VORX乗りの少女@内地で平穏に暮らしたい   作:畑渚

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8.閑話〜ある少女の一生〜

◆xx年3月

 

 

 忌々しいその日に、私は生まれた。

 

 外は3度目の停戦協定締結によって大騒ぎ。方や私の母は、私を産むと同時に危篤状態に。

 

 医師たちの必死の延命措置により、母親はなんとか生きている状態を保つことができた。

 

「ごめんね、✕✕。こんな状態で」

 

 幼い私にとって、母親が延命カプセルの中から機械を通して話しかけてくることが普通というものだった。

 延命カプセルの外では数時間と持たない、そんな儚い命。しかし生かされ続けるのにも理由があった。

 

「英雄のあなた様に……」

 

「かの英雄に……」

 

「英雄。負け無しの騎士……」

 

 詳しい話は覚えていない。しかし、母が以前はVORX乗りであり、私の生まれた日に締結された停戦協定の立役者であるらしかった。

 母のおかげでこの王国はまだ存続できている。そんな話を高価な服を着たおじいさんおばあさんたちがしていくのを、母の隣で聞きつづけていた。

 

 

 英雄。それは誉れある呼ばれ方のはずだ。

 

 

 だというのになぜ私の母は……

 そう呼ばれるたびに苦い顔をするのだろうか

 

 

○☓△□

 

 

 英雄の娘である私が騎士学校に進むのは、いわば用意されたレールであった。特段そのレールに不満はなかったし、無駄に逆らう気もなかったから私はその道を進んだ。

 

 しかし、そんな気の抜けた学生生活で身についたものはなく。成績は中の下。英雄の娘というレッテルが剥がれることはなかったが、一部では養子だとか言われていたほどには才能がなかった。

 

「本当にこの進路でいいのか?」

 

「ええ、特に不満はありません」

 

 私は地方の銀行に就職した。もうVORXも母親も、英雄の娘というレッテルもうんざりだった。

 

 

○☓△□

 

 

 ある日、いつもの業務を終えて早めに帰り支度をしていたときだった。

 

「す、すまない!まだ営業時間かな」

 

 ある一人の男が駆け込んできた。ちらりと時計を見れば、まだ5分ほどある。

 

「どうぞカウンターへ。すぐに向かいます」

 

 片付けの手を止め、服装を整える。よし、問題ない。

 

「お待たせいたしました。ご用件は?」

 

「……キレイだ」

 

「……はい?」

 

「す、すまない!忘れてくれ!そうだ、これを貸金庫に預けたいんだが!」

 

 男はまだ若々しく、歳は私より少し上くらい。そして顔もなかなかのものがあった。上質なコートに整ったスーツ。良いお相手もいるようで、左手の薬指は満席のようだ。

 

「わかりました」

 

 この仕事の良いことは、客の個人情報を見れることだ。氏名住所年齢。連絡先。そして職場、配偶者についても……。

 もちろんそれを誰かに漏らすマネはしないが。

 

 

 言わば、私もまだ若かった。

 

 

 一度付いた火たちは、互いに高め合い、そして1つに融合した。

 

 

○☓△□

 

 

 運命の人は実は軍人でした。もちろん最初に出会ったときにすでに知ってしまったことだから驚きもしない。

 

 彼は次なる大戦のVORX乗りとして育成中の軍人らしい。彼は第三次停戦の『英雄』に憧れているらしく、軍部しか知らないような戦闘ログの内容を子供のように話してくれた。

 

 

曰く、「フェイントを織り交ぜた速くも繊細な槍さばきと固定観念に縛られないラウンドシールド、そして両肩からは翼のように飛び出すミサイルたち」と。

 

 

「天使様みたいだね。地獄の」

 

「何だそれ。ああでも、敵からしたらそうかもしれないな」

 

 彼もとっくに、私の母が、件の英雄というところを知っているようだった。だからといって私たちの関係は変わることはなかった。

 

 

○☓△□

 

 

 ある日を堺に、彼が英雄の話をしなくなった。日に日に帰る時間も遅くなり、しかしその分手土産が増えた。

 

 最初は浮気を疑ったが、女の匂いはしなかった。ある日隠れて彼を尾行してみたが、本当にただカフェで時間を潰しているだけだった。しかし、明らかにため息が増えていた。

 

「何を隠してるの」

 

「え?いや何も」

 

「嘘。君は嘘つくときいつも左手がピクピク動くよね」

 

「……。すまない、言えない」

 

「どうして?」

 

「軍機なんだ……」

 

 私を信用しているものの、それでも良心がせめぎ合っていたようだ。そんなことで悩まないで欲しい。

 

「不安にさせないでよね」

 

「ごめん……」

 

 その日の夜は、いつも以上に暑かった。

 

 

○☓△□

 

 

 この王国に流行り病が発生して数カ月後。私と彼は離れ離れの生活にならざるを得なかった。

 寂しいかと言われればそうだが、しかし、仕方のないことだと理解していた。

 

「お届けものです」

 

 そんなある日。郵便局員ではない者が、1枚の封筒を手渡してきた。

 

 それは外部記憶装置だった。中を見ろとのことらしい。開けば音声データだ。

 

『はぁ、はぁ。くそっブースターまで逝かれやがった』

 

 それは紛れもなく彼の声だ。

 

『ザザッ……言い残すことは……ザザッ』

 

『情けのつもりか?クソ……。なぁ◆◆』

 

 久しぶりに聞く彼が私を呼ぶ声。

 

『俺がお前に手渡した物は全てお前のものにしていい。だから……囚われるなよ』

 

『ザザッ……もういいかな……ザザッ』

 

『まだ負けてねぇぞ!白翼!!!』

 

 彼のまともな声を聞けたのはこれが最後だ。あとは荒い息。そして機体のアラート音が鳴り響き、そして一際大きな音のあとに静寂に包まれた。

 

「あ、あの……」

 

「彼は、私の上司にあたる人でした」

 

「そう……ですか……」

 

 彼が死んだ。しかし、意外にもその瞬間にはそれほどショックを受けなかった。

 

「そして、もう1件。彼がここの銀行に預けていた書類を取りに来ました」

 

「は、はい」

 

 貸金庫室に入り、彼の番号を探す。

 

『俺がお前に手渡したもの』

 

 ふと先程の音声とともに、過去彼がこの書類を私に『手渡してきた』ことを思い出す。

 

 彼はこういう謎掛けのような遊びが好きだった。私は迷わず、彼の貸金庫の中身を開いた。

 

「おまたせしました」

 

「書類は以上ですか?」

 

「ええ。もちろん」

 

「ありがとうございます。もし何かありましたら私の方まで」

 

「ご親切にどうも」

 

 彼の部下が完全に見えなくなってから、私は隠し持ったファイルを手に取る。

 

『英雄■■の戦闘分析結果に基づく、英雄の正体についてのご報告』

 

 彼の帰りが遅くなった頃の日付のついた書類で、私は全てを知った。

 

 

 私の母は英雄ではなく

 彼は英雄を騙る誰かに憧れていた

 

 

○☓△□

 

 

「ねぇ、本当にこのポイントに来るの?」

 

『ああ』

 

 僚機の相手は寡黙なようで、コミュニケーションというものを知らないようだ。

 

「どうして私に協力を?」

 

『違う。お前が俺たちに協力しているんだ』

 

「どうして?」

 

『……お前は知らないかもしれないが、白翼を恨んでる人間はそう少なくない』

 

 そういうものらしかった。私は手持ち無沙汰になって、機体の装備チェックを始める。

 

 両肩には別の兵器に似せた特殊迷彩装置、これで森の中に完全に潜める。そして盾と槍。結局扱えるのはこの両手の武器だけだった。

 

『来たぞ……』

 

 ゴクリとつばを飲み込む。確かに上空を2機のVORXが駆けていく。

 

『作戦開始』

 

「了解」

 

 僚機のはなったビームを咄嗟に避ける2機。すぐに迎撃に向かってくる。

 

 不意打ちというものは本当に不意を打てなければ意味がない。レーダーや視覚情報に映らない私は、初撃をギリギリまでためて撃つ必要がある。

 

 当たれば装甲ごと貫く必殺の槍。物理武器の利点を最大限に活かす瞬間を見極める。

 降りてきた機体は、僚機に向かってくるブーストを再点火した。

 

「……いま!」

 

 教科書に載せたいくらいの完璧なタイミング。

 しかし、宙を切った。

 

「なっ!」

 

 見切られていた?視覚聴覚センサー類全部情報はなかったはずなのに。

 

 通信機が不調になり僚機への連絡も取れない。

 

 勝てるのか、この私に

 

 やるしかない

 

 私は騎士学校時代を思い出し、盾を構える。

 覚悟を決めるしかなかった。

 

 

○☓△□

 

 

 突く。突く。ただひたすらに。避けられても構わない。相手に武器を構える隙すら与えないように、ひたすらに突きを繰り返す。

 私には小手先のテクニックなんてないし、武装も酷いものだ。しかし、この方法ならば時間を稼ぐことはできる。

 

 武器を構えさせないという目標こそ達成できているものの、敵機には簡単に避けられてしまう。

 

 考えるな、集中しろ。目の前の敵に全集中しろ。

 

 右、左。左を庇う動きにさらに左。次は右……

 

 

「あれ……?」

 

 突然右手の動作が軽くなった。

 

 いや、重量的に軽くなっている。私の振るっていた槍は、今はもはや敵の武器だ。

 

「っ!?右腕破損!?一撃で!?」

 

 見切れなかった。攻撃されたことに、ダメージアラート音で気が付いた。

 

「左腕も!?に、逃げないと」

 

 脚のブーストは、そのときには既に破壊されていた。

 

 

 ああ。私もそっちに行くよ。

 

 

 迫る槍先に、私は目を瞑った。

 

 

○☓△□

 

 

「記憶の方は」

 

「ダメねグチャグチャよ」

 

「支障をきたさないのなら良い。一個前の失敗作は肉壁にすらならなかった」

 

「そこに関しては問題ないわ。多少性格に難が出るかもしれないけれど」

 

「よし、始めろ」

 

===

 

 

起動信号受信

 

覚醒プログラムチェック……確認

身体接続……正常

起動モード……通常

マネジメントシステムチェック……完了

 

起動します……

 

プロセス3〜375起動

起動確認……完了

身体維持プロセス独立……開始

プロセス監視システム……確認

 

各部通電正常

アクチュエータチェック……胴体

アクチュエータチェック……右腕

アクチュエータチェック……左腕

アクチュエータチェック……左脚

アクチュエータチェック……右脚

アクチュエータチェック……完了

 

 

意識覚醒シークエンス……開始

記憶読込……失敗

再試行……失敗

再試行……失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗失敗

 

 

記憶読込エラー……初期化を試行

初期開始……エラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラー

 

記憶メモリに損傷があります

損傷

損傷ます

ありメモリ記憶…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………記憶読込成功。

 

ナンバーA-33覚醒します。

 

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