仮面ライダーハカイブ   作:大ちゃんネオ

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危機一髪!ララ対ハカイブ!!

 林道の中、次々と風を切るマシンの群れ。

 先頭を走る蒼と紅のハカイブ=バイオレントブラッドとメタリックグリーンの鋭いボディのマシン、ショーリョーマッ。

 そのすぐ真後ろに牙のマシンを駆る異形。バッタとサーベルタイガーが融合したような姿の歪さは、周囲に不気味なプレッシャーを放ち、ハカイブはその背でララの殺気を受け止めていた。

 さらに後方からは黒いオフロードバイクを走らせるララの部下6人も迫り、無数の轍が刻まれていく。

 

「なかなかいいスピードじゃない」

「……いい歳して、暴走族なんて……」

「暴走じゃあない。激走だよッ!!!」

 

 ララが吼えると、牙を模したカウルから小型のミサイルが放たれハカイブとショーリョーマッを狙う。

 ハカイブは巧みにショーリョーマッを操りミサイルを回避するも、地面に着弾し灰色の爆煙と衝撃を発するその威力には内心驚かされた。

 

「小さいわりに……っ!」

 

 疾走続けるハカイブだが、眼前には古びた木柵が行くてを阻んでいた。否、この程度は壁にもならないとハカイブとショーリョーマッはそのまま突っ込み、木柵を破壊。農場のようなだだっ広い敷地は視界が開けて遮蔽物になるようなものはない。

 あの小型ミサイルに対する盾になるものが存在しないというわけだ。

 もとより、盾など必要ないとハカイブは強気で車輪を駆動させる。

 

「喰らいな!」

「ふっ……」

 

 放たれたミサイルを、ハカイブはショーリョーマッに乗ったまま後ろ回し蹴りをすることで迎撃。

 宙を舞ったミサイルが墜ちると、ちょうどララの目の前で爆発。怯んだララであったが、後続の戦闘員達は煙を裂いてハカイブを追走。

 

「やるじゃないさ」

 

 ララは余裕そうに呟き、ハカイブや戦闘員達とは違う方向へとマシンを向けて走らせた。

 一方、ハカイブと戦闘員達の戦い。

 ハカイブを追走する戦闘員達は腰に巻かれたトゥームグレイダーバックルのトリガーを弾いた。

 

《ショッカーライダー》

《大量発生型相変異バッタオーグ》

 

「憑装」

 

 ハカイブを追う戦闘員達の姿が変わる。彼等は戦闘員の中でも選りすぐりの上級戦闘員。

 通称、コンバットライダー。

 黒い身体にコッパーカラーのマスクとグローブ、コンバーターラングに赤い複眼。そして全員、黄色のマフラーを首に巻いていた。

 

「見た目は仮面ライダーそっくり……だけど……!」

 

 二人のコンバットライダーがバイクをウィリーさせてハカイブとショーリョーマッを挟み込もうと迫る。一瞬振り向き、敵の動きを確認するとハカイブはコンバットライダーが接近してきたタイミングに合わせてショーリョーマッを減速。

 コンバットライダー二人は互いに繰り出したダーツ型の爆弾で同士討ちしてしまい、それぞれ左右に広がるようにバイクは転倒。

 更に、突然の減速に反応しきれなかったコンバットライダーに向けてハカイブは後ろ蹴りを放つと戦闘員は後方へと大きく吹き飛ばされて、爆発。

 

「ふぅ……これで多少は余裕が出来た……」

 

 ハカイブはサブアームにハンドルを握らせると墓守ノベルトのバックルからキセキレジスターを抜くと、右端の頁に筆を走らせる。

 

「ネ、オ、ア、ル、ファ……と」

 

《ウェポン ネオアルファガトリングチェーンソー》

 

 右のサブアームに装着される、ガトリングガンとチェーンソーが一体と化した武装。

 未だ健在のコンバットライダー達へとガトリングの銃口を向け、銃弾をばら撒く。

 

「数だけいたって……!」

「アタシを忘れたかい!?」

「っ!?」

 

 獲物を待ち伏せていた猛獣の如く、木陰を突き破り現れたララはハカイブとショーリョーマッの無防備な真横を取った。

 そして、牙のマシンがショーリョーマッに歯を立てる。

 

「くっ……!」

「もう遅いんだよ!」

「きゃっ!?」

 

 衝撃。ハカイブはショーリョーマッから振り落とされ地面を転げ、ショーリョーマッは転倒し火花を散らしながらアスファルトの上を横すべる。

 

「う、うう……ショーリョーマッ……」

 

 ショーリョーマッへと手を伸ばすハカイブ。だが、ショーリョーマッを覆い隠すかのようにララとコンバットライダー達が儚の周囲を取り囲む。

 ハカイブの声は敵のマシンの駆動音に掻き消され、ショーリョーマッの発する音もまたハカイブには届かないよう。

 

「さぁて、まずは変身を解除させようじゃないか。……撃て!」

 

 号令を皮切りに、コンバットライダー達が自動小銃を一斉射。

 ハカイブは全周囲から弾丸に襲われ、身を屈めて防御するもバイオレントブラッドは現在変身可能なハカイブの形態の中で最も防御力が低い姿。多少の銃撃ならば耐えるが、永遠に続くかのような銃弾の嵐に見舞われては生体装甲ネオバイオアーマーA-Zも悲鳴を上げるというもの。

 生体装甲内を巡る赤黒い液体が飛び散り、周囲を濡らしていく様にララは内心ほくそ笑むと、部下達に呼びかける。

 

「あとちょいで装甲は限界だよ! その調子で弾ぶち込みな!」

「……弾には弾、です」

「なに?」

 

 銃声に混じったハカイブの声にララだけが気付いた。

 その瞬間、ハカイブの姿が一変する。

 白い襤褸で身を包んだ、赤い日輪纏う骸へと。

 

《仮面ライダーハカイブ パニッシャーマグナム》

 

 背中を丸めて防御に徹していたハカイブだったが、その間密かに脇の下から伸びるサブアームでキセキレジスターに書き込んでいたのだ。

 強固な盾と身体は弾丸を一切通さない。

 着弾した時の音もまるで弾丸を弾くかのよう。

 コンバットライダー達の円陣の中で弾丸を浴び続けながらも立ち上がり、ハカイブは右手にガイストマグナムを構え、トリガーを弾いた。

 

「そんな弾丸、効きません……」

「ごあっ!?」

 

 弾丸は疾走するコンバットライダーへと命中し、バランスを崩したコンバットライダーはマシンごと転倒。円陣が乱れ、コンバットライダー達は立て直しを図るも一人ずつ凶弾に倒れていく。

 

「骸骨なら、溶けるぐらい焼かれちまいな!」

 

 ララは巨大な牙を持つ口から火炎を放ち、ハカイブを燃やし尽くそうとするもパニッシャーマグナムに炎は効かない。

 炎の中で、ハカイブは冷静にララへと弾丸を撃ち込んでいく。

 

「ぐっ……! なるほど、伊達じゃないようね!」

「許しません……ショーリョーマッを傷つけたお前は!」

 

 ハカイブは必殺技を繰り出そうと盾を投げ捨て、左手でバックルのキセキレジスターを操作しようとする。

 そこへ好機とララは不気味な人形をハカイブ目掛けて投げつける。

 

「こんなもの……!」

 

 ハカイブが左手で人形を叩き落とす間にララはマシンでハカイブから距離を取る。その行動に今の人形は爆弾か何かかとハカイブは危機感を抱くも、地面に落ちた人形が爆ぜる気配もない。

 単なる破れかぶれかと、人形のことなど忘れてハカイブはララを追跡しようと機動力に優れるマシンヤイバーへと変身。

 

「クロックアッ……ガッ!? ぐぅ……ああっ!」

 

 突然、ハカイブを襲う激痛。

 変身すらも維持出来ず、儚は胸を押さえ苦しみ悶えながら地面に倒れ踠く。

 

「ぎっ……! な、んで、こん……があっ!?」

 

 苦痛に喘ぐ儚。そこへララが戻ってくると変身を解き、サディスティックな笑顔で儚を見下ろした。

 

「何が起きたか分からないって感じね。さっきあんたに投げたのはドーブー教の呪いの人形。触れただけで全身に回る猛毒は改造人間にだって効く代物でねぇ……って、へばったかい」

 

 意識を失った儚の頬を爪先で突き、儚が完全に沈黙したことを確認するとララは部下に儚を担いで運ばせる。速やかに撤収しようとしたララであったが、道路に放置されたショーリョーマッの姿を見て口角を吊り上げる。

 そこへ、部隊のNo2にあたる男が駆け寄り指示を仰いだ。

 

「隊長、男の墓守の方はどうしますか」

「……功を前に焦るものじゃないわ。引き上げるように通達なさい」

「はっ!」

「あと……こいつも運ばせて」

 

 ララは顎でショーリョーマッを指すと、自身のマシンに跨がり走り去っていく。

 依然として意識の戻らない儚と大破されたショーリョーマッは物のように運ばれていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 錫杖で全身黒タイツに黄色マフラーの戦闘員をバイクから叩き落とすこともう何度目か。

 骸は変身せずとも戦闘員達を圧倒していた。

 正確に言えば、変身したくとも変身出来ないのだが。

 

「おいおいどしたー、おじさん相手に随分と手こずってるじゃないの」

 

 錫杖を自在に操り、弄ぶ様を見せつける骸の挑発。だが、骸の意を反して戦闘員達は踵を返して撤退していくではないか。

 

「あん? なんだ根性足りてねぇなぁ。ま、おじさんが強くてイケメンだったっつーことで。はっはっはっーふごっ」

 

 拍子抜けし、戦闘員達を笑い飛ばす骸であったが突然顔に紙が貼り付き慌てて払い除ける。

 

「んだよこれ……あん? 墓守の娘は預かった。紅薔薇帝を連れて以下の場所まで来いだぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「儚が連れ去られた〜!?」

 

 結城荘、激震。

 一人帰ってきた骸に千佳達は信じられないと骸に詰め寄っていた。

 

「……すまん。俺の監督不行き届きだ」

 

 すっかり反省中といった様子の骸を責めることは誰も出来なかった。

 

「ま〜監督されてたのはどちらかと言えば骸さんの方でしたし〜?」

「犬だもんな」

「犬だもんね」

「むしろこうして家まで帰ってきて偉いまである。忠犬ムク公よ!」

「犬扱いはやめてくれ頼むから。とにかく、俺とグランでなんとかしてくる」

「なんとかって……骸さん、変身出来ないのに」

「変身出来なくてもいくんだよ。これ以上、仲間の死に目なんざ見たくないからな」

 

 瞳に宿る悲しさと寂しさを携えた光。

 骸・ブツダンブッカも戦士である。儚とは比較にならないほどの歴戦ともなれば潜り抜けた修羅場も、目にしてきた死の数も違う。

 敵の死も、同胞の死も。

 無数の死に一が増えるだけと人は言うかもしれない。  

 だが骸は、その一の死を許さない。

 そんな瞳の光を托鉢笠で隠し、錫杖を手に骸は結城荘を後にする。

 戦いに赴く骸の背を見つめた千佳達はその場でぼうと立ち尽くすのみ。

 

「ムクおじ……。なんか、仮面ライダーみたいだったね」

「まあ、仮面ライダーなんだろ。魂が、的な」

「かっこいいところあるわね〜」

 

 惚れちゃうかもと望が言うと、先程出発したばかりの笠を被った頭がひょっこりとリビングを覗き込む。

 何か含みのある笑みを浮かべながら。

 

「なに骸さん。忘れ物?」

「いやー実は、そのー。指定された場所まで遠いから、車出してくんない?」

 

 さっきの格好良さは何処へやら。

 千佳達の中で上がっていた骸の株は急落したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 グレイダー西東京支店こと西東京基地。

 激走のララから個別に連絡を受けて呼び出され、何事かと来てみたはいいもの。

 

「今時こんな荒地に基地とか」

 

 土はむき出し。草はぼうぼう。

 環境整備が行き届いていませんね。

 毒を吐こうと思えばいくらでも吐けますが、生産性皆無なのでやめておきます。

 何故か全身黒タイツに黒の目出し帽を被った警備員に社員証……もとい、構成員証を見せて巨岩でカモフラージュされた入口を開放してもらう。

 階段を降りて(エレベーターもないのか!)、シュルレアリスム? サイケデリック?

 芸術には疎いので分かりませんが、毒々しい色と奇妙なセンスで彩られた内装のエントランスには女性構成員が二人。なかなかエグめの格好をしている。

 ハイレグだ。網タイツだ。

 コンプライアンスはどうなっているのだろうか。悪の組織といえど、最近は女性構成員へのセクハラは問題視されているのだから。

 なんてことを思ったところで、私には関係ないのだが。

 

「お疲れ様でーす。本部、第一営業部のドクターハカリです。特務機動隊のララ隊長お願いします」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

 事務的な対応を受けていると、私が来るのを見計らっていたかのように自動扉の向こうからララが現れる。

 

「悪いわね。急に呼び出したりして」

「それは別に〜。それより、用件はなんです?」

 

 彼女は雑談を楽しむタイプではないだろうと、早速本題から入る。すると笑みを浮かべ、「ついてきなさい」と背を向けた。

 目が痛くなるような赤一色のエレベーターに乗り込むと、更に地下深くへと降下していく。

 

「あなたに来てもらった理由は、戦利品の修復のため」

「戦利品?」

 

 聞き返すと、目的の階に到着。

 目の前に広がるのは工場のような景色。

 ざっと眺め、何が造られていたのかおおよそ把握。

 

「ここはかつてグレイダーと抗争し、敗北した秘密結社から接収した基地なの。だから、こんな兵器製造工場もあるってわけ」

「なるほど。趣が違うわけですねぇ」

 

 工場ブロックを進み、その最奥に辿り着く。

 開けた空間でスポットライトを浴びる、メタリックグリーンのマシンには見覚えがあった。

 何故、ここに。

 ショーリョーマッという名前が口から出そうになるのを堪え、状況把握に努める。

 

「これは……」

「墓守の小娘が乗ってたマシン。ドクターハカリ。あなたにはこれを修復してアタシに使えるようにしてもらいたい」

「……墓守を、ハカイブを倒したのですか?」

「殺しまではしてないけどね。これから小娘を餌に紅薔薇帝とついでにもう一人いた墓守も仕留めるのさ」

 

 儚が、ここに。

 一瞬、思考がそれだけに支配される。

 

「それで、こいつは直せそう?」

「詳しく見てみなければ、なんとも」

「そう。呼んどいてなんだけど、他の仕事の方は?」

「ララさんに呼ばれたと言ったらクロフト部長が快く送り出してくださったので大丈夫です〜」

「ならいいわ。ここの技術者達も使っていいからよろしく頼むわね」

 

 愛想よく返事をし、立ち去るララを見送る。

 もう少し情報を引き出したいところだったけれど、仕方ない。とにかく儚は激走のララに敗れ、ショーリョーマッもクラッシュした。

 ショーリョーマッのまわりを一周して状態を確認する。ボディの左側を横殴りにされたらしい。

 砕けた装甲、内部の機器も恐らく壊れているだろう。

 

「さーて、どうしたものか。流石の私も霊馬駆動輪は専門外なのよね」

 

 一人ごちる。

 すると、ショーリョーマッのライトが仄かに明滅を始める。

 

「———」

「……儚なら、捕まってるわ」

「———!」

「あなた一頭で、それも手負でどうにか出来る相手じゃない」

 

 白衣を翻す。

 まったく、あの子の愛されっぷりは何?

 そこまで思われてるなんて、儚は大した幸せ者だ。だからこそ、守りたくもなるんでしょうね。

 

「ここはひとつ任せなさいショーリョーマッ。儚の姉同士、仲良くしましょう?」

 

 格好つけたことをと自虐の笑みが口元に。

 それにしても、

 

「儚の姉、か……」

 

 本当に愛されているのね、儚は。

 

「いいなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見ているという自覚はあった。

 幼い頃の記憶を再生した夢。儚と、お父さんが家族になったばかりの頃。

 家庭教師のコウロ先生は厳しい人で、何度怒られたことか。

 厳しいけど優しい人ということに気付いたのはもっと後のことで、この頃の儚にとってコウロ先生は天敵でしかなかった。

 

「儚様。勉強のお時間です」

「ひぃん……はかな、ベンキョーできるからやんなくていい……」

「いけません。やらなくても出来るなんてことはありません。第一、この間のテストの結果は……」

「ベンキョーやー! ひんにゅうもやー!」

「あっ! 儚様!」

 

 ちなみにこの時のことが理由でコウロ先生が密かに育乳に励んだことを儚は知っている。

 それはまあいいとして。

 この頃の儚にとって新しい家となったインフェルニティの城は広すぎる迷路で、たくさんの人達がいて、その人達が儚のことを————。

 とにかく、まだまだ怖い場所だった。

 安心出来るのは、お父さんがいる場所。だけど、お父さんは忙しいからあんまりお城にもいなくて。

 だから、儚にとっての世界は……ローブの中。

 誰もいない場所で、ローブに包まれれば安心出来た。

 

「儚様! 出てきてください儚様!」

「見つかったか?」

「いいや、こっちも駄目だ」

 

 とにかく、大人達の目を掻い潜って一人になれる場所を求めていた。

 お城の中を歩いているうちに、いつの間にか外に出て……人気のない建物を見つけて中に入る。

 そこで、ショーリョーマッと出会った。

 輝く翠の宝石を彫って造られたかのような美しい霊馬。

 霊馬という生き物の存在は知っていたけれど、本物を見たのは初めて。小さい頃の儚からして見れば山のように大きく、迫力は抜群。

 気性が荒い生き物ということを知ったのは、もう少し後になってから。

 中でもショーリョーマッは特に気性難とされていて専用の厩に一頭だけでいたあたり、それを物語っている。

 

「れいばさん、ひとり?」

「……」

「はかなもひとり……。にへへ、おそろい」

 

 能天気に話しかけていた。

 するとショーリョーマッは頭を下げて、幼い儚へと寄り添う。そんなショーリョーマッの頭を撫でると気持ち良さそうにして目を瞑る。

 だが、タイミング悪く儚を探す大人達が厩にやって来てしまった。

 

「儚様!? 危ないですから早くこちらに!」

「ブオォォォ!!!」

「ひっ!」

 

 コウロ先生に向かって嘶いたショーリョーマッがとてもカッコよかったこと。ショーリョーマッにビビるコウロ先生という珍しい光景を見られたこと。どちらもよーく覚えている。

 

「コウロ先生危ないから下がれ! くそぉ、よりにもよってショーリョーマッのとこなんて」

「ショーリョーマッっていうの……?」

「ブオッ」

 

 こうして儚とショーリョーマッは出会った。

 この後はお父さんが帰ってくるまでショーリョーマッのところで籠城。

 ご迷惑をおかけしましたコウロ先生達……。

 でも、こうしてショーリョーマッと出会えたのが儚にとってひとつの幸せなのです。

 

 ……むにゃむにゃ。

 ……誰か、話してる……?

 

「こんな小娘を投入しなくちゃいけないなんて、墓守共も必死のようね」

 

 寝たふりをしながら確認を取る。ベッドの上に寝かされて、ベルトみたいなので拘束されてる。

 なんか、棒みたいなのでほっぺ突かれた……。儚のほっぺになんてことを……。

 というか、この声はあの暴走族のおばさんの声……!

 

「紅薔薇帝どもを誘き出す餌になってもらうよ」

 

 ……!

 寝たふりでやり過ごすけど、聞き捨てならない……。

 ……出てった。

 

「ぱちり。うわっ、悪趣味な部屋」

 

 目が痛くなりそうな真っ赤な天井にいろんな色を塗りたくった壁。

 よりにもよってこんな場所に閉じ込めるとか。

 

「よいしょっと」

 

 拘束具を破壊しながら起き上がる。

 さて、脱出しますか……。幸いにもローブの中に隠したベルトは敵に奪われていない。

 変身して脱出するのが手っ取り早い方法……!

 

《ボディ 蜘蛛男》

《アーマー アナザーアギト》

 

「へんし……!」

 

 いつものようにキセキレジスターをバックルへと装填しようとすると、突然室内が怪しい光に包まれて身体が動かなくなってしまう。

 無理矢理変身しようとしても……。

 

「ひぃん……だめ……。変身できない……」

 

 まさかこんな仕掛けがあったなんて……。かくなる上は部屋の扉をこじ開けて……。

 ショーリョーマッのことが心配だから、早くここから出ないと……!

 

「強引な方法はやめなさい儚」

「その声……お姉ちゃ、んっ!」

 

 突然、天井裏から舞い降りてきたお姉ちゃんに口を塞がれる。

 

「しっ。監視カメラには細工したけど、どこに何があるか分からないんだから」

 

 小声で耳元に囁くお姉ちゃんに合わせて、儚も声のボリュームを抑える。

 

「うん……分かった……。でも、どうしてここに……?」

「あなたの霊馬駆動輪を修復しろって言われてね。でも、流石の私もあれをどうこうは出来ないから、あなたが直しなさい。出来るんでしょう?」

 

 ショーリョーマッがここに。

 それなら都合が良い。良いけど、なんでわざわざそっちが壊したものを直そうと……?

 

「あいつ、ショーリョーマッを自分の新しいマシンにするつもりみたい」

「ひぃん……NTR……」

「けど、内部まで入り込めたならあとは容易い。このまま基地とララを叩くわよ」

 

 頷き、お姉ちゃんの作戦に乗ることにした。

 お姉ちゃんは内部から、儚が外側からグレイダーを潰す。共同作戦……!

 

「で、でも……脱走したって、バレない……?」

「心配ないわ。それなら……」

 

 お姉ちゃんは白衣の内ポケットを弄り、あったあったと何かを引っ張り出した。

 

「ワーム育成キット〜」

 

 そう言いながらお姉ちゃん掲げたのは透明な容器の中に入ったずるずるの緑色のボールのようなもの。

 

「ひぃん……グロテスク……」

「まったく今時の子は。夏休みの自由研究でワームの飼育日記とかやらなかったの?」

「そんなのやってたのお姉ちゃん……!? 第一、ワームなんてそんな今Y◯uTubeでカブト配信してるからって……」

「ああもういいからそういうのは。それじゃ、まずはこの成長促進剤を打って……」

 

 お姉ちゃんが注射で薬品をワームの卵に添加すると異常な速度で卵は成長して、緑色のワームサナギ体が孵化する。

 あまり間近で見たくないビジュアル……。

 さらにその上でワームは儚の姿に擬態する。

 我ながら完璧なビジュアル。

 だけど本物の儚の方が可愛い。

 

「いや、儚の方が可愛いです」

「偽物のくせに何を……。儚の方が可愛いに決まってます……」

「いいえ、儚の方がより儚なので可愛いです。真実の可愛さに到達しています……!」

「はっ……。儚の可愛さはここを第一宇宙としたら複数の並行世界までも束ねた上でトップオブ可愛いです。それこそが究極の真実……!」

 

 正直、自分でも何を言っているのか分からなくなってきたけど自分自身には負けられない。

 ましてやワームが擬態している自分になんて……!

 

「はいはいどっちも可愛い可愛い。じゃ、ワームの儚はここで待機ね、本物の儚はこれ着て」

「……なに、これ?」

「霊馬駆動輪を修復するために私が連れてきた技師って設定でいくから。あとこれ身分証ね」

 

 よ、用意がいい……!

 一体いつの間に用意したのか。にしても、身分証の写真……。

 

「これ、お姉ちゃんが撮ったの……?」

「変装すれば分かりはしないわよ。姉妹だしバレないわよ」

「ひぃん……この瓶の底みたいな眼鏡、ダサい……」

「つべこべ言わない! はい、カツラ被る。メガネもかける、ツナギ着る!」

 

 そうして、黒髪ハーフアップに瓶底メガネの青いツナギを着たよく分からないイモい工業系女子が誕生してしまった。

 

「よし、行くわよ」

「えぇ……天井裏……?」

「なに、不服?」

「狭いからお姉ちゃんはいいかもしれないけど……儚は胸がつっかえちゃうかもだから……」

「悪かったわね体型が父家系からの遺伝で!」

 

 つべこべ言わずに来なさいと言われ、渋々天井裏へ。

 そこからショーリョーマッがいる場所まで移動。

 ショーリョーマッの状態を見て、思わず駆け出していた。幸いなことにお姉ちゃんの他に人がいなかったから良かったけれど。

 

「ショーリョーマッ……! ごめんね、儚が弱いから……」

「————」

 

 ライトを点滅させて、そんなことないと言ってくれた。

 でも、あれは儚の油断が招いたことだから。

 

「すぐ、直してあげるからね……」

「……必要な道具とかあれば言って。取り寄せるから」

「うん。ありがとう、お姉ちゃ……」

「ここではドクターハカリと呼んで」

「わ、分かった……」

 

 とにかく作業を始めよう。

 まずは傷の確認を……。

 

 

 作業に集中する儚を見て、つい微笑んでしまった自分がいる。

 儚と離れ離れとなったこの10年という歳月は儚をたしかに成長させたのだ。

 あの一生懸命な顔から伝わってくる。

 

「私、ちょっと調べ物してくるからね〜」

 

 儚に伝えるも、すっかり集中しているから返事はない。

 さて、こちらも段取りを整えなければ。

 

「これを成功させれば、計画が大きく進む……」

 

 失敗は許されない。

 全てが上手くいけば、私も儚も幸せを手に入れられるのだから。

 これまで奪われた分を全て、取り戻してみせる————。

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