転生から一夜が明けた。
ピンポーン。
アパートの呼び鈴が鳴り、八馬人は玄関へ向かった。
「はい」
ドアを開けると、そこには一人の男性が立っていた。
「木浪八馬人さんですね。迎えに来ました」
「迎え……あっ」
昨日届いたメッセージを思い出す。
八馬人はスマホとスマートウォッチを持ち、部屋を出た。
アパートの前には黒い車が停まっている。
男性は後部座席のドアを開けた。
「どうぞ」
だが八馬人は、すぐには乗らなかった。
「あなたが先に乗ってください」
男性は少し驚いたように笑う。
「警戒心は合格ですね」
そう言って運転席に乗り込んだ。
八馬人も後部座席に乗る。
車は静かに走り出した。
窓の外に流れる東京の景色は、前世とほとんど変わらない。
ただ一つ、遠くに見える二つの塔を除いて。
「あの傾いた塔……どうして残っているんですか?」
運転手は前を向いたまま答えた。
「十年前、旧電波塔で大規模なテロ事件がありました」
「死傷者は?」
「公式発表ではゼロです」
「……それは、不自然ですね」
「ええ。今でも都市伝説のように語られています」
車はやがて海沿いへ入り、新木場の廃工場へ向かった。
外から見れば、ただの古びた建物。
だが、奥の厳重な扉が開いた瞬間、八馬人は息を呑んだ。
中には最新設備の訓練施設が広がっていた。
射撃レーン。
模擬戦用の障害物。
大型モニター。
整備スペース。
そしてそこには、昨日画面越しに見た二人が立っていた。
「よう、八馬人」
「よく来たな」
「陣さん!? 黒木さん!? なんでここに!?」
八馬人は思わず声を上げた。
陣マサトは面倒くさそうに頭をかく。
「まあ、混乱するよな」
黒木タケシは落ち着いた声で説明する。
「ここは、私たちのアバターが安定して接続できる拠点だ」
「外から見れば廃工場。だが内部は、君の訓練と支援のために整備されている」
その時、運転手だった男性が一歩前へ出た。
「改めて、初めまして。俺は岩崎リュウジ」
「リュウジさん……?」
「君の訓練を担当する」
陣が続ける。
「昨日も話した通り、俺たちの世界の技術がこの世界に流れた」
「レーザー兵器を応用した危険な技術だ」
黒木が静かに告げる。
「それがテロリストの手に渡る前に破壊する。それが君への特命だ」
八馬人は拳を握る。
「分かりました。でも、俺は戦闘経験なんてありません」
「だから訓練する」
リュウジが真剣な表情で言った。
「三日間、最低限の動きだけを叩き込む」
それから訓練が始まった。
一日目。
銃の持ち方、構え方、安全確認。
撃つことよりも、まず扱いを間違えないことを徹底的に学んだ。
二日目。
身を隠す位置。
逃げ道の見つけ方。
人質がいる状況での判断。
戦うためではなく、生き残り、守るための動きだった。
三日目。
模擬戦。
八馬人は女神から授かった空間認識能力により、相手の動き、障害物、距離を瞬時に把握できるようになっていた。
もちろん経験は浅い。
だが、危険を予測し、回避する力は確かにあった。
訓練の最後、陣と黒木がアバターとして姿を現した。
「流石だな」
黒木が頷く。
「短期間でここまで動けるとは」
「まあ、俺のスマートウォッチも優秀だからな」
陣が得意げに笑う。
「それと、お前の時計に新しい機能を追加しておいた」
八馬人が画面を見る。
表示された文字は二つ。
RESCUE MODE
TRANS MODE
「レスキューモードは、人質救出用だ。人数に限りはあるが、安全圏への転送補助ができる」
黒木が説明する。
「トランスモードは、必要な装備をこちらから転送する機能だ」
リュウジが笑う。
「先輩、君に合わせるために結構苦労してたんだよ」
「リュウジ、それ言うな!」
陣が慌ててリュウジに詰め寄る。
そのやり取りに、八馬人は思わず笑った。
黒木は八馬人を真っ直ぐ見据えた。
「木浪八馬人。」
「はい。」
八馬人は背筋を伸ばし、一歩前へ出る。
陣も、それまでの笑みを消し、真剣な眼差しを向けた。
黒木は静かに、しかし力強く告げる。
「これより君に、初任務を命ずる。」
八馬人の左腕に装着されたスマートウォッチが淡く光を放つ。
「――特命。」
その一言で、訓練施設の空気が一変した。
「流出したレーザー技術を、テロリストの手に渡る前に破壊せよ。」
「民間人への被害を最小限に抑え、この世界の平和を守れ。」
八馬人は拳を握り締めた。
転生して、まだ数日。
しかし、自分はもうただの会社員ではない。
この世界を守るための一員なのだ。
ゆっくりと息を吸い込み、黒木と陣を見据える。
「――了解!」
その返答に、陣は満足そうに笑った。
「よし、それでこそだ!」
リュウジも笑みを浮かべる。
「今日から君も、俺たちの仲間だ。」
黒木は静かに頷く。
「君に無理をさせるつもりはない。だが、君にしかできない任務がある。」
「頼んだぞ、木浪八馬人。」
八馬人は力強く敬礼した。
「了解!」
その姿を見届けると、陣は親指を立てる。
「スマートウォッチのアップデートは、こっちで続けておく。困ったらいつでも連絡しろ。」
黒木も続ける。
「一人で抱え込む必要はない。我々が全力で支援する。」
二人のアバターは淡い光に包まれ、ゆっくりと消えていった。
静寂が戻る訓練施設。
リュウジは車の鍵を手に取り、八馬人へ振り返る。
「それじゃ、帰ろうか。」
「はい。」
八馬人は訓練施設を見渡した。
ここで学んだ技術。
ここで交わした『特命』と『了解』。
それは第二の人生で初めて背負った使命であり、決意の証でもあった。
彼はリュウジと共に廃工場を後にした。
――こうして、木浪八馬人の最初の任務が、静かに幕を開ける。
タイトルは、今回に限り日本語表記です。
大雑把で、練習は文書でようやくするのが難しく省略しました。
そしてここまでですが、本来登場させる予定ではなかった。
ブルーバスターの岩崎リュウジ。登場です
セリフは少ないですが、リュウジならこういうだろうなと想像しながら作りました
ですがリュウジの登場の回はこれだけ(予定)です。