まどろみの向こう~メモリーズ―夏―    作:飛鳥 螢

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母親捜し

「えぇっ!? わ、わたしがあの子のママですか?」

 度重なるうしおの爆弾発言に大混乱していた全員が(ようや)く落ち着き、取り敢えずしっかりと渚に抱き付いていたうしおを引き剥がして椅子に座らせた。

 そして、部室の反対側の窓際に集まった全員を代表して杏が今までの経緯を話して貰った渚は、仰天して思わず声を張り上げた。

「し——っ、あの子に聞かれちゃうでしょ」

「す、すいません」

 杏に(たしな)められ、慌てて口に手を当てて渚は謝った。

「とにかく誤解だ」と、すかさず朋也が口を挟む。

「大体あの位の歳なら、ホントに親の名前知ってるかどうかも怪しいしな」

「わたしは知ってました。お父さん達名前で呼び合ってますから」

「おまえン()は特殊だ。子供の前じゃ、普通親はお互いパパママで呼び合うぞ」

「そうでしょうか……」

「ああ、そうなんだよ」

 そういう事にしておかないと、話が進まない。

 家族が特殊と言われてちょっと落ち込む渚に悪いと思いながら、朋也はきっぱりと言い切って話を続けた。

「だから、母親の名前はどうか分らないが、あいつが父親の名に俺を上げたのは、多分皆がよく俺の名を口にしてたからじゃないか」

「成程……」

 確かに言われてみれば、そうかもしれない。

「じゃあ、もしかしたら母親の名が『渚』って言うのも本当かどうか判らないわね」

 難しい表情をして杏は呟いた。

 これでは、何を手掛かりに母親を捜せばいいか分らない。

「あ、あの……」

 考え込む姉の横で、控え目に椋が声を上げた。

「うしおちゃん、何となく渚ちゃんに似ているような気がします」

「あの子が渚と?」

 思わず一人椅子に座って待っている幼い少女に視線を向けた後、一同は椋に視線を集中させた。

「え、えと、その、何となくですけど……」

 全員に注目されて、椋は自信なさそうな声で言った。

 それに、大きく頷いて杏が相槌を打つ。

「そうね、確かに髪の色とか目鼻なんかも似てるかも」

「わたしもそう思うの。さっき渚ちゃんとうしおちゃんが一緒に居た時、姉妹みたいに見えたもの」

 と、ことみも同意して頷いた。

 そこへ、春原がニヤッと笑みを浮かべて口を開いた。

「じゃあさ、やっぱりうしおちゃんは岡崎と渚ちゃんのこど——ぶべごっ」

 即行で朋也と杏が左右から春原の戯言(ざれごと)を拳と回し蹴りで黙らせ、何事もなく話を続けた。

「ってことはだ。あいつの母親は渚に似てるって事だ」

 だから、渚を見て母親と勘違いしたのだろう。

「これは有力な手掛かりになるぞ」

「じゃあ、渚に似た顔の学校関係者を当たればいいのね」

 (ようや)くアテができて、杏達は俄然張り切った。

「それと好きな物が『だんご大家族』ってのも重要なポイントだ」

「また随分とおかしな趣味持ってんのね……」

「わたし、早くお会いしてみたいです」

 何とも言えない顔をして呟いた杏に構わず、初めて得た同志に渚は目を輝かせた。

「でもまぁ、これ以上の手掛かりはないかもね」

 大人で未だに「だんご大家族」が好きなんて、きっと他にいないに違いない。

「ああ、だが母親が出て行ったのは、あいつが産まれてすぐって事だからな。少なくとも四、五年前の写真しかない筈だから、多少変わってる可能性もあるな。それに苗字もな」

 旧姓に戻している可能性が大きい。現に職員で岡崎の名は聞いた覚えがない。

「そうね。でも顔はそれ位ならそんなに変わってないわよ、きっと」

 朋也の懸念を一蹴して杏は言い放った。

「取り敢えず、行動あるのみよ」

「ああ、そうだな」

「じゃあ、ことみと椋は職員室に行って。あたしはこいつとそれ以外のとこ当たってみるわ」

 杏が顔面ボコボコになって床に転がっている春原を蹴り、妹達に指示を出す。

「俺と渚は?」

「あんた達はうしおちゃんに付いていてあげて。『だんご大家族』好きの渚似なんてそうそういないだろうから、捜すのはあたし達だけで十分よ」

 杏は親指立ててウインクすると、床に倒れている春原の襟首を掴んで部室の外に引き摺り出し、その後を追って椋とことみも部室から出て行った。

 後に残された朋也と渚は、うしおと共に大人しく朗報を待つことにした。

 

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