「ママ、だんご」
「はい、しおちゃん。だんご大家族です」
一面謎の物体だらけのポスターを前にして嬉しそうに言ううしおに、にこにこと渚が応えていた。
皆が出て行った後、渚は早速うしおと仲良くなり、二人で部室に積み上げられた謎の段ボール箱の中を覗いたりして遊び、今はそれに飽きたうしおが渚の描いただんご大家族のポスター、もとい、演劇部の部員募集ポスターを前に、だんご大家族について渚から色々と聞いていた。
「ママ、だんごっていっぱいいるの?」
「はい、しおちゃん。百人の大家族ですから、色んなだんごがいます」
うしおには渚は「ママ」でないと良く言い聞かせ、うしお自身も納得していたようだが、やはりママが恋しいのか、似ている渚をついママと呼んでしまっていた。
一方うしおの事情を知って渚は、ママと呼ばれても別段抵抗なく受け入れ、うしおの事を親しみを込めて「しおちゃん」と呼んでいた。
そして、時折うしおは何か言いたそうに朋也を見る事があったが、結局何も言えずに顔を伏せ、優しく声を掛けてくれる渚に嬉しそうに応えていた。
そんな二人の姿はほんわりとした空気を醸し出し、優しさと温かさに包まれていて見ていて微笑ましかった。
——こうして見ると、ほんと年の離れた姉妹みたいだな……
椅子に跨がり、背もたれに腕を乗せて頬杖ついてそれを見ていた朋也は、ぼんやりとそんな事を思い、それからうしおの母親の事を考えた。
——じきに杏達が戻ってくる。そうすれば、母親からあいつの父親が誰なのかはっきりするだろう。その時、俺は平静でいられるだろうか……
自信がなかった。散々「あんたなんか親だと思ってねぇっ」と言い続けてきたのに、いざとなったらこのザマだ。何とも情けない限りだった。
でも、これが家族の絆というものなのだろうか、渚の言うように、反発し、否定して、もう取り返しのつかない程壊れてしまっていても、心の何処かでは親父と繋がっていたのだろうか。だから親父が新しい家庭を持ち、自分と完全にそれが切れてしまうかもしれないと知って、俺はこんなにも動揺しているんだろうか……
よく、分らなかった。
大体親父の事を考えると、いつも自分は冷静でいられなくなる。だから今度の事も親父がらみだから、それで平静が保てないのだろう。
と、そう朋也は自分自身を納得させようとした。
そして、取り留めのない思考は、廊下から聞こえてきた複数の足音によって中断された。
「どうだった?」
渚とうしおの三人で杏達を出迎えた朋也は、浮かぬ顔の四人を見て眉を
「ダメ。色々当たってみたんだけどね」
ひらひらと手を振って、疲れたように杏が言った。
続いて他の面々も次々と口を開く。
「家を出て行ったって事ですので、旧姓に戻っている場合も考えて色々訊いてみたんですけど……」
「誰も、うしおちゃんのお母さんの事知らないっていうの」
「そうそう、所帯じみたおばちゃんだったり、ツンツンしたオールドミスみたいのばっかでさ」
はぁっと溜息をついて、春原は渚に目を向けた。
「渚ちゃん並みに若くて可愛い女性職員って、なかなかいないもんだよ」
「そ、そんな。わたし全然可愛くないですから」
「いやいや、そんな事ないよ」
と、顔を赤くして謙遜する渚の手を取り、春原は力説した。
「渚ちゃんくらい顔も性格も可愛い子っていな——ぐはっ」
「どさくさに紛れて人の彼女口説くんじゃねぇ」
問答無用で春原を殴り倒し、朋也は危険人物から遠ざけるように渚を自分の方に引き寄せて杏達を見た。
「じゃあ、もう帰ったか、それとも今日出勤してないとかは?」
「それも考えて、一応そういった人についても聞いてはみたんだけど、どうもそれらしい人はいないみたいなのよ」
「そうか……」
簡単に見つかると思っていただけに、予想外の展開に朋也は