この半年間、俺は渚や早苗さん達に支えられて無我夢中でがむしゃらに頑張った。
仕事に支障を
ただ一日でも早く渚と一緒に、淋しい想いをして待っていてくれる汐を迎えに行く為に。その為だけに俺は頑張った。
そして今日、最後の資格試験の合格通知を受け取り、俺は仕事で遅くなる渚に言われ、一足早く半年ぶりに古河家への敷居を
「けど、汐の奴、やっぱり何か様子が変だったような気がするんだけど………」
夕方会ってからの汐の過剰な反応を思い起こし、俺はぽつりと呟いた。
それに、早苗さんはぴくっと頬を引き
「それは、ずっと淋しいのを我慢してましたから、やっと迎えに来てくれて嬉しかったんじゃないでしょうか」
そう応えた早苗さんの笑みは、何となく何時もよりも精彩を欠き、歯切れも悪いように思えた。
なんか気になる。
「ええまぁ、それは分かるんだけど、渚はともかく俺なんか二日前に会ったばっかりだってのに、あいつまるでずっと会ってなかったみたいに俺の姿を見て驚いてたし」
「そうですね、わたしもしおちゃんに『ママのかみ、さなえさんみたいにながくなってる』って言われた時、ちょっと驚いてしまいました。半年でそんなに伸びたとは思ってなかったので」
「そうだよな、見た目全然変わってないよな」
「それは、その……」
首を捻る俺と渚に、早苗さんは頬に手を当て力ない笑みを浮かべながら口籠った。
「早苗さん、何か知ってんですか?」
さっきから汐の事を話す度に笑顔が引き
「お母さん、何か知っているなら教えて欲しいです」
渚も母親が怪しいと思ったのだろう。ずいっと身を乗り出して早苗さんに詰め寄る。
オッサンは自分は関係ないとばかり、
夫の癖に娘夫婦に詰問されてる妻を見捨てるなんて、すっげぇ薄情な奴だ。
だが、この場合オッサンが口を出してくるとややこしくなるのでむしろ有り難い。
「早苗さん」
「お母さん」
「——実は、ここで朋也さん達を待つよう、アパートに帰りたがる汐が納得できるような理由をあれこれ考えて言っている内に、話がちょっとおかしくなってしまって……」
物凄く気まずそうに早苗さんはそれについて話してくれた。
それを聞いて、俺と渚はあんぐりと開いた口が塞がらなかった。
「ってことはつまり、汐は自分が産まれた時、渚が遠くに行ってしまった所為でこの家に預けられ、俺はそれが原因で失意のどん底に陥り、独りあのアパートに暮らしていると思い込んでいるって事っすか?」
「ええ、その通りです」
紆余曲折を経て語り終わった早苗さんの話を要約して俺が確認すると、早苗さんは感心してポンっと手を打ち合わせてにっこりと頷いた。
——ぐわっ、それじゃあ、まるで俺は女房に逃げられ、自暴自棄に陥って育児放棄した甲斐性無しの父親って事になるじゃないか。
「早苗さん、それいくら何でも酷いっす」
「そうです、お母さん。わたしは朋也くんを置いて何処かに行くなんて絶対ないです」
と、渚は頬を膨らませてぷんすか怒った。
「それに、もしわたしがいなくても、朋也くんはちゃんとしおちゃんを自分の手で立派に育てると思います」
「渚………」
本当に心から信頼してくれる渚を俺は嬉しく思った。
ただ俺は渚が何処かへ行ってしまうなんて事考えられないから、もしそうなったら自分がどうなっているかなんて想像できないし、したくもなかった。