高校へと続く長い坂道の下、固く閉じられた幼稚園の門の前で、朋也はうしおを連れて茫然と突っ立っていた。
補習授業で何時も通りに学校に通っていたのでうっかりしていたが、今は夏休みだ。当然幼稚園も夏休みで、開いてる筈がなかった。
「まいったな……」
それ以外朋也に言いようがなかった。
嘆息し、どことなく不安そうな
——後俺にできることといえば、警察に連れて行くくらいか……
それでも念の為、朋也はうしおに訊いてみた。
「おまえ、自分の家どこだか判るか?」
幼稚園からの脱走ではないのなら、おそらくこの近所に住んでいる子供だろう。子供の足で遠方から来るのはまず無理だ。
「おうち?」
「そうだ、おまえの家。判るだろ?」
「うん」
うしおは朋也のシャツの裾を握ったまま、コクリと小さく頷いた。
「じゃ、送っていくから帰るか」
そう朋也は言うと、うしおはふるふると首を横に振った。
「……かえらない」
「何でだよ」
怪訝そうに朋也が問い掛けると、うしおは
「——ママにあいたい……」
「ママ?」
「うん」
口を引き結び、小さくうしおは頷いた。
どうやら母親を捜して迷子になり、あんな所まで来てしまったらしい。
「おまえのママ、出掛けてるのか?」
「…——うん……」
「だったら、今頃もう家に戻ってるかもしれないぞ。そして、おまえがいないのに驚いて捜してるかもな」
その言葉に、一瞬ぎゅっと掴んだ裾を強く握りしめたうしおは、小さな声で自分の想いを口にした。
「……ママにあいたい」
同じ言葉を繰り返す幼い少女を、朋也は呆れて見返した。
「だから、家に帰ろうって言ってるだろ。おまえのママはもう家に帰ってるって」
「ううん、ママかえってない。ずっとおうちにいないから」
「だから、うしおがママにあいにいく」
「………………」
たどたどしい言葉と決意の籠もった強い意志を宿した
これだけでは詳しい事情は判らないが、どうもただ単に母親が出掛けて家を留守にしているという訳ではなさそうだ。
「そっか……」
——これも乗りかかった船だ。
「じゃあ、おまえのママは今何処に居るか判るか?」
「……あっち」
そう言って、うしおが指差したのは長い長い坂道だった。朋也達が通う光坂高校へと続く。