仮面ライダーハカイブ   作:大ちゃんネオ

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牙を剥くDragon!

 とある研究室。

 防護服にマスクという厳戒態勢で一人の研究者が紺青に輝く魂をブランクトゥームに納めていた。

 

「……70%、80%、90……100%。魂入れ完了」

 

 マスクと防護服のフードを取り、長い黒髪が垂れ下がる。

 研究者の正体はドクターハカリであった。

 

「ふう……。とんだ大物を仕入れることが出来ましたね……」

 

 トゥームに彫られた名を見て呟くハカリの額は汗ばんでいた。

 それほど、神経を使う作業であったのだ。

 ともかく、魂入れは終了。

 妖しく口元に笑みを浮かべたハカリはトゥームを手にし、研究室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦士の墓場。

 ソナエモン技術局。

 

 どんよりとした空は戦士の墓場の日常の空。

 灰色の空を背景に建つ白亜の建築。

 ソナエモン家が設立した戦士の墓場の最先端を往く科学技術研究所である。

 建物の外観が箱のようなことと、様々な研究を行う施設であることから戦士の墓場の住民達はここを「ビックリ箱」と呼んでいた。

 

 そんなソナエモン技術局の主任を務めるのはソナエモン家の現当主ホウヨウ・ソナエモン。

 ソナエモン家きっての若き天才とも称された女科学者である。

 ちなみに独身。

 

 そんな彼女の研究室を訊ねていたのは、儚の父グランであった。

 戦士の墓場に生息する奇怪な生物の薬品漬けが無数に並び、やたらと薄暗く、何故かピンクと紫の光が光源となっている部屋に二人はいた。

 

「預かっていたものの分析は完了したわ……。グラン、これを作ったのはグレイダーだと?」

 

 ホウヨウがグランから預かったもの。津木纏に巻かれていたトゥームグレイダーバックルとトゥーム。

 グランはこの二つをホウヨウに預け、解析を頼んでいたのだった。

 それから数日で解析を完了したと報告を受け、すぐに結果を聞きに来たグラン。ホウヨウの着ている白衣のシワやシャツのよれ具合から、寝る間を惜しんで解析してくれたことを察していた。

 

「ああ。……その口ぶりだと、何か不審に思うことでもあったのか?」

「簡単に言えば、このバックルは墓守ノベルトの新型と言っても過言ではない……と言えるようになるかもしれないわね」

「なに……?」

「まだまだ荒削りだけど、試験運用を重ねてデータを蓄積していけば完全に墓守ノベルトを越えられる。特にエネルギー効率はいい。無駄がない。これなら魂から更に力を引き出した上で負担も少なく出来る……。製作者に会ってみたいわ。ボコボコにしたあと、うちの即戦力にしてやる」

 

 ホウヨウがそこまで言うとはとグランは驚いていた。

 顔には出ていないのでホウヨウにはまったく伝わっていないが。

 グランが知る限り、ホウヨウが認めた人間は少ない。

 特にホウヨウと同じ分野では。

 

「すまない。忙しいところにこんな頼み事をして」

「気にしないで。君に頼られると気分がいい」

 

 美白の足を組み直し、どこか愉しげな顔をグランに向けてホウヨウは言った。

 そんな彼女の表情に合わせ、グランもまた張り詰めた表情が綻ぶ。そして、解析のお礼にとグランは懐から小瓶を取り出してホウヨウのデスクの上に置いた。

 

「なにこれは」

「遠征先で手に入れた香水だ」

「こんな洒落たものを私に渡すのは君だけだよ」

「そうか。前に、研究に没頭し過ぎて風呂に入らないことも多々あると言っていたのを思い出してな。ちょうどいいかと思ったのでな」

「そういえばそんなこと言ったような……。ちょっと待って」

 

 ホウヨウはハッとした様子でグランに伺いたてた。

 

「なんだ」

「その……臭う?」

「俺は気にしない」

「臭うのね!!!」

 

 ホウヨウはデスクに項垂れる。

 そんなホウヨウにグランは再び、自分は気にしないと声をかける。

 気を遣ってではなく本心から言っているのだが、ホウヨウからすれば追い討ちをかけられたようなもの。

 デスクに頭を伏しながら、ホウヨウは香水を自分にかけて、ひとまず臭いを誤魔化した。

 

「はあ……甘ったるい匂い」

「良い香りだ」

「……マイリを思い出すから?」

 

 ぼそりと呟いたホウヨウの言葉にグランは答えなかった。

 グランの脳裏に、儚に似た銀の瞳と髪の女性が現れる。

 たしかに、彼女も儚もこの香水に似た香りをしていたと思い返す。

 無意識に気に入った匂いだからと手にしたものに、そんな因縁があったとは。そう思わずにいられなかった。

 

「先日の講習会で儚と会ったけど……ますますマイリに似てきたわね。性格は似つかないけど」

「……そうだな」

「このまま儚を育てて嫁にする気?」

「……」

「その手があったかみたいな顔をするのはやめて頼むから」

「冗談だ」

 

 その言葉に嘘偽りはないことをホウヨウは理解していた。

 グランとは言葉を覚える前からの仲なのだ。

 

「俺は儚にこの事を伝えてくる」

「ええ。こんなものを作れるような逸材がグレイダーにいるとなれば、警戒しておくべき。……あなたも儚に付きっきりというわけにはいかないわけだし」

「ああ……」

 

 何か思うところでもあるのか、グランは肩越しにいつも背負っている布の包みに目をやる。

 すると、仄かにだが布越しに光が明滅した────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレイダー本部。

 薄暗い物置部屋に鎖で繋がれたヒラリーがいた。

 上半身は裸で、身体には鞭で打たれたような跡が無数に刻まれている。

 鎖で繋がれた猛獣のような眼光を放つヒラリーによって、部屋の空気は重い。そんな部屋に、部屋中を充たすプレッシャーなど関係ない様子でドクターハカリが入室した。

 

「ヒラリーく~ん? 反省出来ましたか~?」

「……それはもう、たっぷりと」

「そうですか~。トゥームグレイダーバックルを墓守に回収された上に、敵前逃亡。殺されててもおかしくないですよ~?」

 

 津木纏を利用し、ハカイブの排除を狙っていたヒラリー。実は隠れて津木纏の様子をモニターしていたのだがグランの登場により作戦は頓挫。

 戦うことなく撤退し、トゥームグレイダーバックルはグランに回収されるという失態を重ねていた。

 

「まあ紅薔薇帝の登場は予想外で私も同情しますけど~。でもせめてバックルぐらいは回収してきてもらえませんかね~。せっかくの完成品なんですから~」

「分かってるっての……。あの時はまだ傷も癒えてなかったからね……そんなんでインフェルニティと殺り合えば確実にこっちが死んでた……」

「弱音、吐かないでくださ~い」

 

 そう言いながら、ヒラリーを拘束する鎖を解いていくハカリにヒラリーは怪訝な目を向ける。

 

「……なに? 反省終わり?」

「ええ。それと、首領から指令です」

「指令?」

「ええ。今度こそ、ハカイブを倒せ。だそうです。頑張ってくださいね~」

 

 にこりと笑顔を浮かべ、ハカリは首領からの指令をヒラリーへと伝えた。

 指令を受けたヒラリーは、前髪をかき上げ狡猾な笑みを浮かべる。

 

「データ取れとかそういう余計な仕事はない?」

「ええ。ただ、倒せ、と」

「いいじゃん……。やっぱり仕事はシンプルなほどいい」

 

 棚の上に無造作に置かれた上着を手にし、ヒラリーは物置部屋を後にした。

 一人となったハカリは白衣のポケットから一本のトゥームを取り出すと、妖艶に微笑んだ。

 

「さーて、これを渡すべきか否か……。判断させてもらいますよ、ヒラリーくん」

 

 トゥームに口付けし、再び白衣のポケットに戻したハカリもまた物置部屋を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日曜日。

 夏が近付き、気温も上がってきた初夏の空気に包まれた結城荘。

 時刻は9時近く。

 読者諸兄らに分かりやすく伝えると、プリキュアが終わって仮面ライダーが始まる数分前。

 二階に上がり、儚の部屋の前に立つ千佳がいた。

 

「儚ぁ! 休みだからって寝過ぎよ!」

 

 千佳は儚を起こしに来たところであった。

 なかなか起きてこないため、儚の分の朝食がそのままとなっているのだ。見かねて千佳が起こしに来たのだが……。

 

「なんかやたら布団が盛り上がってる気がする……」

 

 布団を持ち上げる千佳。

 そこには、衝撃の光景が広がっていた。

 

「にへへ……お腹いっぱい……」

「……ん……。千佳女史か……」

「な……なんでいるんですかグランさん!?」

 

 そう、何故か、グランが儚と一緒に寝ていた。

 それも、裸で。

 彫刻のような美しい肉体美が千佳の瞳に焼き付けられていく……。

 

「焼き付けてない! ていうか隠してください色々と! あとなんで裸なんですか!?」

「私は寝る時は裸だ。知らないか? 裸で寝るとより良い睡眠が取れると科学的な根拠が……」

「へんてこな異世界の住人から科学的な根拠とか言われると腹立つな。というか、裸で娘に添い寝なんて普通しませんよ!」

「私はするが……」

「16の娘に!?」

「16なんて……まだ赤ちゃんだろう」

「くそっ! 長命種の感覚だ!」

 

 グランは外套に身を包むと、次の瞬間には紅い軍服を纏う。

 どういう技術かなどは気にせず、千佳はグランに捲し立てた。

 

「そもそもなんでいるんですか! 何時から! どこから入ってきたんですか!」

「儚に用があってな。時刻は夜中の2時頃、儚の部屋に直接転移してきた。儚は寝ていたので添い寝した」

 

 千佳の問いにグランはちゃんと対応した。

 そうこうしていると二人の話し声で儚が目を覚まし、目を擦っていた。

 

「……おはようございます。あれ、お父さん……!」

「おはよう儚。よく眠れたか?」

「にへへ……いつもより快眠……!」

「それはよかった」

 

 儚を撫でるグランを見て千佳は、隙あらば儚を撫でるなこの人と思っていた。

 

「まったく。休みとはいえ寝過ぎよ」

「あう……本当によく眠れたから……」

「俺の添い寝のせいだ。すまない儚」

「お父さん悪くない……!」

「親子漫才はよそでやって。それで、儚に用があるんでしたよね?」

 

 千佳はグランに話を振る。

 この調子だと、ずっと親子で漫才をしていそうだと思ったからである。

 そして、流れでその場に居続けてしまい千佳もまたトゥームグレイダーバックルのことなどについて知ることとなった。

 

「お父さんもこの世界に長期滞在したいところだが、まだ他の世界で任務の途中でな。部下に任せたいところだが、そうもいかなくてな……」

「大丈夫……! 儚、負けない……!」

「……そうか」

「うん……!」

 

 自信満々に答えた儚であったが、腹の虫が鳴いた。

 格好がつかず、赤面していく儚に千佳が助け船を出した。

 

「朝ごはん食べてきたら?」

「ひぃん……そうします……」

 

 とぼとぼとダイニングへ向かう儚を見送る千佳とグラン。部屋に二人きりとなり、一瞬の沈黙。

 耐えきれず、千佳が話題を切り出した。

 

「グランさんも食べていきます……?」

「いや、あまり厄介になるわけにもいかない。私は去ろう。……そうだ、これを」

 

 思い出し、懐から何かを取り出したグラン。

 千佳に手渡したそれは……。

 

「なんですかこれ? ファイズフォンのリペイント?」

「墓場フォンだ」

「墓場フォン」

 

 薄い桃色のファイズフォンのような墓場フォン。

 戦士の墓場の最新モデルである。

 

「儚に何かあった時、連絡してほしい」

「あ、なるほど……」

 

 儚の保護者に直通で連絡出来るのはありがたいと、教師という職業柄もあってか内心で喜ぶ千佳であったが、同時に疑問も浮かんだ。

 

「あの、なんで私に……」

「儚からの手紙で、一番保護者のように接しているのが千佳女史だと思ってのことだ。これからも儚をよろしく頼む」

 

 それではと、グランは銀色のオーロラを出して別の世界へと旅立っていった。

 一人になった千佳は墓場フォンを見つめると、おもむろにファイズの変身ポーズを取るのであった。

 ライダーオタクはガラケーを手にすると十中八九はやるものである。

 

 

 

 

 

 

「え! 儚ちゃんのお父さん来てたの!?」

「ふぁい……ひぃん! すっぱい……」

 

 優李が前のめりになって儚と会話していた。キッチンでは莉緒が洗い物の真っ最中であゆと望はニチアサ真っ最中である。

 儚はおにぎりを頬張り、梅干しの酸っぱさに顔をしかめていた。お茶を飲んで酸っぱさを打ち消す。

 

「もう帰っちゃったの?」

「はい……。お父さん、忙しいので……!」

「なんで儚ちゃんがドヤってるの? えー、いいなー。儚ちゃんのお父さん会いたかったなー」

「なんでですか」

「カ ッ コ い い か ら」

 

 儚はため息をついた。

 ただのため息ではなく、呆れをふんだんに使い、丹精込めて吐き出されたため息。

 それには流石に優李もムッとした顔を浮かべる。

 

「なにさ、そんなため息なんかついちゃって」

「いえ……優李さんも所詮は有象無象の掃いて捨てるような女だったんですね、と……」

「え、お父さんカッコいいって言っただけでそこまで言う?」 

「お父さんがカッコいいのは当たり前のことです。あちこちの貴族がうちの娘を嫁に~なんてしょっちゅうあります」

 

 さらっと貴族といった単語が出てくるので優李は内心、ぎょっとしていた。

 儚からはあまりそういったものを感じないが、もしかして結構いいところのお嬢様なのでは?

 そう思わずにはいられなかった。

 それとは別に、あることが気にかかった。

 

「儚ちゃんの世界って、一夫多妻制?」

「いえ……。昔はそうだったみたいですけど……」

「ふーん。え、じゃあその、儚ちゃんのお父さんって……」

「結婚はしてませんよ」

 

 疑問符が、優李だけでなくその場にいた全員に浮かんだ。

 そんな中、千佳が二階から降りてきた。

 

「なんの話してんのよ」

「えっと……え、儚ちゃん。お父さんはその、バツイチ?」

「いえ、未婚です。お父さんとは血の繋がりはありません」

 

 きっぱりと儚は言ったが、なかなかこういった話題に返事はしがたいものである。

 

「ま、親子仲良ければそれで良いわよね」

「そうです。そこらの血の繋がった親子よりも儚とお父さんは深い絆で結ばれているのです……」

 

 ずずずっとお茶を飲む儚。これでこの話題は終わりと、千佳に向いて今日の予定を伝えた。

 

「チカさん。今日は儚、お仕事してきます」

「え、うん……。お仕事って、仮面ライダー的な?」

「はい」

「そう……気を付けてね」

「はい……!」

 

 朝食を食べ終え、儚は早速出かけていく。

 ローブを被り日の光を遮ると、軽く跳躍し屋根から屋根へと飛び移り移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある古びた小さなビル。

 静かに佇む誰からも忘れ去られたかのようなビルの中、怒号が飛び交っていた。

 何かが衝突したかのような衝撃や、金属音が響き渡り、やがて怒号は悲鳴に変わり、最終的には静寂を取り戻す。

 いや、沈黙させられたという表現が正しい。

 荒れ果てた事務所の中、黒いスーツを着た男達がまとめて縛り上げられて拘束されていた。

 男達を縛るのは蜘蛛の糸。口も蜘蛛の糸で覆われて声を上げることが出来なくなっていた。

 そんな中、物々しく御札がベタベタと貼られた大きな金庫の前に立つ儚がいた。

 ダイアルを回し、微細な感覚を頼りに番号を揃えて金庫を開けた儚が目にしたのは、乱雑に保管されていた怪人達の魂。

 

「英霊の魂をこんな乱暴に扱って罰当たりな……」

 

 儚は正座して魂達に合掌するとキセキレジスターを開帳させ、魂を戦士の墓場へと誘った。

 調査の末に見つけたグレイダーの事務所を摘発。

 今月に入ってから三つ目のグレイダーの事務所である。

 グレイダーの構成員達はこの後、戦士の墓場から担当者が来て連行されることになっている。

 ひとまず最優先は魂の保護。儚は魂達が次々と戦士の墓場へと向かっていくのを見守っていた。

 すると、金庫の最奥にいた魂のひとつが飛び出し儚の額に激突。

 

「ヴィッ!? ひぃん……痛い……」

 

 正面衝突。儚は倒れ、飛び出た魂もまた床を転がっていった。

 額を擦りながら、涙目で起き上がった儚はぶつかってきた魂を拾い上げる。

 それは、他の魂達とは違い派手な赤と緑色をしていた。

 

「これは……アマゾンアルファさん!? こんなところにいらっしゃったなんて……」

 

 墓荒らしにより盗み出された魂は圧倒的に怪人の魂の方が多い。

 そもそも母数からして怪人の方が多いのだから当然のことではあるが、仮面ライダーの魂もいくつか盗まれてしまっていたのだ。

 仮面ライダーの魂は希少ゆえに貴重。

 並の怪人の何倍もする値段で取引されるという話だが、まさかこんな乱暴に扱われていたなんてと余計にそう思わされた。

 

「さあ、アマゾンアルファさんもこちらに……」

 

 丁重にアマゾンアルファの魂を戦士の墓場へと送り返そうとする儚。しかし、アマゾンアルファの魂はものすごい勢いで飛び立ち、窓ガラスをすり抜けてどこかへと飛び去っていってしまった。

 

「ええ!? ま、待って……!」

 

 アマゾンアルファの魂を追いかけようとするのと同時に、戦士の墓場の衛兵が銀のオーロラから現れた。

 薔薇と蝙蝠の羽を組み合わせたような紋章を胸に刻んだ彼等はインフェルニティの配下の者達。

 

「儚様! 御苦労様であります!」

「あとお願いします……!」

「儚様!?」

 

 アマゾンアルファの魂を追い、儚もまた窓ガラスをぶち破って宙を舞う。

 空を飛ぶアマゾンアルファの魂を視認した儚は隣のビルの壁に張り付くと、勢いよくよじ登って跳躍。

 

「なんでアマゾンアルファさん……どこ行くの……」

 

 ビルからビルへ。

 この世界の人間からしたらあり得ない速さと跳躍力、運動能力を活かして儚は追走する。

 だが、追跡の途中で儚は黒煙を目にした。

 

「え……火事……!?」

 

 とあるマンションの上階から激しく炎が上がり、マンションの周囲には消防車が五台はいるだろうか。

 梯子が上がり、消火活動が懸命に行われている。

 儚は野次馬から少し離れたところに着地すると、消防隊員に詰め寄る女性に目が向いた。

 

「あそこに息子が! 息子がいるんです!!」

 

 見開く儚の瞳。

 一瞬、止まる呼吸。

 フラッシュバック。

 重なる、炎の景色。

 次の瞬間、儚は駆け出していた。はしご車の梯子に飛び乗ると、驚異の身軽さで駆け上がり儚は火災の真っ只中へと飛び込んでいく。

 

「おい! なんだ今のは!?」

「女、の子……?」

 

 燃え盛る火の海と化したマンションの一室。

 その中で、儚は少年を探していた。

 

「いた……!」

 

 部屋の隅に泣きながらうずくまる5才ほどの男の子を見つけ、儚は黒いローブを脱いで男の子をローブで覆った。

 

「これがあれば大丈夫だよ……。お姉ちゃんと一緒なら大丈夫だから……!」

 

 男の子を抱き抱え、儚は火の海から脱する。

 ベランダから飛び降りて、危なげなく着地。近くの消防隊員に少年を預けた。

 

「この子をお願いします……!」

「き、君は一体……」

 

 消防隊員の問いに答えることなく、少年に被せていたローブを再び纏い、目深に被った儚は助走をつけて大きくジャンプし立ち去った。

 

「ああ……アマゾンアルファさん追わないと……! でも、どうしてアマゾンアルファさんはこんなことを……」

 

 何故、逃げていくのか。

 その理由が分からなかった。

 人気のない公園に降り立ち、考える。

 復活ご希望?

 でも、この世界でそんなことは……。

 

「儚ー!」

 

 考えていると、儚を呼ぶ声がした。

 

「チカさん……」

「何してんの? 仕事終わり?」

 

 薄いピンクのシャツと白いパンツというラフな格好の千佳が小走りで儚のもとへ駆け寄ってきて訊ねる。

 アマゾンアルファの魂を追って、いつの間にか結城荘の近くまで来ていたらしい。

 

「その……仕事は9割終えたんですけど、アマゾンアルファさんの魂が逃げてしまって……」

「え! 仁さんが!? 望が知ったら確保に動き出しそうね……。私でも探すの手伝える?」

「あう……でも……」

「手伝うぐらいなんてことない。家にいても暇だったのよね」

 

 ちょっと動き回るぐらいが良い休日だと、身体を伸ばしてやる気がある風に千佳は言った。

 

「……それじゃあ、この辺りを探してもらえますか……? 出来る範囲で構わないので……」

「OKまかせて」

「魂は赤いのに緑がバーってなってるやつです……」

「アマゾンアルファカラーまんまね、了解。それじゃあいざ、アマゾン探……」

「見ーつけた」

 

 背後からの声は愉しげであり、殺意にこもっていた。

 

「だ、誰よあんた!」

「あなたは……!」

「どうも。グレイダー幹部候補のヒラリーだよ。約束を果たしに来たんだ」 

 

 約束?

 そんなもの、墓荒らしとするわけがないと儚には心当たりがなかったが……。

 

「次会ったら殺すって言ったよね」

 

《トゥームグレイダーバックル》

 

 スーツの上からトゥームグレイダーバックルを巻き付け、ヒラリーは二本のトゥームを起動させる。

 

《ドラゴンオルフェノク》

《グラファイト》

 

 バックルへと装填されたトゥーム。バックルのトリガーを引いて、ハンマーとピッケルがトゥームを叩いた。

 

「憑装」

 

 顔に浮かび上がる龍人の紋様。

 培養されていくウイルスのようなエフェクトがヒラリーを包み、破裂。

 巨大な二本の角を持ち、両腕には龍の頭をした籠手を備えた屈強な龍人の戦士となったヒラリーは、龍の牙を刃とした双刃刀ドラゴファングを肩に担ぎ、儚へと襲いかかる。

 

「らぁッ!」

「チッ……あなたの相手をしている暇はありません!」

 

 千佳を突飛ばし、横薙ぎに振るわれた刃を地面を転げて回避した儚の手にはキセキレジスターと筆が握られていた。

 墓守ノベルトも巻かれており、既に変身の準備は万端。

 

「変身!」

 

《仮面ライダーハカイブ マシンヤイバー》

 

 変身完了と同時に双刃の片割れをチェイサーヤイバーで受け止めるハカイブ。

 だが、パワーではヒラリーの方が上であり押し返され後方へと飛び退いた。

 

「儚っ……!」

「パワーで圧倒されるのは致し方なし……! クロックアップ……!」

「はっ!」

 

 ハカイブはスピード特化であるマシンヤイバーの能力を活かして戦おうとする。

 停滞していく時の中、振り下ろされる青い刃。

 ヒラリーを袈裟に切り裂く……はずだった。

 その手応えにハカイブは困惑の声を漏らす。

 柔らかすぎる手応え。

 ヒラリーは、灰と化して崩れ落ちていき────呆気に取られたハカイブを横殴りにドラゴファングが直撃。

 

「うああっ!?」

 

 クロックアップも終わり、千佳にも戦いの様子が視認出来るようになる。

 ハカイブが火花を上げて吹き飛ぶ様をいきなり見せつけられ、千佳は言葉を失った。

 

「自分だけが速くなれると思ったら大間違いだよ」

 

 先程とは違いヒラリーの肉体は屈強さを削ぎ落とし、俊敏を思わせる細身の姿へと変異していた。

 最初の姿を剛龍態とし、この姿は翔龍態。

 ハカイブのクロックアップにすら対応する、ヒラリー怪人態のもう一つの姿。

 

「さあ、どっちが速い……かなッ!」

「速い……!」

 

 高速で迫るヒラリーに対抗するハカイブ。だが、徐々に徐々にヒラリーの攻撃を受けきれなくなっていく。

 マシンヤイバーの機動力を活かすためには足を動かさなければならない。

 だが、ヒラリーの猛攻の前にハカイブは動きを止めてしまったのだ。

 得意のスピードを殺され、防御力の低いマシンヤイバーの姿で防戦一方のハカイブになす術はない。

 

「ハァッ!」

「……!?」

 

 真正面から迫るヒラリーに対し、ハカイブはなおも防御の構えを取る。

 だが、それは間違いであった。

 攻撃を受ける瞬間、灰を纏ったヒラリーは剛龍態へと姿を変える。

 あまりに速い形態変化に儚は目を見開いていた。 

 剛龍態の正面からの攻撃をマシンヤイバーでは防ぎ切ることは出来ない。

 龍頭の籠手による強力な一撃にハカイブは吹き飛ばされ、地面を転げていく。

 

「終わりだよ……ドドドドド紅蓮灰塵剣!」

  

 ドラゴファングに宿る紅蓮の炎。

 この炎の攻撃を喰らったものは、尽くを灼かれ灰塵となるヒラリー渾身の一撃。

 ドラゴファングが振るわれ、放たれた炎は龍となって唸りを上げる。

 うねりながらハカイブへと翔ていく炎龍は直撃し、大きな爆発をあげる。

 

「儚ぁ!!!」

 

 千佳の悲痛な叫びが響く。

 

「はっ……大したことなかったな……。あ?」

 

 爆煙が風に流れていく。

 薄らとした煙の中、ライダーは健在であった。

 

《仮面ライダーハカイブ パニッシャーマグナム》

 

 盾を構え、立ち上がるハカイブの姿にヒラリーは舌を打った。

 ハカイブの数ある姿の中でも、防御力に優れた形態。

 よもや、ドドドドド紅蓮灰塵剣すらも防がれるとは。ヒラリーはめんどくさそうにドラゴファングを肩に担いだ。

 

「大したことないのは、あなたの方では?」

「ウザイ子だなぁ……!」

 

 パニッシャーマグナムの銃撃を喰らいながら迫るヒラリー。ドラゴファングを勢いよく振り下ろすも、パニッシャーマグナムもこれを避けず、左肩に直撃。だが、パニッシャーマグナムの防御力の前にはダメージにならない。

 ハカイブパニッシャーマグナムとヒラリー剛龍態の攻撃力と防御力は拮抗していた。

 互いに防御はせずに、攻撃を受けながら攻撃をする。

 どちらが先に根を上げるか、そんな勝負となっていた。

 

「やっぱデータ通りの堅さか……」

「どうしました? さっきみたいにイキっていいんですよ?」

「はっ! じゃあ、お望み通りにイキってやるよ」

 

 所詮、強がり。

 儚はそう思った。

 このパニッシャーマグナムの防御を崩せるほどの攻撃なんて、この男が持つわけない。

 だがそれは傲り。

 再び振り下ろされるドラゴファング。

 また同じことをとハカイブは回避しない。

 

 ────そして、龍の魔手が迫る。

 

 剣の間合すら潰し、密着するヒラリーの右手がハカイブの胸部アーマーに触れた。

 

「灰になりな」

「え……!?」

 

 零れ落ちていく、灰。

 一体なんの、誰の、どこからの灰なんだ。

 ハカイブの胸部アーマーに触れたヒラリーの右手から溢れる灰に儚は恐怖した。

 まさか、こんなことが。

 パニッシャーマグナムの防御力を越える攻撃力など必要なかった。

 これは、そういう特殊能力。

 ドラゴンオルフェノクの触れたものを灰にしていく能力。

 

「アーマーが……!」

 

 咄嗟にハカイブはヒラリーの顔面へとマグナムの銃口を向けた。

 顔を撃てば、流石のヒラリーも怯んで距離を取ることが出来る。

 後方へと飛び退いたハカイブの胸部アーマーは、中央がぽっかりと空いて、その縁からは灰が流れ落ちているといった有り様。

 

「どれだけ堅かろうが無駄だよ」

「儚! あいつに触れられたら駄目! なんでも灰にされる!」

「さーて、触れられないように出来るかな」

 

 ヒラリーは再び灰化を使ってくると宣言するようにドラゴファングを背に納め、徒手で迫る。

 ハカイブはガイストマグナムを連射するも、ヒラリー剛龍態の堅牢な肉体の前には大したダメージにはならず、銃撃を無視して突き進んでくる。

 

「なら……!」

 

《ウェポン ケタロスメテオ》

 

 ガイストマグナムをライフルモードにし、銃口にケタロスメテオを装着。

 これならばとヒラリーへと向けて放つ。

 発射の衝撃で、後ろに仰け反るハカイブ。まっすぐ、ヒラリーに直撃するコースを飛ぶケタロスメテオ。

 ケタロスメテオは、ヒラリーの胸に直撃……!

 とは、ならなかった。

 灰と崩れるヒラリー剛龍態の姿。

 次の瞬間、ハカイブの目の前でヒラリー翔龍態が掌底を構えていた。

 

「っ!?」

「はぁ!!!」

 

 突き出された掌底を盾で防御するハカイブであったが、盾は灰となって消えてしまう。

 咄嗟にガイストマグナムを向けるも、銃身を握られガイストマグナムも灰となる。

 盾も武器も失くしたハカイブパニッシャーマグナムに残されたのは、ヒラリーの前には意味を成さない防御力と鈍重さだけとなった。

 

「儚……! 逃げて!!!」

 

 千佳の呼び掛けに、儚の脳裏に撤退の選択肢が浮かぶ。

 それしかないとも。

 しかし、出来るのか?

 マシンヤイバーのクロックアップにすら対応してくるヒラリーから。

 いや、ここは退くしかない。

 ましてや、千佳がいるのだ。

 彼女だけでもなんとか逃がさなければと。

 

「……逃がさないよ」

 

 ヒラリーが千佳へと向けて手を伸ばす。 

 オレンジ色の粒子が千佳に注がれる。

 

「これ、まさか……っ!」

「チカさん!」

 

 倒れる千佳に気を取られ、ハカイブはヒラリーに蹴り飛ばされる。

 地面を転げたハカイブをヒラリーは更に蹴り飛ばし、仰向けとなったハカイブを踏みつけ、踏みつけ、踏みつける。

 

「はっはっはっ。大したことないなぁハカイブ!」

「うっ……うう……」

 

 パニッシャーマグナムの力でダメージを受けてはいないが、儚の精神はズタボロであった。

 勝てない。

 なにより、千佳を巻き込んでしまった。

 千佳を守れなかった。

 それが儚の心に重くのし掛かる。

  

「あの女、助けてもらいたい?」

「え……」

「助けてもらいたいのかって、聞いてんの」

「うあっ!」

 

 蹴り飛ばされるハカイブ。

 身体を起こすも、ヒラリーはハカイブを見下ろしドラゴファングの切先を向けていた。

 

「あの女を助けたかったら、変身を解け」

「え……」

「ほら、早くしないと殺すよ」

「あ……ま、待って……」

 

 ハカイブはキセキレジスターをバックルから外し、アーマーとボディは風に吹かれて消えていく。

 切先は依然として儚の眼前にあった。

 

「変身解いてくれてありがと。殺しやすくなったよ!」

 

 ヒラリーは儚の顔面を貫こうとドラゴファングに力をこめる。

 目を閉ざした儚。

 万事休す……に、思われたが。

 儚の耳に、銃声がつんざいた。

 

「あ?」

「……」

 

 ヒラリーの背中に直撃した数発の黄色の光弾。

 ヒラリーが振り向くと、そこには先日刃を交えた墓守。

 仮面ライダーグレモリーが銃口を向けていた。

 

「だ、誰……?」

「逃げろ……」

 

 グレモリーはくぐもった声で儚に逃げるように促すと、銃でもあったバツ字の武器を持ちかえ、光の刃を形成しヒラリーへと斬りかかる。

 戦いの様子を儚は眺めることしか出来ずにいた。

 

「逃げろと言ったのが聞こえなかったかな」

「あ……はい……!」

 

 改めてグレモリーが促し、ようやく身体を動かすことを思い出した儚はよろめきながらも立ち上がり、駆け出すと倒れる千佳のもとへ向かった。

 

「チカさん……!」

「う……!」 

 

 千佳の身体は透き通り始めていた。

 この症状はと、儚は戦慄した。

 

「ゲーム病……! そんな……!」

 

 どうしようどうしよう。

 儚の頭の中がそれだけに支配されていく。

 ただ、とにかく千佳をここから遠ざけなければいけないことだけは確かだと、儚は千佳を抱えて走り出すのであった。




次回 仮面ライダーハカイブ

「吼えろArmour Zone!」にご期待ください!

「ヴェアァァァァァァァ!!!!!!!」

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