有馬かなが刺された世界(そして前向きイマジナリー重曹ちゃん) 作:settu
お楽しみ頂けたら幸いです。
※タイトル改題(文字数削減)を検討しています。改題後のタイトルは、
「有馬かなが刺された世界(そして前向きイマジナリー重曹ちゃん)」を予定しています。
ご迷惑おかけして大変申し訳ありません。
どうぞよろしくお願い致します。
『おはよう! ほーら! おはよう! 起きろ!』
私は、ひたすらアクアに声をかける。
アクアは毛布をかぶったままじっとしている。
内心には、わずかばかりの不安。
『ほーら! 起きる! いつまでそーやってるの! ほーら朝!』
アクアが動き、こちらを見た。
……安堵する。
大丈夫。私の声は、ちゃんと聞こえている。
私は、アクアにちゃんと見えている。
『はいおはよう! ほら起きる! ほら! 顔洗う、歯を磨く!』
直後にアクアの思考がこちらに流れ込み、そんな安堵にゆっくり浸る間もなく、私は慌てた。
『……………って、ちょっと待った!? 待ったってば!
何でそうなるのよ!?
だから空気を吸うように、また窓から身投げとか危ないことを考え始めるな! いのちをだいじに!』
これはこれで、朝っぱらからお元気……と言っても良いのだろうか。
最近は身投げ系のイメージが多い。
基本的に危ないものは、極力私が捨てさせたこともあるんだろうか。薬とかも全部捨てさせた。なんというか、用意ばかりはやたら沢山していた。その丁寧さが……、妙にアクアらしいといえばアクアらしかった。
それでも……、ある意味、そこまで
アクアが、何かつぶやく。
『ああ、そう……夢? ふぅん、あまり覚えていないのね。なら、それはそれでいいわ。
……なんかアンタ結構ダメージ受けてない? 夢なんでしょそれ?
……そーそ! そんなことより! とにかく起きる! ほら!』
やるべきことは、ひとつづつ。今はちゃんと起きること。
『よし起きた! さぁ歯を磨く! 顔洗う! そーそー!』
ひとつづつ。ひとつづつ。
『じゃあそのまま朝ごはんにゴー! ほらうじうじするな! 座るな! そのままゴー! はい行ってらっしゃい! ごゆっくり!』
ひとつづつ。
今日もちゃんと、ひとつづつ。
ひとつづつ、繰り返し、進むのだ。
* * *
『おかえり。偉い。ちゃんと今日も朝ごはん食べたわね。今日も偉いわ』
褒めるべきことは、ちゃんと褒める。
アクアはちょっと困った顔をするが、気にすることはない。
毎日、ちゃんとやる。それは本当に大事な事なのだ。
取るに足らないこと?
でも、それは、アクアにとって、とても困難だったことなのだから。
アクアは、ベッドに腰かける。
今日も一日このままのつもり、なんだろう。
『それにしてもさ……。アンタもしぶといっていうかなーんていうか……。
アンタ……その精神状態なのに、ほんっとーにうまく偽装するのね……』
ここのところ、ミヤコさんやルビーの緊張がほどけてきているのは感じる。朝ごはんをちゃんと食べるようになったこともあるが、その他の身のこなしも、色々と、
『「もう大丈夫だから」じゃないわよ……。なーに、にこやかにミヤコさんに言ってるの……。
かえって大丈夫っぽく見せるから危なっかしいのよ……。
周囲の監視が緩むから……』
そうなのだ。結局アクアはまだ、自身の判断で色々と終わらせてしまうことを、諦めていない。
それこそ発作のように、そういう行動を考え始める。
一応、その原因役が目の前に居るんだから、もうすこし柔軟にして欲しいとは思うのだが。
心の問題というのは、きっと難しいんだろう。
ここで再会したあの日と比べれば、言うまでもなく遥かに改善はしてはいるんだけれども。
『まぁ、それでも、皆、ある程度は察してくれてるみたいだけどね……。
アンタ、ルビーを決して部屋に入れなくなっちゃったから……。偽装するにはさすがに不自然よ?』
アクアは。
別に拒んではいないようにも見える。
ただ、どこか。
その対応は、どこか、
私はこの兄妹の以前の日常がどういうものだったのか、ちゃんとは知らない。
まぁ、あの一時期の、事務所でのベッタベタっぷりは凄かったけど、なんというか、あれは、
もう少し自然な、という言い方も微妙かもしれないが、そういうとっても仲の良い、距離のいささか近すぎる兄妹の姿はきっとあったんだろう。シスコンとブラコン。ほほえましいことだ。
そして、多分今は、その時とは、少し違ってしまっているのだ。
きっとその一つのあらわれが、決してルビーを自室に入れない、ということ。
ルビーというか、他の誰も、なんだけれども。
多分それは、アクアが自ら終わらせる時に、邪魔が入らないように、というのが大きかったんだろうけど。でも、それ以外の部分もきっとあるんだろう。
結果、無理やり同居人と化している私だけが、ここでアクアと一緒に居ることになっている。
見張っている、ともなってしまうかも知れないが。
『まぁ、私としては、なんであれ、不自然というシグナルが伝わってる方が安心だけどね……。
あれよね。だからアンタが部屋を出たときの、ルビーのベタベタっぷり、凄いわよね。
……流石に邪険に扱ったりはしなくて安心したわ。シスコンは変わらないのね。
……褒めてるのよ?
アンタが、ルビーを、
アクアとルビーの
私自身
ただ、それはそれとして。アクアにしても、ルビーにしても。これから、それぞれが、それぞれ本人の人生を生きていくというのなら、あくまでその本人としての人生を生きて行って欲しいとは思う。
二人の周りには、多くの人が居る。それが本当に、どれだけかけがえの無いものか。
それは、アクアの関係性で繋がった人々であり、ルビーの関係性で繋がった人々なのだ。
無理やり「前」を
周りに誰も居ない、というのは寂しいことだ。
まぁいい。なんにせよ、私が相対してきたのはアクアであり、ルビーなのだ。正直それ以外は、関係が無い。
だからこそ……、まぁ、ルビーが内心でアクアに対して抱えているらしい、というか、明らかに抱えている、抱えちゃっているある種の感情については、個人的な倫理観としての抵抗というか、色々と意見はあるっちゃあるけど……。でも、そこは意識的にスルーすることにする。実際口出し無用の話だろうし。それこそ、それぞれ本人の問題だ。
『それはそれとして。やっぱりさぁ……ちゃんと話しておきたいのよね』
そして私は、アクアに、ちょっとした説得を試みることにする。
そろそろ、もう少し、強く言っておきたいことではあった。
『とにかくね……。せめてそれくらいの気配りができるのなら、ね。
アンタがそういうことをしたらどうなるか、位の想像は働かせて欲しいわ……』
結局その行動がどういう結果を引き起こすか、話をしておいた方がいい。
それが理解できていないから、自責で極端な行動を起こそうとする癖が、いつまで抜けない。
もちろん本音としては、シンプルに逃げたい、この自罰から抜け出したい、って気持ちもあるんだろうけど、それでも、せめて自分自身がどういう存在なのか、という認識さえあれば、多少は
とにかくアクアは、自己評価が低すぎる。
そして、今のアクアは、
そういう風になってくれている、というのは、まぁ、こちらとしては嬉しくはあるんだけれども。
でも、良くないことをきっかけに、こうなってしまった、というのは正しい形ではないことだ。
だからこそ、落ち着いてきたこの頃にでも、機を逃さず言っておくことにする。
『いいこと?
アクアが少しだけ、びくっ、となった。
よし。ちゃんとそこは重要な話として
それを理解できる精神状態。
そして……驚いているということは、やはり、分かってなかったか。
その程度のことも、ちゃんと認識出来ていなかったか。
やっぱりなぁ、と私は嘆息する。
『……決まってるじゃない。今のあの子にとって、アンタの存在以上に重要なものは無いのよ。アンタがすべてなの。ルビーにとっては。なぁ~にが、「俺が居なくなった後もお前がこの世界でやっていく為には」よ』
かつてのアクアの思考を垣間見たことがある。
そこにあったルビーとの決別は、本当に痛々しいものだった。でも、それはそれとして、アクアの思考は正直質の悪い冗談にしか思えないレベルだった。普通にルビーからボコボコにされても文句は言えないだろう、という。最も、そのあたりの事態のそもそもは、あるいは、いずれ予定されていたにしても、あのタイミングでのアクアが決行に至ってしまったその
……さておき、とにかく、ちゃんとアクアには知っておいてもらわないと、ちゃんと分かっておいてもらわないといけない。
『無いのよ。あの子には。アンタの居なくなった後の、この世界なんて。特に……アンタと、その「前世」が、ルビーの中で事実として繋がってしまった、この、今においては』
すべて、というのはそういうこと。
『それに、とても重要なポイントがある。あの子は、転生どうこうって話の当事者なんでしょう? まず間違いなく、アンタに
アクアの表情がこわばっている。
目を見開き、脂汗が少し浮かんでいる。
そうとは限らない……、ルビーには、夢が……とか適当なことを口走り始める。
ほんとコイツ……という気分になる。
しかもこれは、あれだ。
多分内心のどこかではそういう可能性に気づきつづも、見ないようにしてたパターンだ。
今なら分かる。アクアは、いつもそういうことをやってしまう。
それが逃げなのかどうかは要検討かもだが、とにかくそういう行動を取る。
心のどこかで認識しつつ、わざと愚かになって、それに気づかない、気づいていないことにする。
私は追い打ちをかける。
『何言ってるの。……やるわよ。ルビーはやる。無理やり、やるわよ。分からないの?
アクアは黙っている。
アクアの自己評価の低さはどこまでも相変わらず。
でも、さすがに、そんなアクアでも、その前世の縁の重たさは認識済みだったようだった。
本当は、あまりアクアには、
でも、これは説得には重要な情報だし、仕方がない。
『……そう、「せんせ」、今はアンタが第一なのよ、それこそアイドルの夢どーこーよりも。正直それが正しいことなのか、はさておきね』
そう。それが正しいこと、とは、私は思わない。
アクアはこれからアクアとしての人生を歩み、ルビーはこれからルビーとしての人生を歩む筈。
だからこそ。
でも、今、
『それが正しいか、考えるのは先の話。とにかく今はそうなの。理解しなさい』
そして、私はアクアの前で指を折って見せる。
『これで1KILL』
アクアが受け取りやすいように、わざとふざけた言い方をする。
でも、その意味は深刻。
アクアは黙っている。さて。話はまだこれからなのだ。
『……そしてね。そうなったら、ミヤコさんもどうなるか分からない』
アクアがびくっ、となった。
あー、これは本当に認識していなかった顔だ。
分かって無かったか。
『あの人、
ほんの僅かだけ、そこに羨望を感じながら、私は続ける。
『そうでもなければ……、アンタが、三人一緒で朝ごはん一緒に食べるだけで、あんなに喜ばないわよ……』
そこを理解していないとしたら、腹立たしいことでもある。
何気ない日々の積み重ねを本当に喜ぶ。これが、家族でなくて何なのだ。
『その、ミヤコさんが……アンタと、ルビーを、
ここから先は想像の話。実際にそうなるかは分からない。ただ、明らかに、その可能性は、想定可能のものと、私は思う。
『イチゴさん? だっけ? あの人はついてはいるだろうけど、でも、どうなるか。個人的には結構ヤバいと思う』
そして、また指を折る。
『はい。これで下手したら2KILL』
アクアは黙っている。
自分がやらかそうとしていたことで分かる連鎖反応。
これでまたアクアは罪悪感を覚えるんだろうか。それならそれでいい。
行動に走らせないことの方が重要。
さて、これで話は終わりじゃないのだ。
さらに、一つ重要な要素を付け加える。
『そして、それに、黒川あかねだって、どうなるかわからない』
アクアはもう表向きの反応は示さない。
ただ、その内心が滅茶苦茶動揺しているのが伝わってくる。
これも分かってなかったか。ああそう……、となる。
『きっと絶望するわ。命を賭してまで助けたかった人間を助けられなかった、ってなったらね』
黒川あかねが、アクアを救う、という原理でどういう行動をしてきたか。
どういう行動を
『これはあれよ。恋愛沙汰どーこーとは別の次元の話よ。いや、重なる部分もあるかもだけど。でも、黒川あかねの行動原理は結局、アンタを救う、という目的に基づいてのモノだったのよ。そして、まず間違いなく、黒川あかねは今の結果に非常に心を痛めている。色々あった結果、こういうことになっちゃって、今アンタはこうなってる。そもそも……、ほら、私のことでも、黒川あかね、それなりに衝撃が行っちゃってるみたいじゃない。既に結構な状況ではあるのよ。これで、このままアンタが恢復、となれば、結果的にせめてアンタは助かった、という、なんとか黒川あかねとしても受け入れられる一線にはなるかもしれないけど。それが守られない、となると、ね』
本当に、そこまで思い至っていなかったらしい。
何が「やってみろ黒川あかね」なんだか……と悪態の一つでもつきたくなる。
『
そもそも、アクアはどういう成り行きで黒川あかねに感謝されるようになったのか。恩を感じられるようになったのか。その意味をちゃんと理解しているのだろうか。
コイツはつくづく……と思ってしまう。
ただ、この指摘は、さすがにアクアも分かってきたようだった。
私は、締めくくりとして、さらにアクアの前で指を折って見せた。
『はい、3KILL』
これにて説明完了。
『わかる? つまりアンタ一人で最大3KILL達成よ3KILL! 私はね、私のことは、どうでもいい。でも、その三人がそうなったら…さすがにアンタを責めるわよ、あーくん?』
そもそも自分の責任ではないことで。
それも、たかだか私ごとき一人のことで。
アクアは、そんな取るに足らないことで、これだけ責任を感じてしまい、自分を責めてしまっている。
それは、アクアが責任を感じるべきでないこと。
何より私自身がそう決めている。
だから、それで話は終わり。
……だが、今説明したことは、どんなに情状酌量の余地があっても、アクアの責任であり、アクアによって引き起こされることなのだ。
アクアが、有馬、その言い方は……。
とか今更ながら言い出す。
『別にふざけて言ってるんじゃないの。真面目な話。アンタは、それだけ多くの人に、大切にされている。アンタだから、なのよ。理解しなさい』
そうだ。何よりも、まず。
アクアは、そこを理解すべきなのだ。
アクアは、それほどの価値のある人間なのだ。
人の価値に違いなんかない、そういう見方はあるだろう。
ただ、それはそれとして。
アクアのこれまでの行動が。
その縁が。
アクアの価値を作っている。
……アクアが、私にやってくれたことを含めて。
だからこそ。
『……私だって、アンタだから、助けたいと思う』
……それを言ってから、しまった、と思った。
このタイミングで、私のことまで、言うべきではなかった。
アクアは、泣きだしてしまっていた。
『なんでそこで泣くのよ……。「有馬を復讐の道具にしてしまった」?』
そうなのだった。アクアは、ずっとそのことを責め続けている。
それが、アクアの精神を不安定にさせている。
私は……せめてもの、自分の考えを、伝える。
『結構よ、道具で。少なくとも、多分アンタに入る筈のダメージの、身代わりにはなったんでしょう。本来アンタに入るダメージは、私に入って、そこで終了になった。だったら、最後にアンタを守る道具にはなったのよ。こんな価値のある使い道も無いわね……って、責めてるんじゃないから! また危ないことを考え始めんな!』
アクアの精神が不安定化したことを感じて、私はフォローを急ぐ。
話そう。とにかく、アクアと話そう。
『あー、そもそもね……この結果は、
そして、強調する。
『ほら、今、とりあえずKILLは発生していないでしょう? ……それだけでも、分かるじゃない』
そう。まだ、
『私は良かったと思っている。結果として、アンタの盾になれて。身代わりになれて。まぁ、勿論、これでもB小町のセンターだったから、ね。だから、ファンの皆さんには本当に申し訳なく思ってる。これは、応援してくれてた人たちには、決して見せたくはなかったことだから。……でもやっぱり、全体としては不幸の少ない結果になってると思うの。少なくとも、私や、アンタの身近な人々にとってはね』
そうだ。全体としての幸福。すくなくとも、アクアの周囲の人々にとっての幸福の総量。
アクアがかかわる、多くの人々にとっての最大多数の最大幸福、もしくは最大幸福原理。まぁこの言い方は色々曲解の指摘があるのは知ってはいるけど。でもまぁ、分かりやすいといえばわかりやすい。
これは、賞賛すべき結果なのだ。
アクアが反発する。
語気を強めて、それを否定してくる。
まぁ、気に入らない言い方かもしれないけど、事実は事実なんだから、そこは納得して欲しい。
ただ、なかなか、アクアも折れない。
そのうち、アクアは言った。
みんなの話じゃない。
俺にとっての話だ。
俺にとっての、お前の話だ。
俺は、お前を、失ったんだ。
失われている人は居て、それは、お前なんだ。
私は、少しだけ動揺した。
実をいうと。
アクアは言ってくれていた。私自身の価値判断ではなく、アクアとして、それをどう感じるか、を。
『あー、何? 私自身の話? アンタにとって? あら嬉しい』
アクアの呼吸が荒い。
アクアは、
私が、そういう言い方をしたことを。
私自身を、蔑ろにする言い方をしていたことを。
『ああ……、まー、そりゃそうかもしれないけど……、そりゃそういう意味じゃ0KILLじゃないかもだけど……。あー、うん、あえていえば、そうね、1KILLか……。でも、客観的に、重要度を比較するなら、そうなると思うのよね……』
そういう言い方をするな。
アクアは、また怒って言う。
それから、少し悲しそうに続ける。
頼むから、そういう言い方は、やめてくれ……。
俺にとっての、有馬だから。
俺にとっては、本当に大切な有馬だから。
だから、頼む……。
……私は。
嬉しかった。
私自身、本当に、そういうことは何も考えていなかったから。
自分の価値。
それも、アクアにとっての価値。
それが、たとえ慰めの、取り繕いの言葉であったとしても。
でも、アクアは、私の価値を認めてくれていて。
あまりアクアのことを馬鹿にできないのかも、などとも思ったりする。
なるべく平静を装って、私は言葉を繋げる。
『……ただまぁ、アンタ自身が私のことを、そう言ってくれるのは、素直に嬉しいわ、有難う。私だから、「有馬だから」、そう言ってくれるのね。アンタにとって、私はそういう存在なんだ? へぇ』
そして、つい、聞きたくなった。ちょっと、踏み込んでしまっている、と思いつつ。
『……アンタは、私を、「必要としてくれる」の?』
何となく、今日あまのシーンを思い出しながら、問いかけてみる。
当たり前だ。俺には有馬が必要だ。
アクアは、あまりにもストレートに、そう言ってくれて。
それが、
『……ありがとう』
だから、とっさには、そんな反応しか、返せなかった。
そして、自分の違和感。
なんか、こう、目が。
ちょっとこう、色々と、耐えられないものがあって。
そうか、私、泣いちゃってるんだ。
イマジナリーさんが泣いちゃってる訳だ。
アクアのことを、本当に笑えない。
私が涙を流してどうするんだ。
ああもう。
それとなく涙を拭う。あんまりアクアには見せたくない。
別に幻が泣くことだってあるのかも知れないが。
そこは、幻は幻らしく、
そうそう、泣く演技が10秒なら、涙を止めるのだって10秒じゃないと。
思えば、あのドラマの撮影では。
アクアは、それと真逆のセリフを言うことで、
『……その言葉だけでも、私の人生は「真っ暗」なんじゃなかったって分かる。「ろくな事はない」なんてことは無かったって分かる。その通り、だったのね。……本当に嬉しい。ふふっ。ちゃんと、光はあったのね』
情けない話だ。
どうあれ、アクアを救うために、私は頑張っているのに。
むしろ、私自身が、少し、救われてしまった。
そうだ、光はあるのだ。
だったら……頑張らないといけない。
ちゃんと、頑張らないといけない。
ちゃんと、光の、ある方へ。
私は、かねてからの計画を、実行に移す。
『……そうね。そこまで言ってくれるのなら、提案。アンタが、『必要としてくれている』有馬かなの提案よ。ちょっと今日は一つだけ、私のお願いを聞いてくれるかしら。
……散歩に、出ましょう? 5分だっていい。ちょっと外を歩かない?』
一日中、ひたすら部屋に居続けるアクア。
でも、ちょっとでも。一歩踏み出す為には、ここから、動いていかなければ。
『そう、
外は、明るい。
別にエスコートしろなんて言わない。ああ、そういえば色々あったわね……。
楽しかったのよ?
……とにかく、別にそうしろって言ってるんじゃないから。
ただ、玄関から外に出られれば、いいの。
ちょっとだけでも、外の空気を吸いましょう? ほんのひととき、お日様に当たるだけだっていい。
それだけで、いいの。
いいのよ』
アクアの動揺が伝わる。
外に出る。
そのこと自体は、多分、今のアクアにとっては、きっと「怖い」こと。
……でも、いつかは。
そこは、挑んでいかなければならないこと。
大丈夫。まだ迷っている。拒否ではない。
『この有馬さんが一緒なのよ。ちゃんと、一緒に行くからさ……。だったら……いいでしょ?』
もう一押し。
大丈夫。
アクアはまた、もうちょっと、前向きな雰囲気。
これなら。
私はあと一押しの、丁度よい言葉を思いつく。
さっき、あんなことをアクアが言ってくれたから、嬉しかったのかもしれない。
そして私は、すこしだけ、わくわくしながら。
ついぞ、言ったことのない、ストレートなお誘いの言葉を、アクアにかけるのだ。
『……あーくん? デート、いこ?』
いつも感想評価等レスポンス有難う御座います。大変励みになっております。またお楽しみ頂けますと幸いです。
(前書きに記載した通り改題(文字数削減)予定です。どうぞよろしくお願い致します。)