同時刻、喫茶リコリコ。
「千束、たきな。情報は確認したか?」
ミカの問いに、たきなが静かに頷いた。
「はい。港の倉庫で武器取引。強奪された銃と関係している可能性があります」
「つまり、例の千丁の銃ってやつでしょ?」
千束は制服に袖を通しながら、軽い調子で言った。
「港で武器取引なんて、映画みたいだね」
「千束、浮かれないでください」
たきなは弾倉を確認しながらため息をつく。
「私たちは日本の治安を守るエージェントです」
「はーい」
千束は笑って答えた。
ミカは二人を見つめ、静かに告げる。
「無理はするな。目的は武器の回収、または無力化だ」
「了解」
二人はそれぞれ銃を確認し、店を出た。
---
一方、八馬人のアパート。
テーブルの上には、陣から送られてきた新装備が置かれていた。
イチガンブレード。
レミントンM870。
「これ、普通に持ち歩いたら完全にアウトだよな……」
八馬人はスマートウォッチを操作する。
画面には、新しいモードが追加されていた。
STORAGE MODE
「これか」
モードを選択すると、ウォッチの画面が淡く光る。
『対象物をスキャンします』
光がイチガンブレードとレミントンM870を包み込む。
次の瞬間、二つの武器は粒子のように消えた。
『収納完了』
「すげぇ……」
続けてTRANS MODEを確認すると、そこには登録された武器名が表示されていた。
COLT GOVERNMENT
ICHIGAN BLADE
REMINGTON M870
「これなら持ち運びは問題ないか」
その時、アパートの外で車のライトが点滅した。
「来たな」
八馬人はジャケットを羽織り、部屋を出た。
---
その少し前。
リュウジは車を走らせながら、陣と通信していた。
『リュウジ、よく聞け』
「はい、先輩」
『今回の取引に、エンターが現れる可能性がある』
リュウジの表情が変わる。
「エンター……? そんな、あいつはヒロムたちが倒したはずです」
『俺もそう思っていた。だが映像に映っていた』
「でも、もし本当にエンターなら、俺にはモーフィンブレスが……」
その瞬間、リュウジの右腕が光った。
そこには、見慣れた装備が装着されていた。
「先輩……いつの間に」
『俺を誰だと思ってる』
陣の得意げな声が響く。
『天才エンジニア、陣マサトだぞ』
「相変わらず無茶しますね」
『万が一エンターが出たら、八馬人は撤退させろ。今のあいつでは勝てない』
「了解」
リュウジは通信を切り、アパート前に車を止めた。
八馬人が助手席に乗り込む。
「行きましょう」
「うん。現場までは僕が送る」
車は夜の港へ向かって走り出した。
---
港の近く。
人気のない場所で車が止まる。
八馬人は左耳にインカムを装着した。
「八馬人君、僕は後方支援に回る。危なくなったらすぐ撤退して」
「了解。でも、この任務を成功させないと前に進めない気がするんです」
八馬人はスマートウォッチを確認する。
「俺は、不可能を可能にする」
その言葉に、リュウジは少しだけ驚いた表情を見せた。
「……無茶はしないでね」
「分かってます」
八馬人は倉庫へ向かって歩き出した。
リュウジは小型ドローンを起動する。
「ドローン、八馬人君を追尾」
ドローンが静かに飛び立つ。
モーフィンブレスの画面には、八馬人の周囲の映像とサーモグラフィが表示された。
「さて、先輩の新作。頼むよ」
---
倉庫の入口。
八馬人は扉の前で足を止めた。
中から複数の男たちの声が聞こえる。
「これだけあれば、この国も終わりだな」
「上に渡せば報酬は倍だ」
「問題は、例の未知の武器だ。扱いを間違えるなよ」
八馬人は息を潜め、扉を少しだけ開ける。
内部には数人の男。
木箱。
武器ケース。
そして見慣れない銀色のケース。
「リュウジさん、確認しました。取引現場です」
『了解。無理に動くな。まずは状況確認だ』
その時、リュウジのいる場所に一台の車が近づいてきた。
リュウジは咄嗟に身を隠す。
車から降りてきたのは、二人の少女。
ベージュの制服。
「まさか……」
リュウジはすぐにインカムへ声を飛ばした。
『八馬人、緊急事態だ』
「どうしました?」
『リコリスが来た』
「……え?」
八馬人の表情が固まる。
その直後、倉庫の別入口から二つの影が静かに入り込んだ。
千束とたきな。
八馬人は物陰から二人を確認する。
「君たち……」
千束も八馬人に気づいた。
「えっ、八馬人君?」
たきなが銃を構える。
「なぜ、あなたがここにいるんですか」
八馬人も動けなかった。
AFTとDA。
それぞれ別の指令を受けた者たちが、同じ武器取引現場で鉢合わせた。
だが、その時だった。
倉庫の奥で、拍手の音が響く。
パチ、パチ、パチ。
男たちの会話が止まる。
暗がりから、一人の男が姿を現した。
余裕のある笑み。
不気味な気配。
八馬人は本能的に身構える。
インカム越しに、リュウジの息を呑む音が聞こえた。
『……エンター』
男は静かに微笑んだ。
「Bonsoir」
「役者は、そろったようですね」
八馬人の初任務は、想定を大きく超える事態へ突入しようとしていた。