銀行から連れ出される八馬人の姿を、遠く離れた建設中のビルから見つめる者がいた。
岩崎リュウジである。
彼はソウガンを片手に、銀行周辺の状況を確認していた。
立ち入り禁止のロープ。
不自然に配置された黒服の男たち。
そして、妙に整いすぎたパトカー。
「野次馬はいない。あのパトカーも本物じゃないな」
リュウジはポケットからスマホを取り出す。
「先輩、八馬人君が連れていかれました」
通信の向こうで、陣マサトの声が低くなる。
『DAか?』
「おそらく」
『黒リン、大変だ。八馬人がDAに捕まった』
『何?』
黒木タケシの声が割り込む。
『リュウジ、追跡を続けろ。こちらで身元確認の手続きを進める』
「了解」
リュウジはソウガンを下ろし、車へ向かった。
一方、八馬人は黒い車に乗せられていた。
「おーい、どこへ連れて行くんだよ」
返事はない。
車は警察署へ向かうどころか、高速道路へ入っていく。
「……警察署じゃないよな、これ」
数時間後、車は人気のない山道へ入った。
やがて、厳重なゲートが現れる。
『ここから先は国有地につき、立ち入りを禁ずる』
「国有地……? おいおい、何されるんだ俺」
車は複数のゲートを抜け、山奥の施設へ入っていった。
地下駐車場に到着すると、黒服の男たちが八馬人を降ろす。
そこには、秘書らしき女性と、鋭い目つきの女性が待っていた。
「この男か。報告にあった武装した民間人というのは」
「はい。現場のリコリスからの報告と一致しています」
八馬人は眉をひそめる。
「ここはどこなんですか。俺は警察に連れて行かれるんじゃ?」
女性は冷たく告げた。
「質問はこちらがする」
八馬人は取調室へ連れて行かれた。
机の上には、マガジンを抜かれたコルトガバメントが置かれている。
「この武器をどこで手に入れた」
「俺のです」
「民間人が拳銃を所持できると思っているのか」
「民間人なら、そうですね」
八馬人は静かに答える。
「でも、俺はAFT所属です」
取調官の表情がわずかに変わった。
「AFT?」
八馬人は懐から身分証を出す。
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Alliance Freedom Treat
NAME:YAMATO KINAMI
Affiliation:TOKYO JAPAN
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取調室の様子は、別室のモニターに映されていた。
そこにいた女性――楠木は、画面を見つめる。
「嘘をついているようには見えないな」
秘書が報告書を確認する。
「登録情報を照会中です。該当機関は国際協力機関として記録があります」
「……国際機関?」
その時、部屋の電話が鳴った。
楠木が受話器を取る。
「楠木です」
数秒後、彼女の表情が険しくなる。
「……分かりました」
受話器を置き、楠木は短く告げた。
「釈放しろ」
「ですが」
「上からの通達だ。彼は国連関連機関に所属するエージェントとして照会が取れた。これ以上の拘束は外交問題になる」
秘書は小さく頭を下げた。
「了解しました」
同じ頃。
施設近くで待機していたリュウジのスマホが鳴る。
『リュウジ、八馬人の釈放が決まった。迎えに行け』
「早いですね」
『手続きはこちらで済ませた。必要書類と通行許可は転送してある』
「了解」
リュウジは車を発進させた。
数十分後、八馬人は地下駐車場へ連れて来られた。
「何だったんだよ、いったい……」
その時、聞き覚えのある声がした。
「八馬人君!」
「リュウジさん?」
リュウジは手を上げる。
「乗って。事情は車で説明する」
八馬人は助手席に乗り込んだ。
車は施設を出て、山道を下っていく。
一般道へ出たところで、八馬人はようやく息を吐いた。
「助かった……」
「ごめんね」
リュウジが静かに言う。
「前に、ベージュの制服には気をつけろって言っただろ」
「ええ」
「彼女たちはリコリス。DA、ダイレクトアタックに所属する治安維持要員だ」
リュウジはダッシュボードの資料を示す。
そこには、ベージュ、ネイビー、レッドの制服を着た少女たちの写真が載っていた。
八馬人は資料を見つめる。
「この世界の平和を、裏で守っている存在……」
「そういうこと」
「でも、俺たちの世界の技術が犯罪組織に悪用されるのは避けたい」
リュウジの表情が少しだけ険しくなる。
「だから君が必要なんだと思う」
車内に沈黙が落ちる。
しばらくして、リュウジが明るい声で言った。
「ところで、八馬人君。仕事は決まってる?」
「いえ。銀行口座を作ろうとしたら、強盗に巻き込まれました」
「じゃあ、これから俺の行きつけの喫茶店に行かない?」
「喫茶店?」
「ちょうど求人を出してる。昼飯も食べられるしね」
八馬人の腹が小さく鳴った。
「……そういえば、昼飯食べ損ねてました」
リュウジは笑う。
「よし、決まりだ」
車は街へ向けて走り出す。
八馬人はまだ知らない。
その喫茶店で、自分の運命を大きく変える出会いが待っていることを。
ありがとうございます。
投稿完了しましたが、取り調べの模様を書こうとおもったのですが
結構遠回しな言い方になると思い、到着して2時間で釈放という話にしました。
普通ならあり得ないですがまぁ2次創作なのでご愛嬌を。
八馬人が連れてこられたのは、DAの建物で指令の名前を出しました。
ようやく、リコリスの世界と通じ合うことができました。
次回、リュウジの行きつけのお店でようやくようやく(長かった)リコリスが登場します。