仮面ライダーハカイブ   作:大ちゃんネオ

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恐怖の恨めしや作戦 ユウレイ村の独身女

 一組のカップルが森の中を歩いていた。

 時刻は夜7時。すっかり暗くなり、空には満天の星空。

 

「ユウタ~こ~わ~い~!」

「なんだよミナ~。まだ何にも出てきてないだろ~?」

 

 カップルは、イチャついていた。

 彼氏の腕に抱きつく彼女と、そんな彼女を可愛いと思っている彼氏。

 非常にウザいですね。

 こういう輩にはお仕置が必要なのです。

 

「うらめしや~……リア充ピー(自主規制)!!!!!!!」

「きゃあぁぁぁ!!!」

「うわぁぁぁぁ!!!」

 

 木々の中から現れた女の幽霊がカップルを驚かせた。

 とても強い怨念をこめて。

 幽霊は走り去っていくカップルを見届けると、木陰に戻った。

 すると、木陰にいた落武者が幽霊にダメ出しした。

 

「ちょっと千佳さぁん! 駄目だよリア充ピー(自主規制)なんて言ったら!」

「言ってないわよストーカー男。リア充去ね! って言ったのよ」

「なんで急に関西弁!?」

 

 幽霊の正体は千佳で、落武者の正体はストーカー男、津木纏であった。

 

「いやINEじゃなくてSHINEだったような……」

「正しい発音はSHINE(シャイン)よ!」

「流石英語教師流暢だ……。じゃなくてですね、最近コンプライアンスとか色々うるさいから、うらめしや~で抑えていただけるととても助かると言いますか……」

「うっさいわねー。ストーカー男のくせに。助けてやってんだから文句言わない」

「助けてもらってるのと同時に営業妨害に繋がってるんですよ!」

 

 何故、こんなことになっているのかというと……。

 

 数日前。

 結城荘の玄関で土下座する津木纏がいた。

 

「お願いします! こんなこと頼める義理ないのは分かっているんですが! どうかお助けください! お願いします!」

「やっば! 遅刻遅刻~!」

「ぐはっ!?」

 

 土下座する津木纏を踏みつけ、出勤していく千佳。

 その後、結城荘を出る四人から踏まれてしまった津木纏に儚が話しかけた。

 

「あの、マジで何してるんですか……」

「墓場女! うう……助けてくれぇ! 今の俺には一番君が必要なんだ」

「あなたに言われても嬉しくないですね……」

 

 とはいえ、あまり虐めるとまた怪人になってしまうかもしれない。それは面倒だと儚はギリギリのところで優しくした。

 

「ま、玄関でいいなら話を聞きます」

 

 ちょこんと正座した儚に津木は感動の涙を流した。

 そうして、結城荘にやってきて土下座をすることになった経緯を話し始めた。

 

「いやぁ、実は知り合いの伝手で地元の祭りの肝試しの運営を任されることになったんだけどな。幽霊役が全員夏風邪でダウンしてしまって来れなくなってしまって……。おばけがいなきゃ話にならんだろう!?」

「で、儚達におばけをやれと」

「頼む! 特に墓場女には才能がある! おばけの! ギフッ!?」

 

 儚の鋭い拳が、津木の頬を穿った。

 誰だっておばけの才能があるとは言われたくないものだ。

 

「今ここでおばけにしてやりましょうか……」

「ご、ごめんなさい……! いやでもどうか頼む! お願いだ!」

 

 再び土下座をする津木に儚ははたと困った。

 

「承諾してくれるまでテコでも動かんぞ!」

「そうですか……まあ。テコなんか儚には関係ありませんが」

「いやぁ! 怪力!」

 

 そう言って土下座する津木を片手で持ち上げた儚は扉を開けて、ゴールキックのように津木を蹴り飛ばそうとした。

 しかし、それを止める声が響いた。

 

「待て儚」

「お、大家さん……!」

「どーも、大家の大矢サンです。話は聞かせてもらった津木纏。うちの連中で良ければおばけに使ってやってくれ」

「えっ!?」

「い、いいんですか!?」

「ああ、私が許可する」

「そんな、どうして……!?」

 

 儚が理由を問うと、サンは正直に答えた。

 一眼片手に。

 

「美女のおばけコス……見たい!」

「そんな理由で……!?」

「夏祭りもあるんだろう。浴衣姿までついてくるなんてお得!!! 結城荘の奴等をおばけにすることを大家権限で許可する」

「大家さん! ありがとう大家さん!」

 

 などということがありこんなことになっていた。

 

「たっく、サンの奴~」

「頼みますよ。それじゃあ俺は次の様子見に行くので、カップル来ても○ねとか言っちゃ駄目ですからね!」

「分かってるわよ。ほら、さっさと行った行った」

 

 シッシッと手を振る千佳に背を向け、津木は次のおばけ出現スポットへと向かった。

 

 順調にイチャつきながらコースを進むカップル。森の中の開けた場所にひっそりと佇む井戸を見つけたところであった。

 

「ユウタ見て~! 井戸! 井戸ある!」

「ほんとだ~。もういかにもじゃん。絶対出てくるじゃん。逆におばけ驚かせちゃおっかw」

「マジウケるw 行こう行こうw」

 

 そうして、二人は井戸に近付いた。

 すると、水に濡れた幽霊が現れ……。

 

「う~ら~め~し~や~……」

「……っ!?」

 

 男は、目を奪われた。

 幽霊の、胸に。

 濡れて貼りついた死装束は若干透けており、幽霊の胸の大きさを強調していた。

 更にはだけて、鎖骨から谷間がはっきりと見えてしまい、視線は釘付けである。

 

「ちょっとユウタ」

「はっ!?」

「ねえ、なに鼻の下伸ばしてんの。キモッ!」

「いや、違うんだよミナ! 待ってミナー!」

 

 機嫌を悪くした彼女を追いかける彼氏を幽霊は笑顔で見送り、その背に手を振っていた。

 

「これで肝が冷えたかしら~」

「いや肝じゃなくて二人の関係性が冷えたんだけど!?」

 

 物陰から一部始終を見ていた津木が、暢気にそんなことを呟く幽霊、望につっこんだ。

 

「なにそれ!? なんでそんな濡れてるの!? その井戸偽物だよ!?」

「幽霊は濡れ場にいるって言うでしょ~?」

「それを言うなら水場! むしろ濡れ場は幽霊多分苦手だから! まったく、この辺りもこんな濡らして地面がぬかるんで……」

「あっ、気をつけてくださいね~。それ、ローションなので」

 

 望が言い終える前に、津木は足を滑らせ思い切り転倒した。

 

「なんでローション!?」

「お風呂屋さんに落とされた女の怨念の集合体って設定だから~?」

「井戸関係ないよ! てかやめてくださいよ! 子供だって来るんだし未成年の読者が変なこと覚えたらどうするつもりですか!!!」

「大丈夫よ~。前にお風呂屋さんが通じなかった成人済みの子がいたので~。それに私、仮面ライダーでも怪人は怖い方が好きなんです~。子供にとっての恐怖対象、そういう毒になれたらな~って」

「ある意味恐怖になってるよ。怪人というか不審者路線で」

 

 怪人ローション女、誕生。

 これからもきっとローション女の魔の手に堕ちる男達が後を立たないだろう……。

 

「まあ今日はもう仕方ないや! 次もそろそろ来るんでスタンバっといてくださいよ!」

「は~い……きゃっ!」

 

 望は井戸の中でローションに足を取られて転んでしまった。

 

「痛~い。もう、気を付けないとって……きゃっ。ちょ、ちょっと……これ……立てない~! 津木さ~ん! 助けて~!」

「……俺、知~らない」

 

 津木は、望の叫びを聞かなかったことにした。

 

 

 

 カップルは第三地点に辿り着いた。

 廃屋が建ち並ぶエリアだ。

 ちなみにここまでの道中で、彼氏はなんとか彼女の機嫌を直すことに成功していた。

 ……手痛い出費が、今後の予定に追加されてしまったが。

 

「ここも絶対出るじゃ~ん」

「分かればそう怖くないよな~」

 

 楽しそうに歩く二人。

 彼らの鼻に、ある匂いが入り込んだ。

 何かが、焼けていく……。

 

「何か、燃えてる……!?」

「いや、これは……焼けてる……」

「……うん? この匂いって……味噌?」

「なんか、道の駅とかの外で売ってる系のやつ……」

 

 そうして、カップル達が歩いた先にあったものとは……!

 

「あ、いらっしゃい。食べますか、こんにゃく田楽」

 

 味噌ダレを塗ったこんにゃくを串に刺し、炭火で炙る幽霊……?

 幽霊、莉緒はカップルにこんにゃく田楽を勧めたが……。

 

「あ、いや、今は大丈夫かな……」

「そ、そうだね……失礼しま~す」

「そう……。ありがとうございました」

 

 カップルは丁重に断り、先へと進んだ。

 カップルを見送った莉緒は、再び炭火のもとへ戻り、出来上がったこんにゃく田楽をパックに詰め始める。

 

「いや何やってんのぉ!?!?」

「あ、津木さん。食べる? こんにゃく田楽」

「食べないよ! ちょっと莉緒さん、あんた料理人だからってこんなところで!」

「ふふ、こんにゃく田楽って、ほんやくこんにゃくみたいだね」

「こっちの話聞いて! ていうかそのこんにゃく! 驚かす用のやつ!」

「津木さん……食べ物で遊んじゃいけないって、習わなかった?」

 

 凄む莉緒に怯む津木だったが、いやいやと改めて莉緒にツッコミを入れていく。

 

「食べ物で遊んじゃいけないのは、確かにそうだけど! ここ肝試しだから! 肝試しの途中でこんにゃく田楽配るなんてマラソンの給水所じゃないんだよ! 全然怖くないから!」

「え。でも、さっきの人達、怖がってたと思う」

「怖がってたんじゃないの! ドン引きしてたの!!! も~肝試し会場にこんな美味しそうな匂いを充満させて……」

「あ……食べます?」

「だから食べないって!!!」

 

 こうして、莉緒の炭火焼きセットは没収された。

 出来上がっていたこんにゃく田楽はスタッフが美味しくいただきました。

 

 

 

 

 

 

 

 続く第四のおばけポイント。

 廃墟と化した古民家。そこに待ち受けるは……。

 

「一枚~二枚~……」

「いやぁ! 絶対いる絶対いる!」

「あれ……一枚足りない……」

「きゃ~! 定番~!!!」

 

 逃げ出すカップルを追いかけ、走り去る二人の背を見つめる幽霊……を更に木陰から見つめる津木は安堵していた。

 

「よかった……ようやくまともな感じだ。流石だ優李ちゃん……!」

 

 まともな幽霊と出会い、ほろりと涙を流す津木。涙を拭い、次のポイントへと先回りした。

 

「次は……化粧濃い姉ちゃん(あゆ)か……。大丈夫かぁ?」

 

 あゆの働きぶりが不安な津木は廃墟の陰から様子見を開始。

 ちょうどカップル達もやってくるところで、幽霊あゆの出番である。

 

「一枚……二枚……」

「あ、あれ? さっきもお皿数えてなかった?」

「九枚……十枚……」

「お皿あるよ! お皿揃ってるよ!!!」

「……あれ、なんで皿なんて数えてるんだっけ……」

 

 なんとも締まらないお菊さんだが、渾身の幽霊メイクは迫力満天。

 あゆの顔が恐ろしく(語弊)、カップル達は叫びながら逃げ出した。

 

「そのまま成仏してくださーい!!!」

「ふんっ。一昨日来やがれ」

「よくカッコつけられるね!? あんなグダグダなお菊さんやっておいて!」

「あ? なんだよ悪いかよ。怖がらせたからいいだろ」

「顔は最高だよ! でもね、駄目なお菊さんだったから! お皿十枚揃ってたから! それじゃ意味ないから!」

 

 津木がつっこんでいると、優李が走ってやってきた。

 そして、津木に加勢してあゆを注意するのだった。

 

「あゆ~! 言ったでしょお皿は九枚だって!」

「なんで九枚なんだよ」

「え、それは、その……なんでだろうね?」

「君も知らないの!?!?」

 

 まさか、皿屋敷を知らずにやっていただなんて。

 津木は頭を抱えた。

 

「そんな、ただお皿を数えて一枚足りないって言うだけの幽霊だと思ってたの!?」

「まあ……うん」

「なんで一枚足りないかも知らないの!?」

「知らね」

「そんな、原作知識はハーメルンみたいな二次創作のつもりでやってたのか君達……。いいかい、番町皿屋敷っていうのはねぇ」

 

 説明を始めようとした津木を見て、優李とあゆはめんどくさそうな顔を浮かべる。すると、あゆがいいことを思い付いたと津木の説明に割って入った。

 

「そんなこと説明してる暇あるのかおっさん?」

「大事なことだ、ちゃんと聞いてくれ」

「次、というか最後は儚だぞ」

 

 それを聞いて、津木は出せる限りのスピードで走った。

 しめしめと微笑むあゆと優李はそれぞれ元の場所に戻り、再び皿を数え始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

「はあ……はあ……墓場女はどこだ!? 嫌な予感しかしない……。他の五人がただでさえあれなんだ、墓場女が一番ヤバい、絶対ヤバい!」

 

 最大級の危機感を胸に儚の持ち場へと先回りした津木であったが、持ち場には儚の姿が見えなかった。

 更に危機感を募らせた津木。その袖を引っ張る白い手があった。

 

「あの……」

「うおっ!? びっくりしたぁ……駄目じゃないか持ち場を離れちゃ」

「えと、その……人手不足だって言うので、助っ人を集めてきました……」

「え! マジ!? めっちゃ助かる! どこ、どこにいんの!」

「ここです……」

 

 そう言うと、儚の背後に無数の白く、呻き声をあげる人のような者が現れた。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?」

 

 この津木の叫びが、一番怖かったという(カップル談)

 

「待って! 肝試しに本物の悪霊なんか連れてきちゃ駄目だって!」

「悪霊じゃありません……」

コロシテヤル……

「絶対悪霊だよ! 殺してやるって言ってるもん!」

「うるさいですね……。悪霊じゃないって悪霊が言ってるんですから悪霊じゃないんですよ……」

「今悪霊って認めたよね!? ねえ!?」

 

 そうこうしている間にカップルがやって来てしまった。

 最後の最後こそまともに怖がらせたいのだが、本物の悪霊は怖がらせる以上の何かが起きてしまいそうで津木は悩んだ。

 その隙に、儚は無数の悪霊を率いてカップルに突撃してしまったのだが。

 

「う~ら~め~し~や~!」

「ああ!? 待って!? やめて悪霊は!!!」

 

 津木の叫びも虚しく、儚はカップルの前に悪霊達と共に躍り出てしまった。

 普段ならば人前に出ることを憚る儚ではあるが、今はもう一人ではない。

 頼もしい悪霊達がついている。

 

「クルシイ……」

「イタイヨォ……」

「コロス……」

「うらめし……」

 

 最恐がカップルを襲う!

 襲って、いるのだが。

 

「えっ! ちょっと可愛いんだけどこの子! 一緒に写真撮っていい!?」

「えっ……あの、儚、おばけ……」

「声まで可愛い~! え、なんかモデルとかやってる? アイドルとか?」

「え、あの……儚はなんにも……友達は、アイドルやってる……」

「ハカナちゃんって言うんだ~! そっか~イソスタはやってる?」

「あう……や、やってない……」

「えー! 可愛いのにもったいないってー! あ、とりあえず写真撮ろ。ピース」

「に、にへへ……ピース……」

 

 彼女の方とツーショット写真を撮った儚は満足してカップルを見送った。

 

「チラシどおりだったね~」

「ちょっと変だったけど、美女幽霊ってのはあってたね」

 

 感想を言い合うカップル。

 彼女の手には、バッグから取り出した「廃村からの脱出。美女幽霊だらけの肝試し♥️」というビラが握られていた。

 サンがスポンサーに入ったことで、色々と歪んでしまったのである、肝試しは。

 金の力って、すごい。

 

「……なんか、普通に悪霊スルーされてたけど」

「えっと……あの人達、霊感ないのかと……」

「ええ……」

 

 霊感がなければ悪霊は見えず、ただ儚一人が現れただけになってしまう。

 最恐の悪霊達も、見えなければ無いものとして扱われるだけなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレイダー本部では営業二課長ララの帰還を祝う会が慎ましやかに行われようとしていた。

 従業員もとい構成員達が集まり、テーブルにはスーパーで売られているようなオードブルとピザ、お菓子が色々と並んでいる。

 

「それでは皆さん、飲み物を持って……かんぱ」

「ちょっと待ちなさい!」

 

 クロフトが乾杯の音頭を取っていたが、本日の主役ララの一声が乾杯を遮った。

 楽しげな雰囲気から一転、ララの怒気のこもった声に室内は緊張に包まれる。

 

「ど、どうした?」

 

 クロフトが訊ねると、ララは酒焼けした声で言った。

 

「私はノンアルコールかソフトドリンクだって言ったでしょう!」

 

 確かに、ララのもとに置かれているのは普通の缶ビールである。

 そこで、クロフトはすぐに目についたドクターハカリに指示を出した。

 

「あっ、ハカリ君。ララの飲み物取り替えてあげて」

「パワハラですかクロフト部長~?」

「わ、分かったよ……。俺がやるよ……」

 

 しぶしぶクロフトが飲み物の入ったクーラーボックスへ。

 言うことを聞かない部下、上からは圧力。

 中間管理職は辛いものである。

 

「クロフト、遅い! もっとスピーディーに行動しなさい!」

「せめて同期ぐらいは優しくしてくれよ……」

  

 クロフトは心の中で泣いた。

 

「ノンアルノンアル……あれ? ノンアルない?」

「はあ……。そんなんでよく部長になれたわね。仕事の九割は準備って習ったでしょう?」

「ごめんって。お前、昔は大酒飲みだったからつい……」

「女がいつまでも昔のままとは思わないことね。そんなんだからそんななのよ」

「どんなだよ」

「無駄な時間を過ごした。それじゃ、仕事してくるから」

 

 ララはフルフェイスの真っ黒いヘルメットを手にし、部屋から出ていこうとする。

 すると、ララはドクターハカリを一瞥すると一言。

 

「トゥームグレイダーバックル。改良されて使いやすくなったわ。ありがとう。これからも頑張って」

「……! いえ~」

 

 ドクターハカリに労いの言葉をかけて、ララは部屋を出た。

 

「なんだあいつ……。せっかく歓迎会開いてやったってのに」

「いい方じゃないですか。それにしても、仕事熱心ですね~」

「まあ、昔から真面目なやつだからさ」

「流石同期、お詳しいですね。もしかして、いい感じの仲だったんじゃないですか~?」

「……ああ、まあ……」

「えっ!? マジですか!? 話聞かせてくださいよ~!」

「うるせぇ」

 

 クロフトは缶ビールを開けると、ぐびっといった。

 苦いものを、飲み込んでしまいたい気分だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、肝試しの方は。

 

「ちょっと女子~! 真面目にやってよ~!」

 

 一旦スタート地点に全員集合したおばけと津木。津木は合唱コンクールの練習に真面目に取り組まない男子を注意する仕切りたがりの女子のようになっていた。

 

「真面目にやってたでしょうがー」

「そうよ~真面目よ~」

「一生懸命頑張ったんだけどね」

「わたし、文化祭でおばけ屋敷出来なかったから、あの頃の思いもこめてやってるよー!」

「帰りたい」

「ひぃん……」

「頼むよマジでぇ!!!」

 

 あのグダグダをやられてはたまらないと津木は叫ぶ。だが、結城荘の面々は聞く耳を持たない。 

 

「儚ちゃん、なんか具合悪そうだけどどうしたの?」

「その……さっき陽キャと自撮り撮ったのが……ヴェッ」

「儚ちゃん!?!?」

 

 遅効性の毒のように効いたそれは、儚を無数のSD儚へと変化させた。

 

「ハカナ」

「ハカ」

「ハ-カ-ナ-」

「儚ちゃんが手のひらサイズに……かわいい~!」

「言ってる場合か! かき集めて蘇生させるわよ!!!」

 

 そうしてしばらく。

 確保されたSD儚を一ヶ所に集め、元の儚に合成する。

 そこへ、急な仕事で遅れてやって来たサンが合流した。

 

「おい、なんだその衣装は。全員が同じの着たってしょうがないでしょ」

「え? あ、いや、それは……」

「全員死装束の必要なし! 和服にしてもそれぞれちゃんと用意する!」

 

 というわけで、サンが念のためと持参した衣装を着ることとなった結城荘メンバー達。

 大晦日の番組で見たような野外更衣室で全員着替え、終わった人から次々とカーテンを開けていった。

 

「私はさっきと変わらないけど……生地が良いやつだ、無駄に」

「千佳は素材の良さを活かす方向で」

 

 千佳は白い死装束に三角巾という伝統的な幽霊。

 

「莉緒さんとわたしはなんかいい感じの着物!」

「メイクまでしてもらって……」

「二人は村一番の金持ちの家の姉妹。凄惨な殺人事件に巻き込まれて屋敷跡に現れる幽霊」

 

 高身長な莉緒と平均よりも背が低い優李は姉妹を演じるのに相応しかった。

 上等な着物をこのためだけに血糊で汚した。

 しかしサンにとっては大した損失にはならない。

 

「それで、あゆが村の診療所に勤めてた看護婦の幽霊」

「それはいいけどミニスカはおかしいだろ!」

「そこは私の趣味だ。服装を当時に合わせたからといってリアリティーが生まれるわけでは……ない!」

 

 強気に断言するサンと辟易するあゆ。

 白衣の天使は血染めとなり、あゆの渾身のメイクもあって夜道で遭遇したら悲鳴は必至。

 太ももは健康的。

 

「儚は……お嫁さん……?」

 

 儚は白無垢姿であった。

 血まみれであるが。

 結婚を控えた女性が殺害された設定だろう。

 

「私は女学生かしら~」

 

 望は黒のセーラー服姿。

 血糊で汚されてはいないが、メイクで真っ白い顔は黒のセーラー服もあって宵闇に浮かび上がるはずだ。

 それはともかくとして、儚と望の格好を見比べた千佳達が言った。

 

「逆じゃない???」

「そんなことないわよね~儚ちゃん~?」

「ええっと、儚も、別にこれで問題ない……」

 

 当の本人達は別に問題ないと言う。

 しかし、衣装の持ち主であるサンが言った。

 

「ごめん。二人に間違えて渡しちゃった。衣装交換してもらえる?」

「え~? でも手間ですし~私達は全然……」

「なに望。結婚前に花嫁衣裳着ると婚期逃すってジンクス信じてるの?」

 

 望は、図星だった。

 それはそれとしてサンの意見は。

 

「いや。やっぱりセーラー服は十代に着てもらいたいなって。肌の透明感とかあるし」

 

 無情な言葉に、望は傷ついた。

 

「そんな……肌ケアに毎月五万もかけてるのに……」

「しゃーない。十代には勝てんって流石に」

「千佳ぁ!!!」

 

 アラサーコンビは抱き合い、静かに涙を流した。

 同じ悲しみを共有出来るのは、二人しかいないのだ。

 

「今に見てなさいよ……。全員に等しく訪れるんだからね!」

「老いはすぐそこまで来てるのよ~!」

「25越えると来るわよ!」

「え、そうなの?」

 

 長谷部莉緒、今年25歳。

 特に衰えた部分など感じていない。

 そんな彼女を前に、アラサーコンビは再び涙を流した。

 

「そういえば、儚ちゃんも寿命長いからそうそう年老いないんだよね?」

「老いるスピードは、こっちの世界の人の大体1/10ぐらいって言われてる……」

「じゃあ100歳で10歳ぐらい歳取るってイメージ?」

「大体そんな感じ……。でも、若い期間は長い……」

「そんなに若い期間があるなら私達に寄越しなさいよ!!!」

「そうよ! 不公平だわ!!!」

「アラサー達がなんか別の怪異に見えてきた」

 

 誰が呼んだか年喰いババァ。

 そう言うと、殺されてしま……ァァァァァ!!!!!

 

 そんなこんな話をしていたら、空から赤く発光する球体が降着した。

 

「なに!? ウルト○マン!?」

 

 千佳が動揺していると、土煙の中の人影が動く。

 そうして、現れたのは……グランであった。

 それも、珍しく息を切らして慌てた様子。

 

「ど、どうしたんです?」

「お父さん……!?」

「グラン様……!」

 

 グランの登場に驚愕する結城荘メンバー達と乙女になる津木。

 結城荘メンバー達はそんな津木を白い目で見た。

 

「はあ……はあ……儚が花嫁衣裳に袖を通した気配を感じ取って……」

「どんな気配!?!?」

「慌てて……来たが……そうか……儚を手篭めにしようという不逞な輩はいなかったか……」

「お父さん……!」

 

 色々と忙しいところだったろうに、何もかもを捨て置いてやって来たグランに儚は涙を堪えきれなかった。

 

「お父さん安心してください。この子はきっと結婚遅いので」

「どういう意味ですかチカさん」

「そうか……あぁ……安心した……」

「お父さん。そこ、安心するところじゃない……。とにかくなんともないから、お父さんは仕事に戻って……」

 

 儚がそう言うと、露骨にグランは落ち込んだ。

 大丈夫なフリをしているが、娘から早く仕事に戻れ(意訳)と言われて寂しいのだろう。

 その様子を見かねて、千佳達は声をかけた。

 

「あの、もし良かったら手伝ってくれません? 肝試し」

「いいのか……!」

 

 これまた露骨にグランは喜んだ。

 

「手伝うったって、なにやらせんだよ」

「いや待て、あゆ」

 

 サンはグランの正面に立って、グランを見上げて考える。

 そうして……。

 

「似合うだろうか」

 

 グランは、花魁の幽霊となった。

 

「お父さん結構NGないね!?」

「お父さんは堅物に見えて天然なので……」

「それにしても……顔は美人だけど」

「体格がな」

 

 顔の良さもあって、傾国の美姫もかくやといった美女が生まれたのだが、いかんせん鍛えられた肉体がアンバランス。

 はだけた先の胸筋や、角ばった肩。袖から覗く腕の筋肉が雄々しかった。

 

「巨乳なんだけどね~雄っぱいなのよね~」

「着痩せするタイプだから……」

「流石にこれはカバーしきれないか……。すいません着てもらったのに」

「こちらこそすまない……。力になれず……」

「グラン様には受付をやってもらいましょう!」

 

 そんなこんなで、グランは緋色の浴衣に着替えて受付係に。

 そうして、いよいよ本格的に肝試しが始まろうとしていた。

 

「いやぁ、やっぱり安物感がなくなるだけでいいですなぁ!」

「でしょ。セットの方も業者入れて改善した」

「この短時間で!?」

「たぬ○ちでも家のリフォームには次の日までかかるのに!」

「まあまあ。金があれば大抵のことは何でも出来る」

「金すげぇ!」

「流石大家さん!」

「高額納税者!」

 

 金持ちのサンをみんなでたくさん称えて持ち上げた。

 自分達が生活出来ているのは紛れもなくサンのおかげ。

 ありがとう大家さん!

 ……だけというわけでもなく、ここで褒めておけば不労所得、お小遣いに繋がると全員考えていた。

 そんな時だった。

 

「あの……」

「はい? ひっ!?」

 

 振り向いた千佳が思わず驚いた。

 長く伸びたままの髪。服装もよれた感じで、ずっと同じものを着古しているようだ。

 なによりも生気というものを感じられず、本物の幽霊が現れたかのよう。

 

「ええっと~、もしかして、本来の幽霊役の方ですか~?」

「いえ……。肝試しを、しに……」

「あっ! お客様入りまーす!」

「優李、その格好で居酒屋の接客はやめろ。面白いから」

「あれ!? レイちゃん!?」

 

 津木が急にそう叫んだ。

 どうやら、幽霊のような女性と知り合いらしい。

 

「纏くん……」

「どうしたんだよ……」

「……」

 

 ひとまずと津木が女性、レイを受付まで案内される。

 その時、レイは歩きながらスマートフォンを操作していた。

 そのスマートフォンの画面がはからずも儚の目に入ったのだが。

 

 

 

 あの人と来た思い出の肝試し。

 

 

 

 

 

 

 

 最期に、また来た。

 

 

 

「ひぃん!?」

「どうしたの儚?」

「そ、それがかくかくしかじか」

「四角いムー○ってことね。って、ええ!?」

「千佳姐はなんでそれで分かんだよ」

 

 一旦、全員集めて千佳が儚が見たものを説明した。

 

「ええっ!?」

「み、見間違えじゃなくて?」

「儚アイでばっちり見た……」

「それにあの雰囲気だし……」

「あっ、イソスタのアカウント見つけたんだけど~……」

「はやっ!? どれどれ……」

 

 全員で望のスマートフォンの画面を覗き込む。

 アカウント名はRei。

 儚が見たという投稿も一言一句違わず。

 なにより、アイコンが……。

 未 設 定。

 これを見て女性陣はショックを受けた。

 

「うーわっ」

「これは……」

「マジかよ……」

「深刻だね……」

「何がそんなに深刻なんだ?」

「悪いことなのか、これは」

 

 一方、男性陣はよく分かっていない様子でいた。

 

「ちょっと、イソスタ遡ってみて」

「待ってね……」 

 

 スクロールされていく画面。

 流れていく文字も、なにやら不穏な言葉であった。

 そして、望がスクロールを止めた。

 

「二ヶ月前は普通の投稿してる! そこから見ていけば……っ!?」

「こ、これは……!」

 

 それは、画像だけの投稿であった。

 ハートに突き刺さる、三本の剣。

 タロットカードの、ソードの3である。

 

「これって意味は!?」

「ハートはそのまま心臓を表してる。剣は風のエレメントで3は創造性、発展を意味しているの」

 

 莉緒が何も見ずに説明する。

 もともと持っていた莉緒の知識である。

 

「で、でもそんな明るそうな雰囲気に見えねぇけど……」

「うん。主な意味は……傷心」

「ひぃん……」

 

 ソードの3はイラストから真っ先に連想されるイメージ通りの意味を持つという。

 

「そういえばレイちゃん、三ヶ月くらい前に会った時に日取りが決まったって!」

「……莉緒ちゃん、ソードの3の意味を詳しく」

「破局、離別、離婚……」

「いやぁ!!!」

「破談になったんだ……」

「待って! こんな投稿も!」

 

 三本の剣。

 

 一番痛いのは、どれ。

 

「これって……」

「男と……きっと友達よ」

「ああ、きっとそうよ。披露宴で花嫁へのプレゼントとか選ぶのに友達と一緒になって」

「お酒を飲んで……二人で一人に!?」

「でも、あとの一本は……?」

「きっと自分自身よ……」

「「「「「「「あぁ……!」」」」」」」

 

 女性陣は示し合わせたかのように同じリアクションを取った。

 

「裏切られた後も、彼のことを忘れられないのが辛くて、痛くて……うう……」

「こんなの辛すぎるよ……」

「許せないね」

「サイテーのクズだ」

「ほんと最悪」

「私なら金の力で潰す」

「儚だったら持てる全ての力で復讐します」

 

 ちなみに、ここまで語っている内容は憶測である。

 可能性は高いかもしれないが、かなり脚色が入っているだろう。

 そんなことはお構い無しに女性陣が話す一方で、男性陣はまったくついていけていなかった。

 

「彼女達は超能力でも持っているのか? 儚まで……」

「いやぁ……。そのうちスピリチュアルな話まで出てきそうですけど」

 

 女性陣に聞こえぬように会話する男二人。

 そんな中、津木の肩をレイが叩いた。

 

「おわっ!?」

「あの……早く、やりたいんだけど……。この後…………するんだから」

 

 その時、風が吹いてレイの言葉の一部が聞き取れなかった。

 

「あ、ああ! 今やるから! ……グラン様、聞こえました? この後、なにするって言ってました?」

「この後……家に帰る、とかじゃないか?」

「そう、ですよね。そう願いたいですよね!?」

 

 グランと津木もレイから発する陰鬱な雰囲気を感じ取って嫌な想像をしてしまう。

 すると、話していた女性陣がグランのもとへ駆け寄った。

 

「お父さん……!」

「なんだ、儚……」

「作戦考えたんですけど~」

 

 望が儚に目配せすると、台本でもあるかのように儚は言った。

 

「い、嫌な男なんか忘れちゃえ! 良い男を浴びろ作戦~

……!」

「……と、いうと……?」

 

 ゴニョゴニョとグランに作戦が伝えられる。

 作戦内容を聞いたグランは、自信なさげに作戦を否定した。

 

「いや、それは……。前も言ったが、俺は口下手で……」

「大丈夫です! ちゃんと出来てましたから! というわけで、お願いします!」

 

 全員で頭を下げる。

 こんなことをされては、グランは断れない質なのだ。

 ということで。

 

「すいませんが、こちらで受付を……」

「……はい……」

 

 名簿に名前を書くレイこと蒼井麗。

 名前を書き終えボールペンを置いた麗の目の前に、真っ赤な薔薇の花束が差し出された。

 

「暗い顔より、笑顔の貴女が見てみたい。きっと、太陽のように素敵だろう。どうか、私を照らしてはくれないか?」

 

 グランの紅い瞳が真っ直ぐと麗を見つめた。

 麗はグランを見返し、差し出された薔薇の花束を受け取る。

 そして、無情にも花束を地面へと投げ捨て肝試しのコースへと向かっていった。

 

「俺の薔薇が……!」

「お父さんの口説きすら泥と化すとは……」

「ちょっと、どうするの。もうコース入っちゃったわよ!」

 

 千佳は考えていた。

 なんとかせねばと。

 思考の果て、千佳が導いた答えは……。

 

「やっぱり直接的な説得は駄目よ。その場で思い切られる可能性がある」

「でも……」

「いい? 私達は今、幽霊よ。成仏出来ずに化けて出てきた」

「何が言いたいんだよ。はっきり言えよ」

「……生きたかったけど、死んでしまった……?」

「そうよ儚。私達は死にたくなかった幽霊として、肝試しのおばけをやりながら死の苦しさを伝えて、彼女の自殺を止める!」 

 

 彼女達にひとつの使命が生まれた。

 人の命を救うという大それた使命だ。

 本来、彼女達にとって関係のないことではある。

 それでも、彼女達は。多くのヒーローを見てきた彼女達に宿った正義の心が熱く燃えていた。

 これまで見てきたヒーロー達を裏切らないためにも。

 地球は救えなくとも、一人の命ならば救えるかもしれないと信じて。

 

 

 

 

 肝試しのコース。第一ポイントは村の入口。

 かつて、凄惨な事件が起こり村人のほとんど死んでしまった呪いの村(という設定)に足を踏み入れた者は、生きて還っては来れないという。

 ただもちろん肝試しなので、全員にしっかり生きて帰ってもらうのだ。

 

「……」

 

 麗が幽霊のような佇まいで道を進む。

 村の入口の灯籠に差し掛かった時、千佳幽霊が現れる。

 千佳と麗。正直、どっちが幽霊だか分からない。

 雰囲気だけなら麗の方が勝っている。

 それでも、千佳は諦めない。

 

「クルシイ……イタイ……タスケテェ……」

 

 麗へと手を伸ばす千佳だが肝試しのルール上、おばけはお客さんには触れられないので気をつけて接近する。

 おばけらしさにも気を配りながら。

 そんなことお構い無しと麗は千佳幽霊を通り越して行ってしまう。

 それでも、千佳は一生懸命に訴えた。

 

「死ニ、タクナイ……」

 

 そう言うと、麗は一瞬だけ立ち止まった。だが、ほんの一瞬で麗は再び歩き始めた。

 

「くっそぉ……思ったよりチャンスは短い……。こうなったら、他のとこにも出てやる!」

 

 千佳は自分の持ち場以外でも出現してやろうと考えたが、ここで受付のグランから連絡が入った。

 

「千佳女史。客が入ってきたのでそのまま頼む」

「ええっ!? もぉ! ……頼んだわよ、みんな」

 

 他の客が入ってきては仕方ないと、千佳は他の五人に託した。

 

 

 第二ポイントは村の診療所前。

 ここには看護婦のあゆ幽霊が待機している。

 何も知らない麗がやって来ると、あゆは診療所の門の影から現れ、麗を驚かせようとする。だが、麗は顔色ひとつ変えない。

 

「……」

(くそ! こんなのどうすりゃいいんだよ!)

 

 このままでは麗は行ってしまう。

 頭をフル回転させ、あゆ幽霊が導き出した答えは……。

 

「い、今にも……死にそうな、患者……。チリョウ……。いき、て……」

「……」

 

 麗はそれを聞くと足早に去ってしまった。

 あゆは内心、やっぱり直接的な説得は駄目かと後悔をしたが、まだ先には頼れる仲間がいると信じて四人に後を託した。

 

 第三ポイントは屋敷。

 その庭に、歳の離れた姉妹の幽霊がいる。

 大人びて落ち着いた雰囲気の姉、莉緒幽霊と天真爛漫でいたずらっ子な妹の優李幽霊。略して優霊。

 

「なんで略した!?」

「しっ。来たよ」

 

 莉緒の言葉通り、麗が屋敷の敷地内を通ってやってきた。

 そして、二人は作戦を決行する。

 

「ネエネエネエネエお姉さん! アソンデアソンデアソンデ」

「……」

 

 やはり、麗は動じることはない。

 だが、それでいい。

 

「……ユウ」

「あっ、お姉ちゃん!」

「……ユウ、私達は、死んじゃったから、生きてる人とは、遊べないんだよ」

「えー! つまんないよ!」

「お姉ちゃんが遊んであげるから……。あなたは、私達と遊べるようになったら、駄目だよ」

 

 莉緒幽霊がそう言うと、スモークで幽霊姉妹が覆われ、晴れた時には姿が見えなくなっていた。

 麗は少しの間その場に立ち尽くすと、屋敷の奥へと向かっていった。

 

「……大丈夫かなぁ」

「……幽霊のわりに、喋り過ぎたかも」

「やっぱり、莉緒さんもそう思う!?」

「でも、もう後は二人に託すしかないよ」

「……そうだね。がんばれ、儚ちゃん。望さん……!」

「うん。……ところで、妹キャラを演じてる優李ちゃん、面白かったよ」

「おもしろ……!?」

 

 声優、役者として培った技術を活かして全力で演じた妹キャラを面白いと言われ、優李はへこんだ。

 もちろんというか、莉緒に悪意はなかった。

 余計、始末が悪いやつである。

 

 

 ここで、この肝試しのネタバレをしよう。

 この屋敷では結納が行われるはずだった。

 しかし、この結婚をよく思わない者によって一族は斬殺されてしまい、その怨念が村に災いを引き起こしたのだ。

 そう、よりにもよって結婚がモチーフのひとつである。

 ともなれば、最後に現れるのは必然的に白無垢を着た望となる。

 その前に、新婦の親族として参列した女学生儚幽霊が現れる。

 

 第四ポイント。

 屋敷、大広間前。

 三角座りをしている、儚幽霊はぶつぶつと独り呟いていた。

 

「シニタクナカッタシニタクナカッタシニタクナカッタシニタクナカッタシニタクナカッタシニタクナカッタシニタクナカッタシニタクナカッタシニタクナカッタシニタクナカッタシニタクナカッタシニタクナカッタシニタクナカッタ」

「……」

「イキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイイキタイ」

(ど、どうしよう……死者にドン引きすることで死ぬ気を削ぐ作戦……まったく効いてない!!!)

 

 儚は、内心めちゃくちゃ焦った。

 その結果。

 

「イキタイイキタイイキタイイキタイいきゃ……」

 

 盛大に、噛んだ。

 顔が赤くなるのを堪え(きれていないが)、儚はさっきまでのことをなかったことにした。

 

「生キテル、人……」

 

 儚は、たったいま麗が入ってきたかのように装った。

 

「生キテル人、ダメ……ハイッタラ、アトモドリデキナクナル……」

 

 儚は幽霊というより日本語覚えたての外国人のようであった。

 だが、儚の言葉が功を奏したのか、固く閉ざされていた麗の口が初めて開いた。

 そして────。

 

「私はそれを望んでいる……」

 

 その瞬間、儚と麗は炎の中にいた。

 互いの信念が、譲れない願いと命がぶつかり合い、誰かの「強くなぁぁれぇぇぇぇ!!!」という声が聞こえた気がした。

 

「あう……」

 

 戦いの軍配は、麗に上がったようだった。

 儚は思わず素が出てしまい、せっかく作った日本語覚えたて外国人キャラ、ではなく幽霊のキャラが崩壊してしまう。

 だが、それでも……。

 

「あの……儚も、これまで、いっぱい辛いこと、あった……。小さい時は、死にたいって思ってたけど……。でも、今は……楽しいこといっぱいで、生きてて良かったって、思ってる……。だから……」

 

 儚の言葉を聞かず、麗は奥の部屋へと行ってしまった。

 俯く儚は、涙を我慢出来ずに泣き出した。

 幼い子供のように、声をあげて。

 その泣き声は、麗の耳に……。

 

 

 

 

 

 受付として並んでパイプ椅子に座るグランと津木。

 客足は少なく、雑談するのにもってこいの環境であった。

 

「津木殿は、あの女性とは友人なのだろう?」

「え、ええまあ……。幼稚園、小学校から高校まで一緒の幼馴染みですよ。最近は連絡取ったりしてなかったですけど」

「そうか……。儚達は頑張って彼女を止めようとしているが……最後に必要となるのは、親しき人からの言葉ではないだろうか」

 

 グランの言葉に、津木は胸を貫かれるような思いだった。

 当然、友達として麗を止めたいという思いは津木だってある。

 しかし、足を引っ張るものがあるのだ。

 

「……俺なんかが、いいのかなって思ってしまって。何回も怪人になって、人に迷惑をかけて……。こんな俺なんかの言葉で、麗を救えるなんて思えなくて……」

 

 津木の胸中を聞いたグランは短く「そうか」とだけ呟いた。

 しばしの沈黙。

 それを破るのもグランであった。

 

「津木殿はたしかに、何度も怪人となって迷惑をかけ、人生としてもドン底にいたと思う。だが、今はこうして立ち直り、真面目に働いている。暗い奈落の底から這い上がろうとしている。そんな津木殿だからこそ、同じ奈落の底にいる者へ手が届き、勇気を与えられるのではないだろうか」

 

 グランは空を見上げた。津木もそれに倣う。

 夜空には、大きな満月が浮かんでいた。

 

「天上の月から手を伸ばされても、地上には届かない。同じ地にいるからこそ、人は誰かの手を取れる」

「グラン様……。俺!」

 

 津木の瞳に光が宿った時だった。

 グランの表情が厳しいものへと変わった。

 

「津木殿はここにいろ。怪人だ。客は入れるな!」

「わ、分かりました……!」

 

 津木に指示してグランはその場から跳躍。

 怪人の気配を追って飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 肝試し最終ポイント。

 麗の前に現れたのは、白無垢を血で汚した女。

 

「うらめしい……うらめしい……」

 

 望は迫真の演技であった。

 演技経験者かと思わせるほどだ。全身から怨念を放っている。

 

「うらめしい……仁左衛門……! チカコぉぉぉ!!!!!」

「……!?」

 

 これは、望のアドリブ。

 最後に現れたのは花嫁の霊ではない。

 結ばれる二人を斬殺した女の霊であった。

 

「何故、私を捨てた……!」

 

 望幽霊は自分を捨てた男と裏切った女を憎み、殺して死んだ幽霊(という設定)。

 望は考えたのだ。

 鏡写しの麗を見せつけるのだと。

 そしてこのアイデアは薄皮太夫から着想を得たもの。

 みんなも見よう、侍戦隊シンケンジャー。あっぱれ!

 

「あなたは……私と同じ……」

「え……」

「怨みに生きようとしている……」

「怨み、に…….。そうよ、私は……」

 

 つい調子に乗った望幽霊の一人舞台。

 しかし、望の想定とは違う方向に物語は進もうとしていた。

 

「あいつらを殺して、私も……うあああああ!!!!!!」

 

 麗の情念に引き寄せられた怪人の霊魂が二つ。

 取り憑かれた麗は肉体が変化。

 光沢のある紫と青系のステンドグラスが入り交じった体表。

 タイトな紫のミニスカートに青いウェディングドレスのような装飾。

 蛇の顔を模した仮面の中央に輝く真珠が、単眼のよう。

 

「しまった!? 変な方向に行っちゃった! 儚ちゃ~ん!」

「はいっ!」

 

 望の前に躍り出た儚に、自分の意思で飛来してきたローブが纏われる。

 ローブから墓守ノベルトを取り出し、腰に巻き付けると儚は黒い表紙のキセキレジスターを開いた。

 

「うぁぁぁ!!!!!」

 

 攻撃を掻い潜りながら、儚は取り憑いた魂の名を言い当てる。

 

「スネークと……パールシェルファンガイア!」

「許さない……! うぁぁッ!!!」

「は、儚は許して……!」 

 

 怪人の魂に取り憑かれ暴走した麗は復讐するべき相手を見定めることなど出来ない。

 目の前に映るもの全てに憎悪を向ける。

 猛攻を避け続けるも変身の隙が出来ない儚であったが、怪人の右腕に一輪の赤い薔薇が突き刺さった。

 

「大丈夫か、儚」

「お父さん……! ふんっ!」

 

 突き刺さった薔薇の痛みに怯む怪人を儚は蹴り飛ばし、グランのもとへ。

 二人は並び、儚は黒いキセキレジスターを。グランは赤いキセキレジスターを構えた。

 

「いくぞ」

「うん……!」

 

《ボディ 蜘蛛男》

 

《ボディ ローズオルフェノク》

 

 儚は黒地にオレンジのラインが放射状に広がり、鋭い爪を備える蜘蛛男の力を宿した身体に。

 グランは純白に染まり、肘と膝には薔薇のように鋭い棘を備えた姿へと。

 

《アーマー アナザーアギト》

 

《アーマー 仮面ライダーダークキバ》

 

 儚はキセキレジスターを右手で閉ざし、合掌。

 グランはキセキレジスターを閉じ、右手で掴むと大きく十字を切り、流れるようにキセキレジスターをバックルへと装填した。

 そして────。

 

「「変身」」

 

 儚はキセキレジスターをバックルへと向けて下ろし、装填。

 キセキレジスターが開帳されると、二人の左右にはおどろおどろしい文字で変身に力を貸してくれたライダーと怪人の名が浮かび上がる。

 

《蜘蛛男×アナザーアギト》

 

《ローズオルフェノク×仮面ライダーダークキバ》

 

《始まりの死 魂の遺志》

 

《王宮の薔薇 宵闇のエンペラー》

 

《怪奇強襲!》

 

《薔薇皇帝!》

 

《仮面ライダーハカイブ アサルトゴシック》

 

《仮面ライダーインフェルニティ ダークネスローズ》

 

 蜘蛛の糸が儚を包み、緑光がキセキレジスターから溢れだす。

 光が収束すると暗緑の戦士、仮面ライダーハカイブ アサルトゴシックが現れる。

 

 グランの首から頬にかけて、ステンドグラス状の模様が。更に瞳は深紅から灰色となると顔面にインフェルニティの仮面のシルエットが浮かび上がる。

 そして、全身を銀が覆う。

 やがてそれは鎧の形状となり、表層が砕け散ると鮮烈な紅薔薇の鎧が完成する。

 薔薇の花弁が舞い降る中、赤いマントを翻し仮面ライダーインフェルニティ ダークネスローズが顕現した。

 

「すぅぅぅ……むんっ……!」

「さあ、絶える時だ。……怨み女!」

「黙れぇぇぇ!!!!」

 

 跳躍し、回し蹴りを放つ麗怪人態こと怨み女。

 インフェルニティは跳躍、ハカイブはバックステップで回避する。蹴りが空振りとなった怨み女の目の前に、逆さのインフェルニティの仮面が現れる。

 回し蹴りを回避しながら、コウモリのように天井に逆さ吊りとなったインフェルニティはパンチのラッシュを怨み女へと食らわせる。

 

「はぁぁぁぁ!!! はっ!」

「ぐあっ!?」

 

 天井から足を放したインフェルニティは畳の上に着地し、怨み女を蹴り飛ばす。

 インフェルニティは更に追撃。

 怨み女へと上段の回し蹴りを放つもこれは足の下を潜り抜けられ回避される。

 インフェルニティの背中を取った、好機だと確信した怨み女だが、一瞬で冷静となり困惑した。

 もう一人は、ハカイブは、どこかと。

 次の瞬間、怨み女の眼前に逆さまのハカイブの仮面が現れる。

 インフェルニティのように天井へと張りついたハカイブ。これは蜘蛛男の力であった。

 そして、渾身の力をこめた右ストレートが怨み女へと炸裂!

 

「すぅぅぅ……とうっ!」

「ごっ!?」

 

 吹き飛ぶ怨み女は屋敷のセットを破壊し屋外へ。

 怨み女を追って、ハカイブとインフェルニティも外へ出て、ダウン状態の怨み女にトドメを刺そうとした。

 その時、突然闇の中から強烈な光が放たれる。

 同時に、エンジンの駆動音。

 

「なに……?」

 

 ハカイブが困惑すると、光が突然動き出す。

 ハカイブとインフェルニティ目掛けて。

 光の正体は、バイクのライトであった。

 突如、光が上を向いたかと思うとバイクはウィリーしており、二人はバイクを回避し、離れた場所で止まったバイクを警戒した。

 

「何者だ」

 

 インフェルニティが問うと、ライダーはヘルメットのシールドを上げて名乗った。

 

「私はグレイダー幹部。ララ!」

「激走のララまで招聘したか……」

「あの紅薔薇帝に知られているとは嬉しいねぇ。一戦交えたいところだけど、今夜は試運転なのよね!」

 

 ララはトゥームグレイダーバックルと二本のトゥームを取り出し、見せつける。

 

「この間の、アユさんのお友達にあれを渡したのもあいつ……!」

「気を付けろ儚。来るぞ」

 

《スノーマン》

《シオマネキング》

 

 二本のトゥームを起動し、手にしたバックルに装填するララを警戒する二人にララが予想外のことを口にした。

 

「試運転って言っただろう。私じゃないよ、こいつは!」

 

 そう言うと、ララはトゥームグレイダーバックルをよろよろと立ち上がっていた怨み女へと投擲。トゥームグレイダーバックルは怨み女の下腹部に当たるとベルトが自動的に巻かれて、怨み女に更なる魂が取り憑いてしまった。

 

「うぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 変貌していく怨み女。

 右腕は肥大化し白い毛に覆われ、左腕は硬化して手は巨大な青いハサミと化した。

 

「さぁて、どれほどのものか見させてもらうわ」

 

 愉しげに呟くララを他所に、強化された怨み女が二人のライダーに襲い掛かる。

 右の巨腕が殴り付ける。

 左のハサミが斬りかかる。

 ライダー達は回避に成功しているが、殴られた大地は砕け、斬られた木々は無数に倒れていく。

 更に、宙に無数の真珠を生成した怨み女は真珠を操りハカイブとインフェルニティを取り囲むと、一斉射。

 

「うあっ!?」

「儚っ!」

 

 四方からの攻撃。防御力の高いインフェルニティには大したダメージにはなっていないが、ハカイブには痛手を与えた。

 咄嗟にハカイブを庇ったインフェルニティに向けて、怨み女の巨大な腕が迫る。

 しかし、怨み女は突然苦しみ始めてインフェルニティは攻撃されなかった。

 

「あれ、は……」

「四体の怪人の魂は常人には耐えられないわけだ……。急いで倒さねば、彼女の命が危ない」

「じゃあ、大急ぎで……倒す!」

 

 ハカイブの力強い言葉に、インフェルニティは成長を感じていた。

 この世界に来て、確実に逞しく、強くなったと。

 

「一秒を争う。俺達で救うぞ、儚」

「うん……!」

「もう遅い! 不可能よ!」

「不可能などない。この……青薔薇のように」

 

 インフェルニティが手にした一輪の赤薔薇が、くるりと手の中で回ると青薔薇へと変化していた。

 そして、インフェルニティのキセキレジスターと細筆が宙に浮かびインフェルニティは書き込み始める。

 

《ボディ ゴ・ガドル・バ》

 

 グランはダークネスローズから黄金のインナースーツ姿へと変わる。

 古代の民族の装飾のようなパーツが各部に見られる。

 

《アーマー 仮面ライダーコーカサス》

 

「変身」

 

《破壊のカリスマ 血染めの青薔薇》

《黄金電撃!》

《仮面ライダーインフェルニティ ライジングカブティック》

 

 全身に迸る電撃が、足元から黄金の装甲を形成していく。

 複眼は青く、黄金の三本角はコーカサスオオカブトのようだが、中央の角はカブトムシのものを模していた。

 これがインフェルニティのもう一つの姿、ライジングカブティック。

 

「儚も……!」

 

 ハカイブはアサルトゴシックからパニッシャーマグナムへと変身。

 ガイストマグナムを構えると、インフェルニティが駆け出し、更なる超高速の高みへと至る。

 

「ハイパークロックアップ」

 

 クロックアップを越えるハイパークロックアップを発動。

 インフェルニティからすれば、時が止まったも同然である。

 怨み女の眼前で、インフェルニティはバックルのキセキレジスターを操作。

 必殺技を発動させる。

 

《黄金電撃! 黄金電撃! ライジングカブティックブレイク!》

 

「ライジングホーンビート……!」

 

 仮面の三本角から発生した黄金の電撃が両足へと駆ける。

 両足に収束したエネルギーでまず、強烈なミドルキックを放つ!

 更に跳躍し、電撃を纏い稲妻を放つ両足のキックが炸裂!!!

 それと同時に、ハイパークロックアップが終了。

 突然、爆発しながら吹き飛ぶ怨み女。

 怨み女のトゥームグレイダーバックルとトゥームは破壊され、スノーマンとシオマネキングの魂は怨み女から切り離される。

 

「ぐあ……! ひと、り、だけでも……」

 

 それでも、怨み女は刺し違える覚悟を見せた。

 棒立ちのハカイブに向け、無数の真珠を放つもハカイブは不動。

 右手でガイストマグナムを構え、左手でバックルのキセキレジスターを操作すると、左手はポケットに入れるかのようにベルトに添えられた。

 

《日輪骸装! 日輪骸装! パニッシャーマグナムブレイク!》

 

 銃声一発。

 迫るの真珠の群れを掻い潜り、弾丸は怨み女へ。

 真珠の嵐はハカイブを襲い、全身から火花が上がるもハカイブはなお不動。

 パニッシャーマグナムの防御力と死体となる能力により、真珠の弾丸は無効化されていた。

 そしてハカイブの弾丸は怨み女を貫き、パールシェルファンガイアとスネークを除霊。

 ハカイブはキセキレジスターを開き、四つの魂を回収するのであった。

 

「あいつは……!」

 

 そして、次はララと戦おうとしたハカイブであったがララの姿は既になかった。

 

「逃げたようだ。とにかく、彼女を救えたな」

「うん……! あ、でも……」

 

 変身を解除した儚は悲しげな顔だった。

 そう、怪人ではなくなったが彼女にはまだ辛いことが残ったままである。

 真に救えたとは言えないだろう。

 

「儚~! グランさ~ん!」

 

 戦いが終わったことを察知し、千佳達が合流した。

 彼女達も、肝試しの客が戦闘に巻き込まれないよう避難させたりしていたのだ。

 

「チカさん……。戦いは終わったんですけど……」

「そう、ね……」

 

 儚の言葉に千佳も悲しげに返した。

 自分達は彼女をきっと救えない。

 そんな思いが結城荘の六人に芽生える中、倒れた麗のもとに津木が駆け寄っていた。

 

「あ……纏くん……」

「レイちゃん……。俺、さ……すんごい辛くて死んでやろうと思ったりもしたんだけど、でもこうして今生きてるし、今は生きてて良かったって思って生きてるんだ。だからさ、レイちゃんにはすごく辛いかもしれないけど……生きてて良かったと思えるまで、生きてみない? 俺もいるからさ」

 

 怪人の魂に取り憑かれ、警察を辞めることとなり、転落していく人生だった津木。

 そんな彼だったからこそ、紡げた言葉であった。

 

「纏くん……!」

 

 麗は大粒の涙を流し、津木に抱きついた。

 その様子を、儚達は黙って眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 肝試しのスタート地点に一旦集合した結城荘メンバーとグランはこれからについて話していた。

 

「ストーカー男のくせにやるじゃない」

「今夜は若い二人だけにして、わたし達で肝試しがんばって運営しよ!」

「というわけで……グランさんと儚は受付任せた」

「え、でも儚……」

「戦って疲れてるだろうから」

「ゆっくり休んでて~」

 

 そう言って、千佳達は所定の位置に戻っていった。

 儚とグランは顔を見合せ、受付のパイプ椅子に腰を下ろす。

 すると、少しして肝試し再開が伝えられたからか……一気に人が押し寄せた。

 

「おい! 美人の幽霊だってよ!」

「受付の人イケメン! きらいじゃないわ!」

「わ、わっ……」

「これは……すごいな……」

 

 労うつもりの受付が、大忙しとなってしまった。

 そうして、ようやく客足が途切れた頃。

 パイプ椅子の背もたれに二人がもたれかかって休んでいると、背が高く肩幅も広い男が一人やって来た。

 

「あの~、おじさん一人行けますか?」

「あっ、はい……あっ」

 

 儚はその男を見上げると、動きが固まった。

 男の方も同じであった。

 そうして、儚の口が動き出す。

 

「骸おじさん」

 

 次の瞬間、逃げ出す男。

 それを、グランがマウントを取って確保するのであった。

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