やはり俺がアイアンスーツを着るのは間違っている。 作:9ナイン9
現在の時系列はアイアンマン1です
土曜日、曇天の空。
アメリカから日本に帰国して、俺は真っ先に千葉にある動物霊園に来ている。
気づけば、俺は目的の墓の前で膝をかがめて静かに墓石へと語り掛ける。
「カマクラ……今まで来てやれなくて本当にごめんな…あの世でも図太くやってるか?聞いて驚けよカマクラ。自分で言うのもなんだが、俺は今やグローバルエリートになったぞ。あのトニー・スタークと仕事してるんだぞ?どうだ、凄いだろ?」
勿論、返事なんて帰って来ない。
・・・お前が家に来た時の事覚えてるか?最初の3ヶ月は全く俺に懐いてくれなかったよな
自分が醜く最低だと思い知らされるから日本に帰りたくなかったんだ。
・・・そう言えば、お前高1の時に俺の宿題をぐちゃぐちゃにしたよな
MIT二年の時に、小町からカマクラの容態悪化の知らせが届いた。
・・・奉仕部が自然消滅した後、お前と小町だけは寄り添ってくれたよな
でも俺は、辛い過去がある日本への帰国に踏ん切りがつかなかった。
・・・なぁ、何か言ってくれよカマクラ……
小町と両親は忙しいだろうから無理に帰国しなくていいと言ってくれた。
・・・葬式でお別れしてやれなくて本当にごめんな
その言葉に甘えて、俺はカマクラとのお別れに行かなかった。
懺悔の念だけが膨れ上がり、雨が降ったのか温かい水滴が頬を伝って流れる。
「これお供えしとくから気が向いたら食べてくれよな。一番高級なヤツだぞ」
生前カマクラが大好物だったメーカーの缶詰をお墓の前にお供えする。
「なぁカマクラ。イヤかもしれないけど定期的に来るわ」
俺は「またな」と言い、動物霊園を後にする。
少し歩いて車がある駐車場まで来て、車のドアを開けようしたが、ドアハンドルを握ったまま手が止まってしまった。
「次は実家に行くか……」
別に実家に問題を抱えている訳ではないがカマクラのお葬式の件もあって、俺が勝手に気まずさを感じてるだけだ。
気が乗らないままセダン型の社用車に乗り、実家へと車を走らせる。
今思えば丁度良かったのかもしれない。
スタークさんからの辞令でもない限り俺は日本に帰る事なんて無かったのかもしれないからな。
これから過去と向き合わなければならない場面が訪れるであろう。
もう、後ろ向きの屁理屈屋だったあの頃の捻くれた俺じゃない。
アメリカで色々経験して、多少の成長を経て大人になった自覚だってある。
むしろ成長したからこそスターク・インダストリーズ社の子会社のCEOになれたんだ。
もし、その時が来たら必ず過去の精算をしてやる。
俺なら出来る筈だ。頑張れ俺。過去に負けるな俺。
色々考えて前向きになったところで、半自動運転モードに設定してた車から「目的地に到着しました」と機械音声が鳴ったので車から降りる。
「……外壁の塗装が少し汚くなったか?」
久しぶりに見る実家は所々塗装が剝がれていた。
仕方ない、少しは親孝行するか。
スマホで塗装会社に仕事を依頼して、振込みを済ませる。
うん。我ながら非常にスマートである。
イヤ、スマートぶってはいるがインターホンを押すのに躊躇いがあるから謎の時間稼ぎをしてるだけだ。
「ふぅーはぁーふぅーはぁー」
呼吸を整えた俺は、意を決して実家のインターホンを押す。
インターホン越しから「今行きまーす!」と天使の声が聞こえてきた。
そして玄関の扉が開き…
「宅配あり…」
小町は何故か俺を見てフリーズする。
え、何この空気!?気まずい!
お前がフリーズするレベルとかどんだけだよ。俺っていつからそんな幻のポケモンみたいになったんだよ。
因みに、昔俺の事を指差してダークライだ!って叫んだクソガキは未だに許せない。
「よ、よぉ小町……」
そして、ぎこちなく挨拶する俺。
「お、おおおおお兄ぃぃいちゃぁぁぁぁああん!」
フリーズから再起動した小町が凄い勢いでタックルという名の熱いハグをかましてきた。
やはり俺の妹がいつまでも可愛い件について。
「苦しい、苦しいって小町!愛が重いって!」
「5年越しの感動のハグだよお兄ちゃん!あ、今の小町的にポイント高い!」
※「謎のポイント制続いてたのかよ。そろそろカンストだろ」
「お兄ちゃんが英語ペラペラ!?しかもカッコよくなってる!?」
おっと、イケないイケない。つい反射的に英語が出てきてしまった。
こんなに日本語を喋るなんて何年かぶりな気がする
それに、カッコよくなったかは知らんが、身だしなみに気を遣うようにはなった自覚ならある。
少なくても、ワックスやジェルは使うようになった。目だって腐りが取れて、以前より鋭くなったぞ。
「わりぃ、ついネイティブ英語が出た。で、上がっていいか?」
15年も住んでた実家を目の当たりにしながら、入っていいかって聞くのに凄く違和感があるが仕方ない。
「入って入って!お兄ちゃんの部屋は、ほぼ物置になっちゃったけど…アハハ」
「それは八幡的にポイント低いぞ……」
あわよくば泊まろうと思ったが、どうやら思惑が外れたようだ。
物置となった俺の部屋に、プリキュアのDVDBOXがある事を祈ろう…。
♢♢♢
多分、5年以上ぶりの実家。
意外と大して変わってないな。
変わったすれば、カマクラの存在か……。
「お兄ちゃん、ソファーでじっくりしててコーヒー入れるから」
言うなら早い方がいい。
薄情者のと言われる覚悟ならできてる。
「なぁ小町…カマクラの事なんだが…」
「お兄ちゃん…大丈夫だよ。お兄ちゃんを見てね分かっちゃったんだ。お兄ちゃん、カー君のお墓参りに行ったんでしょう?」
「っ!?何で……」
「だってお兄ちゃんのシャツの袖が濡れてるもん。あとね、お兄ちゃんが自分を責める必要なんて無いんだよ…だって…うぅ…カー君は…グスッ…」
色々思い出したのか、小町の感情が漏れ出していく。
「小町、キツイなら無理に話さなくても…」
小町は呼吸を整えて「大丈夫だから」と言い、話を再開する。
「カー君わね、最後お兄ちゃんのベットの上で幸せそうに息を引き取ったの。猫って死期を悟ると姿を消すか、落ち着く場所に行くって知ってた?なんだかんだカー君ってお兄ちゃんの事が大好きだったんだな~って思ったの。だから、カー君はお兄ちゃんの事を絶対に恨んでなんか無いよ」
カマクラの最後を聞いて、少し救われた気がした。
ただ、やはり最後ぐらいは日本に帰って一緒に居るべきだった。
この後悔は一生消える事は無いだろうな……
「カマクラ……なぁ小町、次は一緒に墓参りに行こうな。その方がカマクラもきっと喜ぶ」
「本当だよお兄ちゃん!小町に黙って一人で行くなんて、今までで一番ポイント低いからね?」
「本当に反省してる……」
「もういいよ。カー君に免じて許してあげる!」
ありがとうカマクラ。お前のお陰で小町が許してくれたよ。
それからは、今までの失った時間を取り戻す様に兄妹水入らずお互いのこれまでについて語り合った。
因みに両親は相変わらず社畜をやってるようで、今も出社中らしい。
「うそっ!お兄ちゃんがあの世界一の大富豪クソ野郎の会社で働いてるの!?超大企業じゃん!」
「小町ちゃん!?一応俺の上司だからクソ野郎とか言わないでね。メディア騒がせな人なのは認めるけどな」
それにしても流石は世界のトニー・スターク。
小町でも知ってるレベルの有名人だ。
覚えられ方がちょっとアレだけどな……。
俺とスタークさんのツーショットを小町に見せる。
「本当だ!お兄ちゃんとトニー・スタークが肩組んで一緒にMAXコーヒー飲んでるよ!」
「フフン。どうだ、凄いだろ?これで信じてくれたか?」
この写メを見せて俺って、スタークさんと仲良いんだけど飲み行く?って言えば大抵の女性は付いて来るのではないか?
まぁ、そんなナンパをする勇気なんて俺には無いけどな。
「お兄ちゃんがトニー・スタークの会社で働いてるのは分かったんだけど、何で帰って来たの?」
「あぁ、そう言えばまだ言ってなかったな。名刺渡しておくわ。見ればわかる」
俺は自慢気に鼻を小さく鳴らし、名刺入れから名刺を取り出し、小町に渡す。小町はまじまじと名刺を眺め、段々と手が震えていく。
本当なら親父にマンウントを取って、煽り散らかすつもりだったんだけどな。
「小町は眼科に行った方がいいのかな……お兄ちゃんの名刺にCEOって書いてあるように見えるんだけど…勤務地は丸の内だし…」
分かるぞ小町。
専業主夫になりたいとか、働いたら負けとかほざいてたヤツが久しぶりに会ったらCEOになってるんだ。自分の目を疑いたくなるのは当然だ。
小町よ、お兄ちゃんは未だに働いたら負けだと思ってるぞ。
「安心しろ小町、お前の目は正常だ。これはアレだ、アレ、グローバルエリートってやつだ。なんかあったらお兄ちゃんを頼れよ。養ってやるから」
「うわぁ…働いたら負けだとか言ってた骨なしチキン野郎のお兄ちゃんが出世とか、お赤飯炊かなきゃ!」
小町の赤飯は魅力的だが、兄としては大学生の妹に聞かなくてはならない事がある。先ずはソレを聞かなくてはな。
「てか、お前いま4年生だろ?就活は順調か?」
小町は、笑顔で俺に向かってピースサインをする。
「フフン、モーマンタイ!今のところ大手4社内定したよ!」
モーマンタイ?確か中国の広東語で問題無しって意味か。流石は小町。高いコミュニケーション能力で楽々と内定を勝ち取ったに違いない。
万が一に無い内定だったら裏ルートでウチに入れようと思ったが余計なお世話だったようだ。
高校の時にも感じたが、もうお兄ちゃん離れしてしまったようだ。
「それでも、俺は…お兄ちゃんでお兄ちゃんだからお兄ちゃんなんだ!」
「やっぱりお兄ちゃん大して変わってなかった!訳分からない事を言う所は相変わらずだね…」
「ふぅー、久しぶりに日本語で沢山喋った気がするな」
「ねぇ、お兄ちゃん…雪乃さんと結衣さんの事は聞かないんだね……」
小町は気まずそうに聞いてくる。
俺は無意識に聞かない様にしてたのかもしれないな…。
いや、過去と向き合うって決めたんだ。
ここで聞かないと、多分俺は一生聞かない気がする。
「小町、良ければ教えてくれないか?あの二人のその後を」
それからはただ、静かに小町が知ってる事を聞き続けた。
由比ヶ浜とはたまに連絡をとっているようで、色々と話してくれた。
由比ヶ浜は総武卒業後、有名な女子大に入って、大学の時に出来た彼氏と幸せに続いてるようだ。
今は大手のペット用品メーカーの企画部門にいるらしい。
そうか……彼氏と幸せなら良かった。
多分俺からは下手に絡まない方がいいだろうな。
だがもし、話す機会があるなら全力で土下座して謝罪しよう。
次に雪ノ下に関してはあんまり知らないようだ。
千葉大の工学部に入学してからは足取りを追えてないようだ。
まぁアイツは理由がないと人と定期的に連絡を取るようなタイプじゃないもんな……
あ、俺もだった。てへっ☆
「ねぇお兄ちゃん、結衣さんとならランチのセッティングぐらいは可能だけど…」
「いや、大丈夫だ。なんかのキッカケで会うならちゃんと話そうとは思うが、わざわざこっちから幸せライフを送ってる由比ヶ浜にチャチャを入れたくない」
「そっか…分かった!でも話す機会があったらちゃんと話すんだよ?お兄ちゃん。」
俺はただ一言「そうするよ」と言い、リビングのテレビを点けた。
「なぁっ?これは…アイアンマン……」
テレビを付けたらアイアンスーツを着たスタークさんが紛争地域を制圧してる映像が流れていた。
最後に会ってから4日は経っている。
4日間で世界情勢をほぼ安定に導いたらしい。
いや、4日で世界って変えられるモンなの!?
八幡ビックリだよ!
━━━だから変えるのよ、人ごとこの世界を!
ニュースを見てたらつい奉仕部に強制入部させられた時の事を思い出してしまった。
今になって思い出すとは、意外と未練タラタラだな俺は。
「アイアンマン?お兄ちゃんこの鋼鉄の人の事知ってるの?」
どうやら日本では鋼鉄の人って言われてるようだ。
「あぁ…アメリカでもちょっと話題になっててな…」
どうにか話しを誤魔化す。
あ、中の人は俺の上司っす、とか絶対に言えない。
「やっぱり世界的に有名なんだ!でもスーパーヒーローって本当にいるんだね。物語の中だけかと思ったからビックリだよ」
妹よ、世界的には意外とヤバい技術がわんさかあるぞ。
スタークさんに見せて貰ったデータベースには、人を怪物に変える技術とか普通にあったしな。
『緊急です。あの世界的に有名なトニー・スタークCEOが緊急記者会見を開きました』
なっ!?緊急記者会見!?いったい何が起きてるんだ……。
「あ!トニー・スタークだ!また女性トラブル?」
小町が騒ぎはじめたので、俺は「小町今だけ静かにしてくれ」と言い聞かせる。
真剣に記者会見を見ること数分、副社長のステイン氏が休暇中の事故で死んだと発表された。
事故とか絶対に噓だ。俺の予想だがスタークさんに返り討ちにされたに違いない。
そして、軍と話しを合わせて今回の事件を隠蔽。大方こんなシナリオだろ。
だが、聡い記者が「都合が良すぎる」と突っ込みを入れた事により記者会見会場はブーイングの嵐に包まれだした。
ブーブー騒ぐ記者達を前に、スタークさんは何かを覚悟したのか口を開いた。
※『真実は……私がアイアンマンだ』
マッ!? スタークさぁぁぁぁぁぁあん!? 何言っちゃってんの!?
マジっべーわー!! どんぐらいヤバいかって? 俺のキャラが戸部になるぐらいマジっべーわー!!
「アハハ……小町!お兄ちゃんは会社に用事を思い出したから行って来る!」
とりあえず急ぎで丸の内のオフィスにいくしかない。
今後の会社の方針とか親会社に聞く必要があるしな。
俺は急いで玄関まで行くが、小町に回り込まれてしまった。
「小町……」
「ねぇお兄ちゃん!危ない事とかしてないんだよね?トニー・スタークがアイアンマンなのは本当なの?お兄ちゃん知ってたの?」
とりあえずお得意の噓と本当を織り交ぜる手法を使おう。
「ニュースを見ただろ?危ない事は海の向こうのアメリカで起きてて日本は安全だ。俺も初耳だから会社に行って親会社に情報共有を要請すつもりだ。小町が心配するような事は絶対に起きない」
「ねぇお兄ちゃん、小町はもう家族が死ぬとか嫌だからね…?」
「小町、ここは安全な国ランキング3位の日本だぞ?アイアンマンみたいなヒーローが出てくるような事件自体起きない。約束する」
「……分かった。ワガママ言ってごめんね」
渋々といった様子だが、道を空けてくれる小町。
どうやらカマクラの死が思った以上に小町に影響を与えてたようだ。
今後は少し気を付けなきゃな。
「何言ってるんだ?小町のワガママなら何でもありだ。むしろワガママ推奨だ。ベンツでもBMでも買っちゃうぞ」
「車よりお兄ちゃんの命が大事だよ……あ、今の小町的にポイント高い!」
どうやら元気になってくれた様だ。ポイントのせいで俺の心境はちょっと複雑だけどな。
「じゃ小町、来週あたりまた来るからお袋達によろしく言っといてくれ。あとチャットで俺の一人暮らしの住所を送っておくから、たまには遊びに来てくれよ」
まだ小町と話したい事は沢山あるが、必要な事だけを言い残して俺は社用車に乗り込んで、キーを回してアクセルを踏み込む。
スタークさんはいったい何を考えているんだ……。ヒーロー事業でもやるのか?それとも自身を使った広告マーケティングか?
いや単純にヒーローとして生きる覚悟を決めた可能性が高いな。あの顔は覚悟を感じさせる顔だったからな。
本当、俺とは大違いだな。背負ってるモノの量と質が違い過ぎるってのはあるけど。
だが、一番心配なのは日本がこれからも安全とは限らないと言うことだ。
見えないだけで世界各国で問題は常に水面下で起きてる。日本が安全だなんて固定観念は捨てるべきだ。
こうして、俺はこれからの世界情勢に不安を抱きながら車を走らせるのであった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。