女たちは言う。イケメン、美男子、美青年と。しかし、俺に相応しい呼び名があるならそれは……   作:でぃくし

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太陽と人狼との間で

「弟のリョウキだよ。こっちは似てるだろ?」

 

確かにあたけやみうめの写真とは目つきはやや異なるが、それでも彼らはどことなく似通っている。

だがたかしはそれよりも気になることがあった。

 

(日焼け?)

 

吸血鬼たちは太陽の光に弱いわけではない。

 

直射日光を浴びた吸血鬼が灰になる、というのは真っ赤な嘘だ。

 

どういった理由でそのような嘘が流通したのかはともかくとして、吸血鬼たちの滑らかで強靭な肌は太陽の光にさらされても、生命の危機に繋がるどころか、赤みを帯びることさえない。

 

少なくともたかしの伯父や従姉妹はそうだ。

 

彼らが日焼け止めなど使っているところなど見たことはないし、それに自分が半吸血鬼だと知らなかった小学生の頃のたかしでさえ、夏の暑い日に外を駆け回ったり泳ぎ回っても肌が日焼けすることはなかった。

 

(やっぱり日焼けだよな……)

 

花に水をやるあたけの弟リョウキ。

彼の首筋にくっきりとついた日焼けの跡を、たかしはまじまじと見てしまう。

 

(吸血鬼にも種類があるのか?)

 

たかしはじりじりと網の上で色を変えていくハラミを眺めながら考え込む。

 

いや、これは変身能力の一つではないのか?

 

吸血鬼たちが人間のふりをして人間社会に溶け込むなら日焼けくらいはした方が良いだろうからだ。事実、不自然なまでに日に焼けなかった子供の頃の自分はからかわれていたように思う。

 

つまりこの少年は日に焼けているわけではなく、カメレオンのように肌の色をコントロールしているという可能性が……。

 

(だが、本当にそれだけなのか?)

 

たかしは思わずぽつりと呟く。

 

「ずいぶん焼けてるな……」

 

するとあたけは何とも言えない微妙な表情を浮かべる。

 

「え?何が?焼けてるって?」

「え……ああ、すまん。少し焼き過ぎかなと思って」

 

「俺はこれくらいでちょうどいいけどな」

 

あたけがハラミを裏返すと、綺麗な焦げ目がついていた。

網の上からハラミを持ち上げると、肉汁がしたたり落ちる。

 

「つーかお前。人がせっかく家族の話をしてる時に肉の話かよ!」

「悪い、悪かった」

 

たかしは焼き網からハラミを一枚取り上げると、ありちゃんの取り皿へとよそってあげる。

 

「やっぱ先輩の焼いた肉は最高っす!自分で焼くよりうまいっす!!」

「ああ、どんどん食べてくれ」

 

「うっす……ありがとうございますっす!いただきまっす!」

 

口を大きく開けて肉を頬張るありちゃん。

彼女は幸せそうに体を震わせる。

 

(はぁー……かっこいいっす!先輩と一緒だとご飯がめっちゃくちゃ美味しいっす!)

 

一見無害で無邪気に見えるありちゃん。

だが、そんな彼女にはとある野望があった。

 

上司であるたかしにも言えない、恐るべき野望が彼女の中で今もなお進行中なのだ!

 

「ありちゃん、野菜は好きか?」

「うっす!先輩が取ってくれれば虫でも草でも何でも食べるっす!」

 

「ああ、じゃあこのおなす」

 

「うっす!大好きっす!」

「はいどうぞ」

 

しかしそれはたかしの悪戯だった。

 

たかしは少し焦げ色のついたなすびをありちゃんの取り皿に乗せると、ありちゃんの肉厚の唇にすかさずハラミを入れてあげた。

 

「ふぎゃんっ?!」

 

まるで親オオカミが子オオカミにそうするようにたかしから肉を与えられて、ありちゃんの顔はさらにぱあっと明るくなる。

 

「おいしいかい?」

「あぐあぐっ、おいしーっすー!!」

 

赤く染まったほっぺを押さえながらぷるぷると悶えるありちゃん。

 

(えっ……!?えっ??たかしの奴、いきなり何ありちゃんといちゃいちゃしてんの……?!)

 

自分の家族の話題からシームレスにラブコメみたいな真似をおっぱじめてしまったたかしに、あたけはぎりぎりと奥歯を嚙みしめる。

 

だがまあ、いい。今はそれよりもハラミだ。

 

(こんにゃろ!たかしめ!肉よこせ!)

 

嫉妬に胸を焦がし、焼けたそばからしゅぱしゅぱと自分の肉を奪い取るあたけ。

 

(そうだあたけ……今のお前に足りないものは……俺の腕からありちゃんを奪い取ろうとするくらいの、飢えだ)

 

とかなんとか適当なことを思っているたかしの顔を期待と尊敬を込めたキラキラした眼差しで見つめるありちゃん。

 

(もっともっともっと先輩に近づきたいっす!)

 

神話級のイケメンと髪の毛が紫色の吸血鬼にちやほやされて、うにゃうにゃふぎゃふぎゃと悶える人狼の心の奥にあるのはただの好意ではない。

 

ありちゃんはたかしと同じく裂け目の怪物に興味はない。

 

せいぜいめちゃくちゃに引き裂いて殺しても誰にも文句を言われないおもちゃとしか考えていない。

 

もっと言えば怪物によって人間たちが殺されようがどうなろうが、ありちゃんはなんとも思わないし思ってもいない。

 

それでも人ならざる身でありながら人の世界に溶け込もうとするのはなぜなのか。

 

全てはある目的のためだ。

 

「うっすっす、ぎゅふふ♪」

 

最近ではすっかり人の暮らしに慣れ過ぎて、自分がなぜガンドライドにやって来たのかを忘れかけていた部分もあったかも知れない……。

しかし、たかしとの相撲で強く抱き締められた瞬間、あの優しい腕と澄んだ瞳に捕らえられた瞬間、彼女は思い出したのだ。

 

自分が何をすべきかを。

 

(うっす!あたしと先輩の血を引いた人狼なら宇宙最強の存在になること間違いなしっす!ぜってぇ先輩の赤ん坊を産んでみせるっすよ~!)

 

ありちゃんは精一杯、口いっぱいに肉を頰張る。

もぎゅもぎゅと肉汁を飲み込む度ににやにやと笑ってお腹をぽんぽんと叩く。

 

(たくさん食べて大きくなって先輩の赤ん坊をたくさん作ってやるっす!そうすればきっと人狼が世界中に溢れて世の中は平和になるはずっす!)

 

人狼による世界平和……なんと壮大で刺激的な野望であろうか!

 

そのためにはもっと、たかしの側に居たい。

 

たかしの傍で、もっともっと強くなりたい。

強くなって偉くなって、お姉ちゃんの病気を治したい。

 

そして自分たち人狼こそが生まれついてのリーダーとして相応しいことを示すために、自分が知る中で最も強い男であるたかしを相手に下剋上を決めてみたい。

 

(いつか先輩もあたしのことしか考えられなくしてやるっすよ~♪)

 

そんなありちゃんの思いを知ってか知らずか、たかしは微笑みながら口を開く。

 

「ありちゃん」

 

「うっす!何っすか先輩!」

「欲しいものはあるか?」

 

「うっす!贅沢牛タンと極厚カルビに中落ちカルビと特上バラ、それからタレ漬けハラミとメガネにツラミ、それにこのびばぐりる特製禁断の背徳断崖ロースを食べたいっす!後はハツとミノとセンマイとハチノスとギアラを所望するっす!あっ、生大ジョッキくださいっす!」

 

雪崩のようなありちゃんの要求にたかしは微笑んだまま静かに頬を撫でる。

 

「……ああ」

「うっす♪」

 

(あたしのわがままに少し困ってる先輩の顔って、いつ見てもめちゃどきどきするっす!)

 

……ギアラってなんだろう。

遥か彼方のギアナ高地を思い浮かべて困惑するたかしであった。

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