まどろみの向こう~メモリーズ―夏―    作:飛鳥 螢

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演劇部部室

 春原の持ってきた冷えたジュースを飲ませ、少し休んでうしおの顔色が良くなったのを見て、朋也は春原を加えて三人で学校へと戻った。

 だが、夏休みと言っても補習を受ける三年生の他に、部活で学校に来ている一、二年生も大勢いた。

 そんな中、不良のレッテルを貼られている自分達が小さな女の子を連れて学校の中をうろうろするのは、流石に目立ち過ぎて色々と都合が悪い。それに人手も欲しかった。

 そこで杏達が補習授業を終えるまで、取り敢えず三人は旧校舎三階奥にある演劇部の部室でヒマを潰す事にした。

 部室の中は多少整理はしたものの、まだ良く訳の分らないモノが詰め込まれた段ボール箱が部屋の隅に乱雑に積み上げられていた。

 うしおは物珍しいのか、その中を覗き込んだりしてうろちょろしている。

「おい、うしお。あんまりそこら辺いじるなよ。崩れてきたら危ないからな」

「岡崎、すっかりお父さんだねぇ」

「馬鹿、んなんじゃねぇよ」

 茶化す春原を朋也は睨み付けた。

 ここに来るまでに春原には今までの経緯は話してあった。うしおの苗字が「岡崎」だという一点だけを除いて。

 そして、うしおを心配するのは、自分が見つけた手前、この小さな女の子に対して責任があるからだと。間違っても異母妹かもしれないからではない。

「……だんご」

 何か見つけたのか、不意にうしおが弾んだ声を上げた。

 見ると、手に大きめの紙のような物を持っている。

 近寄ってみると、それは以前演劇部員を集める為に渚が書いたポスターだった。

 ただそのポスターは、一面大小の楕円形の珍生物で埋め尽くされていた。朋也が文字だけでは物足りないと言ったのに対し、渚が趣味で描いた「だんご大家族」である。

「おまえ、これが『だんご』だって判るのか?」

 だんご——だんご大家族は一時期ブームになったものの、今はもう(すた)れて見る影も無い。生まれる前に流行ったそれを知っているとは。なんともマニアックな女の子である。

「うん」と、嬉しそうにコクリとうしおは頷いた。

「ママがだいすきだったから」

「………」

 子供ならまだしも、未だにだんご大家族が大好きな大人がいるとは……

 ——こいつの母親って、一体どんな女性(ひと)なんだ?

 何となく会うのが怖いような気がして思わず朋也は春原と顔を見合わせた。

 その耳にチャイムの軽やかな音が聞こえてきた。

 やっと今日の補習授業が終わったのだ。

 そして、程なくして藤林姉妹に一ノ瀬ことみが演劇部の部室にやって来た。

「陽平、なんであんたが居んのよ」

 入るなり、春原を見た杏が目を(すが)めて心底嫌そうに言った。

 その横で、ことみが朋也に向かって深々とお辞儀をする。

「朋也くん、こんにちはなの」

「ああ、ことみ。こんにちは」

 何処までもマイペースなことみに苦笑して朋也が応える傍らで、春原が杏に憤然と文句を返す。

「僕が居ちゃ悪いんですかっ」

「当たり前じゃない。居たって全然役に立たないし、ヘタレだし、——あら?」

 と、完全に強者の当然の権利とばかり春原を見下して言い募る杏は、朋也の後ろに隠れるようにしている幼い女の子に気付いて声を上げた。

 その声に一瞬怪訝な顔になった椋とことみもすぐにその存在に気付き、目を丸めた。

 

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