東方龍白録 〜The End of Crossover Fantasy.   作:タミ

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辺境から暖かさが奪われ、永い冬が訪れた。
白銀の悪魔は幻想郷の人間を黙らせた。

時は経ち、次第に春の香りが訪れる頃になった。
いつもなら、幻想郷は白い吹雪から桜色の吹雪に変わるはずだったのだ。

そして春はまだ、来ない。


其之十一 極寒の春

「ふああ……春眠、暁を……って言うけど、ど〜見ても春じゃないわよね」

 

魔理沙と悟空が調査に出発したころ、霊夢はあくびをしながら神社の境内の雪かきをしていた。

 

博麗神社周辺はすっかり雪景色となっていた。

 

それも、魔理沙のところとは比べものにならないほど大量に積もっている。

 

「……さ〜むっ、こうも寒いとただでさえ無いやる気のメーターが振り切れるというかなんというか」

 

霊夢は大きく伸びをして、ため息をつく。

 

や〜めた、と霊夢はだらだらと部屋に戻っていく。

 

「おこたが恋人」

 

そう言ってこたつに入ってうとうとし始めた。

 

「もともとこのおこたと私は一心同体でおこたの悪の心が分離したのが私だったりして」

 

そんなわけないだろ、というツッコミ役がいないせいでどんどん話が飛躍していく。

 

しかし、当の本人は至福の時間を過ごしているため幸せそうだ。

 

「うむ、このフィット感、このスーパーパワー……これは相手がどんな寒さだろうと負けるはずがないわ」

 

すると、境内に誰かがやってきたことを霊夢は察知した。

 

芋虫のように畳を移動し外に繋がる障子を開く。

 

そこにいたのは、かつて霊夢と一戦交えた十六夜咲夜だった。

 

「あー……あんた、吸血鬼んとこの」

 

咲夜は久しぶり、と軽く挨拶した。

 

「悪いけど今おこたと融合して超博麗の巫女になる神聖な儀式の途中だからお賽銭入れて回れ右して帰んなさい」

 

霊夢はそれだけ告げると障子をぴしゃりと閉じて再びこたつの中に潜っていった。

 

視線を部屋に戻すと、既に咲夜が霊夢と向かい合うようにこたつに入っていた。

 

「……時間止めて部屋に入んないでくんない」

 

呆れたような声で霊夢は言った。

 

「巫女に話を通すには多少強引にアプローチをしろと白黒が」

 

「魔理沙の入れ知恵か……」

 

霊夢は深いため息をついた。

 

ヘンなこと教えんじゃないわよ、と呟く。

 

魔理沙に常識を求めたところで無駄だとわかっていてもつい口にしてしまう。

 

それは彼女の魅力でもあり欠点でもあるのだが。

 

「……で、何の用よ」

 

霊夢は暖かいお茶を啜りながら尋ねる。

 

「雪ばかりで飽きてきたから春を連れ戻してこい、とお嬢様が」

 

私も寒いのが続くと困るもの、と咲夜はいつのまにか湯呑みに緑茶を注ぎ飲んでいる。

 

相変わらず油断も隙もないメイドである。

 

しかし、今の霊夢の頭は暖かさに支配されており、その程度のことはどうでもよかった。

 

むしろこのまま永遠に続いてくれてもいいくらいだと思っている。

 

だが、いつまでもそうしているわけにもいかないだろう。

 

霊夢は再び大きなため息をつく。

 

「あー、わかったわかった、行くわよ行けばいいんでしょ」

 

「それはよかった」

 

咲夜の表情がぱっと明るくなる。

 

「着替えるから表で待ってなさいよ」

 

そう言いつつ、霊夢は寝巻きを脱いで普段着に袖を通し始めた。

 

 

 

暫くして、霊夢は普段の巫女服に着替え咲夜に合流した。

 

じゃあ行くか、と軽く準備運動を始める2人に、何者かが近づいてきた。

 

「やい、紅白っ!」

 

それはレミリアの異変時に霊夢たちにちょっかいをかけてきたチルノであった。

 

「げっ…あんた、まだ懲りずになんかやらかすつもり?」

 

霊夢は露骨に嫌そうな顔をする。

 

「今日のあたいは"ひとさば"違うの!」

 

「ひとあじ違う、でしょ」

 

間を置かない霊夢のツッコミに咲夜は可笑しくなってしまったのか口を手で押さえ横を向く。

 

しかし、その程度で笑いが収まるわけもなく肩が小刻みに震えている。

 

「……聞かなくてもわかるけど、何しに来たのよ」

 

「ふくしゅー、だ!」

 

霊夢はあからさまに肩を落とす。

 

「わかったわかった、じゃあ…」

 

と、霊夢は足元の足を拾い上げる。

 

「この石今から投げるから取ってこれたら勝負してあげる」

 

そう言って霊夢は石を思い切り遠くに投げ飛ばした。

 

「なんてスピードなの……ッ!あたいじゃなきゃ見逃しちゃうわね!!」

 

チルノはそう言うと猛ダッシュで石目掛けて走っていった。

 

そして、あっという間に林の中へ消えてしまった。

 

「じゃ、あんなのほっといて行きましょ」

 

「……ぷっ、ふふっ」

 

咲夜はまだ笑いを堪えていた。

 

「ひどいことするわね」

 

「いいのよ、関わるだけ時間と労力のムダ」

 

霊夢は再び肩を落とす。

 

「さむ~っ……アレのせいで余計に寒くなった〜っ」

 

「さっさと黒幕に出てきてもらいたいものね、早くカタがつくのに」

 

身震いする霊夢たちに再び誰かが近付いてくる。

 

「く ろ ま く 〜」

 

雪の結晶を纏いながら銀髪の女性が現れる。

 

「……アレが黒幕だって」

 

「殺しましょう」

 

霊夢と咲夜はそれぞれ武器を取り出す。

 

「ちょ、ちょっと待って!私は黒幕だけど普通なのよ」

 

氷の妖怪ことレティ・ホワイトロックは慌てて2人を静止する。

 

「黒幕に普通もクソもあるか」

 

「遺言はそれでいいのね」

 

が、2人は戦う……というより蹂躙する気満々だ。

 

「あわわ……」

 

慌てふためくレティに向けて霊夢と咲夜は各々の武器を投擲する。

 

2人の攻撃は空を切り、代わりに無数のナイフと御札が飛んでいく。

 

「ひえええっ」

 

悲鳴をあげながらレティは必死に逃げ回る。

 

「甘い」

 

咲夜は時間を停止させ、何処からか持ってきたガムテープでレティを簀巻きにする。

 

「さて、これで動けなくなったわね」

 

咲夜は満足気に呟き、再び時間を動かす。

 

「うぐう〜」

 

「やっぱ手際いいわねあんた」

 

霊夢は感心しながら咲夜を見つめる。

 

「さて、黒幕その一は片付けたことだし次の黒幕でも探してシバきに行きましょう」

 

そうして2人は神社を後にした……

 

 

 

 

 

 

「う〜っ、寒すぎだっ」

 

魔法の森を出発した魔理沙と悟空は強烈な吹雪に遭っていた。

 

「前がぜんぜん見えねえな」

 

悟空は目を凝らしどうにか視界を確保しようとしている。

 

「寒いのは嫌いだよ、ったく」

 

哺乳類なんだから人類は全員冬眠すべきだ、などと魔理沙はぼやき続けている。

 

そんなことを言っているうちに吹雪の勢いは更に強くなっていく。

 

「魔理沙、あんまり離れすぎるなよ」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれっ」

 

猛吹雪は衰えを知らず、ホワイトアウトを起こしている。

 

そのせいで魔理沙も悟空もお互いの姿を見失っていた。

 

「くそっ、埒があかねえっ……悟空!一旦雲の上まで上昇しよう!」

 

わかった、という悟空の声が聞こえたのを合図に魔理沙は姿勢を低くして急上昇する。

 

「ぷはあっ」

 

魔理沙はなんとか雲の上の高高度まで上昇してきた。

 

「……おーいっ、悟空ーっ!」

 

大声で叫ぶが返事はない。

 

「……まさか……」

 

一瞬嫌な予感がよぎるが、すぐに考え直す。

 

「あいつに限ってそれはないか」

 

あの悟空がそう簡単に死ぬはずがない。

 

そう思い直し、再び辺りを見回す。

 

「……居ないな」

 

「悟空ーっ!居たら返事してくれーっ!」

 

返事は来ない。

 

「くそ……どこ行っちゃったんだよ悟空のやつ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、悟空も魔理沙と同じように雲を抜けるべく上昇していた。

 

「ふうっ、やっと抜けられたあ」

 

悟空は周りを見回す。

 

「……あれ、魔理沙の気が感じられねえぞ……」

 

魔理沙の姿も確認できない。

 

「ヘンだな……」

 

ふと周りの景色に意識を向けると、先程までの雪を被った山の景色は一変し、小さな集落が広がっていた。

 

何度か行った人里とは明らかに違う。

 

「……魔理沙が消えちまったんじゃなくて、オラがヘンなとこに来ちまったのかな」

 

おかしいなあ、と着地して悟空は頭をかく。

 

「おかしいと思ったのなら人に聞く!」

 

すると、いつのまにか悟空の目の前に猫の耳がついた少女がいた。

 

「おおっ!?びっくりしたあ」

 

猫の耳の少女、橙はふんす、と胸を張る。

 

「……おめえ、人じゃないんじゃないか?」

 

数秒の沈黙が訪れる。

 

「に"ゃっ!?」

 

橙の耳と尻尾がぴーんと伸びる。

 

「そうだった…」

 

橙はがっくりと項垂れ、先程までぴんと張っていた耳と尻尾は萎れてしまう。

 

「おめえ、ここに住んでんのか?」

 

「そうよ!」

 

橙は再び耳を立てる。

 

「オラ道に迷っちまったみてえでさ、幻想郷に帰りてえんだけど、道知らねえかな」

 

「にゃ?あなたもしかして……」

 

上半身ごと体を傾けて橙は疑問を表す。

 

「どうした、侵入者か?」

 

すると、集落の方から道士服を着た金髪の女性が現れた。

 

背中には尻尾と思われるもふもふが9本伸びており、九尾の妖狐を彷彿とさせる。

 

「あ、藍さま!」

 

橙は嬉しそうに尻尾を立てる。

 

「なんだかまたヘンなのが出てきたなあ…」

 

悟空は大きな尻尾を携えた藍と呼ばれる女性を見てぽかんとする。

 

「……ひどく特徴的なツンツン髪に……妖怪ボゲエの吐瀉物の色の道着……」

 

「いや……山吹色だぞ……」

 

藍と呼ばれた女性は納得したように何度も頷く。

 

「紫さまが仰っていた、孫悟空とはあなたのことですね」

 

「あ…ああ、孫悟空はオラのことだけど」

 

悟空は困惑しながら答えた。

 

「申し遅れました、私は八雲藍。八雲紫さまの式神です」

 

藍は深々と礼をする

 

「この子は橙。私の式神です。ほら、あいさつだ」

 

「こんにちは!八雲藍さまの式神、橙ですっ!」

 

「お……おう、オラ孫悟空だ」

 

悟空は橙の放つ元気オーラに気圧されつつ会釈を返す。

 

「そっか……おめえたち紫のとこのヤツだったんだな」

 

通りで紫に似た気だなと思った、と悟空は言う。

 

「紫は元気か?」

 

「ええ、今は冬眠されておられますが」

 

「と、冬眠?あいつ、クマか何かなのか?」

 

「い、いえ……そういうわけではありませんが」

 

藍は苦笑いをしながら答える。

 

「そういやオラの世界って見つかったのかな」

 

悟空は紫に頼んでおいたことを思い出す。

 

「その件ですが、まだ時間がかかりそう、とのことでした」

 

それを聞き、悟空はそっか、と肩を落とす。

 

悟空はこれまでの経緯を話した。

 

「……ってわけでさ、オラと魔理沙でずっと雪を降らしてるヤツらを探してたんだけど、逸れてここに来ちまったんだ」

 

藍は顎に手を当てなるほど、と呟いた。

 

「現在幻想郷は、上空に暖気が集中しているようです」

 

「空に?」

 

「春の気が集まっている、ということです。結界も確認されており、現在冥界へと繋がっているのです」

 

「じゃあそこに行けばいいんだな?」

 

藍は深く頷く。

 

「魔法使いも同じ現象を追っているのならばいずれ冥界に行き着くことでしょう」

 

悟空はわかった、と微笑む。

 

「霧が出ている方へまっすぐ向かっていればいずれ幻想郷に戻ります……ご武運を」

 

藍は深々と礼をする。

 

それを見て橙も慌てて藍に合わせるように礼をした。

 

「サンキュー!いろいろ助かった!」

 

悟空は2人に礼をして飛んでいった。




春を奪った元凶は冥界に居ると突き止めた悟空たちは、それぞれ冥界を目指し結界を超える。
次回、「冥界へ……」をお楽しみに。

感想やお気に入り、評価、ここすき等、是非お願いします。やる気が出ます。次回投稿が早くなります。……たぶん。
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