ヒラリーのドラゴファングとグレモリーの光剣が斬り結ぶ。
鍔迫り合い。顔を寄せあった二人。
「墓守は誰だろうと殺してやるよ!」
「ハッ……やれるもんならやってみろよ……」
互いに後方へと飛び退いたグレモリーとヒラリーはそれぞれ必殺の構えを取った。
「ドドドドド紅蓮灰塵剣!」
《怪異呪縛! 怪異呪縛! ストレンジカースブレイク!》
龍の牙ドラゴファングに炎を宿すヒラリー。
グレモリーの光剣は輝きを増し、背には放出されたエネルギーが蜂の羽を描いていた。
ヒラリーに向けられた切先が先陣を切る。
光剣でバツ字を描き、線が交差する中央を突くとグレモリーは黄金の閃光となって加速。
紅蓮灰塵剣の炎とぶつかり合い────爆発。
黒煙がヒラリーの視界を覆う。
「……あ?」
風が吹き、黒煙を消し去るとそこにグレモリーの姿はなかった。
殺気も感じず、グレモリーにも逃げられたとヒラリーはドラゴファングをだらりと下ろすと人間態に戻る。
「は~つまんな。ま、ハカイブはいつでも殺れるって分かったし……。一休みしよ~」
ヒラリーは興が削がれ、のんきに公園を立ち去った。
ハカイブはいつでも始末出来ると確信して。
敗走した儚は千佳を連れて結城荘へと戻っていた。
ゲーム病となった千佳は自室のベッドに寝かせ、傍らでは儚がいつも以上にローブを目深に被り、体育座りで塞ぎ込み、優李達はかける言葉を探していた。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。
儚、あいつに勝てなかった……。
それどころか、チカさんを巻き込んで……。
「儚ちゃん……大丈夫だよ! 次は勝てるって!」
「無理ですよ……手も足も出なかったんです……。無責任に次は勝てるなんて言わないでください……」
どうすれば勝てるかなんてもう考え尽くした。
けど無理だ。どうやったって勝てない。
一番慣れてるアサルトゴシックでだってきっと無理だ。
無理なんだ。
儚じゃ勝てない。
次、あいつと会ったら……。
……ここにいたら、皆さんがチカさんみたいに巻き込まれちゃう……。
ここにいちゃいけない。
チカさんを守れなかった儚に、チカさんの傍にいる資格もない……。
一人に、なろう。
大丈夫、一人には慣れてるから……。
「おい儚どこ行くんだよ」
「……ここにいたら、皆さんのご迷惑になります……だから……」
「儚ちゃん落ち着いて。あんまり一人で考えこんだら駄目よ? 私達は気にしないし、千佳だって……」
「でも、儚は……!」
「あっ……たまに響く声、ねぇ……」
振り返ると、チカさんが怠そうに身体を起こしていた。
そんな、ゲーム病なのに……!
「チカさん安静にしてなきゃ……」
チカさんを寝かせようとすると、肩を掴まれた。
力強く。
そして、頭に被っていたローブを下ろされ、とても真っ直ぐな目で儚のことを見つめていた。
「儚、あんたが私のこと気にする必要なんて、ないから……」
「チカさん……」
「大体、ゲーム病になるなんて、オタク冥利に尽きるってもんよ……。いい経験出来たわ……」
「バカなこと言わないでください……! ゲーム病がどういうものか儚だって知って……!」
「じゃあ話は早いわ……。さっさとあいつ、ぶっ倒してきて」
そんな、こと……。
そんなこと……。
「でも儚、あいつに負けた……」
「まったく……私達の大好きな仮面ライダーは一回負けたぐらいじゃへこたれなかったわよ」
「でも儚はそんなすごい人達とは違うんです……!」
「そんなことない」
「え……?」
「儚も、私達の大好きな仮面ライダーの一人よ……。だから大丈夫。いつも通り、自分を信じて戦えばきっと勝てるから」
自分を信じて……。
出来る、かな……。
「あいつら野放しにしてたら、私だけじゃなくたくさんの人が大変なことになるんでしょ?」
「うん……」
「だから、戦って儚。みんなのために」
みんなのために……。
自信なんて全然ない、けど……。
いっぱい、力をお借りしないと戦えない儚だけど……。
黒衣を纏う。
立ち上がる。
「儚ちゃん……」
「いってきます……」
出来るかどうかは分からない。
だけど、だけど……!
そうだ、何を弱気になっているんだ。
こんな、こんなままで、負けたままでいてたまるか。
あんな、ちょっと顔がいいだけの性格最悪のもやしみたいな男に!
儚を見送る。
ローブで顔を隠していたけど、いい面構えになったじゃない……。
それはそれとして。
「優李、あゆ……」
「なに?」
「儚に、ついてあげてて……」
「……分かった! 行くよ、あゆ」
「言われなくても」
とりあえず、歳の近い二人を一緒にさせておけば安心……。
あとは……。
「望……」
「なに?」
「ゲーム病って、ストレスでヤバくなるのよね」
「そうだけど……」
「前からどうなんだろって考えてたことがあって……」
「うん……」
「酒って、ゲーム病の進行遅らせられそうじゃない?」
「馬鹿なの?」
呑めばストレスともおさらばしてゲーム病の進行を止められるのではないかという持論を試せる時が来ようとは。
この期を逃す手はない。
「じゃあ私、おつまみ作ってくるね」
「サンキュー莉緒!」
「ちょっともう……それなら呑むしかないじゃない!」
望は私の部屋の冷蔵庫を開けて、早速缶ビールを開けた。
流石ノリがいい奴。
昼間から呑む酒はいつもより美味しく感じた。
勇み足で結城荘を出て、さっきの公園に来たはいいものの……。
「どどど、どうすれば勝てると思いますか……!?」
「気合」
「強化フォームを手に入れる!」
「ひぃん……」
気合で勝てればどれだけ楽か。
強化フォームなんてものはないし、今は三つの姿しかなれないし……。
「あっ……アマゾンアルファさんの魂……! 忘れてた……!」
あのもやしとの戦いのせいですっかり忘れてた……!
どどどどうしよう……!
ああ、どちらに行かれてしまったのか……!?
探さないと……また墓荒らしどもに捕まる前に……!
でももやし倒してチカさん助けるのも急がないと……。
「うう……どうすれば……」
「アマゾンアルファが~とか言ってたけど、どうかしたの?」
「実は……」
説明すると、ユウリさんは大袈裟に驚いた。
「ええっ!? 仁さん!?」
「望さんが聞いたら飛び付きそうだな……」
「え! え! じゃあアマゾンアルファの魂があれば新フォームが!?」
それは違うと首を振る。
合わせられる魂も墓荒らしによる盗難にあっていて……。
「じゃあ千佳姐助けるのが優先だな」
「……墓守的には複雑ですけど、そうですね……!」
「よし! じゃあ作戦会議しよう! 向こうの手のうちが分かってるなら対策出来るよ!」
「……はい!」
そうだ、向こうはこっちのこと知ってた。
さっきは知らなかったから……初見殺しにあっただけ。
ちゃんと考えて対策すればきっと勝てる……!
路面にも席を設けた喫茶店で一人アイスティーを嗜むヒラリーがいた。
そこへ断りも無しにヒラリーの対面に座るハカリが現れる。
いつもの白衣はなく、道行くOLの一人といった様子で。
「優雅にお茶ですか~?」
「まあね~。ハカイブは余裕で殺せちゃうって分かったし~。そう急ぐ必要もないかな~って」
「そうですか~。あ、レモネードひとつお願いします」
ハカリは通りかかった店員に注文する。
それを見たヒラリーはお茶をする時間ぐらいはあるのかと話を振った。
「ハカイブなんかより、めんどくさそうなのが動いてるんだけど。グレモリーとかいう奴」
「あら~そうなんですか。それ、ちゃんと上に報告しないとダメですよ~」
「そんなことはいいんだよ。奴に邪魔されたんだ、ハカイブ殺すのを」
「墓守が墓守を守るのは当然ですよ~」
アイスティーを口に含むヒラリーは苛立たしげにグラスをテーブルに置いた。
「なーんか、はぐらかしてない? ハカリちゃんって、いつもそんな感じだよね」
「そんなことありませんよ~。私もそのグレモリーとかいう墓守のことは知りませんし~」
あくまでも笑顔は崩さず、ヒラリーの追及を躱すハカリ。そんな彼女が注文したレモネードがテーブルの上に置かれた。
笑顔で店員にお礼を告げると、ハカリは早速レモネードを一口。
口に広がる爽やかなレモンの酸味と甘味にハカリは満足そうであった。
「そういえば~新しいトゥームを作ったんですけど~首領からヒラリーくんに渡すように言われまして~。こちら受け取ってください~」
カバンから取り出され、テーブルの上に置かれた青色のトゥームをヒラリーは手に取った。
トゥームに彫られた名を見たヒラリーは珍しく目を見開くと、そのままの目でハカリを見つめる。
「ははっ! いいねこれ! 早速使ってハカイブを殺ったら今度はグレモリーだ!」
「ええ~。ぜひ、そうしてくださいね~」
喜ぶヒラリーを見つめながらハカリはレモネードを飲み干すと、「それではごちそうさまで~す」と言って去っていった。
そうして、一人残されたヒラリーはハカリがいなくなったことに気付くと、ぽつり。
「……しれっと奢らされたな……」
二枚の領収書を手にし、レジへと向かったヒラリーを少し離れた木陰からハカリは見つめて不敵に微笑んでいた。
そして、空を見上げる。
ハカリの視線の先には赤と緑に彩られた魂……アマゾンアルファの魂が浮かんでいた。
「さて、力を貸してもらいましょうか。私の計画のために」
打倒ヒラリーを掲げ、攻略法を考えていた儚達でしたが……全員、絶賛項垂れ中……。
チーンって音が、聞こえてきた……。
「無理過ぎだろ……ドラゴンオルフェノクとグラファイトだぞ。どっちも終盤まで出番ある強豪相手はキツすぎる……」
「攻撃力も防御力もあって、その上で高速で動けたりもするわけだしね……」
「ひぃん……隙が無さすぎる……」
多少の攻撃では直撃を受けてもダメージにはならず、その上で一撃が重い。更には高速移動も可能。
ハカイブのマシンヤイバーではスピードには追い付けても火力が足りず、パニッシャーマグナムでは攻撃を当てられず、防御を突破してくる灰化の能力まで備わっている。
全てのパラメーターが高水準という、シンプルな強敵。
突破口を見出だせるような弱点が存在しない。
「もういっそ、お父さんに来てもらうとか……」
ユウリさんの提案。
儚も、それを考えた。
前にあのもやしはお父さんと戦ってボコボコにされたらしいから……。お父さんなら、きっと倒せる……。
でも……。
「お父さん、忙しいから……。この間も無理して来たみたいだし……あんまり、頼れない……。それに……」
「それに?」
「儚は……儚は……! あいつに、勝ちたい……!」
嘘偽りはなく、本当にそう思った。
心の底から、沸き上がる。
墓守の使命は魂の眠りを守ることであって、勝つことではないって、小さいころお父さんに言われた……。
けど、儚のこと一番に助けてくれたチカさんをあんな目にあわせたあいつを儚は許せない。
自分自身にも、怒ってる……。
だから、あいつには勝つ。
絶対に。
「その意気だぜ儚。まず気持ちで勝たなきゃな」
「うん! よーし前向きになってきたぞー! リベンジに向けて作戦会議再開!」
「はい!」
「というわけで作戦イチ! 気持ちで負けない!」
「はい!」
「作戦ニ! 気合で食らい付く!」
「はい!」
「作戦サン! 負けない!!!」
「もう作戦じゃないだろ」
ひぃん……結局気合と根性みたいな話に……。
「大体、シンプルに強い奴相手なんだからこっちもシンプルに行くのが筋じゃね?」
「というとどういうことかな、あゆくん!」
「どういうキャラだよそれ……。単にこっちは手札三枚の内、二枚は晒して敵わなかったんだ。ならもう残ってるやつ使うしかねえってこと」
「アサルトゴシック……」
「儚はそれが使い慣れてるんだろ?」
「はい……。けど……」
アサルトゴシックはマシンヤイバーやパニッシャーマグナムと比べると何かに特化しているというわけではない。
クセはない、けれど。
あらゆる面でヒラリーの怪人態の方が勝っているだろうことは、戦って分かっている。
パワーも、スピードも。
それでどうやって……。
「だから作戦考えるんだろうが。頭使え」
「ひぃん……頭使う……頭使う……」
アサルトゴシックでどうすればあいつに対抗出来る……。
パワー……スピード……灰化……必殺技……。
「……あ」
「何か思い付いた!?」
「いや、でも……」
「いいから、言ってみろよ」
「うんうん! みんなで考えればもっと良い案になるかも!」
「えっと、じゃあ……」
思い付いた作戦を話す。
すると、ユウリさんとアユさんから改善案が出てきて……不思議と勝てる……ような気がしてきた。
「アユさん……ユウリさん……ありがとうございます……!」
「別に、大したことじゃない」
「あゆがツンデレしてる~」
「ウザい。それより儚、大丈夫か?」
「……大丈夫です、いけます」
今度は負けない……絶対!
「あれ~まだいたの~?」
「っ!?」
「まさか、あいつが……」
頷いて、あゆさんの質問に答える。
まさか、こんなすぐ出会えるなんて。
ヒラリー……!
「うっそ!? タイミング良すぎでしょ!」
「今度は違う女の子二人も連れてるんだ~。また巻き込むつもり?」
「わたし達の方から巻き込まれに来てるんだよ!」
「ああ、アタシらに構わずやっちまえ儚!」
「はい!」
墓守ノベルトを巻き、キセキレジスターを開く。
この戦いで、こいつを倒してみせる。
「そして……チカさんを救う……! 変身!」
《仮面ライダーハカイブ アサルトゴシック》
緑色のオーラに包まれ、変身完了。
ヒラリーもまた、怪人態へと姿を変えていた。
「憑装」
紅蓮の龍戦士が灰色のアーマーを纏ったかのような姿。
この龍を……打ち倒す。
「どんな姿だろうと勝てないよ~」
「いいえ、勝ちます! はあっ!」
脚力を活かした踏み込みで一気に距離を詰める。
ヒラリーは儚を侮って防御するつもりもないらしい。
「高速にもなれない、武器もない、防御力も火力も並の姿で何が出来る」
たしかに、そのとおりだ。
マシンヤイバーにはスピードで劣る。
パニッシャーマグナムには防御力と火力で劣る。
けど、アサルトゴシックなら……!
パンチが当たる瞬間。
マスク解放。
牙を剥く。
「はあッ!」
「ッ!?!?」
顔面を貫くような右ストレートがヒラリーを殴り飛ばす。
「やった!」
「よし! いいぞ儚!」
ユウリさんとアユさんの声援に、心が熱くなる。
物理的にも熱くて、アーマーから白煙が出てもいるけれど……。
一旦、マスクを戻して冷却……。
「スウゥゥゥ……」
「なんだ、今のは……!」
「アサルトゴシックはたしかに武器もないシンプルな格闘形態です……。ですが、アサルトゴシックの真骨頂のひとつは瞬間的な能力向上……。力を解放すれば、このとおりあなたを殴り飛ばすのも容易です……」
とは言ったものの、これは不意打ち。
奴が油断していたから成功したわけで、種明かしをしたらもう通用しない。
なので、三人で考えた作戦の第二段階に移る。
「ははっ……いいね、ただ殺すだけじゃつまらないからさぁ!」
駆けるヒラリーが龍の牙を振るう。
後方へと大きく飛び退き着地し、ヒラリーを手招く。
「調子に乗ってんじゃねぇよ……!」
ヒラリーから灰が崩れ落ち、細身のスピードに特化した姿となって加速。
儚の目でも捉えられないほどの速さとなるが……すぐにヒラリーの姿が目に入る。
「なっ!? 動けない!?」
「ふふ……ようこそ、蜘蛛の巣へ……」
ヒラリーの足は蜘蛛の糸に捕らわれていた。
踠けば踠くほど、蜘蛛の糸はヒラリーを捕らえて離さない。
そこへ更に手から放った蜘蛛の糸でヒラリーの腕も拘束する。
「蜘蛛の巣だと……!? いつの間にこんなものを……!」
「あなたに殴りかかった時ですよ。踏み込んだあの瞬間、地面に蜘蛛の巣を張り巡らせたんです……。ふふ、引っかかってくれて嬉しいですねぇ……。こーんな簡単に捕らえることが出来るなんて、さっきの戦いのあれはなんだったんでしょうね……。初見殺ししか出来ないんですかぁ?」
「儚ちゃん煽りはいいから!」
「早くトドメ刺せ!」
「あっ! はい!」
いけない……つい煽るのが楽しくて……。
そんなことよりも早くトドメを。
チカさんを救うんだ!
《怪奇強襲! 怪奇強襲!》
《アサルトゴシックブレイク!》
「すぅぅぅ……とうっ!」
足に漲る力で高く跳躍。
そして、足先から蜘蛛の巣を放ち、更にヒラリーを縛りつける。
これでトドメを……!
「はぁぁぁッ!」
ヒラリーにアサルトゴシックキックが直撃!
「やったか!」
「待って! なんか変だよ!」
これは……防がれてる……!?
拮抗して……いや……!?
弾かれる────!
「うあっ!?」
「儚ちゃん!」
「儚!」
変身が解けて地面を転がる。
そんな、どうして……。
ヒラリーに目を向けると、身体から青い炎を上げながら立つ頑強な姿のヒラリーが立っていた。
「ははは……結構いいダメージだったよ……。けど、俺を殺すには足りなかったな!」
「ぐっ……!」
首を捕まれ、持ち上げられ……。
アユさんとユウリさんの叫ぶ声が聞こえる……ような気がする……。
「がっ……!」
「ははっ! このまま灰にしてやるよ!」
「儚ちゃん!」
「くそ! やめろ!」
「だ、め……に、げ……があっ!?」
灰が、零れ落ちてる……。
儚の、灰……?
ああ、どうしよ……死ぬ、のか……。
結局、勝てなくて……。
負けたまま、死んで……。
チカさん……助けられずに……。
「おと、うさん……」
「は! 最後は父親に泣きつくのかよ! あとで言ってやるよ。お前の娘はお父さん、お父さんって言いながら死んでったってな!」
あ、駄目だ……。
流石に、そろそろ……限界……。
「……! あゆ! あれ!」
「あれは……」
……赤い光……お父さん……?
「これは……うあっ!?」
ヒラリーが、吹き飛んだ。
なにが起こったの……?
え……?
儚のお父さんじゃない……?
ああ、あなたは……。
《ボディ アマゾンアルファ》
真紅と銀に輝く鱗状の身体。儚の頬まで鱗になっていて、不思議な感覚。
全身に刻まれた傷痕からは歴戦の風格を思わせる。
両手足は黒く、硬化したヒレのような刃が備わっていた。
「……! そうなんですね……あなたもお子さんの魂を……」
「何をぶつぶつ一人で言ってやがる! らあっ!」
アマゾンアルファさんの魂と言葉を交わしてる最中に攻撃なんて……。
「なに!?」
右腕のアームカッターでヒラリーの剣を受け止め、睨み付ける。
「今、話してる途中です……! 邪魔しないでもらえませんか!」
「こいつ……!? こんな迫力のある奴だったか!? 野獣みたいだ……」
「野獣!?」
「おい」
野獣だなんて失礼な。
れっきとした人に向かって何を……。
それよりも……。
……なるほど、あいつがあなたのお子さんの魂を……。
分かりました。
大丈夫です。
ええ、はい。
儚達、墓守はそのためにいるのですから……。
なのでどうか、お力をお貸しください……!
「いきますっ!」
「チッ! 身体だけの変身で敵うと思うな!」
身体がすごく軽い。
アーマーを纏っていないからとかではなく、純粋に。
身体の力が抜けていて、とても動きやすい……!
それに、よく見える。
相手の動きが!
「当たらない……!」
「すごい儚ちゃん……」
「いけ! 儚!」
「はっ!」
ヒラリーの攻撃を全て躱し、懐へと潜り込んで脇腹を切り裂く。
あいつは、一体どこに魂を……。
「ッ……。あー、そうだこれ、使っちゃおうかな~!」
「あれが!」
ヒラリーが取り出した小さな墓石のようなもの。
あれが出た瞬間、アマゾンアルファさんの魂が鼓動したのを感じた。
あれを取り戻すんだ!
接近しようとした瞬間であった。
耳をつんざく、銃声。
やけに、はっきりと聞こえた。
誰を狙ったのか……それは。
「なに!?」
ヒラリーが手にしていたものが砕け、中から青色の魂が宙へと浮かび上がっていく。
「はあっ!!!」
誰よりも速く反応し、身体が動いていた。
空中でその魂を掴み、キセキレジスターへと入れて戦士の墓場へ。
これで、死後までもその力を悪用されることはありませんよ……。
「そういえば、今の銃撃は……」
銃声の主、それはあの謎の墓守であった。
「その力を使え。今は君が持っていた方が都合がいい」
男か女かも分からぬくぐもった声。
けれど、今は味方してくれるというなら……!
キセキレジスターを手に取り、書き込む。
お力、お貸しください!
《アーマー ネオアマゾン素体》
「なに!?」
合掌し、お二人へと思いを馳せる。
親子の力で……。
「変身!」
《アマゾンアルファ×ネオアマゾン素体》
《野生の解放×生への渇望》
《命獣血脈!》
《仮面ライダーハカイブ バイオレントブラッド》
静かに、儚の瞳が開かれる。
赤い爆炎と衝撃波が放たれ、周囲を揺らす。
「その姿は……!」
赤いボディの上に纏った青いアーマー。
銀色の装甲と仮面にはオレンジのバイザーが備わる……が!
「アーマーとバイザーが……」
「砕けた!?」
赤い血溜まりのような複眼が露となり、青に血管が走ったように赤いラインが全身を駆け巡っていた。
銀色のトゲが狂暴さを見せつけ、背中は筋肉が盛り上がったかのような隆々とした姿。
仮面ライダーハカイブ バイオレントブラッド。
「ヴェアァァァァァァ!!!!!!!!!!」
「ヤバい!」
「暴走フォームか!?」
「あっ、いえ……すいませんなんか叫びたくなって……」
「正気なのかよ!!!!!」
「紛らわしいよ!!!!!」
暴走などしていない至って正気。
ヒラリーへと向きあい、今度こそ……勝つ。
「さあ……狩りを始めましょう……」
「姿が変わったところでぇ!!!」
駆けるヒラリーに向かって歩く。
自然体。
力は漲っているけれど、とても身体が軽い。
アーマーを纏っているとは思えないほど、軽い。
「でやぁ!!!」
「ふっ……」
振るわれた龍の牙とアームカッターがかち合う。
すれ違い、振り返ったヒラリーの龍の牙が切り裂かれる。
「なっ!?」
「あなたの龍の牙より、こちらの鰭の方が切れ味いいらしいですね。龍の牙(笑)」
「てめぇ!」
ぶちギレたヒラリーは細身の高速形態へ。
周囲を駆け、こっちを撹乱しようとしている。
けれど、無駄です……。
瞳を閉じる。
複眼は赤から白へ。
ヒラリーの足音が、よく聞こえる。
「灰にしてやる!」
今っ!
背後を振り向き、ヒラリーの右腕を両手で押さえつける。
「なに!? チッ……けど両手が塞がったなぁ!」
続いて、左手が繰り出されようとしている。
それも……無駄です。
突き出されたヒラリーの左手。だが、儚には届かない。
「なんっ!? なんで!? なんで腕があんだよぉ!?」
ヒラリーの左手を押さえつける腕は脇の下から伸びていた。
そして、ヒラリーは驚愕に声を失った。
「……!?」
肩の上から伸びるもう一対の腕。
両手を捕まれ身動きの取れないヒラリーを、思い切り殴り、殴り、殴り、殴り、殴る!
「ぐおぉぉぉ!?」
殴り飛ばされたヒラリーは改めてハカイブの姿を視認する。
三対、六本の腕を持つハカイブの姿はあまりにも異形。
ヒラリーを戦慄させる。
「なんだよ……! データになかったぞ!?」
「データになければ勝てませんか。そうですか……」
言いながらキセキレジスターを操作し、必殺技の用意。
《命獣血脈! 命獣血脈!》
《バイオレントブラッドブレイク!》
六本の腕のアームカッターが鋭さを増す。
地面を蹴り、ヒラリーへと向かい加速。
右手側の三つの刃で切り裂き、反転。続いて左手の刃で切り裂き跳躍。
六つの刃が振り下ろされ、ヒラリーを……切断。
「だぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「そんな、俺が負け────」
十二の斬を浴びたヒラリーは爆発。
倒れたヒラリーのトゥームグレイダーバックルは破損し、装填されていたドラゴンオルフェノクとグラファイトのトゥームも砕け二つの魂が宙へ浮く。
「ドラゴンオルフェノクさん、グラファイトさん。どうぞ、安らかにお眠りください……」
キセキレジスターを手にし、変身を解除。
お二方の魂をキセキレジスターを通して戦士の墓場へとお送りする。
そして……ヒラリー。
《ボディ 蜘蛛男》
ボディだけ変身し蜘蛛男さんのお力を借りてヒラリーを捕縛。
あとは戦士の墓場の衛兵さんにお任せして……。
「儚ちゃーん!!!」
「ユウリさ……げふっ!?」
ユウリさんに抱きつかれる。
ぐへぇ、陽キャの……あれ?
なんだろ、この感じ……。
「よくやったな儚」
「うんうん! 新フォーム燃えたよ~! 儚ちゃんどうかした? どっか痛い?」
「……あーん」
「ぎゃああああああ!!!!!!!!」
うーん、お肉……。
お肉……食べる……。
「待ってぇ! 儚ちゃん! わたしは食べても美味しくないよぉ!!! いやぁ左腕がぁ!!!」
「儚! そんなもん食ったら腹壊すぞ!」
「どういう意味あゆ!? いだだだぁ!!!!」
「あむあむ……」
「ちょっ! コンビニでチキン買ってきてやるから儚やめろ! 儚ぁ!!!」
うう……コンビニのチキン買ってもらったけど、まだお腹空いてる……。
うう……とんだ変身の代償……。
「わたしアマゾンになったりしない!? 大丈夫!?」
「分かりません……」
「いやぁ!!!」
「うう、お腹……お腹が空きました……」
「もう結城荘着くから。莉緒さんになんか肉料理作ってもらおうぜ。アタシも腹減った」
莉緒さんのお肉料理……!
じゅるり……。
莉緒さんのご飯食べれるなら我慢出来そう……。
「ただいまー!」
「ただいまです……」
「あ、おかえりなしゃ~い!」
「「「酒臭っ!?」」」
ひぃん……臭いだけで酔いそう……。
「望さんなんでお酒飲んでるの!? 千佳さんは!?」
「千佳がぁ、お酒飲めばゲーム病治るとか言って飲み始めて~。今は飲み過ぎでダウンしてる。あはは~」
ええ……。
ひとまずチカさんの様子を見にお部屋へ行くと、空となった缶や瓶と共に寝るチカさんが。
ゲーム病の症状はなくなり実体を取り戻している。
それはそれとしてお酒の瓶を抱いて、気分悪そうに寝ていた。
「酒は万病に効くのよ~うふふ、うふふ」
三人、顔を見合わせる。
この時、儚達の心はひとつであった。
こんな大人には、ならないようにしよう……。
「ヒラリーがやられただと!?」
グレイダー本部。
首領の姿はなく、驚く声が響いていた。
それとは対照的に、淡々と報告するドクターハカリの姿があった。
「ドラゴンオルフェノク、グラファイト、そして支給を命じられましたネオアマゾンの魂も回収され……」
「なんということだ……」
「壊滅させられた第三支部の魂も全て回収されていたようです」
「おのれ墓守……! 総力を上げて何としても討ち取るのだ! これ以上の損害は許されない! これ以上は……」
怒りに混ざり、首領の声はどこか悲痛であった。
組織を憂う、不安の声。
その声に、ドクターハカリは笑顔を浮かべて首領の不安を取り除こうと言葉をかけた。
「首領、ご心配なさらず。このハカリとクロフト様が何としても墓守を打ち倒してみせますわ」
「ああ……頼むぞ。あれの開発と合わせてな」
「もちろんです。全て、首領のために」
礼をするハカリ。
その彼女の口元は、怪しげに微笑んでいた────。