# MISSION 6
## Cafe LycoReco
### ― 新しい居場所 ―
リュウジと八馬人を乗せた車は、都内の一角にある古民家の前で止まった。
時刻はすでに夕方。
「ここだよ」
リュウジが指さした先には、小さな看板があった。
喫茶リコリコ。
「……リコリコ?」
八馬人はその名前に、どこか聞き覚えを感じた。
カラン。
扉を開けると、落ち着いた店内にコーヒーの香りが広がっていた。
「いらっしゃい」
和服姿の大柄な男性が、穏やかに声をかける。
「こんばんは、ミカさん」
「やあ、リュウジ君。久しぶりだね」
ミカは八馬人へ視線を向けた。
「そちらの子は?」
「木浪八馬人君です。ちょっと縁があって」
その時、奥から勢いよく足音が響いた。
「リュウジィィィ!」
女性が全力で飛び込んでくる。
「今日こそ結婚の返事を――!」
「ミズキ、相手を間違えているぞ」
ミカの一言で、ミズキはぴたりと止まった。
目の前にいたのは、リュウジではなく八馬人だった。
「……誰、あんた」
「初めまして……木浪八馬人です」
八馬人は少し引きながら頭を下げた。
数分後。
誤解は解け、八馬人はカウンター席に案内された。
「すまないね。お詫びにどうぞ」
ミカはコーヒーと簡単なスイーツを置いた。
「ありがとうございます」
「まぎらわしいのよ、まったく」
ミズキは不満そうにキッチンへ戻っていく。
リュウジは苦笑した。
「相変わらずですね、ミズキさん」
「まあな」
その時、店の奥から二人の少女が戻ってきた。
「ただいまー!」
「ただいま戻りました」
「お帰り、千束、たきな」
ミカが穏やかに迎える。
赤いリボンの少女がリュウジに気づいて手を振った。
「あっ、リュウジさん! いらっしゃい!」
「どうも、千束ちゃん」
隣の黒髪の少女は首をかしげる。
「知り合いですか?」
「そっか、たきなは初めてだっけ」
千束は明るく説明する。
「リュウジさんは、先生の知り合いで常連さんみたいな人!」
「なるほど」
たきなは八馬人へ視線を移した。
「では、そちらの方は?」
「木浪八馬人です。リュウジさんとは仕事関係で知り合いました」
「私は錦木千束! よろしくね。八馬人君、何歳?」
「十八です」
「おお、私より一つ上! じゃあお兄さんだ!」
千束は目を輝かせる。
「千束、距離が近いです。引かれています」
たきなが冷静に止める。
「ちぇー」
「私は井ノ上たきなです。十六歳です」
「よろしく」
和やかな空気が流れた、その時だった。
リュウジのスマホが鳴る。
画面には、陣マサトの名前。
「……先輩からだ」
リュウジは席を立ち、店の外へ出た。
「もしもし」
『リュウジ、急ぎだ』
陣の声はいつになく真剣だった。
『流出したレーザー技術の取引情報を掴んだ。今夜遅く、海岸沿いの倉庫だ』
「今夜ですか」
『八馬人を向かわせる。時間と場所は送る』
「でも、彼はまだ実戦経験が」
『分かってる。だが、あいつには新しいモードを追加してある。サポートはこっちで続ける』
リュウジは一瞬迷い、静かに頷いた。
「了解」
同じ頃、店内の電話も鳴った。
ミカが受話器を取る。
「ミカだ」
相手は楠木だった。
『ラジアータが武器取引の情報を掴んだ。今夜、海岸沿いの倉庫だ』
「例の銃か?」
『詳細は不明。ただし、未知の武器が関わっている可能性がある』
ミカの表情が引き締まる。
『千束とたきなを向かわせる』
「分かった」
電話を切るのと同時に、リュウジが店内へ戻ってきた。
「八馬人、すぐに来てくれ。仕事が入った」
その慌てた様子に、八馬人は緊急事態だと悟る。
「分かりました」
「じゃあね、千束ちゃん、たきなちゃん」
リュウジは軽く手を振り、八馬人と共に店を出た。
二人が出て行った後、たきながカウンターを見る。
「あっ、食事代」
千束が笑う。
「たきな、銃はダメだよ?」
「まだ何も言ってません」
ミカはカウンターに置かれたメモを見つけた。
――ミカさん。
今日の食事代は後日払いに来ます。
それまで、これを置いておきます。
岩崎リュウジ
メモの横には、ゴリラのキーホルダーが置かれていた。
ミカは小さく笑う。
「リュウジ君らしいな」
そして、千束とたきなへ向き直る。
「千束、たきな。仕事だ」
二人の表情が変わる。
それぞれ別の道から、同じ夜へ向かっていく。
AFTとDA。
まだ互いの目的を知らない者たちが、海岸の倉庫で交差しようとしていた。
守るべきものは、ただ一つ。
日常という名の平和。