西暦20XX年、9月。
日本、東京――新宿駅。
山手線ホームには、仕事帰りの人々が絶え間なく行き交っていた。
その中に、一人の男がいた。
年齢は三十代前半。
少しくたびれたスーツ姿で、片手には通勤カバン。
もう片方の手にはスマートフォン。
「暑いな……9月だっていうのに」
彼は小さく息を吐いた。
今日も残業。
明日も仕事。
特別な予定などない。
そんな日々の中で、彼にとって数少ない楽しみがあった。
帰りの電車で、配信サービスに入っているアニメを見ること。
最近は『リコリス・リコイル』にすっかりはまっていた。
「千束、やっぱりかっこいいな……」
スマホの画面を見ながら、彼は小さく笑う。
その時だった。
「……あれ?」
急に視界が揺れた。
耳の奥で音が遠くなる。
足元の感覚が薄れていく。
「まずい……」
そう思った瞬間、体が前に傾いた。
周囲の誰かが叫ぶ。
ホームに悲鳴が広がる。
だが、彼の意識はそこで途切れた。
---
「……ん?」
彼が次に目を開けた時、そこは新宿駅ではなかった。
どこまでも暗い空間。
上も下も分からない。
足元に地面があるのかすら怪しい。
「どこだよ、ここ……」
思わず声が漏れる。
「うっさいな~」
突然、背後から声がした。
振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
白い服をまとった、どこか神秘的な雰囲気の女性。
だが、その表情は妙に気楽そうだった。
「だ、誰だ?」
「私? 神です」
「……神?」
彼は思わず固まった。
神。
もっとこう、白いひげを生やした老人のような姿を想像していた。
「ちなみに、そういう神様もいますよ」
「えっ」
「あなたの心の声、聞こえてますから」
「マジか……」
彼は慌てて口を閉じた。
いや、口を閉じても心の声が聞こえるなら意味がない。
「それで、ですね」
神を名乗る女性は、さらっと告げた。
「あなたは今日、死にました」
「……は?」
あまりにあっさりした言い方だった。
「いやいやいや、そんな天気予報みたいに言われても困るんだけど!?」
「でも事実です」
「事実でも言い方ってものがあるだろ!」
彼が叫ぶと、神は少しだけ申し訳なさそうに目をそらした。
「本来、あなたは死ぬ予定ではありませんでした」
「……予定では?」
「はい。ですが、いくつかの偶然が重なり、結果として命を落としてしまいました」
彼は言葉を失った。
死んだ。
もう元の世界には戻れない。
その現実が、少しずつ胸に重くのしかかる。
「そこで、私から提案があります」
「提案?」
「元の世界で生き返らせることはできません。ですが、お詫びとして、別の世界で第二の人生を送ることができます」
「別の世界って……」
「あなたにとって、少しだけ見覚えのある世界です」
その言葉に、彼は嫌な予感と期待が同時に湧き上がるのを感じた。
「ちょっと待て。心の準備が――」
「では、いってらっしゃーい」
「軽いな、おい!」
次の瞬間、彼の足元に穴が開いた。
「そりゃないだろぉぉぉぉ!」
叫び声を残して、彼の体は闇の中へ落ちていった。
穴が閉じる。
神はしばらくその場を見つめていた。
「あっ」
そして、ぽんと手を打つ。
「あっちの世界での設定、詳しく説明してなかった」
少し考えてから、神は笑った。
「まあ、手紙でいいか」
そう言って、彼女の姿も闇の中へ消えていった。
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「……う、ん」
彼はゆっくりと目を開けた。
そこは、暗い空間ではなかった。
もちろん、新宿駅のホームでもない。
見知らぬアパートの一室だった。
小さなリビング。
簡素なテーブル。
壁際には本棚とテレビ。
生活感はあるが、どこか新品のようにも見える。
「本当に……転生したのか?」
彼は立ち上がり、慌てて洗面所へ向かった。
鏡を見て、息を呑む。
そこに映っていたのは、前世の自分ではなかった。
若い。
二十代前半ほどの顔。
体も軽い。
「うそだろ……本当に若返ってる」
しばらく鏡を見つめた後、彼はリビングへ戻った。
テーブルの上には、一通の手紙が置かれていた。
封筒には、丸い文字でこう書かれている。
『転生おめでとうございます』
「軽いな……」
彼は封筒を開け、手紙を読み始めた。
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無事に転生できたようですね。
まずは、おめでとうございます。
急に送り出してしまってごめんなさい。
あなたが転生したこの世界は、あなたの知っている日本とは少し違います。
表向きは平和です。
ですが、その裏では多くの事件が起きています。
テロ。
武装事件。
そして、それを人知れず処理する存在。
詳しいことは、あなた自身の目で確かめてください。
身を守るための装備を用意しました。
ただし、これは人を殺すためのものではありません。
どうか、あなたの力を間違った方向に使わないでください。
それでは、第二の人生を楽しんでください。
追伸。
腕時計はただの腕時計ではありません。
使い方は、そのうち分かります。
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「……おいおい」
彼は手紙を置いた。
ちょうどその時、部屋のテレビが勝手についた。
画面にはニュース番組が映っている。
『本日未明、都内で発生した爆発事件について、警察は事故の可能性が高いと発表しました』
アナウンサーは淡々と読み上げている。
だが、映像には不自然なほど整えられた現場が映っていた。
「事故……?」
彼は画面を見つめた。
胸の奥がざわつく。
リコリス・リコイル。
平和な日本。
だが、その裏側で動く少女たち。
「まさか……本当に、あの世界なのか?」
彼はテーブルの上に視線を移した。
そこには黒いケースが置かれていた。
ゆっくりと開ける。
中には、丁寧に整備された拳銃が二丁。
そして、銀色の腕時計。
「これを……俺が使うのか?」
腕時計を手に取る。
ただの時計にしては、妙に重い。
側面には、小さなボタンがいくつも並んでいた。
「ただの護身用って感じじゃないな……」
その時、遠くからサイレンの音が聞こえた。
彼は窓の外を見る。
何も知らない街が、いつも通りに動いている。
だが、その裏側では何かが起きている。
彼は拳を握った。
「第二の人生、か……」
不安はある。
だが、もう進むしかない。
こうして、一人の転生者の物語が始まった。
この平和に見える日本で。
少女たちが人知れず戦う世界で。
彼の運命は、静かに動き出す。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
はじめましての方も、お久しぶりの方も、本作をご覧いただきありがとうございます。
本作は、リコリス・リコイルの世界をベースにしたクロスオーバー作品です。
第0話では、主人公が転生し、新たな世界へ足を踏み入れるまでを描きました。まだ主人公自身も、この世界のことを何も知りません。
これから少しずつ、『リコリス・リコイル』の世界ならではの出来事やオリジナル要素、そしてタグにもある特命戦隊ゴーバスターズの技術設定などを絡めながら物語を展開していく予定です。
原作の雰囲気を大切にしつつ、「もしこんな人物がこの世界に現れたらどうなるのか」というテーマで描いていきたいと思っています。
次回からはいよいよ主人公がこの世界で初めての一日を迎え、さまざまな出来事に巻き込まれていきます。
感想やご意見などいただけると、とても励みになります。
それでは、第1話でお会いしましょう!