「朋也、誰この子?」
眉根を寄せて、杏は朋也のシャツの裾を掴んで自分を見上げる幼い女の子を見た。
どうやら小さい上に杏達の姿を見た途端、うしおが朋也の後ろに隠れたので今まで気付かなかったらしい。
「さあ、俺にもよく分らん」
と、朋也は軽く肩を
「ボタン探してここいらの繁みを漁ってたら、そん中でこいつ眠りこけてたんだ」
「でも、結構あんたに懐いてるみたいじゃない」
「そうか?」
確かに今はシャツの裾をしっかり握ってくっついてるが、ついさっきまで自分を怖がって繁みの中に隠れてたくらいだ。とても懐いているとは思えなかった。
「まぁ、それはともかく、さっきこいつおまえのコト、杏
——世も末な事に……
「朋也、今なんか言った?」
「いや、別に何でもないです」
口の中で小さく呟いた声に耳聡く反応してくる杏に、朋也は慌てて首を横に振った。
それを
「この子どう見ても四、五歳位よね」
「ああ、多分な」
「それで先生っていうの知ってるって事は、この子幼稚園か保育所なんかに行ってるんだと思うわ」
そして、そこに自分に似た保育士がいて、それを自分と勘違いしているのかもしれない。認識力がまだしっかりしていない幼い子は、とかくそういう勘違いをしがちなものだ。
「ってことは、学校の通学路途中にあるあの幼稚園か?」
「おそらくね」
多分幼稚園を抜け出してここに来てしまったのだろう。それ以外にこんな小さな子がこの学校の校内に紛れ込むとはちょっと考えにくい。
「しゃーねぇな」
ハァっと溜息をついて、朋也はうしおの頭にぽんっと手を乗せた。
軽く眉を
「朋也、どうするの?」
「こいつ幼稚園まで送り届けてくる」
「でも、補習授業がまだ——」
と言った椋の声に、次の授業開始のチャイムが被さる。
それを聞き流しながら朋也は応えた。
「今頃幼稚園じゃ、こいつの姿が見えなくなって騒ぎになってる筈だ。早く連れ帰って安心させてやらねぇと、誘拐されたと勘違いして更に騒ぎがデカくなってたら事だろ」
「それもそうね」
「ま、最初に見つけた責任もあるからな」
と、杏の同意を得た朋也は、目の前で堂々と補習授業をサボろうとする同級生を、学級委員長として見逃していいものかどうか葛藤する椋に軽く片手を上げ、自分のシャツをしっかり握るうしおを連れて校舎ではなく校門へと向かった。