灰色の今にも泣き出しそうな重い空の下、揺らめき、鈍く光る銀の波の中から黒いローブを羽織った少女が現れる。
その様は大都会に突如現れた巨人のよう。というのも、少女の周囲を取り囲む墓石達がビル群のように見えたからだろう。
墓参りの時期でもない、この墓地には少女以外の人はなく、あたりを見渡した少女はそそくさと墓地を後にしてどこかへと向かっていく。
林を抜けると、そこは寺社であった。
年老いた住職が門の前を掃いているのを見つけた少女は、どこかおどおどとした様子で住職の方へ向かっていく。
「あ、あの……」
「うおっ! びっくりしたぁ、人がいたとは思わなかったよ。どうしたの?」
住職は穏やかな気性の人物であったようで、黒いローブで顔も隠している、いかにも怪しげな少女にも優しく接していた。
「えと、その……えっと……」
「うん?」
「あの……今って、昭和……何年、ですか……?」
少女の問いに、流石の住職も首を傾げた。
「お嬢さん、どうしてそんなことを聞くんだい?」
「えっと、こっちは昭和って時代だからって……お父さんが……」
またも、首をひねる住職。少女の言葉の意味がどうにも掴みきれないからであった。
そんな住職の様子を悟って、少女は慌ててちゃんと話そうとするも焦って上手く言葉が出ない。そんな時、ローブに隠れていた髪の一房が露となった。
この今にも降りだしてきそうな鉛色の空に似た銀髪。
それを見て、住職は少女を外国から来たのだと判断した。
「あのね、今はもう昭和じゃないの」
「えっ」
「昭和の次に平成があって」
「ヘイセイ」
「平成も終わって、今は令和なんだよ。令和5年」
「ヘイセイ終わってレイワゴネン……」
「そう。まあ、昭和が続いてたら……昭和98年だね! あとちょっとで100年だ!」
わははと笑いながら住職は掃き掃除を終えて去っていった。
一人取り残された少女は立ちすくみ、住職の言葉を反芻しようとしていた。
「昭和98年……レイワ、ヘイセイ……100年??? レイワゴネンはヘイセイ98年? あれ?」
「天気わるぅ……」
玄関を開けて、朝から憂鬱。降りだしそうな空を恨めしく思う。降ってきたら本当に恨む。
雨は嫌いだ、傘を差さなきゃいけないから。カッパを着るのも嫌。雨に濡れるのも嫌。というわけで、とにかく雨は嫌いだ。
もう少ししたら梅雨の時期というのも、気分を憂鬱とさせる。
ため息をついて、私の臙脂色の傘を手にして出発。
いつも通りの通勤。私の職場、私立宝蔵高校までは徒歩20分。自転車を使おうかとも思ったけれど、健康のために歩いている。
「あ、あの……」
いつも通りの通勤路に、いつも通りではないイベント。
黒いローブに身を包んだ少女が現れた。
黒いローブに身を包んだ少女が現れた?
「えーと、どうかした?」
何か聞きたそうにしていたので訊ねてしまった。
教師ゆえの職業病か、このぐらいの歳の子にはついこんな感じになってしまう。
人見知りするタイプの子のようだし、勇気を振り絞って話しかけてくれた子を無碍にしたくない。
「その……近くに、学校……ありますか?」
「え、学校? 一番近いのは宝蔵高校ってこの道真っ直ぐ行ったところで私も今向かってるところだから一緒に」
「あ、ありがとうございました!」
「えっ、ちょっ!? いや速いな!?」
びゅーんという擬音が似合いそうなほどの速さで少女は走り去ってしまった。
……一体、なんだったんだろうか。
学校到着。
ホームルーム前のこの時間は今日の授業のことを考えたり、伝達事項の確認などをする大事な時間……なのだが。
「にちせん大変! 教室に不審者いる!」
私の担任するクラスの女子生徒の言葉に、職員室は騒然となった。
不審者出現である。
不審者対応のマニュアルはあれど、いやいや実際に起こったらマニュアルとか意味ないでしょマジどうすんのお家帰りたい。
警察のやることでしょ不審者対応とか、てか警備はどうなってんだ。校門の前で挨拶運動してるおっかない生徒指導の原先生もなにしてるんだ、いやどこから入ってきた不審者……などと考えているうちに、職員室にやってきた宮本さんが私の腕を引っ張っていた。
「大変なんでマジ早く来てください!」
「ちょっと! 私なんか連れてってもなんも出来ないからね! てか他の先生方も動いてくださいよもー!」
宮本さんはレスリング部所属。そんな彼女に力で敵うわけもなく、なす術もなく……。てか宮本さんが不審者倒せば良くない?(よくない)
しかし、そんな彼女がわざわざ私を呼び出したのには理由があったのだ。
それに気付いたのは、1-D教室に着いてからであった。
「だからぁ! 誰なんだよてめぇは~!?」
「ひぃん……」
このクラスの女子のトップとなっている西宮さんが、さっき出会った黒いローブを羽織った少女を、怒鳴り付けていた。
「ちょ、ちょっとちょっと! 何が起こってるわけ!」
「にちせん! この変な奴があたしの席に座ってたんだよ!」
「だ、だって学校行ったら空いてるとこに座ればいいって、お父さんが……」
「空いてるんじゃねーっつの! 席は全部決まってんの知らねーの!?」
「はい……知りません……。学校、初めてだから……」
学校が初めて……?
一体なんなんだこの子は。
「お前かぁ! 不審者はぁ!」
張り上げられた怒声に、教室にいた人達はみんなビクリと背筋が跳ねた。
声の主は今時珍しい、漫画にでも出てきそうなスキンヘッド(ハゲ)の体格の良いスパルタ体育教師の原先生。
竹刀を傾向しても良いとなったら、いの一番に竹刀を持って校舎を練り歩くだろう姿が想像に容易く、生徒達からは恐怖の対象である。
「ちょっとこっちに来い!」
「あぅ……」
原先生の大きくごつい手が、ローブの少女のか細い手首を掴み上げた。
「ちょっと原先生……!」
「新田先生何か文句でも?」
「いくらなんでも乱暴じゃ……」
「校内に侵入した不審者にかける情けなんてありませんよ、新田先生」
……私が正直、原先生を嫌いなのはスポーツマンのくせにねちっこいところがあるからだ。
今も喋り方、視線、表情、全てがねちっこい。
そんなだからいい歳して独身なんだぞハゲ。などと内心で毒づいてる間に、原先生は少女を無理矢理立たせて連行しようとしていた。
何か、この子を助ける方法はないだろうか……。
この子は学校というものをよく知らないようだし、穏便に済ませられるはずなのに……。
かくなる上は私が原先生を倒して……。大丈夫、いつもアギトの戦闘シーン見てイメージトレーニングはしてる……。
ちらりと、原先生を見る。
駄目だ、一瞬でイメージ崩れた。
私じゃどうにも……。
「あ、あの……」
無理矢理立たされた少女が口を開いた。
「なんだ。泣き言ならこれから別室でたっぷり聞いてやる」
「そ、そうじゃなくて……。じ、自分で歩けますから……離してください……。痛いです……」
掴まれた右手首が痛いと少女は主張した。
自分には反抗する意思もないことを伝えている。
しかし、それがかえって原先生のねちっこい部分を刺激してしまったらしい。
「不審者の言うことなんて聞くわけがないだろう? ほら行くぞ」
この時、外野の私にも原先生が手に更に力をこめたのが分かった。
こいつ……!
流石にもう限界だ、どうなってもいいから原先生に反抗してやる────!
そう、思った瞬間だった。
「は、原先生が……」
「吹っ飛んだ!?」
クラスの誰かが実況した通りだった。
いや、まったく信じられない光景なのだが、我が目を疑ったのだが、あの巨漢原先生を細身の少女がいとも容易く背負い投げしたではないか。
「ぐぇっ!?」
床に叩き付けられた原先生から、なんとも間の抜けた声が出た。
「痛いです……! 離してください……! って、あれ……?」
少女は自分が起こした惨状に首を傾げていた。
「あの、そんな身体大きいのに……これぐらいで気絶しないでください……」
「いやこれぐらいとかじゃないから! 会心の一撃だったから!」
思わずつっこんでしまった。これもバラエティー豊かな同居人達のせいでツッコミスキルが鍛えられ過ぎたせいだ。
……それよか、どうしよう。
この子、このままじゃまずいし……。
「ちょっと一緒に来てくれる?」
「え……」
決心し、少女の手を取り教室を出る。
どこか空いてるところ……図書室とかちょうどいいか。
そう考えていると、今になって刺股を持って先生方がやってきた。遅いんだよバーカ。
「あれ、新田先生ー?」
「工藤先生ちょっとホームルームとかお願いね~」
工藤先生は副担任。なので、ホームルームを頼んでも何の問題もない。
「えっ!? 不審者は!? てかその子が不審者じゃ!?」
「あー……この子、今うちで預かってるの。ついて来ちゃったみたいってわけで、よろしく! あ、原先生が教室で気絶してるから担架よろ!」
適当に誤魔化した。
このままだとこの子、警察に突き出されてしまうだろうし、さっき出会った朝からの長い付き合いだ。
助けてやろう!
というわけで、空き教室。
対面で向かい合い、二者面談。
……いや、正直苦手なんだよなぁ面談。未だに慣れない。
にしてもこの子、ずっとローブ被ってるなぁ。
「あの、ローブ……」
「えっ……と、取らなきゃだめですか……?」
「んー……。一応、人と話す時だからマナー的にね?」
「こ、この世界ではそうなのですね……」
なんだこの子、厨二病か?
とはいえ、恐る恐るといった感じながらもローブを捲り、その顔を出したけど……。
「美っ……!」
「び、び……?」
美少女!?
なんこれお人形さんでしょ!?
銀髪に銀色の目とか、は~人間超越しすぎて超越生命体だわこれ。
肌しっろ、目でっか、まつ毛なっが。
いや、別にそういう趣味があるとかじゃないけど、こんな美少女と出会ってしまったらテンションフォルテッシモってなるでしょ。
ああいや、一旦落ち着け、ちゃんとしろ、大人しろ新田千佳。
「ええっと、私は新田千佳。この学校の先生だけど……さっき会ったの分かる?」
「は、はい……。学校、教えてくれました……」
「うんうん。まさか、こんなことになるなんて思わなかったけど……」
「あぅ……」
あぅってなんだ、この生き物。小動物か?
あざといに厳しい私だけれど、美少女だから許せるというもの。
「ところで、あなた名前は?」
「あ、えっと……な、名前は……
「ふんふん、儚さんね」
「インフェルニティ・ブツダンブッカ・ソナエモン・ハカイブです」
「いや長いわね!?」
てか仏壇とか仏花とか供え物とか言わなかった!?
マジで言ってるのこの子、マジなの?
マジのヤベー奴なの?
絶対偽名よねこれ。
いやいや、とりあえず一旦落ち着け……。
「えーと、まず聞くんだけど儚さんは何をしてたのかな~って」
「こっち来たら、学校行けってお父さんが……。引っ込み思案で友達いないお前でも友達が出来て楽しいぞ~って、あはは、ははは……」
こ、コメントしにくっ!
なんて言ったらいいか分からんわ!
てかこの子のお父さんも何を考えてるんだか……。
「えーとね、儚さん。学校に入るには入学手続きとかあとそもそも入試とかあってね? 誰でも来れば授業受けれるってわけじゃないの。分かる?」
「そ、そうだったんですか……!? お父さんが昭和という時代の時にこの世界に来た時は、なんか座ってたらそのまま授業を受けてみんなと仲良くなれたって……」
「昭和のおおらかさに助けられたわね! 今の時代、コンプライアンスとかそういうのうるさい時代だから、昔みたいにいかないのよ。二次創作ですら感想でコンプラ的にどうなの? みたいなこと言われる時代なんだから」
「ひぃん……レイワ……こわい……」
目をうるうるとさせて怯える儚さんに、庇護欲をそそられるのは人間として正しい反応だろう。
この、雨の日に捨てられた子犬を擬人化したような少女を前にしたら誰だってそうなる。
それはともかくとして。
「うーん、保護者の方に来てもらいたいところね……」
「ほ、保護者……」
「ええ、呼べる? お父さんかお母さん」
「あう……お母さんは知らなくて……。お父さんも別の世界に行ってて……」
……なかなかに重い境遇のようだ。
少々、言い方に妙なところはあれど日本語にあまり慣れていないのだろう。
どうしたものかと頭を悩ませていると、教室の外から声が聞こえてきた。
「新田先生はどこ行った」
「不審者、うちで預かってる子って言ってましたけど……。本当ですかね?」
同僚達だ。
まずいな、探されてる。
……かくなる上は。
「すいませんでした! 日本の学校に興味があると言って聞かなくて!」
顔を引きつらせた校長先生に頭を下げる。儚さんの頭も下げさせて、ひとまず謝罪させる。
「ああ、うん……。まあ日本に来て慣れないこともあるだろうしね」
校長先生は顔を引きつらせながらも、理解を示してくれた。校長先生優しいから好き。
「ひとまず、この子を家まで送り届けようかと思うのですが……」
「そうだね。……にしても、シェアハウスにホームステイとはね」
「シェア、ハウス……?」
やば、この子が知らないことでボロが出るのはまずい!
「それでは失礼します! ほら、あなたも!」
「シ、シツレイします……」
強引に儚さんを連れ出し、校長室を出る。
さて、一旦帰りますか……。
薄暗い体育倉庫に一人、儚に投げ飛ばされた原がぶつぶつと何かを呟いていた。
「俺があんな小娘に投げ飛ばされただと……。あり得ない、あり得ないあり得ない! うおぉぉぉ!!!!!」
跳び箱を頭上に掲げ乱暴に投げ飛ばす原。体育器具にあたりまくるもあの屈辱が晴れることはなかった。
そんな原の目の前に、瞬きほどの一瞬の間に青白い光球が二つ現れていた。
「なんだこれは……!?」
目の前のそれに疑問を感じた瞬間、光球は原の中へと入っていき……原の姿に、筋骨隆々として巨大な一対の角と空を突き刺そうとでも言うような角を持つ異形の姿が重なった。
家までの道、会話はない……というか、儚さんが何か言いたげにしつつも言い出せずにいるというのを繰り返していた。
ずっと儚さん待ちをしたいたのだけれど、流石に我慢の限界だ。
「何が言いたいの?」
「ひぅっ……!」
「あ、別に怒ってたりしないから。儚さんが言いたいこと、なんでも言って」
微笑みかけると、儚さんは意を決したようで口を開いた。
「ど、どうして……ここまで、してくれるんですか……?」
「え、あー……。私の好きな作品の、一番好きなキャラがね、男は気に食うか気に食わないかで判断しろって言ったのよ」
「ニッタさん、男……」
「どこ見て言った?」
ひぃん!と儚さんを怯えさせてしまった。
いや、これは仕方ない。懐も乳も貧しいのだ、キレてもいいだろう。
「まあとにかく男も女も関係なく、気に食うか気に食わないかで判断してるのよ。あの時の原先生のやり方は気に食わなかったし、私、学校が好きなのよ。だから教師になったんだけど……学校が初めてって言ったじゃない? あんなことされて、学校嫌いになったりしたら嫌だなって」
「あ、あう……」
「まあ、あんなことしたら不審者扱いされるのは当然だけどね。不法侵入だから」
「フホーシンニュー……」
ふふ、不法侵入はまだ難しかったみたいだ。
そうこう話している間に、家までの道の半分まで来た。大きな公園があって、花見スポットになっている。まあ、もう葉桜なのだけど。
緑に萌える公園は平日の午前中ということもあって人の姿は見えなかった。
そんな閑静の場所だから、この音にすぐ気が付いた。
「ん?」
ドドドという音がものすごいスピードで近付いてくるので振り返ると、音の主は原先生だった。
原先生!?
なんで原先生がここに!?
てか足はやっ!?
世界陸上もかくやといったぐらいの速さだ!
「見つけたぞぉ!!!」
原先生は地面を蹴ってジャンプするとオリンピックで金メダルを余裕で取れそうなほどの回転や捻りを見せて、私達の行く手を遮った。
「原先生、なにを……!?」
「不審者ぁ……お前に復讐してやる……!」
「フ、フクシュー……?」
「ま、まさか投げ飛ばされたの気にしてるんですか!?」
「そ、そんなことで怒るなんて、身体のわりには器が小さい……」
「なんだとぉ!?」
「儚さん刺激しない!」
「うおおお!!!! お前を投げ飛ばしてやるぅ!!!」
怒り狂った原先生の顔が、異形のものとなり私は声を失った。
灰色と褐色の二色で、頭の側面から巨大な象の角のようが生え、額からはサイの角のようなものが伸びていた。
その体躯もまたサイや象をモチーフとしているからか、見るからに屈強そうだ。
なんなの、こんなの、仮面ライダーに出てくる怪人じゃない!?
「……ズ・ザイン・ダとエレファントオルフェノクか」
「え……」
この異常事態を前に、儚さんは冷静であった。
おどおどした感じは消え、目を細めて怪人を睨み付けて分析をしているよう。
なにより今、儚さんが口にした二つの名前は知っている。
仮面ライダークウガと仮面ライダー555に登場したグロンギとオルフェノクの名前だからだ。
確かに、その2体の特徴を併せ持っているような気がする……。
「まさかこの世界で出会うとは思いませんでした。まあ、現れたのなら倒すだけですが……」
「なんだと!? ぬぉぉぉ!!!」
怪人がアスファルトを痛めつけながら突進してくる。咄嗟のことに、身体が言うことを聞かなかった。
死んじゃう……!
怖くて、目だけは閉ざした。
「なにっ!?」
突然の浮遊感。
何故か、宙に、浮いて……!?
「儚さん!?」
まさかの、儚さんに抱えられていた。
こっちも一体どんな身体能力してるの!?
スタッと綺麗に着地した儚さんは私を地面に下ろすと、どこからか折本のようなものと……ベルトを取り出して、腰に巻き付けていた。
「それって……」
儚さんは折本を開き、ベルトの右側面に備えられていた細めの筆でまず中央右の頁に文字を書き出した。
《ボディ 蜘蛛男》
折本に蜘蛛男の名が刻まれると、折本からおどろおどろしい声が発せられる。
そして、儚さんの纏っていたローブなどは消えて、黒地にオレンジが放射状に広がる、身体のラインがしっかりと出るスーツ姿となった。
……胸、でかいな。小娘の分際で。
《アーマー アナザーアギト》
「アナザーアギト!?!?」
一瞬で胸のことは忘れ叫んでいた。だって、推し作品のライダーの名前だったから。
蜘蛛男の隣、中央左側に書かれた文字はやはりアナザーアギトで私の聞き間違いではなかったようだ。
そして、儚さんは瞳を閉じて折本を勢いよく両手で閉じた。
その様は、合掌に見えた。
「変身」
折本がベルトのバックルへ装填されると、屏風が開くように展開。蜘蛛男、アナザーアギトの文字が浮かび上がり変身が始まっていく────。
《蜘蛛男×アナザーアギト》
《始まりの死 魂の遺志 怪奇強襲!》
《仮面ライダーハカイブ アサルトゴシック》
緑色のオーラが少女を包み、オレンジと黒のインナーの上に、暗緑のアーマーが纏われる。右腕のアーマーだけが黄緑色でアナザーアギトのことを考えるといい解釈だと思う(オタク特有の早口)
オレンジの翼のようなマフラーが一対、風に靡き、赤い双眼が煌めく。
口を隠すマスクと角はアナザーアギトのそれに似て、額には長円のクリスタルが輝やき、そのクリスタルの周囲を8つの瞳がUの字状に取り囲んでいた。
「仮面、ライダー……」
「来なさい怪人……。そうですね、サイとゾウなのでサイゾウ男と呼んであげます……」
いや安直だろ。
いや、まあ、こんなもんか……。最近のが凝ってるだけで……。
「ふざけやがってぇ!!!」
怪人サイゾウ男が儚さん……仮面ライダーハカイブと言ったか、に襲いかかる。私はすぐに走ってハカイブから遠ざかり戦いを見守る。
サイゾウ男の大きな拳が振るわれるのを、ハカイブは動じずに、すれすれで回避していく。
そして、反撃にボディへ一発。
後退るサイゾウ男。屈強なやつに、一撃でそれなりのダメージを与えたようだ。
「ぬうっ……。俺は……インターハイに出たんだぞぉ!!!」
「インターハイ……?」
サイゾウ男の拳がハカイブの左手に受け止められる。そして、動かない。
「う、動けん……!」
ものすごい力で拳を握られているのか、サイゾウ男は必死に踠いて拘束から逃れようとするがハカイブはまるで大木のように動かない。
「すぅぅぅ……はっ!」
「ごふっ!?」
ハカイブは空いた右手でサイゾウ男を殴り飛ばす。吹き飛ぶサイゾウ男……だったが、サイゾウ男の意思も何も関係なくハカイブへと引き寄せられていた。
「なんっ……げふっ!?」
引き寄せられたサイゾウ男は再び殴り飛ばされ、また引き寄せられて、殴り飛ばされを繰り返す。
その仕組みがようやく私にも分かった。
ハカイブの左手から伸びる白い糸がサイゾウ男を捕まえて、ヨーヨーのようにしているのだ。
あの糸も、さっきサイゾウ男の拳を掴んだ時に付けたのだろう。力だけでなく、こうした技もしっかり扱えるようだ。
「おのれ……! ふざけるなぁ!」
「ふざけて、ません……」
殴るのはやめ、回し蹴りでサイゾウ男を地面へと叩き付けて踏みつけたハカイブはバックルから折本を取り外すと筆をぐるぐると回しながら何か考え事を始めた。
「誰に……しようか……」
「こい、つぅ……!」
「あ、そうだ……パ、ン、チ、ホ、ッ、パ、ーっと……」
《ウェポン パンチホッパーナックル》
折本右端の頁にパンチホッパーの名が記され、アナウンスがなされるとハカイブの右腕に灰色の、パンチホッパーの仮面にも似た武装が装着された。
鋭い巨大な爪を生やしたかのようで、異形らしさが増している。
「ほら、起き上がらせてあげます……」
再び左手から蜘蛛の糸を出してサイゾウ男の首を縛り上げて無理矢理起き上がらせると、パンチホッパーナックルでひたすらに殴り付けていく。
「ぐおぉ……。なんだ、その力は……!」
「墓守……」
「なに……?」
「善悪問わず、命を懸けて戦った勇敢なる戦士達の魂の安らかなる眠りを守る力……。仮面ライダーハカイブ」
ハカイブはバックルの折本を閉じて、再度開く。
それが、必殺の合図のようだった。
《怪奇強襲! 怪奇強襲!》
《アサルトゴシックブレイク!》
合掌したハカイブの口を隠すマスクが開閉し鋭い牙の生え揃ったクラッシャーが露となる。アナザーアギトのそれと違うところは、口の横に蜘蛛の牙のようなものも生えていることだろう。
足下ではアナザーアギトの紋章と蜘蛛の8本の脚を合わせたかのような紋章が地面に描かれ、ハカイブの足へと渦を巻くように収束していく。
「すぅぅぅ……とうっ……」
高く飛び上がり、シンプルなライダーキックの体勢。
サイゾウ男は背を向けて逃走を選択。しかし、蜘蛛から逃れることは難しいのだ。
突き出された右足から、蜘蛛の巣が放たれサイゾウ男を捕縛。
加速していくハカイブは、サイゾウ男を蹴り穿ち、バク宙で着地。
敵に背を向けつつも、意識は残したまま。
残心────。
「ぬわぁぁぁ!!!!!」
轟音。赤い炎を噴き上げて、サイゾウ男は倒されて、無傷の原先生が地面に倒れていた。
「え……原先生死んだ!?」
「し、死んでません……。彼に取り憑いていたものは私の世界に還しましたが……」
「儚さん、あなた一体……」
「わ、私は墓守……。仮面ライダーハカイブです……」
まさかまさかの本物の仮面ライダーとの邂逅。
ヒーローショーでもなんでもない、本当の仮面ライダーの戦いの中に私はまだどこか、置いてきぼりにされたような気分でいた────。
仮面ライダーハカイブ アサルトゴシック
アナザーアギトと蜘蛛男の力で変身した姿。
アナザーアギトの高いパワーと格闘能力と蜘蛛男の蜘蛛の能力を有したハカイブの姿。
儚は基本形態としてこの姿を愛用している。
必殺技は蜘蛛の巣で敵を拘束しライダーキックを放つアサルトゴシックキック。