仮面ライダーハカイブ   作:大ちゃんネオ

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グレイダー秘密基地へ潜入せよ!

 戦士の墓場。

 ソナエモン技術局。

 読者の皆さんは出番が少ない私のことなど忘れていると思うから改めて自己紹介を。

 私はホウヨウ・ソナエモン。

 ここソナエモン技術局の局長を務めている。おかげさまで忙しい身、なのだが。

 

「ふう……」

 

 紅薔薇帝の異名で恐れられているグランだが、今は見る影もない。

 いつもは何かしらの用件があって訪れるものだが、今日は突然来るなり近くのソファにもたれて何を話すでもなくあんな調子でいる。

 

「なんなんだ今日のお前は」

「ホウヨウ……俺は何故こうも口下手なんだ……」

「知らん。帰れ」

 

 こうも、と言われても。私には何がなんだか分からないのだ。

 ゆえにかける言葉はなし。

 私は忙しいので相手をしている暇はない。作業作業。

 ……と、言いたいところだが。私は優しいので相談にでも乗ってあげるのだ。

 

「まったく、何度目だ。その口下手で落ち込むのは。それに、口下手で悩む時はマイリ絡みの時と決まっていたのに。まさか、本当に儚を嫁にする気か!?」

「いや、違う……」

「じゃあ誰だ」

「マイリでも儚でもない……。儚が居着いている場所の方だ」

「惚れたのか」

「分からない……。だから悩んでいる……」

 

 そこにいるのは紅薔薇帝などと呼ばれ恐れられている男ではない。

 ただの男がいた。些か、小さな事で深く悩んでいる男が。

 こうして悩む姿を見たのは何十年ぶりか。あの頃はまだマイリも、グレモリウスも、骸に菊さんだっていた。

 グランは多くを失った男だ。

 恋した女性は親友と結ばれ、その親友の謀略で命を落とした。

 多くの仲間が命を落とした。

 敵となった親友を、その手で討ち取った。

 グランの心は砕け散っていてもおかしくない。それを繋ぎ止めたのが儚だ。

 恋した女性と親友の忘れ形見。それが儚。

 グランが儚を引き取ると言った時は驚いた。いや、実際に私はその場にはいなかったので後から聞いた話だったのだが、それでもだ。

 結婚前の男が幼い子供を、ましてや女の子を育てるなど。無論、城の者達に任せることが多かったが、グランは儚との時間を出来るだけ多く取るようにしていた。

 今にして思うと、それは儚のためでもあったのだろうが、グラン自身のためでもあったのだろう。

 生きる意味の再確認をしていたのかもしれない。

 生きる力を得ていたのかもしれない。

 あれから十年。

 グランはすっかり父親らしくなって、来る縁談全てを拒み、男として悩む姿を見ることはもうないのかもしれないと思っていた。

 

「それで、その女性に何をしたんだ、お前は」

「……気が付いたら、顔に触れていて、顎をこう……」

「それで、口説きにかかったのか」

 

 食い気味にならないように抑えて聞くが、若干抑えられなかったと自覚する。

 こんな話題に浮かれるようなことはやめようと思っていたのに。

 

「いや……変な気を起こしたわけじゃない、と誤解のないように説明を……」

「つまり整理すると、お前はその女性にあたかも自分から口付けするようなムードを作っておきながら、逃げたわけだ。紅薔薇帝が聞いて呆れる。霊馬に蹴られてジゴク山の火口に沈め」

「手厳しいな……」

「当たり前だ! いいか、仔細はともかくお前は一人の女性の心を弄んだ卑劣な男と言っても過言ではない! 責任を取れ! 責任を!」

 

 自分でも驚くほど感情的になっている。

 しかし、こいつにはこれぐらい言ってやらねば分からないというものだ。私以外にこんなことを言う輩もいないだろうし、グランもそれを求めてここへ来たのだろうし。

 こいつの残り少ない友として、ケツを叩いてやらねばならん。

 

「責任の取り方については……」

「自分で考えろ。その頭は女を誑かすためだけについてるわけじゃないだろう」

「……了解した」

 

 そう言って立ち上がるグランはもう行動を始めようとしていた。

 

「おい待て」

「なんだ」

「何をどうするのか、私に説明してから行け」

「……謝る」

 

 きっぱりと、言い切った。

 顔がいい奴は良いな。何を言ってもなんだか許せる気がしてくるから。

 

「はあ……まあ、ひとまず行ってこい」

「ああ。すまないな」

「結果は別に報告しなくていいからな。ああ、あとそれから」

 

 引き出しを開けて、木箱を取り出してグランへと差し出す。

 木箱を見たグランは目を見開いて、それが何か気付いた様子。

 

「お前が持っていたのか……」

「ああ。マイリから頼まれていてな。修理も万全だ。どうせ儚にも会うだろうから、渡してくれ」

「そうか……。マイリも儚も、きっと喜ぶ」

 

 ああ、そんな顔を見せるのだなと思ってしまった。

 恋した女と、その娘を想う顔。私なんかに、見せるはずもない。

 

「いいから行け、さっさと。謝罪に大切なのはスピードだぞ」

「ああ……ありがとうホウヨウ。やはりお前は良い友だ」

 

 行ってくると、グランは部屋を出た。

 その数秒後、私は頭を抱えて机に突っ伏すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「草すぎて草生える〜」

「んな暢気なこと言ってる場合じゃないでしょ」

 

 草むらの影に隠れる望にツッコミを入れる。

 誰も手をつけず管理もせず雑草が生い茂るような場所にいるせいか、あのボケを放置していたらここと同じような無法地帯になるかもしれないと思ったからだ。

 しかし、草の方は伸び放題で助かった。私を含む結城荘の面子とムクおじの計六名で草を隠れ蓑にして周囲の様子を探り、儚が捕まっている基地の侵入経路を探している。

 開けた場所では敵に見つかってしまうだろうから、ここの環境に助けられている……と同時に視界の方も悪いので良いんだか悪いんだか。

 

「ホントにこの辺りなのかよおっさん」

「たしかにこの辺りのはずなんだが……あとおっさんじゃない」

「入口を探さないと何ともならないよムクおじ」

「分かってるっての。あとムクおじ言うな」

「あ、キクイモ」

「だからムクおじじゃ……いや何してんのあの子。一人だけ完全に違う目的で来てるよね。野草採りに来てるよね」

 

 莉緒は黄色い花を引っこ抜いてキクイモの採集に励んでいた。見た目は生姜にそっくり。だが芋である。

 菊のような花を咲かせるため菊芋と名付けられている。

 莉緒の手にはビニール袋が握られ、半透明の中は緑に萌えており、そこへ採れたてのキクイモが追加されていく。

 この辺りに群生しているらしく、莉緒は私達から離れてキクイモ採集に明け暮れる。

 

「キクイモは食感がいいわよねぇ。シャキシャキといきたい……じゃなくて。莉緒、そっちになんか秘密基地の入口的なものあ————」

「なんだお前は!」

 

 めちゃくちゃ戦闘員的な人に莉緒が見つかってしまったぁ!

 まずいと私は咄嗟に茂みへと隠れるも、え、どうすればいい?

 莉緒を助けるには、ムクおじを呼ぶしかない。

 でも離れちゃったし、大声出したら他にもいると気付かれそうだし、どうする!

 というか莉緒も逃げるなり何なりしなさいよ!

 固まってるんじゃないわよ!

 

「その袋は……そうか、ご同業か」

 

 ん?

 ど、同業?

 

「へへっ、この辺りは山菜がたんまり獲れるからなぁ! 姉ちゃんも秋の山菜目当てだろう?」

「ただの山菜採りに来たおっさん!!!」

 

 茂みから飛び出し、つっこまずにはいられなかった。

 いらない心配をしたという徒労のせいか怒りが込み上げてくる。

 

「紛らわしいのよ格好が! なんで山菜採りにそんな格好で来てるのよ! やましいことでもあるわけ!」

「えっ……いやぁ、肌が弱くてかぶれると嫌だから……」

「意外とデリケートな奴!!!」

 

 ああもうなんか一気に疲れた。

 どうしてこう……こうなんだろうなぁ!

 だって絶対に戦闘員だと思うじゃない。黒の全身タイツに目出し帽よ。こんな格好、戦闘員しかしないわよ。

 

「ああもういいから莉緒も行くわよ。山菜採りに来たんじゃないんだから」

「うん。ごめんね、夢中になっちゃって」

「え、姉ちゃん達は山菜採りに来たんじゃないの?」

 

 山菜採りのおっさんが訊ねてくるも説明するわけにもいかないし、そんな義理も別にあるわけじゃないんだけど……。

 あ、そうだ。

 

「いつからここで山菜採りしてたんです?」

「うん? 午前中からだけど」

 

 なるほど、結構長くこの辺りにいたらしい。

 可能性は低いだろうけど、聞いてみる価値はあるか。

 

「何か、変わったこととか不思議だな〜とか思ったことありません? なんか、変な建物があるとか、変な奴等がいたとか」

「んー? そういえば、ちょくちょくここにスーツ姿の奴等が来るんだよ。あっちの方でさ。ハイエースに乗ってきてな。で、ダンボール箱を運んだりとかしたりさ」

「スーツ姿? こんなところで、ですか?」

「それって……」

「やっぱりおかしいと思うよな! 姉ちゃん達、そいつらのこと探ってんのか? もしかして女潜入捜査官ってやつか! いやぁ、俺もよくお世話になって……あれ、いない」

 

 よし、有力な情報をゲット。

 というわけで、見張る。

 

「見張ってどうするんだ?」

「入口見つけたら一斉に突撃しちゃう!?」

 

 あゆがこれからの事について訊ねると、優李が思い切りのいい作戦を口にする。

 若者は勢いがあっていいわねぇ……。

 

「いや、外で騒ぎなんて起きたら中の警戒態勢がクライマックスになっちまう。派手に事を起こすのは、中に入ってからだ。グランも来るだろうが、いつ来るか分からんしな」

 

 冷静な意見をムクおじが言った。

 だらしない、金もないダメなおっさんかと思いきやこういう時に役に立つらしい。

 まあ、こんなんでもグランさんの友達で変身出来ないけど仮面ライダーで儚の先輩みたいなものなわけだし当然か。

 ……少し、ため息をつきたくなった。

 

「はあ……グランさん……」

「ちょっと千佳。なにこんな時に頭ピンクにしてるの」

「はぁ!? してないっての!」

「してるわよ〜。アラサーのくせに中学生みたいな恋して!」

「ちゅっ……」

 

 反論しようとしてやめた。

 ちょっと、勝てるビジョンが浮かばないから。なので、話を逸らす。

 

「にしても、なーんでスーツなのよ。もっと分かりやすく悪の組織っぽい格好をしなさいよ」

「グレイダーも昔はそうだったんだけどな、時代が変わって今じゃ企業面してるよ。盗んだ魂をあちこちに売り捌く方が金回りがいいってんでな。ま、世界征服だのは諦めちゃいないらしいが」

 

 なるほど。ムクおじは長年戦ってきたベテランだからそこら辺の事情にも詳しい。

 

「戦闘員なんかも、昔はわんさかいたもんだが今じゃほとんど営業に回されてほとんど残ってないしな。それに」

「それに?」

「戦闘員のお株はスー◯°ー戦隊さんの方に行っちまったからな」

「えっ」

「あー、いやー、たしかに……?」

 

 戦闘員と聞くと、たしかに思い浮かぶのは戦隊さんの方かもしれない。

 いや、ショッカー戦闘員とかむしろそっちのが先ではあるんだけど。

 感覚として、私なんかは戦闘員はどちらかというと戦隊さんの方の印象が強い。

 

「平成以降なかったわけじゃないけど、かなり減ったもんなぁ戦闘員」

「ライダーは途切れ途切れだったけど戦隊の方はずっと続いてたもんね」

「お株を奪われるわけだ、うんうん」

「いやそれ本当にグレイダーから戦闘員いなくなった理由か?」

 

 戦闘員役のスーツアクターさんを集めるのも大変だろうしなぁ。それに戦隊は五人で一体の怪人を相手にしてるから多勢に無勢に見えちゃうのも良くないだろうし、戦闘員がいた方がいいわよね……じゃなくて。

 

「それで、グレイダーは悪の秘密結社から悪の企業へと変わったってこと?」

「まあ、大規模な組織改革が行われたのは事実だ。だが、お前らもご存知のとおり、墓守とは戦いを避けられない。それに、蛇の道は蛇ってな。結局のところ商売相手も悪の組織で、同業他社との競合もある。何かと荒事が多いってんで、より戦闘に特化した部隊を作り上げた。それが儚を負かした激走のララ率いる特務機動隊とかいう奴等なわけだ」

 

 ま、他にも色々いるがと詳しくグレイダーの実情を話してくれた。

 詳しすぎてなんだかグレイダーにいたんじゃないかと勘繰りたくなるぐらいだ。

 

「おいおい、なんだよその目は」

「なんか詳しすぎて怪しい」

「敵について知るのは当然のことだろうが!」

「でも〜骸さん胡散臭いから〜」

 

 望の言うとおり、ムクおじは基本的に胡散臭いのでまあ、なんというか常人より五割増しで怪しく見えてしまうのだ。

 私達がそんな話をしていると、莉緒が口を開いた。

 

「来たみたい」

 

 山菜採りのおっさんの情報どおりにハイエースがやって来た。

 ハイエースのドアが開いて中から六人の男女……と言っても、男が一人であとは女という組み合わせだが。全員会社員のようなスーツ姿である。

 

「どうするのムクおじ」

「ちょっと静かに待ってな」

 

 そう言ってムクおじは草むらを静かに移動していった。

 どうするのかと、思いきや。

 ムクおじは草むらの中から六人を奇襲。命までは奪っていないようだが、鮮やかな手口。ゲリラの怖さをなんとなく実感した。

 などと感嘆していると、ムクおじはこちらに向かって手をこまねいていた。こっちに来いということらしい。ムクおじが来てもいいというのなら安全は確保されているだろうと私達はムクおじのもとへ。

 

「よし、身ぐるみを剥いで潜入するぞ」

「え、ここで着替えるの!?」

「しょうがねえだろ。戦場に更衣室なんてあるか」

 

 それは、ごもっとも……。

 

「それはいいですけど、ムクおじはこっち見ないでくださいね。脱がされる方も敵とはいえ女性ですから」

「へいへい」

 

 ムクおじに釘を差し、体型の近しい方からスーツを頂戴……とはいえ、ここで自慢の高身長が仇となる。ぴったりというわけにはいかなかったのだ。

 

「……ぱつぱつ」

「や〜ん、スーツ苦しい〜」

 

 サイズ合わない仲間がいたかと望の方を向いて絶望した。

 格差。

 キョウイの格差というやつだ。

 ホットサンドメーカーで挟んで焼いてやろうか。

 しかし、仲間はいた。サイズあわない仲間が。

 

「ムクおじ、着替え終わった〜?」

「くそ! なんだこれ、全然サイズあわねぇ!」

 

 大柄で立派な雄っぱいを持つムクおじは男から剥ぎ取ったスーツがまったく合っていなかった。

 そして、ビリッという音がしてYシャツが弾け、切り裂かれ。背中が露わとなってしまった。

 

「やっべ、どうしよ……」

「どうしよったって、替えの服なんてないし……」

「これとかどう〜?」

 

 望がそう言いながらダンボール箱を抱えていた。

 台車もある。

 ……いけるか!?

 

「ムクおじ」

「あん?」

「関節、外せる?」

「えっ」

 

 

 

 

 

 車の中にあったマニュアルから基地の入口を確認し、搬入用とマニュアルには書かれていたエレベーターで地下へと降りていく。

 台車にはダンボールが高過ぎるぐらいに積まれている。普通のエレベーターなら窮屈だったろうが、流石は搬入用。台車と五人が載っても余裕がある。

 

「頼むから早く儚を見つけてくれよ……。窮屈で敵わねぇ」

 

 ダンボールの中からムクおじが囁く。ハイエースに積み込まれていたダンボール箱を加工して、その中に入ってもらった。エレベーターの中とは違い、ダンボールの中はめちゃくちゃに狭いことは理解している。

無茶な体勢を強いているのは申し訳ないけれど、これしか方法がなかった。間接を外さなくてもなんとかなっただけマシと思ってもらおう。

 

「捕虜がいるとこなんて地下って相場が決まってるんだ。一番下までなんとかして辿り着くんだぞ」

「ええ……。はあ、怪しまれないといいけど」

「堂々としてれば怪しまれねーよ」

「でもね、あゆ。一番危ないのあんたよ。その髪と化粧! 社会人としてアウトよ!」

 

 金髪メッシュにパンダみたいな目元!

 着替えの時にせめて化粧を落とさせるぐらいするんだった。

 

「んだよ……アタシはまだ学生だっつーの」

「はあーこれだからZ世代は」

「千佳〜。実は私達もZ世代よ〜」

「えっ!」

 

 私が驚いていると、あゆはドヤ顔を浮かべてこれ見よがしに化粧を直し始めた。

 こ、こいつぅ……!

 

「まあまあ千佳さん。これでも見て元気だしてよ。水のエル之墓って書かれてるよ!」

 

 優李が見せてきたのはムクおじを隠すのに使ったダンボール箱の中身。敵が使う墓石のようなUSBメモリ、USBメモリのような墓石?

 なんにしろ、敵のアイテムをたくさん回収出来たのは大きい。

 元々は戦士の墓場から盗まれた魂なわけだし。

 もしかしたら儚達の力になるかもしれない。

 

「……なあ、そのアイテムの中にコブラの魂はないか?」

「へ? わたしは見なかったけど……あゆは見た?」

「知らない」

「たくさんあったから……埋もれてるのかも」

「探してみます〜?」

「いや、ここにあるとも限らないしな。今は儚を救出するのが先だ」

 

 探すのなら、儚を救出して基地を壊滅させてからでも出来るとムクおじが言うと、ちょうどエレベーターが止まった。ひとまず、降りれるだけ降りたけれど、この階に儚はいるだろうか。

 とにかく探して歩き回るしかない。

 いかにも、私はここの社員ですっ! といった風にして、この基地の中を探すのだ。

 それにしてもここはなんだ?

 窓の向こう側は何かの工場的な場所のようだけれど……とにかくしらみ潰しに探すしかないか!

 

「お疲れ様です〜」

「あ、お疲れ様です〜」

 

 向かいから歩いてきた白衣姿の女性社員。いや、社員ではないか。構成員に朗らかに挨拶を返して歩いていく。

 

「……んん?」

「どうしたの千佳さん?」

「いや、なんか……うん、気のせいよ。なんでもない」

 

 気のせいだとは思うんだけれど。

 今の人、儚に顔が似ている。

 そんな気がしたのだ。

 他人の空似ということもあるかとは思うのだけど。

 そんなことより儚本人を探さないといけない。気を引き締めていこう。

 

 そうして一行が通り過ぎていったのだが、その隣の工場ブースに儚はいた。

 

 

 瓶底眼鏡に黒髪ハーフアップのかつらを被り、青いツナギを着た工業系女子と化してショーリョーマッの修理に励んだけれど、応急処置レベルのものしか出来なかった。

 いや、分かっていたことだ。設備も何もかもが不足している状況で出来ることをやった。

 お姉ちゃんが足りないものがあれば用意してくれるとは言ってくれたものの、ショーリョーマッ。霊馬駆動輪の修復はとても難しいのだ。

 霊馬駆動輪のパーツは全てワンオフで、ひとつとして同じものはない。霊馬駆動輪にこめられた魂が、自身に合った部品でないと認めないのだ。霊馬はみんな気性難で、その中でも取り分け気性難と言われるショーリョーマッは部品の好き嫌いも激しい。儚が作ったけどショーリョーマッのお気に召さなかったあれやこれやがお城の倉には山のように積み上げられている。

 いくつかは他の霊馬駆動輪の好みにあって売れたりしたけど。

 いざという時のための部品の替えももちろんあるが、それは結城荘の話。

 それに、霊馬駆動輪は完全な機械というわけではなく、半分は霊馬。霊馬の死体と魂を使い、機械で補っているのが霊馬駆動輪。

 なので、機械のことだけでなく霊馬の身体、とりわけ臓器についても詳しくなければいけない。

 すっかり指先はショーリョーマッの血油で赤黒くなっている。

 あの牙のようなマシンに横から突撃されたわりにはダメージが少なく済んだのは本当に不幸中の幸いだった。

 

「ひとまず……自力で動けるぐらいにはなった……?」

 

 ライトが点滅して、肯定。

 最低限、自力で動ける程度にはなったらしい。

 

「うん……よかった……。あとで、ちゃんと直してあげるからね」

 

 ショーリョーマッを撫でる。

 よし、次はここからの脱出とあの暴走族おばさんを倒す方法を考えないと。

 

「おや、見ない顔だねぇ」

 

 とかなんとか言ってたら暴走族おばさん来た!?

 

「あっ、あっ、ひぅ……」

「ドクターハカリが連れてきた技師かい? 上司はどこだい?」

 

 よ、よかった……変装のおかげでバレてはいない……。

 でもどうしよう……何か喋らないと怪しまれるよね……。でも何を言っていいのか分からない……!

 助けて、お姉ちゃん……!

 

 一方、その頃のハカリは。

 

「んもう! なんで全員で潜入してるの!」

 

 骸と結城荘入居者が潜入してきたのでサポートせざるを得ず、急ピッチで偽造の身分証を作成していた。

 

 暴走族おばさんは儚にはすっかり興味を失くし、ショーリョーマッをジロジロと見ている。

 儚のショーリョーマッをそんな風に見るなんて。

 こいつ、やっぱり許しておけない……!

 でも、儚は勝てる……? いや、勝つんだ。

 この前のチャラついた男相手にもリベンジ成功したんだ。一回負けたぐらいでなんだ。

 絶対に勝ってやる。

 

「直ったのかい? こいつは」

「……完全な修復とまでは言えません。パーツから作らないといけないので」

「なるほど。それにはどのくらいかかる」

「そこまではかかりません……あなたを倒してしまえば!」

「なにっ!?」

 

 渾身の拳は躱されて、カウンターの裏拳が儚の顔面目掛けて飛んでくる。その拳を掴み、お返しにこちらも手首のスナップを効かせた裏拳をお見舞いする。

 

「チッ!」

 

 暴走族おばさんは回避を選択した。屈んで、足払いを仕掛けてくるのを跳躍して回避。

 華麗な着地を決めると、激しいアクションについてこれなくなったカツラがずり落ちてきたので、もう変装の意味もないと眼鏡を外して投げ捨てた。

 

「いつ脱走した? いや、それよりも……ドクターハカリは裏切り者だったのかしら。そいつを直す技師としてアンタを解放させた。それでついでにここを潰すつもりだったのかもね」

 

 ……!

 まずい、お姉ちゃんのことをもっとしっかり考えて行動するべきだった。

 お姉ちゃんは内部からグレイダーを壊滅させると言った。でも、いま儚が動いてしまったせいでお姉ちゃんの計画が失敗してしまうかもしれない……。

 

「何のことか分かりませんね……。こちらは一人ですが」

「苦しい言い訳ね」

「関係ありません。どのみち、あなたはここで儚が倒しますから」

「本当に出来ると思ってるの? お嬢ちゃん」

 

 睨み合いながら、儚は墓守ノベルトを巻きキセキレジスターを手にし、暴走族おばさんもあのベルトを巻いて、両手に小さな墓石のようなアイテムを握っていた。

 

「変身!」

「憑装」

 

 手にしていたものをベルトへと装填し、同時にその姿を異形へと変えていく。

 

《仮面ライダーハカイブ マシンヤイバー》

  

 紫と銀に彩られた毒と鋼の剣士、マシンヤイバーへと変身。

 足下の床がひび割れ、クリアブルーの刀身が美しいチェイサーヤイバーが現れて、その柄を手にする。

 

「リベンジしようなんて甘い考えは捨てな、小娘!」

「二度も勝てると思わないことです、おばさん!」

 

 吼えると同時に一気に踏み込み、加速。マシンヤイバーはスピードに特化した形態。とにかく動き回り、スピードで相手を圧倒する。

 それにこの場所では暴走族おばさんのマシンは使えない。

 暴走族おばさんの武器のひとつを潰せたのだ。格闘能力に関しては、さっきの殴り合いで実力はおおよそ読み取れた。

 冷静に、冷静に戦え。

 ショーリョーマッを怪我させた怒りもあるけれど、あくまで冷静に。努めてクールに、戦えばいい。

 

「やっ!」

「チッ!」

 

 パワーではあちらが上だろう。組み合うのは危険。こちらの距離で戦わせてもらう。

 牙の生えた大きな口から放たれた火炎を躱し、懐へと入りこむ。

 毒液滴る刃を一閃。胸元を切り裂きながら暴走族おばさんの背後へと抜けていき、散った火花を置き去りにするように加速。

 

「ぐあっ!?」

 

 いいのが入った。

 このまま攻め続ける。

 高速で移動し、暴走族おばさんを惑わせる。こちらはいつでもいける。

 よし、いま————。

 

「ッ!」

 

 風を貫く音に加速を取り止め、後退った。

 儚が立っていた場所に穿たれる孔。こちらを追うようにして、次々と刻まれていくそれは弾痕。

 撃っているのは、あそこか。

 上階の通路、ショッカーライダーと相変異バッタオーグの魂融合怪人の部隊がライフルを構えている。

 

「くっ……」

 

 いつの間にか部隊は周囲に展開している。

 四方からの銃撃が、襲いかかってくる。

 

「クロックアップ……」

 

 無数の銃弾がスピードを失い、その場で停滞するかのよう。正確には完全に止まったわけではなく、少しずつだかこちらへと向かってきているのだが。

 ともかく、ほぼ時間が停まったようなもの。

 銃弾を回避するのは容易い。弾丸を避けて歩きながら、キセキレジスターを操作。このまま、一気に決める!

 

《死神毒剣! 死神毒剣! マシンヤイバーブレイク!》

 

「チェイサースコーピオンスラッシュ!」

 

 チェイサーヤイバーを振り下ろし、毒の斬撃波を放つ。

 斬撃波が暴走族おばさんに命中し、爆炎が上がると同時にクロックアップが終わる。

 これで、奴は倒した。

 あとはあのライダーモドキ共を倒せば……。

 

「え……」

 

 爆炎が揺らめくなか、そこにはトカゲとハチを繋ぎ合わせたかのような仮面の剣士が立っていた。チェーンソーリザードとハチオーグの魂融合怪人が暴走族おばさんを庇うようにして立っていた。

 

「お姉ちゃん……なんで……」

 

 お姉ちゃんの刀の鋒がこちらに向けられる。

 感情を感じさせない仮面。

 その仮面に隠れた顔は今、どんな表情をしているのだろう……。

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