「いや帰ってきたっていうかたまたま遭遇して捕まえたって感じなんですけど……」
「いきなりサブタイトルにツッコミをいれないの」
儚達は肝試しを終えて宿泊先の民宿に戻ってきた。
グランと、グランに捕らえられた30代後半ほどに見える男も連れて。
男はグランよりも背が高く、纏っている雰囲気とは真逆の筋肉質な体格で、黒に金が縁取られた僧衣のようなものを着用している。そんな大男が、グランの脇に抱えられてこれから天井に吊るされるところである。
「よし、これでいいか……」
「何も良くないんだけど。お前、歳上の男を吊るすような趣味があったのか?」
「ないが、こうでもしないとな。落ち着いて話も出来ん」
グランと男が言葉を交わしているのをただ眺めている結城荘の入居者達。
千佳が隣の儚に小声で訊ねた。
「誰なの?」
「骸・ブツダンブッカ……。骸おじさんです」
「戦士の墓場の人、なのよね?」
「はい。ブツダンブッカ家の当主です」
「……当主がこんなとこで何してるの」
「分かりません。骸おじさんはしばらく行方不明だったので……。多分、お父さんもどこに行って何をしていたのかを聞きたいんだと思います」
なるほどと千佳は再び視線をグランと骸に向けた。
グランはインフェルニティ家の当主。
骸はブツダンブッカ家の当主。
そういえば、あまり戦士の墓場の事をよく知らない。これまで特に気にもしていなかったのだが、今更知りたくなったかもしれないと千佳は思った。
「儚、お前からも言ってくれ。もう一人のお父さんに意地悪しないでって」
「悪いな骸。儚の親権割合はブツダンブッカとソナエモンがそれぞれ1でインフェルニティが8だ。家事育児の記録も取っている。つまり、俺こそが儚のお父さんだ!」
「くそ、離婚して親権を取ろうと計画する父親みたいなことしやがって……!」
「にへへ……儚のお父さんはお父さんだけ……!」
「すっかりファザコンに育っちまって……。その爪の先ぐらいでいいからおじさんのことも愛してくれると嬉しいんだけど」
骸がそう言うと、儚は露骨に嫌そうな顔となり、嫌な理由を述べた。
「だって、儚……。骸おじさんからお金返してもらってない……」
儚がそう言った瞬間、周りの大人達が一斉に引いた。
こんな年下の、十代の少女から。
大の男が、金を。
女性陣は口々に骸を罵り、グランの瞳が真っ赤に輝いた。
「なんだと」
「え、いや、それは十年近く前の話で……」
「六歳の儚から金を借りたのか、お前」
「あぁぁぁぁ!!!! 逆さは駄目!!!!」
逆さ吊りにされた骸。
グランは手近なところに置かれていた水の入ったペットボトルの蓋を開けると、顔面に水をかけ始めた。
「すまない千佳女史。ここからは儚にあまり見せたくないので……」
「……分かりました。あの、こんなこと言える立場じゃないとは思うんですけど、その、お手柔らかに……」
「善処する」
果たして本当に善処してくれるのかと不安になったが、自分では止めることも出来まいと千佳は儚の目を塞ぎながら部屋に向かった。
「さて、二人だけとなったな……」
「やめろよ、なんか気色悪いだろ」
グランはペットボトルを手にすると、骸は一瞬で謝罪した。
「くそっ。ああもういいぜ、根掘り葉掘りなんでも聞けよ」
「そのつもりだ。だが、お前がここにいた理由はおおよそ察しがついている」
骸が怪訝な顔を浮かべると、グランはキセキレジスターを開帳させ、紫色の霊魂を戦士の墓場から呼び出す。
その霊魂を見た骸は目を見開いた。
「スネーク……。ブッカの変身に必要な魂だ」
「……やっぱりさっきの気配は。悪かったな」
「回収したのは儚だ。礼なら儚に言え」
「借金だけじゃなく借りまで作っちまった」
「借金を作るな。で、いくら借りたんだ。六歳の儚から」
「六文銭」
「何故借りた」
「いやぁ、初めてのお小遣いもらって喜んでたから、おじさんが増やしてやろうと思って……」
「増えなかったんだな」
「いやぁ、あの時は勝てると思ったんだけどなぁ。……待て! 水はだっごぼごぼごぼ!?!?!?」
そうして、怒りに燃える拷問はしばらく続いた。
グレイダーに定時は存在しない。
そもそも企業ではないからだ。
かつては様々な世界の悪に、戦士の墓場から盗み出した怪人の魂を卸しており企業然としていたが、現在は悪の秘密結社へと業態を変え、魂卸の他にも自分達で世界を征服するにまで至った。
だが、それも落ち目である。
メイン商材の怪人の魂の売上がめっきりと落ち、世界征服事業も自分達の戦力が落ちて芳しくない。
そんな状況を打破すべく開発された新商品、トゥームグレイダーバックルの本格的な量産がいよいよ開始された!
「これで企業じゃないと言い張るの無理ありすぎません?」
「まあ、仕方ない……。世界征服事業も始まってまだ数年だし、根付いてないからなぁ悪の組織って認識が」
悪の組織風なミーティングルームでコーヒー片手に雑談するドクターハカリとクロフト。二人とも、目の下に隈が出来ていた。更にクロフトの方は髭も伸び始めている。
「帰らなくていいんですか~? 奥さんとお子さんがいらっしゃるのに」
「いや帰りてぇ。めちゃくちゃ帰りたいよ。でもさ、俺が抜けると首領がさ……」
「あ~……。現場の長、中間管理職は大変ですね~」
「そういうお前はどうなのよ」
「いやぁ、ここ最近はトゥームグレイダーバックルにつきっきりですよ~。さっきもララさんが持っていったやつのとんでもないデータのおかげで徹夜確定、これで三日家に帰ってません~」
とんでもないデータという言葉に疑問符を浮かべたクロフトを見かねて、ドクターハカリはデスクの上のノートパソコンを開いてクロフトに説明した。
「どうやら、魂に取り憑かれ怪人態となった状態に重ねる形でトゥームグレイダーバックルを使用したようです」
「なるほど、四体融合か……」
「意外ですね? あまり驚かないなんて」
「ええ? ま、上手くやれば墓守に勝る力を容易に使えるようになる。頑張って実用化してくれ」
そう言うとクロフトはミーティングルームを出ていった。
一人残されたドクターハカリはクロフトの妙な反応に怪訝な表情を浮かべる。
「やはり、あの人は……」
呟くと同時にドクターハカリのスマートフォンから着信音が鳴った。
「もしもし。……ええ、そう。分かった、私もそっちに向かう」
通話を切ると、急いだ様子でノートパソコンをしまいドクターハカリもミーティングルームを後にする。
自身のデスクに戻り、トランクに荷物を纏めるとグレイダー本部を出て夜の街に消えていった。
「というわけで、グレモリーの出現、グレイダーの活動がにわかに活発化している。戦士の墓場に戻り、力を合わせよう骸」
「さんざんボコボコにしといて協力仰ぐとかどういう精神してんのお前……」
朝日が射し込む部屋の中、逆さのまま吊られグロッキーな骸と真面目な顔を浮かべるグラン。
そんな弱った骸だが、ようやく本心が伺える声色で話し始めた。
「大体力貸せって言うけどな、俺には貸せる力なんかないっつーの。十年前、ブツダンに変身するための魂をほとんど盗られちまったんだから」
「魂を盗り返すために、出奔したと」
「それもある。だが……」
骸は自身を縛る縄を怪力で断つと、綺麗に受身を取って立ち上がった。
縄は墓守を拘束するための特別製だというのに。
「ワリーけど、やらなきゃいけないことがある」
「復讐か。菊殿の」
「分かってんじゃねえか」
そう言う骸の目には黒い炎が宿っているようだった。
復讐が彼を十年間突き動かしてきたのだとグランは悟り、止めるように口を開こうとするが骸に先を越された。
「いや、お前には分からんだろうな。復讐はとっくに果たしたお前には。それに、儚って生きる理由も出来た。けどなぁ、俺にはもう、これしかねぇんだよ……!」
「……骸、お前の言うとおり、俺にはお前の気持ちの全ては分からない。だが、お前に力を貸すことは出来る」
「……いらねえよ、そんなもん。これは俺一人の問題だ。じゃあな」
立ち去ろうとする骸の肩をグランが強く掴んで止める。
「おい、これ以上邪魔をするってんならいくらお前でも……!」
「邪魔はしない。どこへでも行けばいい。お前が元気なことが分かったので、ひとまず良しとする。それに、いずれお前の行く道とは交わる運命だろう」
「なら……」
「儚の六文銭を返してから行け」
「グラン……」
骸の怒気はなりを潜め、改めて骸はグランと正面から向かい合い真剣な表情を浮かべ、言った。
「儚に借金返すのでお金貸してください」
「嫌だ」
グランはきっぱりと断った上で更なる骸の罪を追求した。
「あと、昔俺が貸したドラゴナイトハンターZも返せ」
「待て待て待て待て! それは絶対借りてない! ドラハンは借りてない! 誰かと間違えてるって絶対! お前から借りたのってタドクエとギリチャンぐらいだって!」
「なんだと……。では、一体誰が……」
「あっくんだろ、一丁目の。俺もあいつにときクラ貸してたけど返ってきてない」
「そうか、あっくんか……! 悪いな骸」
「いや、ついでに俺のときクラも回収しといてくれ。まだ全ヒロイン攻略してねぇんだ」
「そうか……。そういえばたしか、あっくんの次は俺に貸す予定じゃなかったか? 一度もプレイ出来ないのは困る……。回収は任せておけ」
「頼んだぞー!」
走り去る骸の背に昔貸したゲームのカセットもといガシャットの回収を誓うグランであったが、突然部屋の襖が開いてツッコミが入った。
「いや借金はいいんですか!?」
「む、千佳女史……聞いていたのか……」
「あ、いや……あはは目が覚めてトイレ行こうと思ったら話が聞こえてきてしまって……。すいません盗み聞くような真似を……」
「いや、別に聞かれて問題がある話はしていない。それに、少なくともあいつは儚への借金ぐらいは返すだろうさ」
その時、千佳は思った。
ギャルゲーの貸し借りの話は別に聞かれて良いのかと。
というかゲームするんだこの人と。
「でも、なんだかすごい話ですよね……。そっちの世界のこと、私なんにも知らないから……」
「儚にも聞かずに?」
「え、ええ。なんというか、普通の子みたいに思ってしまって特別は……」
「そうか……。それが却って、儚には居心地が良かったのだろう。ありがとう、千佳女史」
「いえ、そんな……」
千佳は少し躊躇いがちに目線を泳がせた後、意を決してグランに訊ねた。
「あの……戦士の墓場のこと、儚のこと、聞いてもいいですか?」
訊ねられるとグランは目を見開き、驚いた様子であった。
そして、右手を顎に触れさせ少しばかり考える。
「……そうだな、貴女には知ってもらった方がいいだろう」
「あ……ありがとうございます!」
「少し、歩きながらでも大丈夫だろうか」
朝日に向かい、深紅の目を細めながら言ったグランに千佳は首肯した。
目が覚めたら、知らない天井……。
というのは、やってみたかったやつ……。
今日は結城荘じゃない場所で、みんなでお泊まり……。
大部屋で、みんなでお布団並べるの、楽しい……。
「ふぁ~……おはよう儚ちゃん……朝強いのね~」
「ノゾミさん……おはようございます……」
ノゾミさんは、まだ眠そう……。
他のみんなは、まだ寝て……。
「おはよう」
「ひぃん……!」
リ、リオさん……いきなり起き上がってびっくり……。
時計を見ると、六時ピッタリ……。
習慣づけられてる……。
まったく眠そうでもないし、すごい……。
「千佳さんは?」
「いないわね~? トイレかしら~?」
「儚、見てきます……!」
部屋を出て、階段降りて……。
トイレには……誰もいない……。
お父さんの、ところ……?
「お父さんもいない……」
ついでに、骸おじさんも……。
「これは……事件よ儚ちゃん!!!」
「ひぃん!? ノゾミさん、いつの間に……」
儚が背中を取られるなんて……。
でも、事件って……?
「いい儚ちゃん? 千佳は……儚ちゃんのお母さんになろうとしているのかもしれないわ」
「へ……?」
チカさんが、儚の、お母さんに……?
「いない千佳と儚ちゃんのお父さん……。こんな早朝に。いいえ、二人は深夜から愛を確かめあっていたのよ!」
「夜中なら千佳姐、いびきかいて寝てたぞ……」
「アユさん……おはようございます……」
ボサボサの髪をかきながら階段から降りてきたアユさん……。
珍しいアユさんのすっぴん……。
「じゃあ、二人は朝から……!」
「そっちから離れろよ望さん……」
「だって気になるんだもの~! 儚ちゃんは気にならない? お父さんが千佳ともしかしたらデートしてるかもって」
お父さんと、チカさんが……。
うーん……。
「儚は……」
「儚ちゃんは?」
「儚は……お父さんが幸せなら、それでいいです……」
「儚ちゃん……」
「知ってるんです……。お父さん、儚がいるからまだ結婚しないでいるの……。いっぱいお誘い来てるし、おばあちゃんからも早く結婚しろって言われてるし……」
儚のことなんか気にせず、いい人見つけてもらいたいのに……。
でも、もしそれがチカさんなら……。
「儚、二人を探してきます……!」
「儚ちゃん……。あんまり遠くに行かないでね~!」
「はい……!」
外に出て、飛んできたローブを纏って走る。
朝から暑い……!
日本の夏、辛い……!
朝の森の中。
遊歩道として整備された道を歩く二人はしばらく鳥の囀ずりを楽しんでいた。
「のどかなところだ」
「そうですね……。都会が嫌になってきます」
冗談交じりに言う千佳にグランは笑った。
「私も、出来ればこういう場所にいたいのだが……。立場が許してはくれない」
「王様……ですしね」
「そこはどうか皇帝と言っていただけると嬉しい」
「あっ、すみません……!」
本気で謝る千佳を見て、グランもまた冗談だと笑った。
「別に、誰が偉いというわけではないのだ。戦士の墓場は」
「そう、なんですか?」
「インフェルニティ、ブツダンブッカ、ソナエモン……。この御三家が大きな力を有しているから、その力の責任を果たしているというわけだ」
グランは三指を折り千佳に説明する。
今の三つの名は千佳も聞き覚えがあった。
「儚はその御三家の名字を全部持ってるわけですけど……。その、なんでですか?」
「……その理由を説明する前に、この話をしなければな」
少し声のトーンが落ちたグランに千佳は疑問符を浮かべる。
彼にとって、あまり良くない話題を話そうとしているのではないか心配であった。
「今では御三家だが、十年前までは五大士族と呼ばれていた。御三家に加えて二つ。グレモリー家と、ハカイブ一族が存在していた」
「していた……?」
過去形の言い方が気にかかった千佳にグランは首を縦に振ってから話を続けた。
「ハカイブ一族は我々とは違い、原初の墓守の暮らしを続ける、真の墓守と呼ばれていた。鎮魂の森で、ひたすらに魂の安寧を願う者達……。先程、誰が偉いというわけではないと言ったが、ハカイブ一族は神聖視されていた」
「真の墓守……。儚はじゃあ……」
「ああ、最後の生き残りだ」
千佳は言葉を失った。
あの子のバックボーンは自分の想像を絶するものである。
「そんな神聖視されていたハカイブ一族がどうして……」
「……ハカイブ一族が断絶しかけたのは、当初は新種の病によるものとされていた。鎮魂の森で原初の暮らしを続けるハカイブ一族だったから、感染が一気に拡大してしまったのだと誰もが思った。だがこれは、数百年以上に渡る恐るべき計略によるものだった……」
グランの口調に暗いものが過る。
憎悪、怒り、そして、もうひとつ何か別の感情。
千佳はまだその感情の正体を知ることはない。知るには、この話の顛末を知ることが必要だからだ。
「全ての黒幕はグレモリー家であったが、それを知った時には全てが遅すぎた……。俺は、何も出来なかった……」
「グレモリー家は、一体何を……」
千佳が問うと、グランは戦士の墓場の禁句を呟いた。
「ハルエ=イガ」
「はる……?」
「戦士の墓場では口にするのも禁じられている古代の言葉。戦士の墓場に眠ると言われている、混沌の力。グレモリー家は何代にも渡りハルエ=イガを手にして戦士の墓場を手中に収めようとしていたようだ」
「それで、グレモリー家はハルエ=イガを……」
「それだけは止めた。もう、あいつを殺すことでしか……止められなかった……」
その口ぶりに千佳は困惑した。
戦士の墓場を混乱させ、儚の一族をほぼ断絶に追いやった一族の人間に対し、同情的ではないかと。
それには必ず理由がある。千佳はそう確信した。
「グランさんは、グレモリー家の……」
「……そうだ。グレモリー家の当主、グレモリウス・ファントム・グレモリーは俺の友だった……」
友を殺した。
殺すしかなかった。
それは、どんな絶望だろうか。
千佳は想像しても、その絶望には辿り着かない。
辿り着きたくないと思考が安全装置をかけてしまう。
「復讐を果たしたって……儚のご家族の……?」
「……ああ、そうだな」
「グランさんは、儚のご家族とも親交が?」
「マイリ・ハカイブ……。儚の母とは、グレモリウスと共に修行した」
懐かしむようにグランは言った。
穏やかな声色で、グランにとっても良い思い出なのだろう。
それが分かったから、千佳はグランに儚の母について深掘りすることにした。
「儚のお母さんはどんな人だったんですか?」
「見た目は似ていたが、性格は儚とは似つかないな……まあ、変わった奴だったよ。突拍子もなく変なことをするような奴だ。振り回されていたよ」
困った奴だと言うわりにグランの口ぶりは穏やかで、楽しげで……千佳は女の嗅覚で思わずグランに突っ込んだ質問をする。
「もしかして、好きだったんですか? 儚のお母さんのこと」
「……千佳女史は聡いな。そんなに分かりやすいだろうか……」
「女の勘ってやつですよ」
「恐ろしいな、それは……。なぜ男にはないのだろうか……」
「女の特権です」
微笑み得意気に言う千佳につられてグランも口角を上げていた。
暗い話題から一転し、笑いあう二人。
だが、そんな二人を。
そんなグランを、憎悪で見つめるものがいた。
その悪しき気配に気付かぬグランではない。咄嗟に千佳を背に庇い、声を荒げた。
「何者だ!」
その声に呼応し、それは現れた。
「イン、フェルニティ……!」
忌々しげに、首元を掻きむしるようにゆらりと現れた。
仮面ライダー、グレモリー。
「グレモリー……!」
「あれが……」
「インフェルニティ!!!」
千佳はあれが仮面ライダーカイザと蜂女の魂で変身したものであるということだけ理解した。
しかし、それ以外のことは分からない。
何故ここに、グレモリーがいるのかさえ。
「千佳女史は下がれ。奴の狙いは私だ」
「は、はい……!」
千佳を逃がそうとするグランであったが、それより早くグレモリーがカイザブレイガンに似た武器、ビーブレイガンから紫色の光弾を放ち、千佳ごと巻き込もうとする。
「きゃあ!!!」
「チッ……」
地面から火花を放ち、怯むグラン達。
好機を逃すまいとグレモリーはビーブレイガンを反転させ、黄金に輝く光刃の切先をグランへと向け疾駆。
その心臓を貫かんと迫る。
「くっ……」
グランは即座に聖剣を呼び出し、刃を抜こうと手を伸ばす。だが、その手は聖剣を握ることを躊躇していた。
かつて、グレモリーを貫いた時のことをフラッシュバックし。
「グランさん!」
「っ!?」
千佳の叫びに引き戻されたグラン。だが、既にグランは回避も反撃も間に合わない。
グレモリーはグランを貫いたと確信し、仮面の下でほくそ笑んだ。
しかし。
《ウェポン スネークウィップ》
しなやかに、そして鋭くグレモリーの手を叩いた紫色の鞭。
グレモリーはビーブレイガンを落とし、グランは命を救われた。
「なにやってるグラン!」
木陰から鞭を持って現れた骸が檄を飛ばす。
グランは骸に視線は向けず、礼を述べた。
「骸……すまない!」
「邪魔をするな……!」
得物を失い殴りかかるグレモリーの拳を捌き、グランは墓守ノベルトを腰に巻き付ける。
そして、赤いキセキレジスターを開帳し細筆の墨を飛ばして一度にボディとアーマーに書き込んだ。
「変身」
紅き薔薇の皇帝、仮面ライダーインフェルニティ ダークネスローズへと変身しグレモリーとほぼ同時に拳を突き出す。
一瞬早く、インフェルニティの拳がグレモリーへと届く。
赤い薔薇が舞い落ちる中、吹き飛ぶグレモリー。
改心の一撃が決まりながらも、グレモリーはまだ立ち上がった。
「……執念、か」
「え……」
インフェルニティがそう呟いたのを、千佳は聞き逃さなかった。
「骸、千佳女史を頼む」
「ああ。こっちだ」
骸に連れられ千佳は安全な場所へ。
戦闘に集中出来るようになったインフェルニティとグレモリーの戦闘は過熱していく。
朝の静けさに似つかわしくない衝撃音が耳に入った。
こっちの世界の人には聞こえないだろうけど、儚は墓守だから聞こえた……!
お父さんが戦っているのかも……。そしたら、チカさんも近くにいて危ないかも……!
儚も急ごう。
音のした方へ走る。
だけど、背後から感じた妙な気配に振り向いた。
敵意、も含まれている……。
だけど、なに、この気配は……。
「ああもう! 私は都会派なのに~!」
白衣に泥がついた。最悪。
クリーニングに出さなきゃいけないなんて……。
「この音……」
戦闘の音。
恐らく、あいつが仕掛けたのだろう。
散々、釘を差したというのに。
「あれは……」
木陰の先に、懐かしい黒衣を纏って走る少女がいた。
恐らく、あちらの戦闘に加わるつもりなのだろう。
ただでさえインフェルニティ相手は分が悪いというのに、それは流石にまずい。
「これは、止めないとかしら」
トゥームグレイダーバックルを巻き、二つのトゥームを起動させる。
《チェーンソーリザード》
《ハチオーグ》
「憑装」
バックルに装填したトゥームを、ピッケルとハンマーが叩きヒビを入れる。
変化していく身体を受け入れ、二つの魂を体内で融合させる。
広い襟の立った黒いレザーの強化服の上に黄色の着物を纏い、はだけた右腕は銀色の鋼。左手には刀が握られる。
形成される黒と黄色の仮面は、左がトカゲ、右がハチを模して、後頭部を飾る銀色のアクセサリーが髪のよう。
「さぁて、久しぶりの肉体労働といきますか……」
仮面を纏い、髪を整える。
刀の鯉口を切り、刃を見つめる。
誰だったか、刃の下に心を置くことを忍ぶと言った。
「……私に殺されないでしょうね。儚」
刀を納め、遊歩道へと出る。
すると、あちらは気配に気付いたようですぐに振り返った。
「ベルト付き……!」
「ふふ……」
刀を抜き、鞘を捨てる。
変身ぐらいは待ってあげよう。
見せなさい儚。
あなたの、ハカイブを。