リコリス・リコイル -運命の邂逅-   作:銀の匙

2 / 18
MISSION 1 平和の裏側 The Other Side of Peace

 

テーブルの上に置かれていた腕時計は、箱に収められていた。

 

「スマートウォッチ……か?」

 

八馬人は箱を開ける。

中には、一見すると普通の腕時計と、小さなメモが入っていた。

 

――これは転送式スマートウォッチです。

緊急時、テーブルの上の二丁の銃をあなたの元へ転送します。

銃はショルダーホルスターに収納された状態で装備されるので安心してください。

詳しい説明書も読んでおくこと。

 

「便利すぎるだろ……」

 

続いて、彼は隣に置かれていたスマホを手に取った。

 

中には電子身分証、運転免許証、銀行口座、そして所属情報が登録されていた。

 

名前:木浪 八馬人

所属:Alliance Freedom Treat

通称:AFT

 

「木浪八馬人……これが、この世界での俺の名前か」

 

口に出してみると、不思議と悪くない響きだった。

 

口座には生活資金として五百万円。

さらに、任務用と思われるAFT専用口座も存在していた。

 

「働かなくていい、ってほどじゃないな。まあ、現実的ではあるか」

 

その時、腹が鳴った。

 

「……そういえば、飯食ってないな」

 

時刻は朝八時を過ぎていた。

八馬人は外出用の服に着替え、アパートを出た。

 

東京、錦糸町駅周辺。

駅前は多くの人でにぎわっていた。

 

サラリーマン、学生、親子連れ。

見た目だけなら、彼の知っている東京とほとんど変わらない。

 

「本当に、ここが別世界なのか?」

 

そう呟いた時、遠くに見える塔が目に入った。

 

「……スカイツリー?」

 

だが、形が違う。

彼の知っている東京スカイツリーではない。

空へ伸びる巨大な塔は、どこか不自然な補強を受けているようにも見えた。

 

「兄ちゃん、あれが珍しいのかい?」

 

通りすがりの男が声をかけてきた。

 

「ええ。海外から帰ってきたばかりでして」

 

まさか別世界から来たとは言えない。

 

「あれは延空木だよ。昔の電波塔がテロで壊されてな。その後にできた、今の日本の平和の象徴さ」

 

「テロ……」

 

「今は平和なもんだよ。あの塔のおかげでな」

 

男はそう言って去っていった。

 

八馬人はしばらく延空木を見上げた。

 

「平和の象徴、か……」

 

近くの牛丼屋で朝食を済ませ、彼はアパートへ戻った。

 

スマホで「旧電波塔 爆破事件」と検索する。

だが、出てくる情報はどれも曖昧だった。

 

公式発表。

事故処理完了。

被害詳細は非公開。

 

「……情報が少なすぎる」

 

平和な街。

消された事件。

そして、表に出ない何か。

 

「やっぱり、ここは俺の知ってる日本じゃない」

 

その時、スマホが鳴った。

 

メッセージが一件。

 

『明日、午前九時過ぎ。君のアパートに迎えに行く。スマホとスマートウォッチを身に着けて待て』

 

「誰だよ……」

 

直後、着信。

慌てて操作した八馬人は、誤ってビデオ通話に応答してしまった。

 

画面に映ったのは、白衣姿の男。

背後には研究室らしき部屋と、いくつものモニターが見える。

 

「おっ、ようやく出たな」

 

男は軽い調子で笑った。

 

「君が木浪八馬人君か。初めまして」

 

「あなたは……?」

 

男は不敵に笑う。

 

「俺か? 俺は陣マサトだ」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。