終わらないで……
半分少女のヒーローアカデミア
屋上での会話を終えて、轟くんの病室へと戻る。
とある自覚を覚えてしまったが故に、あのあと彼の顔を一切見れなかったのは内緒。置いてけぼりにする勢いでずんずん歩いちゃったよね。
元々容姿も性格もいいなとは思ってたけど、いざ気づいちゃうともう耐えられない。声、仕草、こっちに向けられるあらゆる要素が心臓に悪い。高血圧で入院させられそうなくらい高鳴ってしまう。心音が周りに響いてそうなレベル。
はぁ……お茶子さん、よくこれ耐えられるね。尊敬する。
「ただいま〜〜」
「おっそーい!どこで道草食ってたの!」
戸を開ければ第一声は三奈さんの特大ボイス。確かに、ずいぶんと待たせてしまったと思う。申し訳ない。
「親父のとこ行ったあと、少し加山と話してた。」
「へー、何話してたんだ?」
「そうだな……これ言っていいか?」
「………」
「加山?」
「んぁ!え、なに!?」
な、なんでしょうか?
「屋上のこと言っていいのか聞きたかったんだが……」
「あ、あぁ!アレね!色々混乱させちゃうと思うし、今はまだかな。私にドンと任せといて。」
「まぁ、お前が言うならそうするが。」
「う、うん。そのうちね、そのうち。」
「さっきから変だぞ?ずっとボーッとしてる。」
「そそ、そんなことないけど???」
言えない!なんか自然と見つめちゃってたとか言えない!
てか顔近い!スムーズに熱を測ろうとすな!距離感を、距離感を守ってください!ほんとに熱出る!
「──水穂〜〜?」
「ハッ…!」
三奈さん、いつの間に後ろに!?飛び退くよりも先に肩を組まれて逃げられなくされてるし!
「やっと進展した?」
コソッと囁きおる!
くっ、さすがA組で1、2を争うガールズトーク好きだ。私の変化を見逃さない。……見逃すも何も、わかりやすすぎるくらいには自分も自分で変わったと思ってるけど。
今まではあーだこーだと有耶無耶にしてきたけど、言ってることは本当だ。
もう、正直に言うかぁ……
ジト目で横の三奈さんを睨む。確信してる癖に、私の口から白状させようとしてるのが見え見えの笑顔してる。恥ずかしすぎてなんか涙滲んできた。
耳、あっつい。
「はい……」
改めて思う。
──あの時、ボロ出してごめんね、お茶子さん。
「やっったーー!頑張って!応援するよ!!!」
「……ッス。」
茶化したいとか、全く悪意を感じない。三奈さんは本気でそうするタイプだから……
嬉しいやら、恥ずかしいやら。
じゃない!恥ずかしいが9割9分9厘だわ!
「芦戸さん、そこまでにしてください。早く本題に入りましょう。」
「あ、そうだった!」
「ん?本題???」
この羞恥という生き地獄は?えぇ……?
まさか、オマケでこれを食らったの???
衝撃の事実に私が愕然としている間、八百万さんはベッドへ近づいていく。見れば、先程はなかった高い山を毛布が形成していた。明らかに何か用意している様子だけど、その中身はなんなのか……
「さぁ!これをご覧下さい!」
彼女が毛布を剥ぎ取った下には、飲料水の入ったペットボトルの山、山、山。容量はたっぷり2リットルある。
「はぇ?なに、これ…なに?」
「俺のベッド……」
呆然とする。
私は大量の飲料水に、轟くんはそれに占領された自分の寝床に。
「お前らがエンデヴァーんとこ行ってる間に考えたんだ!」
「水穂復活の方法ッ!」
「は、はい。」
助けて欲しいとは言ったけど、こんな短時間で用意してくれるとは思わなかった。ちゃんと嬉しい。
それはそれとして、その解決策とやらとペットボトルの山が結びつかないよ?私。
「八百万曰く、加山の個性が体力と言った数値化しにくい物ではなく、物理的に消費するものなら、その代替物で補填できる、らしい。」
「そうですわ。私の個性は食事によって得た脂質を消費します。当然、使い続ければ枯渇しますが、それもまた食事によって補える。」
「なるほど?」
「もし、加山さんの個性が似た性質を持っているならば可能かと考えます。水の方が相性が良いと思いましたので、こちらをチョイス致しました。」
確かに……理屈は通るかもしれない。
水炎転身で普段使ってる水針、あれって水に変化させた髪をぶっ飛ばしてるわけだし。荼毘に打ち込んだ水蒸気爆発も精一杯だったから曖昧だけど、形態変化させた力をググッと拳に集めるイメージで発動させた。多分、あの戦闘をトータルすると体を変換した比率は水の方が多い。
体を水にして使ったなら、水を補給することでその分を取り戻せると。
ただ懸念点が1つ。
「八百万さんの言ってることはわかった。一応聞くけど具体的な方法は?」
「それはもちろん飲みます。」
「あ、」
「飲んで、ください。」
「わぁ……」
ヤダーーーーッ!
「俺たち頑張って買ってきたぜ!」
「えぇ、セントラルで揃えられる限りは。もちろん他の方には迷惑にならない範囲で集めています。」
「気にしてるのはそこじゃなくてぇ。」
そりゃ元に戻りたいけど、この量を!?1人で!?
無理無理無理無理!!!
「あの、八百万さん?水って飲みすぎると命の危険が……」
「存じています。何も一気にとは言いません。最初はこの1本を半分ほど飲んでいただければ。仮説が正しいなら、効果はすぐに出ると思います。」
「半分って言っても1リットル行くよね!?」
「はい。」
はいって!なんていい笑顔!!!裏に滅茶苦茶やった私へのお怒りが見えるよ!
でもアルハラじゃなくて水ハラスメントなんて聞いたことない!誰か助け舟を出してくれる方はいませんか……?
「加山、可能性があるならやれることはやった方がいい。ちんちくりんのままでいいのか?」
「ちんちくりんって君ねぇ……」
「俺はお前の頼みを聞いてくれた八百万たちに応えるべきだと思うぞ。」
「………」
それはそう。ウダウダ言っても始まらないか。とにかく試せることは試しておこう。
八百万さんから手渡されたものを受け取る。何気に蓋を開けといてくれたのは助かるね。縮んだせいで筋力も落ちてるから、そのままだったら難儀してた。
意を決して口をつけると、中身は消えるように飲み込めた。大して渇きも覚えてなかったのに不思議だ。元の状態でも一気に飲めと言われたらしんどい量だよ?
「む……」
そこ、妙に微笑ましいものを見るような顔しないで。今の私くらいの子がデカイペットボトル持ち上げて必死に飲んでたら、確かにちょっと可愛いなって自分も思うけどさ。
数秒前までの真剣な雰囲気はどこに行ったの。飲みつつも頑張って怒った顔してみる。
……そういう表情が余計に深まっただけだった。
「ぷはっ、ありゃ?全部飲んじゃった。」
そろそろ息が苦しくなってきて、口を離してみれば中身はすっからかんのかん。半分の予定が飲みきってしまった。
でも、お腹に溜まった気はしない。
「どうかな?なんか変わった?」
「いえ、特に変化ありませんね。先程と同じくとても可愛らし……コホン、なんでもありません。」
「緩んでるよ、頬が。」
全くもう。
一応、自分でも体を見渡してみるが、やっぱり変わったところはない。けど、確かに飲んでた時はどこか別の部分に吸われていくような、変な感じはしてた。これが手応えなのか、プラセボなのか。
量が足りないのかもと、もう一本飲んでみる。これもあっという間に空になった。同じく手応えのような何かも感じた。こう、飲めば飲むほど欲しくなってくる。
しかし、みんなの反応は微妙だった。
「うーん、変わんねぇな。失敗か?」
「かもしれません。それなりに自信のある仮説だったのですけど……」
「気にしない、ダメで元々だもん。それより勿体ないから他のも飲んじゃうね。」
「あの…飲んでくださいと言いましたが、流石にこれ以上はお体が……」
「平気平気、むしろ調子よくなってきたくらいで……ったぁ!?いでででで!!!」
「加山さん!?」
ビキッと全身の骨という骨が軋む。同時に筋繊維が思いっきり引き伸ばされる。
え、痛いけど……どのくらい痛いかと言うと一瞬意識がブラックアウトしたくらいには痛かったけど……
ん?
「あ、目線高くなってる。」
「本当に伸びましたわね……」
「今は中学年ほどか?小学生の。」
「私もそれくらいな気がする!」
おぉ、八百万さんの仮説は正しかった。水飲んだら体がちょっと戻ってる。病衣の丈が少しだけ短くなったし。
戻る瞬間はめちゃくちゃ痛かったけど、それを抜ければあとに引くものもない。繰り返したらいけそうだ。……ほんとに、めちゃくちゃ痛かったけど。
俄然、やる気出てきた。
「これいけるね。じゃんじゃん飲みます。」
「じゃあ、替えの服用意してくる。」
そう言って三奈さんは病室を出て行った。その間、私は次々にペットボトルを空けていく。
「八百万、これ時間かかるか?」
「そうですね…このペースですと、1時間ほどかかるでしょうか。」
「わかった。その間、俺たちは外で時間潰してくる。」
「ごうぇんね〜」
忘れてた。ナチュラルに居座って謎のフードファイトを始めてたけど、ここ人の病室だった。
そして水飲みながら返事する私、とんでもなくお行儀が悪い……
「食堂で飯でも食おうぜ。轟、昼飯まだだろ?」
「なら蕎麦がいい。」
「お前が好きなのは温かくないやつだったな。」
「じゃあ、俺も同じやつにすっか。」
そうして男子組も病室を出る。これから私がせっせと水を飲むにあたって起きることを察して、気をつかってくれたんだと思う。
勝手に部屋を占領した挙句、追い出してしまって本当に申し訳ない。今度、お礼に3人の好物作ってあげよう。
……いったぁっ!?
誓う、二度と縮むまで無茶な戦いしません!
※ ※ ※
「加山水穂、復活ッ!」
回復を手伝ってくれた一同の前で胸を張る。
いぇーい!元に戻れました、私!
成長期頃に戻った時は地獄だったけどね!今までの比にならないくらい伸びるから痛みも倍以上だったけどね!耐えましたよ、気合いで……
「水穂が輝いて見えるんだけど、私の目の錯覚?」
「なんかスーパーってつきそうな感じするよな。」
「実際、エネルギッシュには見える。」
「え……?」
何それ知らん、怖。せっかくみんなのおかげで復活できたのに、何故か喜ばれるより、奇異の目で見られてる気がするよ?どうして。
でも、自分だとよく分からないんだけど、本当にちょっと変っぽい。確かにいつもよりずっと調子が良くはある。こんなに絶好調だったことはないって程に絶好調。
「……これ、余剰分をストックしてんじゃねぇか?それこそ八百万みたいに。」
「なるほど、それはありえますわね。」
轟くんの一言に、八百万さんが気づいた顔をする。
「加山さんも何かを溜め込んで発動する個性だったのかもしれません。」
「あー、物間がそんなこと言ってた。でも、今までこんなこと出来なかったよ?」
「複雑な個性のようですから、溜め込むには意識的にやる必要があるのだと思います。維持に必須な補填がオートだったとすれば、気づかなかったのも当然かと。」
「はー、私の個性にそんな機能が。」
初めて聞きました。
とはいえ、これを活用すれば水炎転身の使用時間がかなり伸ばせそうだ。無限ってことはないだろうけど、ストックできるって事実はありがたい。応用次第じゃ、色々と使える手も増えそうだし。
「これは帰ったら応用法のアイデア出ししないとね。」