倉庫内には、まだ焦げた臭いが残っていた。
床には破損した銀色のケース。
制圧された取引相手たち。
そして、互いに状況を整理できない三人。
千束は八馬人をじっと見つめた。
「AFT……別世界の武器……?」
たきなは銃を下ろさない。
「説明になっていません。あなたは何者ですか」
八馬人は両手を上げたまま、ゆっくり言う。
「俺も全部を知ってるわけじゃない。ただ、この世界に流れ込んだ危険な技術を回収するために動いてる」
「誰の指示ですか」
「黒木タケシさんと、陣マサトさん」
その名前に、千束は首をかしげた。
「誰?」
たきなも眉をひそめる。
その時、八馬人のインカムからリュウジの声が響いた。
『八馬人君、もう隠すのは無理だね』
「リュウジさん……」
倉庫の入口から、岩崎リュウジが姿を現した。
「やあ、千束ちゃん、たきなちゃん」
千束はぱっと表情を変える。
「あれ? リュウジさん!?」
たきなは驚きを隠せない。
「あなたも関係者だったんですか」
「うん。ちょっとね」
リュウジは苦笑しながら、八馬人の隣に立った。
「彼は敵じゃない。少なくとも、この世界を壊そうとしている側ではないよ」
たきなはまだ警戒している。
「それを信じろと?」
「信じなくていい。ただ、今は協力した方がいい」
リュウジが視線を向けた先には、焼け焦げたケースがあった。
「これ、放っておいたら大変なことになってた」
千束はしゃがみ込み、ケースを覗く。
「これが未知の武器かぁ……。ほんとに変な感じするね」
その時、たきなの通信機が鳴った。
『たきな、千束。状況を報告しろ』
楠木の声だった。
「取引相手は制圧。未知の武器は破損。ですが、現場にAFTを名乗る男性と岩崎リュウジがいます」
一瞬、通信の向こうが沈黙する。
『……連れてこい』
「了解」
たきなは八馬人を見る。
「あなたたちにも同行してもらいます」
八馬人はため息をついた。
「またですか……」
千束が笑う。
「まあまあ。今度はたぶん、前より優しくしてくれるよ」
「たぶんって……」
リュウジは肩をすくめた。
「大丈夫。今回は僕も一緒に行く」
その時、スマートウォッチが振動した。
画面に通信が入る。
黒木タケシだった。
『八馬人君。現場状況はこちらでも確認した』
「黒木さん」
『DAとの接触は避けられない。正直に話しなさい。ただし、話せる範囲でだ』
続いて、陣マサトの声が割り込む。
『エンターのことは絶対に油断するな。あいつは一度姿を見せた以上、必ずまた来る』
「了解」
八馬人は拳を握る。
たきなはその通信を見て、さらに表情を険しくした。
「今の通信相手も説明してください」
「……ですよね」
千束はにこっと笑った。
「なんか面白くなってきたね」
「面白くありません」
たきなが即答する。
倉庫の外では、DAの車両が到着していた。
八馬人は夜空を見上げる。
初任務は終わった。
だが、問題は何一つ終わっていない。
エンター。
流出したレーザー技術。
DAとの接触。
そして、喫茶リコリコ。
彼の第二の人生は、また一つ大きく動き始めていた。
千束が八馬人の隣に並ぶ。
「ねえ、八馬人君」
「はい?」
「今度、ちゃんと自己紹介し直そうね」
八馬人は少しだけ笑った。
「そうですね」
たきなは前を向いたまま言う。
「その前に事情聴取です」
「ですよね……」
リュウジが小さく笑う。
四人はDAの車両へ向かって歩き出した。
その背後で、壊れたケースの破片がわずかに赤く光ったことに、まだ誰も気づいていなかった。