まどろみの向こう~メモリーズ―夏―    作:飛鳥 螢

4 / 24
うしおの処遇

「朋也、誰この子?」

 眉根を寄せて、杏は朋也のシャツの裾を掴んで自分を見上げる幼い女の子を見た。

 どうやら小さい上に杏達の姿を見た途端、うしおが朋也の後ろに隠れたので今まで気付かなかったらしい。

「さあ、俺にもよく分らん」

 と、朋也は軽く肩を(すく)めた。

「ボタン探してここいらの繁みを漁ってたら、そん中でこいつ眠りこけてたんだ」

「でも、結構あんたに懐いてるみたいじゃない」

「そうか?」

 確かに今はシャツの裾をしっかり握ってくっついてるが、ついさっきまで自分を怖がって繁みの中に隠れてたくらいだ。とても懐いているとは思えなかった。

「まぁ、それはともかく、さっきこいつおまえのコト、杏先生(・・)って言ったよな」

 ——世も末な事に……

「朋也、今なんか言った?」

「いや、別に何でもないです」

 口の中で小さく呟いた声に耳聡く反応してくる杏に、朋也は慌てて首を横に振った。

 それを胡乱(うろん)な目で見ながら杏は組んだ片方の手を顎に添え、小さな女の子を見ながら暫し考え込んでから口を開いた。

「この子どう見ても四、五歳位よね」

「ああ、多分な」

「それで先生っていうの知ってるって事は、この子幼稚園か保育所なんかに行ってるんだと思うわ」

 そして、そこに自分に似た保育士がいて、それを自分と勘違いしているのかもしれない。認識力がまだしっかりしていない幼い子は、とかくそういう勘違いをしがちなものだ。

「ってことは、学校の通学路途中にあるあの幼稚園か?」

「おそらくね」

 多分幼稚園を抜け出してここに来てしまったのだろう。それ以外にこんな小さな子がこの学校の校内に紛れ込むとはちょっと考えにくい。

「しゃーねぇな」

 ハァっと溜息をついて、朋也はうしおの頭にぽんっと手を乗せた。

 軽く眉を(ひそ)めて杏が朋也を見る。

「朋也、どうするの?」

「こいつ幼稚園まで送り届けてくる」

「でも、補習授業がまだ——」

 と言った椋の声に、次の授業開始のチャイムが被さる。

 それを聞き流しながら朋也は応えた。

「今頃幼稚園じゃ、こいつの姿が見えなくなって騒ぎになってる筈だ。早く連れ帰って安心させてやらねぇと、誘拐されたと勘違いして更に騒ぎがデカくなってたら事だろ」

「それもそうね」

「ま、最初に見つけた責任もあるからな」

 と、杏の同意を得た朋也は、目の前で堂々と補習授業をサボろうとする同級生を、学級委員長として見逃していいものかどうか葛藤する椋に軽く片手を上げ、自分のシャツをしっかり握るうしおを連れて校舎ではなく校門へと向かった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。