東方龍白録 〜The End of Crossover Fantasy. 作:タミ
再び、ここから始めよう。
「お、あれだあれだ」
魔理沙は前方に見える鳥居を指差す。
「あそこにおまえを外の世界に帰せるヤツがいるぜ」
2人は降下し、神社の境内に降り立った。
「おーい、霊夢やーい」
魔理沙は大きな声で呼びかけながら歩く。
すると、奥の方にある本殿の扉が開いた。
中からは紅白の巫女装束に身を包んだ少女が出てくる。
黒髪に赤いリボンをつけている。
「何よ魔理沙こんな昼過ぎに」
せんべいたかりに来たって無駄だからね、と気だるげに言う。
彼女の名は博麗霊夢。
ここ、博麗神社の巫女である。
幻想郷の結界の維持をはじめとした大役を担っているらしい。
また、異変解決の専門家でもある。
ちなみに魔理沙とは昔からの付き合いで、一応は親友と呼べる仲だ。
「いやな霊夢、こっちの……」
「あら、お客さんだわ……素敵なお賽銭箱はそこですよ」
魔理沙が紹介しようとするが、それよりも早く悟空の存在に気付いた霊夢は嬉々として話しかける。
遮られた魔理沙は不満そうな表情を浮かべていた。
そんなことは一切気にせず、霊夢は悟空に歩み寄る。
「それで、どうしたの?」
「オラ孫悟空だ、よろしくな……」
悟空は若干引き気味で名乗る。
「悟空はどうやら外から来たらしくてさ……おまえなら帰してやれるだろ?」
魔理沙は悟空に代わって説明する。
悟空は不安そうに二人の様子を伺っていた。
「ふうん?」
霊夢も魔理沙がしたように悟空を観察する。
「まあ、出来なくはないわよ」
「それはどうかしらね?」
その時、空間がチャックを開けた袋のように開き、そこから何者かが現れた。
「……妖怪が神社に来るなよ」
霊夢は面倒くさそうに言う。
「"初めまして"、孫悟空さん」
現れた人物は紫と白を基調とした服に身を包んだ金髪の女性だった。
「あんた、オラのこと知ってるのか?」
「ええ、あなたとそこの魔法使いさんの熱〜いバトルを視てましたもの」
その女性は扇子で口元を隠しながらクスッと笑う。
「……先代から聞いたことあるわ……あんた、境界の妖怪ね」
霊夢がジト目で女性を睨む。
その視線を受けた当の本人は、 あら怖い、とわざとらしく震えてみせる。
しかし、その目は笑っている。
その態度を見て、魔理沙は苦笑いする。
(うさんくせ〜……)
「私は八雲紫。ご存知のとおり境界を引いたり弄ったりしちゃうお茶目な妖怪なの」
自己紹介した紫は悟空に近づき手を差し出す。
悟空は苦笑いでその手を握り返す。
「それで、お茶目な妖怪さん……悟空さんは帰れない、って言いたげね」
霊夢はため息をつきながら紫に言う。
魔理沙も腕を組んで呆れた様子だ。
しかし、紫は余裕の表情のまま答える。
まるでこうなることを予想していたかのように。
そして、霊夢達を見据えて続ける。
これから話すことは嘘でも冗談でもなく、真実なのだということを知らしめるように。
「外の世界に、悟空さんの居場所はないのだもの」
「……どういうことだよ」
耐えきれなくなり魔理沙が紫に突っかかる。
「文字通りよ。外の世界に"孫悟空"という人物は元々存在しない」
その言葉を聞き、霊夢と魔理沙の顔が驚愕に染まる。
その反応を楽しむような素振りを見せつつ、さらに話を続ける。
「つまり、悟空さんが元々いた場所と、幻想郷の外の世界は別の世界だ、ということよ」
「……オラよくわかんねえや」
悟空は頑張って理解しようとしていたがどうやら諦めてしまったようだ。
紫はゆっくりと語り続ける。
曰く、我々が"世界"と呼ぶ存在は無数に存在すること。
そして、幻想郷とは別の"世界"の地球から悟空はやってきてしまったこと。
「……つまり、その外の世界ってのはオラがいた場所じゃないってことか」
ようやく状況を理解した悟空は呟く。
その様子を見て、紫は微笑みながら大きく首肯する。
魔理沙も霊夢もその話を真剣な面持ちで聞いていた。
「……じゃあ、悟空はどうやったら帰れるんだよ」
魔理沙は腕を組みながら問いただす。
「私の力なら出来なくはないわ。でも悟空さんの世界を探すのにかなり時間がかかるわね」
紫の言葉を聞いた悟空は再び表情を曇らせる。
「そっか……でも帰れはするんだな?」
紫は穏やかな表情で肯定する。
「ならまあいっか!」
悟空はあっけらかんとした笑顔を見せる。
その態度に霊夢と魔理沙は思わずズッコケてしまった。
「軽いな悟空……それでいいのか」
魔理沙は半ば呆れ顔で尋ねる。
それに対して悟空はニカッと笑って答えた。
それを見た魔理沙は、はぁと大きなため息をつく。
霊夢は相変わらず気だるげにしている。
「幻想郷の景色や環境はあなたにとってはとても新鮮なものになるわ。せっかくだから楽しんだらいかが?」
と紫は飄々とした態度で悟空に言う。
すると、悟空は少し考えてから、そうだな!と元気に返事をした。
そのやりとりを見て、魔理沙はまた大きな溜息をつくのだった。
「じゃあ私はこれで〜」
掴みどころのない態度のまま紫は消えていった。
「……言いたいことだけ言って消えやがったわ」
霊夢も肩を落とす。
「そういや悟空、ここでしばらく過ごすんなら寝床はどうするんだ?」
魔理沙がふと思い出したように悟空に聞く。
「あっ、オラ全く考えてなかった!」
ははは、と悟空は明るい笑顔を浮かべる。
それと同時に、悟空の腹からぐううう、と音が鳴った。
「オラ、ハラ減っちまった……」
悟空は照れたように頭を掻く。
そんな様子を見て、霊夢と魔理沙はお互いの顔を見合わせて苦笑する。
「もう日が暮れてきたし、ご飯にしましょ」
せっかくだからご馳走するわ、と霊夢は台所へ向かっていった。
「あんたも手伝いなさいよ魔理沙」
「へいへい」
それからしばらくして、すっかり月が顔を出し、幻想郷に夜が訪れた。
神社内の居間では悟空、魔理沙、霊夢の3人が食卓を囲んでいた。
囲んでいた……のであるが、
魔理沙と霊夢は全く箸が進んでいなかった。
その理由は言うまでもない。
目の前にいる大食い男である。
魔理沙と霊夢はそれぞれ2人前ずつ用意していたのだが、悟空はそれを軽く平らげたのだ。
さらに言えばおかわりを要求した。
さすがの二人もこの事態には困惑していた。
悟空の食べる速度も量も常人の比ではなく、炊いていた米はあっさり無くなり先程炊きなおしたばかりだ。
「……ウソでしょ」
霊夢は信じられないといった表情で呟く。
魔理沙に至ってはもはや声すら出ないようだ。
一方の悟空は満足そうな表情で、 うめえなこれ、と言いながら食事を続けている。
「ぷはーっ!食った食った!」
最後の一口を食べ終えると、悟空は幸せそうな表情でお腹をさする。
その姿に、二人は唖然とするしかなかった。
こいつ、もしかして妖怪かなんかじゃないのか、と魔理沙は頭の片隅で考えていた。
「……すごい食べっぷりだったわね」
塔のように積み重ねられた食器を片付けながら霊夢が呟く。
「2人のメシすげえうまかったぞ!ありがとな!」
「……いやまあ、残さず食べてくれたことは嬉しいけど……度肝抜かれたというか……」
魔理沙は苦笑いしながら言う。
「……なあ、悟空……もし、迷惑じゃなかったら、私に……」
魔理沙は俯き目線を逸らしながら呟く。
「……なあ魔理沙」
それを遮るように悟空が真面目なトーンで魔理沙に話しかける。
「……外の様子がおかしくないか?」
魔理沙はハッとして外を見る。
そこには、見慣れた夜空はなく、鮮血のような紅く染まった空が広がっていた。
「……なんだアレ」
霧の中から見る満月はぼやけて数倍ににも膨れて見える。
「妖気の霧だぜこれ……明らかに有害だ」
魔理沙は顔をしかめながら言う。
霊夢は異変を感じ取り、すぐに外へ出る準備をする。
「これはただ事じゃないわね……面倒だわ……ま、いつもは昼間ばっかりだから偶には夜でもいいかもね」
「私は夜はごめんだね、変なのしかいないんだもの」
「2人とも、原因を調べに行くんだな?」
悟空は霊夢と魔理沙に尋ねる。
「もちろん行くつもりだけど……悟空さん、あなたはここにいたほうが……」
霊夢はそう言って外に出ようとする。
「いや、オラも行かせてくれ。これからしばらく世話になるんだ、少しくらいみんなの役に立たねえとな」
「……大丈夫なの、連れて行って」
悟空のセリフを聞いた霊夢は魔理沙に耳打ちする。
「……そうか、霊夢は知らないんだったな……私は悟空にボロ負けした……これでわかるだろ」
魔理沙の口から思いもよらぬセリフが出てきたため、霊夢は目を見開く。
(……負けずギライの魔理沙が"ボロ負けした"だなんて……悟空さん、一体何者なのかしら)
まあ今は後ね、と小声で呟き霊夢は伸びをする。
「悟空さん、協力してくれるなら助かるわ」
霊夢の言葉に悟空は笑顔で応える。
「決まりだな、行こうぜ!」
3人は勢いよく飛び出していった。
突如現れた妖気の霧の出所を探るため、出発した3人の前に、最強の妖精と虹色な門番が立ちはだかる。
次回、「紅の夜」 お楽しみに。
感想やお気に入り、評価、ここすき等、是非お願いします。やる気が出ます。次回投稿が早くなります。……たぶん。