歩いて、歩いて、歩き続けて。
如何なる想像上の悪路も、今なら通れてしまいそうな最悪路を前進する。
最早その先に道は愚か、獣道や藪なんて物はない。眼前いっぱいに広がるは鮮やかな赤一色。目に悪すぎて逆に良い物だと感じてきたって訳でもねえやこう目を凝らして擬似モザイクってなんねえやクソが。
最早馴染んできた足に伝わる瑞々しく柔らかい感触と、壁伝いに脈動する肉壁をできる限り脳に介さないようにする。
そんなグロで喜ぶ性癖じゃあありませんから。
思考が独り言を際限なく呟く。それに反して、意識や直感は余す事なく全て状況分析にメモリを割り振っている。
そろそろ最奥部まで辿り着くはず。潜入初期の段階では、未だ人工物が半分以上を占めている内装だった。それが、今では完全に紅一色。
確か、設定上だと感染する形で広まっていたから、必然的に感染源に近くなれば影響は大きくなる。
完全に肉腫に取り込まれているといって間違いないだろう。
さて、後もう少しだ。俺がこの世界でやって来て、そんでもって叶えたい事がやっと叶うんだ。ここで立ち止まる訳にはアッ?!
壁の隙間から突如突き出て来た触手を、山勘だけで躱わす。
後少しで生首団子三兄弟出来てたわ!!次男も三男もいないけど!!
這い出て来たのは、何人もの手や足、耳や口などの人間の部位が飛び出ている赤黒いスライム。通称肉片スライムである。
スライムに馴染みのぷるぷるとした感触、どのRPGにもチュートリアルに出てくるマスコット的ポディションなんてものをかなぐり捨てた、ストロング肉団子スタイルでちびっ子たちを阿鼻叫喚に落とし込む。
エネミーエンカウント、状況を開始する。慣れ親しんだステップを刻む事で、緊張感を別の感覚に上書きする。自然と思考がクリアになり、身体全体に闘争心を働かせる。
肉片スライム、触手を軟質のムチに変形させた打撃攻撃に、硬質化させて刺突攻撃。図体の大きさを使った突進の3パターンが主。
素法使用はしなかった筈。言い切れないのは、相手が特異変質型だった場合の事である。その場合は、よくて腕一本残れば上々だろうな。それか身体丸ごと灰になるまで燃やされるかのどっちかだ。
敵性分析を済ませて行く。幸いな事に、相手のことならかなり精通している。というか、そうでなかったらこんなところに突撃なんかしていない。
肉片スライムが、触手をバネのような螺旋に形作る。刺突の予備動作に入ったようだ。
バネを押し潰す様に短く縮められた武器に注視し、回避の体制に移る。その傍ら、右手にフラッシュパンを持っておき、その後の対応に備える。
肉片スライムが刺突攻撃をする時、発射寸前に少し手前に武器を引いてから突き出す癖がある。そこに合わせて動けば・・・っとォ!!
紙一重で避ける。亜音速で突き抜ける触手は、風を突き抜ける音と共にすぐ近くを通って行く。スライムでこの威力はダメでしょ。
不発に終わったことを知るや否や、触手を引き戻し前のめりに重心をかける。
反動をつけてそのままのしかかりの予備動作に入る。
シメたーー
思うや否や、即座にピンを抜き後ろに飛び込む。内臓を揺らされるような振動と共に水の入った袋を落としたような音と、甲高い破裂音が鳴る。
耳を抑えてはいたが、間近での起爆の轟音には焼石に水らしく、聞こえる音を耳鳴りが覆い被せていた。まあ、鼓膜が破れるよりはマシと考えよう。
それに、影響を受けているのは俺だけじゃない。
肉片スライムの構造上の特徴は、幾つもの人間の部位をかき集めてごちゃ混ぜにした、肉団子スタイルのところにある。かき集めた部位を利用して、捕食や変形、移動や索敵などの行動や知覚全般を行なっている。
そう、人間としての部位の機能を使えているのだ。
であれば、複数の眼や耳を持ち合わせている存在である肉片スライムに、フラッシュパンを投げてみればどうなるか?
答えは如実に表した。
蠢きながら複数の口から獣のような潰れた音を漏らし、大きく形状を変えながら蠢く。悶え苦しむ様子も見られた。
これだけ大きい図体と体積、能力的にこちら側が大きく劣る中で生きていけたのは、奴らが人間を取り込んだが故に、人間としての弱点も模倣してしまったところにある。
耳は音を知覚するが、その音が大き過ぎれば壊される。眼は光を受け取る事で空間を認識することが出来るが、その光が強すぎるとその光に焼き落とされる。鼻は匂いを通して情報を分析する力を持つが、その匂いによって使えなくされる事がある。
この他にも人間が獲得した能力には、大いに生命活動を助けてくれる反面、裏表のコインのようにそれ故の弊害というものがある。
そして、それらを知り得ているのは、当然持ち主である人間様という事。こちとら伊達に10年以上もやってんだ、半年程度が舐めやがって。
目も見えず、頼れる聴覚も聞こえなくなった。であれば、必然的に次は嗅覚を使ってくる事になる。肉片スライムの表皮から肉腫に穴が開く。そこから熱風を吐き出し、その途端に吸引し始める。
表皮全体で行う吸引は人の幾倍にも及ぶ力量があり、人の微かな体臭をも遠くの距離からでも嗅ぎ取ることができるだろう。そうなれば、俺の位置など容易に割り出せる。そんでもって、さようならってなるだろう。そうなれば良かったんだろうけどさ。
手元には既に着火済みの球状の何かがあった。着火後から起動までを最短まで狭めた即席型に拵えた、あと数秒も経たずに起動するだろうそれを放り投げる。
起爆、赤色の粉塵が宙を舞う。その粉塵を残らず肉片スライムが吸引する。
肉片スライムは苦しみの獣声を上げ、伸ばした肉腫を地面にのたうち回らせていた。
辛子玉の効果、思ってた以上に覿面だったわ。
奴が吸ったのは粉末状にした唐辛子、それを球状に纏め上げて着火で拡がるように作った物。本来は人間相手に使う鎮圧兼護身用の道具として作ったのだが、ここまでバケモノが苦しんでいる所を見ると、人として果たして人間に使っていいものかと感じてしまう。
そんぐらいやらかしてる相手に使うなら、別にいいか。
コイツ、人としての心が無いんか?
さて、肉片スライムは見事知覚するための器官全てを潰されてしまい、やたらめったらに下手人を潰すべく肉腫を叩きつけている。見るからに明らかな隙だ、この後に取るべき行動は無論決まっている。
さて、逃げよ。
逃走一択である。
いや、追撃とかバケモノ相手に無理ですから。先ずアイツらの表皮だけでもレベルIVの防弾チョッキぐらいの防御性能ありますし、ちょっと抉っても直ぐ再生しますし。そもそも立て直されたら終わりですし。故に、逃走がベストチョイスであるべきなんですよ。
と、心の中で誰ということもない言い訳をしつつ逃走する。
そうやって、彼は前進を続けた。
*
あー、クソ。手持ち何も無くなっちゃったよ
今まで碌に戦わず、回避と逃走、隠密を繰り返していたが故、遂に彼の道具や武器は全て無くなった。いや、正確には帯刀しているショートブレードとサブマシンガンがある。とはいえ刃も立たず弾は跳ね返される為、哀れ唯のアクセサリーに早替わりしていた。
でも、何とか着いたか
その代償を払った甲斐はあり、ようやっと旅の目的地に辿り着いた。バケモノ相手に三途の川スレスレの逃亡劇を繰り返し続けたのにも意味があったと、そう思った。
さて、その先を行けば在るべきモノが見えてくる筈。そう、本来はあり得ない場所に寝転ぶ茶髪の少女、しかし世界的にはあって然るべき当然の因果が存在していた。
一歩一歩進んでいく。足取りが重たくなる。
それは決して肉腫で出来た床が歩きにくいからとかではない。この先に進めば進むほど、世界が歩む未来を変えてしまうという責任、感じることの無い重圧が質量を伴っているように感じる。
一歩、また一歩進んだ。足取りが重たくなる。
それは本当に世界の運命を改竄してしまった事による重圧と責任からなのだろうか。若しくは、その少女の歩むべき未来を変えることの責任を負いたくないからではないのだろうか?
一歩進んだ。足が急に軽くなった。
何故そんな事を考えたのだろうか、バカらしくなった。
世界の命運?そんなの知った事じゃない、お偉いさんたちと英雄願望の持った選ばれしものたちで勝手にやってろ。
少女への責任?上等だ、少なくとも正史の数十倍、いや数百倍は良い暮らしをさせてやろうじゃねえか。
この旅の目的は最初から決めていたんだ。
あの子達に覚悟をガンギマらせる事なく、平和に暮らしてほしいってな。
眠る少女に、目覚めの福音を
*
現代日本、数々のサブカルが過剰に発展したこの国にあるゲームが産まれ落ちた。
“reversed kingdom”
平和な王国に隠れた、裏の王国を二人の主人公達が其々旅をするというコンセプトのダークファンタジーである。
特徴として、銃火器や手榴弾などの近代的な武装や、高周波駆動ブレードや個人携帯型リニアガンといった近未来的武装などのSFチックな武器を用いてハイスピードな戦闘を行うアクション性の高さ。それ故に相手も同等の動きを行ってきたり、ギミック戦を用いてきたりといった難易度とリトライ性の高さ。主人公を含めた多くの人々が覚悟を決めているが故の、悲しくもどこか惹き寄せられるシナリオ。それら含めて、水準の高いアクションゲームといえるだろう。
一部敵の攻撃モーションに対する発生が早すぎたりするクソエネミー、ノーヒントでこんなとこに隠した奴を呪い◯したくなっちゃう程血眼で壁床天井ペロペロして探しまくった隠し部屋。
そういった製作陣の愉悦が伺えるようなクソポイントも少なからず存在する。その結果、全クリ出来なさすぎて別ゲーの森の妖精うんち集めに虚無顔で取り組んでいた敗北者もいる。
それ、別の苦行に移っただけでは?当時の自分は訝しんだ。
話しを戻そう、つまるところ批判される点も少なからず存在するが、それを含めて良いゲームだということだ。少なくとも、俺はそう思った。
プレイ時間100時間という最低ボーダーライン越えは無論、シナリオ周回も幾度も踏破してきた。実績解除もし終えている。
俺、最高にゲーマーしているんちゃうんか?当時の自分は訝しむことをしなかった。
そうして自己満の極みな生活を行っていて、それで・・・その直後はなんだったか?
少なくとも死ぬようなことはなっていない筈。いや、寝ている時に急性の何かが起こってショック死とかの可能性もあるか。いかんせんその時の経緯が思い出せないのだが、その何かしらがあって、気がついたらこのゲームの世界に転生していた。
ぶっちゃけ好きなゲームでは在るんだけど、転生したい程かって言われると首を即座に振るレベルなんだよなぁ。あ、横に振るほうね。
世界観的にはごく普通感あるけど、敵は総じてエゲツない位に強いし、元より舞台となる王国がその実かなり終わってる所あるんだよな。
ゲームだと中間地点からのリスポーンがあったけど、そこら辺が現実だとどうなるのか。それが無いってなると、実質縛りプレイでノーデスクリアしろって言っているのと同等だぞ、殺す気か(真顔)
そんな事を言っても、転生してしまった物は仕方ない。腹を括って大往生すべく抗わなければならないのは既定路線なのだから。この際だから、やるべき事やってやりまくってやる。
このゲームに対する愛を、覚悟に費やす覚悟をした。
示された道を歩み、敷かれた線路を斜め右に歩み、畑やら海やら宇宙の果てやらとんでもない方へ歩み、その末の何も記されなくなった地を歩いた。
そうした結果、どうなったかというと・・・
「えーと、この先5kmにルーダリア・・・連合都市ルーダリアっすよ、連合都市!!いやー、やっと到着したっすねぇ・・・、感慨深い」
「・・・老化した」
「誰がババァじゃゴルァ!!」
ーーいやそこまで言ってないだろ
「(無言の同意)」
「あ、いや、あんまり本気で言った訳じゃなくて、ええと、その」
「おもしろ」
「オーケー条約破棄からの戦争待ったなしって事でいいっすねその発言は、吐いた唾飲み込むんじゃないっすよ!!」
「上等」
ーーおーい、勝手にドンぱちするんじゃありませんわよ。それとキミ達、俺の傍から離れてくれないと、絶賛巻き込まれ事故が生まれる訳なんですが、そこの所どうにかしてくれませんこと?
「・・・(不動の構え)」
「・・・(鎮守の体制)」
ーーあっダメだこりゃ(諦観)
何がどうなってこう捻くれたのか判らないが、主人公二人と旅をしていた。
この小説は、なんかめんどくさくなってきたからそんな直さんでええやろっていう怠惰の提供でお送り致しました。