まどろみの向こう~メモリーズ―夏―    作:飛鳥 螢

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アルバムと真実

「にしても、早苗さん。なんで汐がそんな風に思うようになったんですか?」

 気を取り直して俺がその原因を訊くと、早苗さんは微苦笑して言った。

「アルバムです。朋也さんと渚の高校時代の」

「俺達の?」

 そういや、汐が昼寝していた蒲団の枕元にアルバムが広げてあったな。皆でやったクリスマスパーティーで春原が白髭つけてサンタクロースに仮装したヤツとか、渚の誕生日の写真なんかが貼ってある。

「はい、朋也さんはともかく、勤務時間の関係で汐は渚となかなか会えないので、せめて写真でもと思って家にあった高校時代の写真を見せたんですけど、渚は高校時代から全然変わってないものですから、今の姿と写真とが一緒になってしまったらしくて……」

「…………」

 確かに、この古河家の人間は出会ってから全然歳を取ってないように見える。早苗さんとオッサンは若くして結婚し、渚が産まれたと言っていたが、それでもとてもとても孫がいるような歳には断じて見えない。それくらい若く見える。

 そして渚に至っては一児の母には見えず、ともすると高校の制服着て学校に行っても、全然違和感無いんじゃないかと思う。

 妻は何時までも若々しい方がいいとよく言うが、それでも限度というものがある。そうじゃなくとも俺の方が一つ年下なのに、今では俺の方が年上に見えてしまう。

 そう、この家族で俺だけ歳取ってるようで、このまま皆変わらずに俺だけ老けてってなどと考えると、つい渚に老ける時も一緒だぞと言ってしまいそうになる自分がちょっと悲しい今日この頃だったりする。

「それで、朋也さんのように写真と違う渚の姿を見たことがないですから、汐は産まれてからずっと、渚には会った事がないと思ってしまったようなんです」

「で、早苗さんはそれに乗ってしまったと」

 幼いうちは認識力が弱く、そんな勘違いをしても不思議じゃないんだろうが、それの誤解を解くどころか、都合がいいからと利用するとは……

 頭が痛くなってきた。

 溜息をつく俺に、早苗さんは悪びれもせずに言った。

「はい、最初から渚がいないと思えば会いたいとは思いませんし、それが原因で朋也さんが渚似の汐を見るのが辛くて一緒に暮らせないと言えば、優しい子ですから自分からアパートに帰るような事はしないでしょうから。

 でも、ちゃんとここに居れば何時かきっと、パパが汐を迎えに来てくれる日が来ますよと言っておきましたので、大丈夫だったでしょう?」

「…………」

 得意げにそう訊かれても、俺達は素直に頷けなかった。

 何とも言えない複雑な表情(かお)をして、がっくりと肩を落とすことしかできなかった。

 しかし、これで汐の一連の変な行動の謎が解けた。

 汐は早苗さんによって、すっかり洗脳されてしまっていたのだ。

 母親は自分を産んですぐいなくなり、自分の家族は父親しかいないと。その父親も自分の辛い想いを克服できずに育児放棄してしまった、ろくでもない親父だという風に。

 でも、汐が会いに来ると俺が何時も辛そうな顔をするのは、俺ばかり汐に会うので渚に申し訳なく思っていたからで、顔を(そむ)けるのも、汐が上目遣いに何か言いたそうな恨めしそうな表情をしてるから、責められてるようで居たたまれなかっただけなのに。

 全部俺達の事を思ってのことだろうけど、恨みますよ、早苗さん……

 

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