新木場の訓練施設で訓練を終えてから、数週間が過ぎた。
八馬人はアパートで静かな日々を送っていた。
スマートウォッチの点検。
拳銃の整備。
分解、清掃、組み立て。
リュウジに教わった手順を何度も繰り返し、今では目を閉じてもできるほどになっていた。
「よし……異常なし。」
ケースへコルトガバメントを戻し、小さく息を吐く。
「でも、これを使う日が来ないのが一番なんだけどな。」
実弾を撃つということは、相手を傷つけるということ。
その重みだけは、訓練を終えても変わらなかった。
時計を見る。
午前十一時四十五分。
「……暇だ。」
ソファへ寝転び、天井を見つめる。
「任務はまだ来ないし、このままじゃ本当に引きこもりになりそうだ。」
テーブルの上には一枚のカードが置かれていた。
---
Alliance Freedom Treat
NAME:YAMATO KINAMI
Affiliation:TOKYO JAPAN
---
訓練最終日に黒木から渡されたAFTの身分証だった。
『これで君は、公的任務に限り拳銃を携行できる。』
その言葉を思い出す。
同時に、リュウジの忠告も頭をよぎった。
『街でベージュ、ネイビー、レッドの制服を見かけたら、周囲をよく見ろ。』
「あれ、どういう意味だったんだろうな……。」
考えても答えは出ない。
「よし、気分転換に出掛けるか。」
八馬人は財布とスマートフォンを持ち、部屋を出た。
近くの公園で缶ジュースを飲みながら、ベンチに腰掛ける。
平和な昼下がり。
子どもたちは遊び、会社員は昼休みを過ごしている。
「やっぱり仕事は探さないとな。」
生活には困らない。
だが、この世界で生きていく以上、普通の日常も必要だ。
そう考えた八馬人は、錦糸町駅近くのハローワークへ向かった。
求人票を眺めながら、いくつか気になる仕事を手に取る。
「そうだ。銀行口座も作っておかないと。」
手続きを済ませるため、近くの銀行へ向かう。
その途中だった。
「……ん?」
制服姿の女子高生が視界に入る。
ベージュ。
一人ではない。
二人。
三人。
さらに向こうにも。
「まさか……。」
八馬人の脳裏に、リュウジの言葉が蘇る。
『ベージュ、ネイビー、レッドの制服を見かけたら、周囲をよく見ろ。』
「何か起きるのか……?」
胸騒ぎを覚えながらも銀行へ入る。
受付で口座開設を申し込み、書類を書き始めた、その時だった。
「動くなッ!」
怒号が銀行内に響く。
次の瞬間――
パンッ!
乾いた銃声。
「きゃあああっ!」
悲鳴が銀行中に響き渡る。
八馬人はゆっくり顔を上げる。
覆面をした男たち。
手には拳銃。
人質となる客たち。
そして、銀行の外へ視線を向けると、一瞬だけベージュの制服が見えた。
「あれが……。」
「リュウジさんの言っていた"ベージュ"……!」
八馬人はようやく理解した。
自分が今、リコリスたちが動く事件の真っ只中にいることを――。
この終わり方なら、**MISSION 5**で主人公と錦木千束や井ノ上たきなが初めて接触する展開にも、自然につなげられると思います。