶなぁ。ここでアレを口走ったらいい感じに纏まった轟家が荒れちゃうでしょ!

 

あと、この人は先の約束取り付けとかないと危なそう。

 

「……戦い抜いて、生き残れということか。」

「はい!」

 

にっこり。半分は意図が伝わって良かった。覚悟決まりまくったヒーローは自分の命を勘定から外しがちなので保険かけとくに越したことはない。

 

……あんまり私も人のこと言えないけど。

 

 

※ ※ ※

 

『すみませ〜ん。』

 

家族会議も一段落して、さてこの後どうしようかと考えを巡らせ始めた頃、急に病室の戸が開く。

 

初めて聞いたのに、何故か聞き覚えのある合成音声と共に入ってきたのは……

 

『話、立ち聞きしちゃいました。その家族旅行…とプラスα、俺らもご一緒してよろしいですかね?』

 

ホークス、そしてベストジーニストだった。さりげなく私が縮んだ加山本人ってことも知ってるらしい。

 

「今のヘラ鳥の声だったのか……」

『ヘラ鳥?なんすかそれ。』

「うちの爆豪考案の冴えたあだ名です。合成音声なんか使って喉大丈夫ですか?」

『荼毘にしてやられてね。』

「あー、荼毘に。」

 

道理で全身包帯まみれなわけですか。ろくに発声出来ないほど気管や声帯も焼かれてるから合成音声を使ってるのね。

 

あの日に起きたこと全部把握しきれてないし、後で情報収集しとかなきゃ……

 

「──うちの息子が申し訳ありませんでした。」

 

冷さん!?ど、土下座してる!??

 

『え!そういうつもりで出てきたんじゃないんで、やめてください奥さん。』

 

こんなに焦ってるホークスは初めて見た。あまりに流れるような土下座に止める暇がなかった。

 

「荼毘について幾つか伺いたいだけです。盗み聞きは違法デニムでしたが。」

 

ジーニストはそう言いながら、冷さんを立ち上がらせる。こういう時も焦らない、実にスマート。

 

「怨嗟の原点は捜査の手がかりになります。そのあと、どう生き延び、どうやって荼毘へと変貌を遂げたかは、本人に直接聞くとしましょう。」

 

うんうん。

 

荼毘が生まれる原因になったかもしれないけど、そこから荼毘がしたことに必ずしも冷さんが責められる理由はないから当然だ。土下座なんてとんでもない。

 

『俺、あなたの昔の映像とかよく見てましたけど、若い頃の執念がまさかこんな形で肥大化していたとは……ショックですね。燈矢くんのお話ってことで出てきませんでしたが、焦凍くんの火傷、これもエンデヴァーさん?』

 

……ぶっ込むなぁ。このグイグイ行くやり方がホークスなりのコミュニケーション術なんだろうか。しかも轟くんと肩を組む勢いで近づいてる。

 

「私です。」

「おか、……」

 

彼は口を開きかけてやめる。

 

なぜやめたのかは分からない。自分のしたことから目を逸らさない冷さんを尊重したのかもしれない。

 

話を振ったホークスを見ると、考えていたのとは違う表情をしていた。轟くんに感心したような、尊敬するような……

 

『そっか……焦凍くん、君はかっこいいな。』

 

轟家の在り方を少し羨むような表情。

 

意外とホークスも家族に対する憧れみたいなのがあったりしてね。彼の経歴謎だし。

 

『エンデヴァーさん、外は今、地獄です。』

「あぁ……」

『死柄木、荼毘、トガヒミコ、スピナー、スケプティック、逃走した解放戦線構成員132名、そして7匹のニアハイエンド、全て行方不明。さらにタルタロス他六ヶ所の刑務所が破られ、1万以上の受刑者が脱獄しました。』

 

先生から聞いたことだ。死柄木ら中核のメンバーを逃したのも痛いが、何よりオール・フォー・ワンを始めとした、大量の個性犯罪者が自由になったのが痛すぎる。

 

大抵が木っ端だろうけど、中には全国指名手配を受けるようなネームドもいる。治安悪化と社会不安の増大は必至……

 

『公安の機能不全により、ヒーローをまとめることもできません。風向きの悪さを察したヒーローたちが続々と辞職中…ヒーローを信じられなくなった一般市民が武器を手に戦うことで、被害が被害を呼ぶ状況です。』

 

そこまで旗色が悪いんだ……今こそ、ヒーローが逃げちゃいけない時なのに。

 

『現在、政府が各国に援助隊、ヒーローの要請をしていますが、公安の停止により、派遣手続きが滞っています。これが僅か2日間で起きています。』

 

『奥さんの仰った通り、貴方は戦う他に道はありません。そして俺達もです。此度の責任はナンバー1だけのものじゃない、ここにいる人たちだけで占有しないでいただきたい。』

「なぜ、なにを……」

 

ホークスがエンデヴァーへ手を差し出す。びっくりしてるみたいだけど、それは自分の人望を過小評価しすぎだ。

 

彼を支えたいのは、轟家だけでも、私だけでもない。

 

『てな訳で、こっからはトップ3のチームアップです。』

「私は元よりホークスに命をベットした身、地獄の花道ランウェイなら歩き慣れている。」

 

今一度、ホークスはエンデヴァーを見た。

 

『ほら、ご家族に教え子、それに俺たち、少しは肩も軽くなって歩ける気、しません?』

「あぁ、ああっ……!」

 

良かったですね、エンデヴァー?

 

 

 

 

 

またボロ泣きしだした彼が落ち着くまで暫し待ち……

 

『早速ですが、まず皆々様への説明責任、荼毘の告発を受けた以上避けては通れません。ざっくり答弁内容を考えたんすけど、1つ不明瞭な要素が……』

 

ん?不明瞭?

 

 

『──ワン・フォー・オールってなんなんすかね。』

 

 

 

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