半分少女のヒーローアカデミア
『ワン・フォー・オールってなんなんすかね。』
ホークスから聞き覚えのありすぎる単語が飛び出す。無関係の人間には絶対出せない言葉……
それを聞いて、私はもう酷いくらいに態度へ出してしまった。聞いた瞬間にビクッって擬音出てたと思う。要するにやっちまったわけです。あまりにも気が抜けていた。
『……エンデヴァーさんに聞こうと思いましたが──別の人に聞いた方が良いみたいですね?』
「ひぃぃ!?」
いつの間にか目線が合わせられてる。黄色い瞳がスっと狭められる。めっちゃこえ〜〜!ナンバー2の尋問モード、そりゃ怖くないはずがない。合成音声のコミカルさでギリ耐えてる。思わず後ずさりした。
……っと、ごめんね。
後ろは轟くんでした。に、逃げらんないねぇ……
「加山、お前なんか知ってんのか?」
「えぇ?ワン・フォー・オール?なん…のこと?私、わかんないなー」
『嘘つくの下手すぎ。』
怖い!その笑顔怖いかも!
『そもそもこれを発したのは緑谷くんだ。なのに君は当然のように知っていた。…そうだなぁ、秘密の共有者ってところ?』
「私、何も言ってませんが。」
『顔に書いてあるよ。』
「顔……」
ほんとぉ?ポーカーフェイス下手くそ女ってことっすか?……やばっ、爆豪みたいなネーミングセンスじゃん。
あ、そういや爆豪のやつ元気かな。まぁ、どうせ心配しなくても元気なんだろうな。
「………」
『お、他のこと考えて顔に出さない、良い手だねぇ。』
読心術やめてください。
『ま、話を戻そうか。さっき言った緑谷くんとワン・フォー・オールの関係性、君が知っていることでいい、教えて欲しい。』
「え〜〜」
『えーじゃない。わかってやってるでしょ。』
「手強い……」
と言ってもね。本気でこんな手でホークスを誤魔化せるとは思ってません、はい。
言いたくはない。が、現状はもう秘密どうこうと隠し続けられる場面でもないんだろう。そもそもワン・フォー・オールというものがあると、世間に露呈してしまっている。下手な憶測でオール・フォー・ワンと関連付けられたら笑えない。ヒーロー不信が広まる中、全くありえない話じゃないから。
ホークスだって徒に探りを入れてるわけじゃないのもわかってる。彼、彼らはこれから命を懸ける大仕事を始めるつもりだ。共有できる情報は擦り合わせておきたいし、潰せる不安材料は潰しておきたいのは当然のこと。戦力に数えられてる私が非協力的なのは迷惑をかける。
故に、答えは爆豪のときと同じ。──本人に聞け、だ。
「私からは言えません、絶対に。仮に、例えばオール・フォー・ワンから拷問されたって口は割りませんよ。」
オール・フォー・ワンはとうの昔に気づいてるみたいだけど……
『君からは、ね。』
「はい……でも、事態が急を要するのもわかってます。なので、直接本人に聞いてください。これに関する判断はあの人に従います。」
『なるほど。それで君の言うあの人は誰?』
一言、心の中で謝る。
「オールマイト、彼が全てを知っています。」
あぁ、言っちゃった。いつか来る日とは思ってたけど。まさか私がバラしの初手を担うことになるとは……
胃が重たい。怒られない、怒られないよね?
『やっぱりあの人に行き着くか。』
うーん、全然驚いてないね。やっぱりある程度目星はつけてたみたい。少し調べれば緑谷くんとオールマイトの仲がいいことは分かるし、彼は秘密主義で有名だ。手頃な答え合わせに私は引っかかってしまった。
おのれヘラ鳥め。
『ところで、君が秘密を喋らないと決めた理由を聞いても?事態はわかってると言ってたし、頑なになる必要もないって気づいてたはずだ。』
「理由、ですか?」
なんでそんなこと聞くんだろうか。ホークスの顔は変わらず真剣そのもの。疑うまでもなく、マジの質問ってことになる。
……素直に答えればいいのかな?
「理由は友達とその憧れの人との約束だから、破るなんてできませんよ。今回のもめっちゃ苦渋だったんで。」
『そうか……羨ましいな君も緑谷くんも。』
ちょっとだけバツの悪そうな顔、かも?
そりゃね?こーんな幼気な子に無理くり秘密を吐かせたんですから。
「ホークスって実は友達いない?」
『おっと、俺の交友関係知りたいってぇ?』
「なんか怖いからやめときます。」
やぶ蛇だったわ。だいぶ得体の知れない感じするし。悪い人ではないんだけど……君子危うきに近寄らず、です。私が君子かは後日の課題とします。
そうだ、いいこと思いついた。ホークスが私を利用したなら、私もホークスを有効活用しよう。聞き出したこと気にしてそうだし通るでしょ。
「秘密喋った対価って請求していい?」
『意外に強かだね……いいっすよ。』
実はちょうど気になることがあったんだよね。
「情報通そうなホークスに調べて欲しいことがあります。」
思いつく限りの要素をいくつか挙げていく。できるだけ詳細に、できるだけ絞り込めるように。ちゃんと聞く姿勢を取ってくれてるホークスはそれらを端末にポチポチ打ち込んでメモしてる様子。
1、2分話して、このことは片手間に調べてみると約束してくれた。急ぐわけでもないから私も結果が出るのはぼちぼちでいい。
それらが終わって、ホークスらは秘密を聞きにオールマイトの元へ、轟家も帰宅することになった。エンデヴァーは今日はまだ動けないのでベッドの住人だ。
来た時から随分落ち着いた彼を見て、私たちも病室から退散した。
「そういや、ホークスに話してた調べ物って結局なんなんだ?」
「んー?人探しだよ、人探し。」
「人探し?」
「そうそう。」
ふむ……
私がゲロっちゃったし、ワン・フォー・オールの秘密は近いうちに、A組全体にも伝えられるだろう。そうなるとすると、目の前にいる彼に私の秘密を黙ってるのも座りが悪い気がする。
向こうの問題に首突っ込んだわけだし、ここはフェアに行きたい。
「──ねぇ轟くん、ちょっと2人で話さない?」
※ ※ ※
屋上へと上がり、吹く風を全身に浴びる。今日は割と暖かいけど、真冬の空気は冷える。私の体質的にはまだまだ心地いいくらい。
そんな中でエンデヴァーに押しかけてる方たちは随分と元気だなと思う。ただでさえ死柄木らの起こした大混乱に、彼のスキャンダルだ。民衆が不安に駆られて、寒さなんて気にもとめてないってことかな。エンデヴァーの所業を思えば無理もない。石を投げられて当然とは思わないが。
社会は一人の人間で支えられるほど、小さくもないし、軽くもない。きっとそれを多くの人は忘れてしまっている。本当に成してしまったオールマイトという偉人が眩しすぎたからだ。
誰もがいつか消えるものを永遠と錯覚してしまった。ヒーロー職を身近で見ていた私もそれに気づき始めたのはそう昔の事じゃないし。一般市民は安心安全に暮らしたいだけ、みんな思いもしなかったことだ。
──明日、いきなり隕石が降ってきて世界滅亡、なんてことを真剣に考える人はいない。居たら変人だ。
「ふぅ……」
柵に背を預けて、モヤッとした現状への不満を息とともに捨てていく。
誰かが全てを背負わなければいけない、そんなヒーロー社会は歪だと思う。
みんなが誰かを少しだけ思うことが出来れば、ヒーローは暇になるんだろうか?
もし、
もし、そんな未来があるとしたら、それを目指すのはきっと私たちだ。
「うん、やりがいあるね。」
「やりがいって、なんのだ?」
「あ、おかえり轟くん。やりがいって言っても大したことないよ。」
「そうか?にしては楽しそうだったけどな。」
「いいことじゃん。悲観的にならず、明るい未来を夢想する!前向きに!」
辛くても、情けなくても、歯を食いしばって。死柄木たちはヴィランであっても、その信念は本物だ。半端な覚悟じゃ止められない。
「飲み物買ってきたから1本やるよ。」
「え?あ、ありがと。」
唐突……先に行っててくれって、さっき言われた訳はこれか。
貰ったのはよく見るメーカーの天然水、彼の方はお茶だった。寮だと暇さえあれば茶を啜ってるし好きなんだろうね。部屋を和室にしてしまうくらい生粋の日本文化育ちだし。
あとで飲み物代は返すとして、せっかく貰ったから遠慮なく口をつける。飲む前はそうでもなかったけど、いざ飲み始めるとスルスルと喉を通った。思ったより喉が渇いてたらしい、助かった。
「ぷはぁ!」
「速ぇな、そんなに喉渇いてたのか。」
「そうみたい。」
思わずグビグビ飲んじゃった。恥ずいな。
少し中身の残ったペットボトルを揺らす。
「……」
「………」
「「………」」
……待ってる。轟くん、私が話すの待ってる。
いや、話しよって誘ったのは私だから、こっちが喋るのは当たり前なんだけど。改まって話そうとすると、切り出し方がさ、分からなくなる。
こういうのって意外と勇気いるんだよね。
よし……
「私がオール・フォー・ワンの元実験体って話、前にしたの覚えてる?」
「覚えてる。ナイトアイの墓参りに着いてったときのことだよな。」
「そう、アイツに炎の個性を渡された。それを、まぁ、苦労しつつ捏ねくり回してきて、最近新しくわかったことがあるの。」
「さっき言った新技……のことじゃないな。」
「……エスパー?」
「俺のことなんだと思ってんだ。そこまで察し悪くねぇよ。」
「これは失礼。」
察しが悪いとは思ってないよ、天然だと思ってるよ。
「で、わかったことなんだけど。」
「あぁ」
「──この炎の中には人格が宿ってる。」
他人由来の個性には、稀に元の持ち主の人格が残ってる。私は実際にシノ(自称)さんと対話したし、同じ他人由来の個性を持つ緑谷くんも歴代継承者たちと話をしたという。
これは幻覚なんかじゃなく、本当にある現象だ。
「………常闇の真似か?」
「違うよ!バカ!!!」
冬の冷気で冷えていた頬が一気に熱くなる。真剣な顔して聞いてくれてると思ったら返事がそれ!!?確かに「自分の中の別人格」なんて如何にも思春期の病に聞こえるけどさ!
もう一人の僕!じゃないんだよ!シノさんは決闘者でもファラオでもないよ!
決闘者?ファラオ?……なんのこと???あれ?
「悪ぃ、冗談だ。」
「だよね!」
「お前に振り回されてばっかだから仕返ししてみたかった。」
「ぐっ…!」
顔面偏差値激高な君の微笑みは火力が高すぎる。心臓が痛い。これがMt.レディの言ってたヤツか。
落ち着け……話が進まないぞ。
「そ、それで…個性に宿ってる人格、その人に個性本来の能力とか、リスクとか教えて貰った。」
「だから色々と知ってたのか。暴発が切っ掛けで使えるようになったにしては、慣れてんなって不思議だった。」
「うん。リスクのこととか黙っててごめん。……お見舞いに来てくれたときも、私はわかって言わなかった。」
「……怒ってねぇから気にすんな。」
怒ってる…顔じゃないね。嘘もついてない。
良かった。彼に嫌われたら普通にめっちゃ凹む。
「もう慣れた。加山は他人に優しいくせに、自分に優しくすんのは下手だ。」
「それ、不器用ってこと?」
「あぁ、すげぇ不器用だと思う。」
「……轟くんに言われたくない。」
「そうだな。俺も人のこと言えねぇ。」
不器用、不器用かぁ。
言われてみればその通りすぎる。危地に飛び込んでいくときだって、命を懸けるときだって、ちゃんと自分を勘定に入れてやってるつもり。でも、それで毎回ボロボロになってたら心配かけるよね。
「そういう、下手な優しさがみんな好きだと思うぞ、A組の奴らは。」
「それって爆豪も?」
「どうだろうな。確かにアイツはそんなこと思わなさそうだ。」
「ふふっ、言えてる。……じゃあ、轟くんは?」
「まぁ、俺もだな。」
「ふーん、そっか。」
ふーん……ふーーーん……
「そういや、個性に宿ってるって人は名前とかあんのか?」
「あるっぽいけど、本人が名前忘れちゃったらしいからシノさんって呼んでる。」
「シノ?」
「名無しの権兵衛から取って、シノだってさ。」
「安直な人だな。」
「でしょ?私も思った。」
あ、なんか今シノさんがプンプンキレてる気がする。
──安直っていうな!
ほら、怒ってる。
「……え?」
「どうした?」
「ううん、なんでもない。」
一瞬、本当にシノさんの声が聞こえた気がする。今まで夢の中でしか会ったことないのに。
気のせい…?
「………」
火照った体にまた寒さが染み込んでくる。言い出すか迷ったにしては、あっさりと言いたいことは終わった。
もっと怒られると思ったんだけどな。想像してたより、轟くんは冷静に受け止めて、納得してくれた。あっちからの信頼?っていうのか、そういうのは大きかったらしい。そんな人に心配かけさせた愚か者がいるなんて……
一応、私が言わなくちゃいけないことは大体言ったと思う。あと、何か話しとくことはあったかな?
「……そうだ!大事なこと思い出した!」
「お、おぉ。」
大声出してごめん。でも今のでピキーンと1個思い出したことがあった。
「緑谷くん、私たちのとこから居なくなるかもしれない。」
「は?緑谷のやつが雄英から出てくってどういうことだ。」
「彼が死柄木たちに狙われるからだよ。」
「なんでだ……ってあれか、ワン・フォー・オールか。」
気づいてくれた。轟くんもホークスの話、聞いてたからね。
ホークスたちの作戦、広まっていくワン・フォー・オールの存在、死柄木の目的、そこから考えられる可能性が一つある。
「そう、彼が目覚めたら、多分みんなの安全を考えて雄英を出る。しかも囮を兼ねて。」
「無茶じゃねぇか?止めねぇとまずいぞ。」
「私は出ていくのは止められないと思う。一度決めたら誰よりも頑固だし。」
「………」
体育祭で緑谷くんの頑固さにやられたからねぇ。私の言ってる意味がよく理解できちゃうんだろう。
そこで私の出番です。
「私が緑谷くんに着いていくよ。囮作戦って読みが当たってたら、私はそこに食い込める秘策があるから。」
「秘策?」
「そこは向こうの事情で明かせないんだけどぉ……」
「約束が云々だろ。もうそういう隠し事やめねぇか?」
「うん。近いうちに緑谷くんたちはA組にワン・フォー・オールのことを話す。その時に私も伝える。」
「ならいいんだが……約束してくれ。」
思えば、保須で約束してくれた時もこんな顔をしていただろうか。
「もちろん。緑谷くんが置いていこうと、急に居なくなっても絶対に君だけには言っておくからね。その時は伝言よろしく!」
約束するって拳を合わせる。私がチビすぎて轟くんにしゃがませてるのが締まらない……
でも、彼の顔が近くにあるのは悪くなかった。
実は、まだ言えないこの瞬間出来た秘密がある。
轟くんは、お互いに初めて秘密を打ち明けた友人同士だ。なんだかんだで、同中の2人を除けば一番仲のいいクラスメイト。
……ちょっと喧嘩したこともあったけどね。
彼が困っていると、つい世話を焼きたくなってしまう。お節介な性格が余計に出る。簡単なことでも、難しいことでも。助けるなら私がいいと思った。轟家の問題に首を突っ込んだのも気まぐれじゃない。
彼は私が無茶をするとちゃんと怒ってくれる。心配だったと言ってくれる。保須でした約束も対抗戦のときに守ってくれた。なんの気なしに言ったことだと思ってたのに、本気で果たしてくれた。
とどのつまり、私の感情を占める彼の割合は結構大きい。
って、今気づいた。周りに茶化されると恥ずかしくて、分からないことだと気にしていなかったけれど。
──私、加山水穂は轟焦凍のことが好きである。