まどろみの向こう~メモリーズ―夏―    作:飛鳥 螢

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ヘンなサンタ

 目の前に、蒲団から脱ぎ出てだらしなく大口を開けて惰眠を(むさぼ)っている春原がいた。

 それを見るなり、うしおが開口一番に言った。

「ヘンなサンタ」

「サンタ?」

 ——また随分と季節外れな……

 だがうしおは、確信を持って自信たっぷりに繰り返した。

「うん、ヘンなサンタ」

「………」

 確かに「ヘン」という部分は文句なしに大賛成だ。だが春原が「サンタ」と言うのは季節外れ以上に合ってないと思う。

 いや、こいつ普段金髪なんて言ってるが、単に髪を脱色してるだけだから、むしろ白髪と言った方が正しいのかもしれない。そういう意味では白髪の老人が一般的なサンタと似てると言えるか。

 ——童顔だとばかり思ってたのに、実はおまえ老け顔だったんだな……

 幼い少女の一言で、十代から一気に七十代にまで老けてしまった悪友に心からの憐れみをかけ、朋也はおもむろにテーブルの上に置いてあった飲みかけの炭酸ジュースのペットボトルを手に取った。

 それは既に炭酸が抜けて生温(なまぬる)く、とても飲む気にはなれない代物だった。

 ——ただ捨てるのも勿体ないからな。それならあのヨダレを垂らして開いてる口にこれを突っ込んで飲ませれば、処分もできて春原も目を()ますかもしれない。まさに一石二鳥というわけだ。

 と、何時もの朋也ならその考えをすぐに実行するのだが、今は一人じゃなくうしおが居た。

 本当はここに立ち寄るつもりは無かったのだが、また学校に戻る為に坂道を登り始めてすぐ、うしおが暑さでフラフラしているのに気付いた朋也は、学校に戻る前に少し休ませて水分補給をさせてやろうと思ったものの、適当な所はここしか思い付かなかったのだ。

 さっきの思い付きを実行した場合、春原がどのような醜態を(さら)すか想像した朋也は、それをうしおに見せては精神衛生上良くないと考え、次善策を検討してそれを実行した。

 部屋の隅に丸められている衣類の中から、まだ使えそうなタオルを一枚引っ張りだし、その上に数枚のティッシュペーパーを綺麗に重ね合わせ、そこにジュースを垂らして湿らせる。

 そして、濡れたティッシュペーパーが春原の顔面に張り付くようにそっとタオルを乗せると、朋也は左手にしている腕時計の脇ボタンに右手の指を添えて待った。

「うっ……」

 呻き声を上げ、すぐにビクッと春原の体が痙攣(けいれん)するように(うごめ)いた。

 だが、起き上がる気配はない。

 ——根性あるな……

 腕時計を構えたまま、朋也はじっとその様子を見ていた。

 うしおも何が何だが判らないまま、顔に濡れタオルを置いたヘンなサンタを見ている。

「うぅっ……」

 ビクッ、ビクビクッ……

 と、春原は低い呻き声を上げながら、気持ち悪く全身を小刻みに震わせ、段々その動きを激しくしていく。

 そして——

「ぶはっっ」

 顔面に張り付いた濡れティッシュ付きタオルを引き剥がし、真っ赤な顔をした春原は(あえ)ぐように肩で荒い息をして慌てて酸素補給した。

「よう、春原。起きたか?」

「窒息するわっっ」

 腕時計の脇ボタンを押して何事も無く朋也が挨拶すると、憤然と春原は噛み付いた。

 




 ※「春原」の「ヘンなサンタ」説
 汐が見ていた両親のアルバムの写真の中に、クリスマスでサンタクロースに扮した春原が写っているのを見た所為です。
 汐にはそれが変なサンタに見えたらしい。
 決して春原の顔が老けているという訳ではありません。
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