女たちは言う。イケメン、美男子、美青年と。しかし、俺に相応しい呼び名があるならそれは……   作:でぃくし

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あたけとたかしのどうでもいい話

「……で、俺にどうしろって?」

 

「あたけ、その銃で俺を撃て」

「……え?」

「撃て」

 

「い、いや、ちょっと待ってくれよ!なんでそうなるんだよ?!」

 

「お前は銃で俺を誤って撃つのが怖いと言っていたが、だったら実際に俺を撃ってみて本当にそれが懸念すべきことかどうかを確かめればいい」

「いやいや……おかしいだろ……死にたいってのかよ?」

 

たかしは真っ直ぐにあたけを見つめた。

 

「あたけ、俺たちは吸血鬼だ」

「……」

「お前の悩みは俺には理解できない。だが、お前が何かを怖がっているのはわかる。だから、俺がお前の恐怖を消してやろう」

 

そう言うとたかしはあたけの意識を隙を突き、素早く拳銃を取り上げる。

 

恐るべきスピードと正確性。

そして、その一連の所作の美しさ。

 

たかしがカズーチャE2000の安全装置を外して自分のこめかみに銃口を突きつけるまで、あたけは手元から銃が消えてしまっていたことにすら気がつけなかった。

 

「えっ?!なっ……!お、おい……よせ、何のつもりだよ……?おいって!」

「よく見ておけ」

 

あたけの問いかけを無視し、銃口を自分の頭部に向け引き金を絞る。

すると次の瞬間、トタン板を重い水滴が乱れ打つような銃声が訓練所内に響き渡り、同時に無数の火花が飛び散った。

 

「な、な、なな……な、なにしてんだよ!?!」

 

あたけの悲鳴がこだまする。

 

しかし、たかしは微動だにしなかった。

 

カズーチャE2000の呪われた歴史にまつわる怨念を宿した弾丸でさえも、たかしの皮膚すら……いや彼の『美』を傷つけることは叶わなかったのだ。

呆然と立ち尽くすあたけの前で、たかしは平然と銃口から立ち昇る硝煙を吹き消し、再び安全装置をかけてからカズーチャE2000をワークベンチの上に置く。

 

だが、たかしは内心驚いていた。

 

何故なら引き金を引いた時に飛び出る銃弾は一発だけだとばかり思っていたからだ。

とは言えたかしはそんなことはおくびにも出さず至極冷静に話を続ける。

 

「……どうだ?」

「……な、なにが?!」

 

「吸血鬼は銃を恐れるべきか?……答えは否だ」

「え、いや、あの……ああ、うん」

「だから俺に当たることなど気にせずどんどんぶっ放せばいい」

「わ、わかった……。あ、ありがとうな……」

 

「礼など不要だ。俺たちはチームなんだからな。それに……お前は半吸血鬼の俺よりも遥かに強くて、俺よりも圧倒的に優れているはずなんだ。だから自信を持て」

 

「そ、そうだよな……なあ、あのさ……俺、お前に謝っておかないといけないことがあるんだ……」

「なんだ?」

 

たかしはワークベンチにもたれかかり、腕を組ながらあたけの話に耳を傾ける。

 

「実は……今言うようなことじゃないんだけど、俺が訓練生の時代のお前とつるんでたのって……お前の周りに寄って来る女の子目当てだったんだ。何というか、お前のおこぼれに預かれるんじゃないかと思ってさ……ごめん」

 

あたけの突然の告白にたかしは思う。

 

(ずいぶん唐突だな……まあ、少し本音を吐き出すことが出来たようで何よりだが)

 

「謝る必要などない。俺だって女とは仲良くしたいんだからな」

「えっ、ええっ、ま、マジで?!」

 

あたけが意外そうな顔で聞き返す。たかしは肩をすくめて答えた。

 

「そりゃあな……何せ俺だって吸血鬼だしな」

 

あたけは何か言いかけるがすぐに黙り込み、少し時間をおいて恐る恐る口を開く。

 

「……たかしって……あ、あのさ……」

「なんだ?」

「お前さ、やっぱりナンパして血を吸ったりとかしてるのか?」

 

たかしは顎に指先を当て少し考えてから答える。

 

「それはナイショだ。ただ……お前が知りたいというのなら俺のテクニックを教えてやろう」

「て、テクニックって……?」

「決まってるだろ……女たちと仲良くなる方法だよ」

 

「え?マジで?!本当か?!」

 

あたけは身を乗り出し、食い入るようにたかしの顔を見つめる。

これまでにない積極性だ、俺とのトレーニングでもこうならな……とたかしは思う。

 

「もちろん、俺とお前の仲じゃないか……。これは俺が今まで培ってきた経験をもとに編み出した技術だからな、教えられる奴がいるとしたら友人のお前だけだ」

 

「た、たかし……こんな俺を友と認めてくれるのか……」

「当たり前だ。お前は俺の友人であり、仲間だ」

 

「たっ、たかし……!」

 

感動した面持ちでたかしを見つめるあたけ。

 

そんなあたけの様子を見て彼の心の闇がわずかに晴れたことを確信し、たかしは満足げに微笑むと秘密のテクニックの解説を開始した。

 

「いいか?行くぞ?まずは女の目をよく見るんだ」

「あ、ああ……」

「それで目が合ったら微笑んでやれ」

 

「そ、それで?」

「それだけでいい」

「え……?」

「それだけでこっちに興味を持ってくれる」

 

「……そんなもんお前みたいなイケメン限定の話だろうが!!」

「お前はおしゃれも頑張ってるし、きっと向こうも興味を持ってくれるはずだ。髪の毛も紫色だしな」

 

「嫌味かよ、お前みたいにあれこれも持ってない俺は努力しないと女の子と仲良くなれないんだよ!」

「そうか、すまなかったな」

 

たかしは悪戯が上手くいったとばかりに肩を震わせて笑う。

その笑顔は伯父さんから学んだ人をコントロールするための技術ではなく、心からの友人に見せる自然な笑顔だった。

 

この場にありちゃんがいれば、たかしの笑顔に胸を射貫かれて卒倒していたことだろう!

 

あたけはたかしの態度にやや不満げだったが、それでもあのたかしが自分に対して作り物ではない本物の笑顔を向けてくれたことは理解したらしく、それ以上は何も言わなかった。

 

「でもさ、たかし……仮にさ、目が合って俺に微笑んでくれたとしても……どうやって女の子と話をすればいいんだ?」

 

「そうだな。女と話す時はなるべく聞く側に徹するのが理想だな。間違っても自分のことばかり話したり話を遮ぎるなどしてはいけない」

「わ、わかった。とにかく相手の話に興味を持ちながら黙って聞き役に徹するんだな?」

 

「……その通りだ。女たちは常におしゃべりなものだからな。……まあ、たとえこちらが退屈であまり興味がなかったとしても常に微笑んで聞いてやるべきだがな」

 

たかしがそう言うとあたけは無意識に髪をいじりながら天井の照明に視線をやる。

 

(俺が聞きたいのはそもそもどうやって話に持ち込むのかなんだけど……でも、コイツと俺じゃ条件が違いすぎるから参考にはならないか……)

 

そんなあたけを見てたかしはふと思い出したかのように口を開いた。

 

「あたけ」

 

「ん?」

「そろそろ髪を染めに行く時期か?」

「え、ああ、だいぶ落ちちゃったしな。根元も黒くなって来てるし。さすがにプリンだとみっともないからな」

「そうか……」

 

プリン?

たかしは視線を落とし、ワークベンチの上に置かれたカズーチャE2000にやる。

 

「ん?なんだよ?」

「……いや、俺も髪を切りに行こうと思ってな。今度の休日に一緒にどうだ?」

 

「え、一緒にって……お前と俺じゃ行く店が違いすぎるだろ……。たかしはなんかモデルが行くようなすげえ洒落た店に行くんだろうけど、俺は普通の美容院だからな」

「いや、いつもは従姉妹に……まあいい。チームメンバーが普段どういう生活を送っているのか把握しておきたいからな」

 

「えー……わかったけど、そんな、普通だからな俺。美容院行った後とかは服とか見に行ったりするけど、普段はそんな……普通だし」

「わかってるよ。本当は久しぶりにお前と友人として遊びたいだけだ」

 

「そ、そうか、じゃあいいよ。スケジュールが合えばな」

「ありがとう。ではそうしよう」

 

あたけは思う。

 

(たかしのやつもリーダーとしての悩みみたいなのがあるのかもしれないな……)

 

それから数日した後のガンドライド特別休暇の日。

 

たかしは従姉妹に呼ばれていたことを忘れており、夕暮れ時まで彼女に拘束されるなどの多少のトラブルはあったものの、とにかくあたけとたかしは待ち合わせ場所である駅前へと到着していたのだった。

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