隣にイケメン(親友)がいるとこうなる。   作:カナリア

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第1話 それはいつもの橋渡し

 俺の親友は、かなりイケメンだ。綺麗で艶のある髪に、形のいい眉。まつげは長くて目が大きく、鼻は小さいのに高くて唇が薄い。パーツ一つ一つとっても完璧なのに、それが完璧なバランスで顔に配置されている。もちろん顔は小さい。そして高身長。

 

「あ、あの、ちょっといいかな……?」

「ん、あぁ、おう」

 

 突然の腹痛に学校のトイレでクソをぶちかまし、手を洗って教室で待っている親友のところへ帰ろうとしていたところ、女の子に呼び止められた。確か、同じクラスの氷上(ひかみ)……下の名前はわからん。二年から同じクラスになったし大目に見てほしい。いったい俺は誰に言い訳してるんだ?

 こういうことは、よくある。親友にアプローチしたいけど、勇気が出なくて俺に橋渡しをお願いする、みたいな。小中高ずっとそんなことばっかりだったからもう虚無だ。最初の方は嫉妬もあったけどもう今は何も感じない。ほぼ生理現象と一緒だ。あって当たり前みたいな。

 

 氷上は頬を赤く染め、もじもじしながらなんとか言葉を紡ごうと口を開いたり閉じたりしている。清楚系美人だって噂されていたような気もする氷上がこうしているところは男ならぐっとくるものがあるところだろうけど、女の子に対してすべてを諦めた俺からしてみれば、氷上のことが好きな男に対して憐れみの情が浮かんでくるくらいだ。あぁ、この子も親友に夢中なのか、と。

 

「えっと、突然ごめんね? 呼び止めたりして」

「いいよ。今日は快便だったから」

「いつも便秘なんだね」

 

 そういうことじゃねぇけど……。否定するのもめんどくさいからそのままにしておこう。どうせこの子が俺のことを好きになってくれることはないから、俺が便の調子でその日の気分が左右される男だって思われても別にいいだろ。

 

「その……朝凪くんって好きな子とかいるの?」

「いないぞ」

 

 もったいねぇよなぁ。あいつくらい顔がいいなら選び放題だろうに。贅沢ものめ。

 

 俺の答えに、氷上はほっと息を吐いた。感情がわかりやすい子だなぁ。これで安心するってことは、あんまり女友だちいないのか? 親友はモテすぎて、そういう彼女がいるだとか好きな子がいるだとかいう情報は一瞬で出回るのに。

 

「そ、それじゃあ……い、いきなりで大変恐縮なんですが、れ、連絡先を教えてもらったりとかは」

「んー、おっけ、聞いとくわ。でもあんまり期待すんなよ? そういうの受け入れたことねぇから」

「えっ、あ、え? うん」

「んじゃ」

 

 軽く手を振って、氷上と別れる。後ろで「聞いとく……?」って困惑する氷上の声が聞こえてきた。なんだ、俺がわざわざ連絡先を聞いてくれるようなやつだとは思ってなかったってことか? じゃあ頼んでんじゃねぇよ人の善意に対して首傾げてんじゃねぇ。

 

 気持ち速足で教室へ戻りドアを開くと、ムカつくくらいイケメンな親友が、脚を組んでスマホをいじっていた。脚組んでんじゃねぇよ長さ見せびらかしてバカにしてんのか?

 

「おかえりー。なんだった?」

「一本だったわ」

「便の形聞いてねぇよ。帰りが遅かったから、また捕まってんのかなぁって」

 

 ワリィな、と謝る親友に「いつものことだから別にいい」と適当に返し、親友の前の席に座る。すぐに帰らないのは、いつもつるんでいる宮野が先生に捕まっているからだ。

 宮野は高校からの付き合いで、イケメンである親友のおこぼれを狙って近づいてきて、おこぼれが狙えないことが判明した後も「いいやつらだから!」と言って一緒にいてくれる、バカだけどいいやつ。もちろん先生に捕まっている理由はバカだから。

 

「一応聞くけど、連絡先教えてだってよ」

「ワリィ、断っといてくれ」

「はいはい。お前マジで彼女作ってくれよ。そうしねぇと俺が一生こんなことしないといけねぇだろうが」

「ははは」

「何笑ってんだぶっ飛ばすぞ」

 

 俺にはイケメンスマイル効かねぇんだよ。俺に向けてる暇あったら女の子に向けてやれよその笑顔。お前がそんなんだから一部の界隈で俺たちが人気になっちまうんだろうが。まだわかんねぇのか?

 

「うぃーっす。まーじで長かった」

「お疲れ宮野」

 

 疲れた声が教室に響き、入り口を見ると、げっそりした宮野がいた。ギラギラした金髪に着崩した制服。ピアスにネックレスと校則なんか知ったことかと言わんばかりの見た目の宮野は、「聞いてくれよ」と俺の机に座りながら不満げに言った。

 

「氷上が恋する乙女の目してたんだよ」

「先生からのお説教の話じゃねぇのかよ」

「姫ちゃん適当に褒めたら逃がしてくれるから楽だぜ?」

 

 我らが担任、姫ちゃん。本名姫川(ひめかわ)麻衣(まい)。姫ちゃんの愛称で親しまれる独身女性。本人は姫ちゃんと呼ばれることに強い抵抗があるらしく、「姫川先生って言いなさい!」と毎度叱ってくる。生徒想いのいい先生で、そんないい先生を「適当に褒めたら逃がしてくれる」と言ってのけた宮野は正真正銘のクズだ。

 

「どうせ(れい)のこと好きなんだろうなァ! いつになったらオレはおこぼれ貰えんだよ!」

「無理だろ。つか氷上と会ったんだな。ちょうどさっき俺話してたわ」

「あ、マジ? じゃあ確定じゃん。悠里(ゆうり)と話す女の子に、麗との橋渡し以外の目的なんてねぇもんな」

「ははは。殺してやろうか?」

「おい待て! 事実だろ!」

「原因であるテメェに言われんのが一番ムカつくんだよ!!」

 

 止めにきたようで火に油を注いだ親友、麗を軽くぶん殴ってやろうとしたが、その場面を俺たち以外の誰かに見られたら俺は学校生活が終わる気がしたからやめておいた。こいつに危害加えようもんなら、こいつのことが好きな女の子全員が敵に回っちまう。マジでふざけんなよ。こいつと親友やるメリット一つもねぇじゃねぇか。

 

「でも悠里はまだマシだよなぁ。女の子と喋るチャンス自体はあんだから」

「どこが。さっきだって『朝凪くんって好きな子いるの?』って聞かれたんだぞ? 俺の気持ち考えてみろよ」

「気の毒」

「喧嘩売ってんのか?」

「悠里が考えてみろっつったんだろ!」

「なぁ」

 

 また喧嘩を始めようとした俺たちを止めたのは、やけに冷静な麗の声だった。なんだよお前、原因であるお前がいい子ちゃんに喧嘩止めてんじゃねぇよ。俺たちはなんらかの形でストレス発散しねぇとやってらんねぇんだよ。

 

「なんだよ」

「さっき、『朝凪くん』って言ったか?」

「おう」

「おいおい悠里、どうする? こいつ、この期に及んでモテるアピールしてるぜ?」

「ドラム缶に閉じ込めて金属バットでぶっ叩いてやるしかねぇな」

「なんでそんなにさらっと拷問方法が思いつくんだよ。じゃなくてさ」

 

 俺、榊原(さかきばら)(れい)だぞ。お前は誰だ? と聞かれ、自分の名前を思い返してみる。

 俺の名前は、朝凪(あさなぎ)悠里(ゆうり)。一部の界隈では受け側として置かれているらしい一般男子高校生だ。

 

 ……朝凪?

 

「え? おい、いや、そんなまさか! 悠里の聞き間違えじゃねぇの? 彼女ほしい願望が強く表れすぎたみてぇな?」

「自慢じゃないが、こいつの隣にいる時点でそんな願望はとうの昔に捨ててる」

「ほんとに自慢じゃねぇな」

 

 絶対いつもの橋渡しだと思って全然違和感なかった! 確かに氷上は「朝凪くん」って言ってた! だから最後、「聞いとく……?」って困惑してたのか! そりゃそうだよな。目の前にいる相手に「連絡先教えて」って言ったのに「聞いとく」って言われたら。俺は親の許可得ねぇとスマホ触れねぇのか。そんな箱入りになった覚えねぇぞチクショウ。

 

「宮ちゃん、どう思う?」

「肉親を人質に取られている可能性があんな」

「本当に俺のことが好きな可能性より先に思い浮かぶのがそれか?」

「じゃあ聞くけどよ」

「ないな」

「聞かせろよ」

 

 麗が隣にいるのに、俺(悠里)のことを好きになると思うか? って聞かれるのは目に見えていたから先に答えてやった。だって俺もそう思うし。こんな明らかなイケメンがいて俺を好きになる? そりゃ人質だって取られてるだろ。

 

「でも、罰ゲームなら宮野に対しての方が成立しねぇか?」

「いや、宮ちゃんはバカだから真に受けるだろ。そんな可哀そうなことはさせられなかったんじゃないか?」

「なんで俺に対しては可哀そうじゃねぇんだよ」

「現在進行形でバカにされてるオレのが可哀そうだろうが!」

「「ごめん」」

「いいよ」

 

 やっぱり宮野はいいやつだ。謝ったらすぐに許してくれる。

 

 いや、でも、罰ゲーム? あんな態度だったのに? あれは完全に恋する乙女の態度だったぞ。俺にはわかる。俺は恋する乙女と喋った回数なら誰にも負けない自信がある。麗のせいで。

 

「けど、告白を罰ゲームにするのは趣味悪いな。先生に言うか」

「だな。姫ちゃんそういうの許せなさそうだし」

「いや、待て! もし本当に、本当に氷上が俺のこと好きだったら、氷上に対してものすごく失礼だろ、それは」

 

 麗と宮野が目を合わせて、悲しそうに目を伏せる。そして宮野が俺の肩に手を置いて、俺の目をまっすぐ見て言った。

 

「悠里が麗に勝てる要素、一つでもいいから言ってみ?」

「俺が悪かった」

 

 そうだな、ねぇよな。麗が性格めちゃくちゃ悪いとかならともかく、性格いいし。すべてにおいて俺は負けてるから、麗じゃなくて俺を好きになる道理が一つもねぇや。本当嫌になるな。随分前に捨てた期待が、実際目の前に振ってきたら縋り付いちまうなんて。

 

「でも、どっちにしろ確かに氷上さんが悠里に告白したなんてこと万が一広まったら、氷上さん可哀そうだしな。この件は俺たちの間で終わらせておこうか」

「なぁおい。よく考えりゃテメェが原因で俺がこうなってんだろうが。なんだその態度テメェ麗コラおい」

「ははは」

「何笑ってんだテメェ。二度と俺の前で喜怒哀楽を表現すんじゃねぇぞ」

「なーなー。なんで二人はそれで親友なん?」

 

 俺が聞きてぇよ。

 

 

 

 

 

「どうだった?」

 

 朝凪くんの背中を見送って、しばらく。ぽけっとしていた私に、佐那から声がかけられる。それでようやく我に返って、好奇心と心配がまぜこぜになっている佐那の目に苦笑した。

 

「私の好きな人、便秘っぽい」

「どういうこと?」

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