実にマヌケな感じになります
拝啓お父さん。
こっちの世界に来てから一ヶ月が経ちました。
こっちは梅雨という時期に入ったらしく、雨の日が多くてジメジメとした気候が戦士の墓場っぽくてテンションが上がります。
こっちの世界でのお家、結城荘での暮らしにも慣れてきました。
お城ほど広くはないし、与えられた部屋もトイレ並の広さしかありませんが。
それでも一緒に暮らすみなさん良い人達で、毎日楽しいです。
チカさんとノゾミさんはお酒が大好きで、よくリビングでお酒を飲んでいます。
お酒が入った二人の相手は大変です。
けど、チカさんは学校の先生なのでしっかりするところはしっかりします。それ以外はちょっと、あれですが。
「儚~お酌しなしゃいよ~」
「ひぃん……酒臭……」
「くしゃくないわよ~。しゃけの臭いは……うっぷ……女を彩る最高の香水、なんだからぁ」
チカさんは基本的にはお酒に強いです。
ですが、たまに悪酔いする時があります。
そういう時は大抵、仕事で何かあった時とか合コンと呼ばれる男女の出会いの場、パーティーのようなもので敗北した時です。
「あ~どこにいるの私好みのオトコ~! THEの一文字みたいなオトコ~! てかもうヤクザの女になりたいわ~!」
ヤクザとは、脚本家の人らしいです。
「そんな男いるわけないでしょ。いい加減現実見たら」
「望~あんただって鷹山仁みたいな男がタイプの癖に人のこと言えんの~?」
「あ、そうやって仁さんをただのヒモだって言うんでしょ。仁さんはねぇ、研究者やってたのよインテリなの理系なの稼げる男なの分かる? その上でヒモしてるし責任感めちゃくちゃ強いんだから」
「んなこと言ってもやっぱ避妊しないのはねぇ」
「それはトラロックとかのせいだから! 本来の仁さんならそんなこと絶対しないからちゃんとゴムするから!」
ノゾミさんも優しくてとても良い人なのです。
自分が好きな物のことになると早口になります。
普段、あんなにゆったりとしているのに……。
リオさんは料理上手です。料理のことは莉緒さんにお任せすれば大丈夫!
この間、一緒に買い物に行ってお魚を見ていた時のこと……。
「お魚、いっぱい……」
「うん、魚屋さんだからね」
リオさんとの会話は、なかなか続きません。
「どれがいいかな……」
お魚はやはり鮮度が命。リオさんは良いものを選ぼうとします。
「えい」
「えっ……」
リオさんは良いものを選ぶために、お魚の口に小指を突っ込みます。
「な、なにしてるんですか……?」
「こうするとね、鮮度のいい魚は食い付いてくるの」
そう言って、並んでいるお魚の口にどんどん小指を突っ込んでいきます。
まさかそんな、死んだお魚が食い付くことなんてあり得ないと思っていました。
しかし……。
「……これだ」
目を開き、リオさんはお店のおじさんに選んだお魚を買うと言いました。
すると、お店のおじさんが。
「流石良いのを選ぶなぁ」
感心していました。
ちなみにその日買ったお魚は美味しかったです。
あと、余談ですがリオさんが指を突っ込んだ魚達は「美人が指を突っ込んだ魚」として値段が上がっていました。
悪徳です。
だけど、だいぶ売れるみたいです。
ユウリさんはたくさん絡んできます。
お芝居をやっているので、練習のお手伝いをしたりします。
「あーえーいーうーえーおーあーおー!」
「あ、あーえーいーうーえーおーあーおー……」
「儚ちゃん声ちっちゃいよ! もっとお腹から声出して!」
「は、はい……」
「それじゃあもう一回! あーえーいーうーえーおーあーおー!」
「あ、あーえーいーうーえーおーあーおー!」
「もっとー! あーえーいーうーえーおーあーおー!」
「あーえーいーうーえーおーあーおー!」
気が付くと、これってユウリさんの練習じゃなく儚の練習じゃないだろうか……? と、いつも思っています。
アユさんは、儚のことたくさん気にかけてくれます。
「儚、納豆食べられるのか?」
「は、はい……な、ナットウいけます……!」
「そうか、偉いじゃん」
アユさん、いっぱい褒めてくれる……。
嬉しい、好き……。
「儚、電話出られたんだな」
「は、はい……」
「ちゃんと話せたか?」
「アユさんから教わった、オトトイキヤガレ!で撃退しました!」
「よーし上出来だ」
ちなみに電話は大家さんからでした。
「儚、お前……!」
「は、はい……」
「ちゃんとトイレ使えたんだな……!」
これは流石に子供扱いが過ぎると思いました。
最初こそウォシュレットとかにビックリさせられましたが……。
そして、みなさん仮面ライダーが好きなのです。つまり儚のことが大好き。にへへ……。
儚は結城荘の警備員兼雑用係兼コスプレ係?として働いています。
先日は警備員として結城荘に侵入してきたゴキブリという黒光りしてちょこまかと動き回る小賢しい虫ケラを仕留めました。
戦士の墓場のしきたりに習って、狩った獲物を皆さんに見せたのですが、こちらの世界にはそういった風習はないそうです。
ゴキブリの死体を見た皆さん(莉緒さん以外)悲鳴をあげていました。
望さんは気絶してしまいました。
また、墓荒らし共もいるようで連日、戦っています。
特に苦戦することもなく、お父さんの手を煩わせることもなさそうです。
お父さんも遠征が長引いていると聞きました。
お身体に気を付けて、墓荒らし共をぶちのめしてください。
敬……具~~~ぐ~ぐ~~~Zzz……。
「うーん……王の判決……貧乳は死……」
「寝言で煽るなっての」
儚の部屋の扉が開く。
千佳イヤーは地獄耳。
どんな煽りも聞き逃さないぞ。
それはそれとして、千佳が儚の部屋に用があったのは夜遅くまで灯りが点いているようだったので様子を見に部屋へ入ろうとしていたところだったのだ。
教師という10代の少年少女を任される身であるのと、世話焼きな性格も相まってのこと。
「手紙書いてたのね……うわ、達筆」
節々に口の悪さが出てると溢し、寝ている儚に布団をかけ、電気を消して千佳は部屋を出た。
結城荘で暮らして1ヶ月。
大家さんは時たま現れては主にチカさんに絡んでいる。
儚のことも気にかけてくれて、この前はスマホというものをくれた。
そして今日は……。
「1ヶ月よく働いた。お待ちかねのお給料だぞ」
「あ、ありがとうございます……」
手渡される茶色い封筒。
これが、お給料……!
「家賃諸々差し引いて13万ってとこ。働き次第で増額可だから、お金に困ったら相談して」
「は、働き次第……? どれぐらい働けば……」
「それは簡単。これを着て写真とか動画とか撮らせてくれればいい」
「ヴェッ!?」
大家さんの手には、どこから取り出したか分からない服が。
露出が、ちょっと多い……。
「儚はいいね。おっぱい大きいから千佳みたいに盛らなくていいし」
「悪かったわねかさ増しが必要な平坦な胸で!」
リビングでテレビを見ていたチカさんがツッコミを入れる。
大家さん、そこまで言ってない……。
「にしても、儚にとっては初任給でしょ。何に使うの?」
「な、何に……」
なにと聞かれて、困った。
お金の使い道が、思い浮かばない……。
別に今、困ってることもないし……欲しいものもないし……。
「ちょ、貯金します……」
「最近の子は堅実ね~」
「貯めるのも大事。でも、お金は使ってこそ」
「そうね。せっかくだし、何か買い物したら? 遊びに行くとか。儚、おつかいと怪人退治以外ほとんどずっと家にいるし」
「そうなの?」
「は、はい……」
「なんで?」
な、なんで?
そんなの決まっています……。
遊びになんて出かけたら……。
以下、儚の妄想。
「ひぃん……ここどこ……」
「YO! 可愛こちゃん! ドゥシタの!?」
「ひぃん!」
「え、道に迷ってる? じゃあオレ達と一緒に来なYO!」
「ひぃん……」
そうして儚は「ひぃん」しか言葉を発せず言われるがままに流されてしまう……!
そんな自信がある……!
お家、安全……!
「遊びに連れて行ってあげなかったの。誰も」
「あ、いやほら休みぐらい家でのんびりしてたい的な……ね?」
「ごめんね儚。休みに何処にも連れて行ってくれない出不精なお父さんで……。お母さんも仕事で何処にも連れていってあげられないの……」
「誰がお父さんよ。あと、あんたもお母さんじゃないでしょ」
おいおいと泣き真似をする大家さんを手刀で叩くチカさん。
やっぱり、この二人は小さい時からのお友達なだけあって、息があってるというか、なんというか。
「なに話してんだよ」
あくびしながらリビングに現れたアユさん。朝からメイクとファッションがバッチリ決まっている。
カッコいい……。
「お、あゆ。ちょうどいいとこに。儚連れてどっか行ってきなさい」
「どっかってどこだよ」
「え、なんか、こう、若い子が行きそうなとことか……」
「発言から加齢臭がする」
「そういうあんたは乳臭いわよ」
バチバチとチカさんとアユさんの間に火花が……。
結城荘で生活してると見慣れたものですが。決して、仲が悪いわけではありません。
お二人は喧嘩友達のようなものなのです。
「それで、儚はどっか行きたいとこあるか?」
「えっと……。その……」
アユさんに訊ねられて、考える。
行きたいとこ……あっ。
「あの、その……。服が、欲しいです……」
「お、いいじゃん。いっつも同じような格好だからな」
「え、なになに服買いに行くのー? 私も行くー!」
アユさんに引き続いて現れたのはユウリさん。
ユウリさんも一緒に……。
「若い人達で行ってきなさい」
「そういうこと言うから年増扱いされるんですよー」
「……え~! 私も行くぅ!」(可能な限りの高い声で)
「きっつ」
「もうどうすればいいのよ」
変に若作りしなきゃいいのに……。
そう思った瞬間、チカさんの視線が儚を貫いて、ひぃん……!
「原宿行くか。若者の街だから」
「そうだね若者の街だから!」
「若者若者うるさいわね~。あんた達も一瞬で20代後半になるわよ」
……儚、まだ10代だからこの中で一番若い。
にへへ、儚、一番……。
「ヴェヘヘ……」
「なに笑ってるの儚ちゃん?」
「ひぃん!?」
突然、背後からリオさんが現れたので儚、びっくり……。
「服見に行くの? 私も一緒にいいかな」
「珍しいわね莉緒」
「夏服買いに行こうと思ってたから」
「私も莉緒さんとおでかけは初めてだよ!」
たしかに、莉緒さんが遊びに行くとこ初めて見た……。
お仕事とお家の往復、商店街にお買い物に行くぐらいしか莉緒さんがお外に出ることはない。
でも、莉緒さんいつもお洒落だから一緒に行けるの嬉しい……!
というわけで、原宿。
望は用事があるので今回は不参加であった。
「ひ、人多い……ひぃん……」
「お、おい儚……!」
儚はローブですっかり顔を覆い、あゆの背に隠れる。
あまりの人の多さに気圧されての行動。周囲から見られているのではないかという羞恥心もあるが、儚の行動は余計に周囲の注目を集めることになっていた。
「やめろって!」
「ひぃん……」
「ほら! まずは猫背を直す!」
あゆは儚を自分から引き剥がして自分の前に立たせると、背中を叩いて儚の背中を矯正。
「顔も出す!」
「ひぃん!」
更にあゆは儚の顔を覆い隠すローブを下ろし、儚の顔を白日のもとに晒す。
ローブの暗闇の中から光も道行く人も眩しい世界に引きずり出された儚は目を閉ざす。
銀色の髪が太陽光を受けて、白い光を反射する。
そんな姿が、人目を引いた。
男女問わず儚の容姿に目を奪われていく人が多数。
「儚ちゃん自信持って歩けばいいんだよ! 儚ちゃん可愛いんだから!」
「それは知ってます……」
「その自信はあるのにどうしてそんななの儚は」
「ひぃん……」
それから少し歩いて、儚達は莉緒の案内であるブティックに到着した。
「あ、着いたよ」
「ここ? 莉緒の行きつけって」
「うん」
「わー。こーゆーお店が行きつけって大人って感じ~」
大人びた落ち着いた雰囲気の外装。
店内も同様の明るすぎない、アンティーク調で纏められている。
「千佳さんは行きつけのこういうお店とかないの」
「え? UNIQL○とA○KI」
「優李。千佳姐がそんな洒落た店に行くと思うか? この人の行きつけは場末のボロい居酒屋とかなんだから」
「たしかに!」
「に、似合う……!」
「おいこら年下組」
優李、あゆ、儚の三人は千佳の印象で意見が合致。千佳の額に青筋が浮かぶがお構い無しである。
「スカート履いてるとこ見たことないんだよね~」
「いっつもパンツスタイルだからな。仕事もプライベートも」
「似合うと思うのに……」
「はあ……。あのね、あんた達が思ってる以上に教師って監視されてんのよ」
ため息をついて語り始める千佳の瞳に光はなかった。
その様に年下組は息を飲み、黙って千佳の話に耳を傾ける。
「私だって前はスカートぐらい履いてたわよ。そしたら保護者からウチの息子ちゃんを誘惑してる! とかワケ分からないクレーム入れられるし。プライベートで街歩いてたら教師があんな格好で出歩くなんて! とまたクレームを入れられ……! 別に変な格好してないわ! 常識的な丈だったっつーの! 誰がてめえの息子なんか誘惑するかっての! ガキに興味ねぇんだから誘惑もなにもねぇだろ!」
「は、はーいストップストップ千佳さん! 落ち着こ! 一回落ち着こ!」
「今の発言聞かれる方がヤバいから!」
「ドードー……」
怒る千佳を宥め、抑える優李とあゆであったが儚の宥め方が千佳は気に食わなかったようで火に油を注ぐことになってしまった。
「儚ぁ! 人のこと馬かなんかだと思ってるでしょ!」
「ひぃん……。ウ○娘ってことで許して……」
「許すかぁ!」
暴れる千佳をなんとか抑える優李とあゆだが暴走する千佳は止められそうにない。
暴走フォームを制御するのが大変なことは儚を除く全員が理解している。
何故なら、オタクだから。
「ちょっとー! お店の前で暴れないでもらえますー!?」
しかし、オタクは内輪ノリを周囲の一般人から窘められると一気に弱体化するものである。
ブティックから出てきた店員とおぼしき若い女性が外に出てきて四人を注意したことで千佳の暴走はピタッと収まり、千佳は一般人モードに切り替わった。
「あ、すいません……」
「迷惑になるんでやめてもらえますー? ……って、莉緒さん!?」
店員は莉緒を見るなり先程までの強気な態度から一変。
姿勢を正し、莉緒を真っ直ぐ見つめていた。
「こんにちは。夏服を見に来たの。みんなで」
「みんなでって……。えっ!? こいつら莉緒さんのお知り合いですか!?」
「おい、あの店員こいつらっつったぞ」
「処します? 処します?」
「よしいけ儚」
「やめなさい」
シャーと唸り、あゆに命じられ店員に襲いかかろうとしていた儚を千佳が制す。
そんな中、優李が莉緒と店員に話しかけていた。
「莉緒さん常連なだけあって店員さんと仲良いんだ」
「えっ! いやだな私なんかが莉緒さんと仲が良いだなんて……。まあでも莉緒さんのコーディネートは私が担当してる程ですし、名前覚えてもらってますしぃ? まあ仲良しと言っても過言じゃないですねー!」
「あ、この子めんどくさいな。でも莉緒さんが店員さんと仲良くなってるの意外だなー。名前まで覚えてるなんて。同じシェアハウスの私でも名前覚えてもらうのに結構時間かかったのに」
「まあ私と莉緒さんの仲ですからねー! ね、莉緒さん!」
「なんだっけ」
「何がですー?」
「名前」
「覚えられてない!!!!!」
穏やかな表情と声色を変えることなく、莉緒は平然と言い放った。
莉緒の記憶領域の大部分は料理に関することで占められているため、重要と思われなかったことは記憶されないのだ。
店員はショックのあまり地面に膝をついていた。
それでも諦めまいと、店員は涙まじりの強さを秘めた瞳で真っ直ぐと莉緒を見つめ、改めて名乗るのであった。
「
「ああ……切り干し大根、みたいな感じっていう印象は覚えてたよ。あってて良かった」
「それ本当にあってるの?」
「そうです私は切り干し大根です!」
「あんたもそれでいいんかい!」
ともかく、ブティック店員の福田喜代に連れられ五人は店内に招かれた。
とかく、女性というものは飽きもせず長時間服屋に滞在することが出来る。
店に入ってからは各々が自身の嗜好に従い品定めを開始していた。
「そういえば儚ちゃんの服って、よく見ると装飾? ディティール? すごいよね! 職人技って感じ!」
儚と共にいた優李が儚の服装について触れた。
普段は黒いローブに隠されているが、儚はいつも黒を基調とした軍服のような格式高いものを着用していた。黒革のプリーツスカートと黒いタイツと黒い厚底の革靴が儚のオシャレポイント。……らしい。
結局真っ黒なわけであるが。
「儚ちゃんのとこでは服とかどうしてたの?」
「し、仕立て屋さんが家に来て……作ってもらってます……」
「えぇ!? 特注!? 儚ちゃんもしかしてやんごとないご身分……?」
「おい儚これとかどうだ?」
あゆが儚に合いそうだと持ってきたのは黒いチューブトップであった。
今日一機嫌の良さそうな顔のあゆを前に、儚は若干引いていた。
「ひぃん……露出度高い……」
「お前なら着こなせるって。腰はくびれてるし肌綺麗だし」
「儚。ファッションで大事なことが何か分かる? 服を着こなす前に自信を着こなすのよ!」
千佳の助言に儚は雷に打たれたかのようであった。
自信。それは、自分に足りないものであると自覚しているからだ。
変な自信は色々ついてはいるが。
「で、でもどうやって……」
「自分が出来ることはなにか思い出すのよ。何でもいいわ」
「は、儚に出来ること……。えっと、儚、仮面ライダー……!」
「すごい!」
「にへへ……」
「他には他には!」
「え、えっと、えっと……」
「ちなみに私は英語出来るわ! 教師だから!」
「そ、それなら……。儚はグロンギ語話せる……!」
「え、マジか」
「ラジゼグ(マジです)」
他にもオーバーロード語、古代ファンガイア語などもいけるそうです。
「ババババ・ギギザヅゴンベ(なかなか良い発音ね)」
「……! チカさんもグロンギ語話せる……!」
「文法はほぼ日本語だからね。変な発音してるだけと思えば英語より習得は簡単よ。助詞とかは注意が必要だけどね」
「その情熱を他のに向ければあんたきっとすごい人になってたよ」
「うっさいわねー。オタクってのはこーゆー生き物でしょーが」
儚達が話しているすぐ近くの試着室はカーテンが閉められていた。カーテンの前では貴田が待機しており、試着中の莉緒に福田が話しかけていた。
「なんなんですあれー? あれが本当に莉緒さんのお友達なんですかー?」
「そうだよ。一緒に暮らしてる」
「えーなんか疲れません? ああいう人達と一緒って」
「────店員さん」
「ひゃ、ひゃい!」
「ビガゲ・ゴパダダ(着替え終わった)」
そして、中から莉緒がカーテンを開けて現れる。
カーキのタンクトップに涼やかなシフォンスカートという出で立ち。
ロングスカートは足の長い莉緒のスタイルを際立たせている。
「どうかな?」
「……あ、え、ええっと……予想以上に似合ってますよー! シフォンスカートって甘々って感じなんですけど、こういうカーキとかと合わせると甘さを抑えて、莉緒さんの大人っぽさに合うんですよ~!」
福田はグロンギ語に気圧されこそしたが、プロ意識を発揮していた。
「そうなんだ。ありがとう。じゃあ、これにするね」
「ありがとうございます~!」
「スタイリスト買い!?」
莉緒は服を買う時、コーディネートに疎いため福田に任せているのだ。
あまり自分の服装に頓着しない莉緒なので、放っておくとジャージで一生を過ごすことになる可能性が高いという……。
「えーいいないいなー! 店員さん私もコーディネートしてください!」
優李が福田にそう言うと、莉緒に向けていた笑顔から一瞬で真顔になりこう言った。
「すいません。うち、西○屋じゃないんで」
「○松屋!?」
福田の言葉に、優李は千佳に泣きついた。
「うわぁぁん!!! 幼児体型バカにされたよ~!」
「いや幼児通り越して乳児扱いよ」
「通り越すっつうか逆走つうか」
「色々小さいから……しょうがないです……」
「儚ちゃんまで苛めてくる~!!!」
「しょうがない私が見てあげるから泣き止みなさい」
「ぐすっ。やっぱり持つべきは幼児体型仲間だね……」
「私は幼児体型じゃないっつの」
「そうですチカさんは胸がないだけで大人です」
次の瞬間、店内に鈍い音が響いた。
「ひぃん……痛い……」
店の外に出て、頭をおさえる儚。
千佳からの暴力によってダメージを負ったため、外の空気に当たっているのだった。
そうしてしばらく外にいた儚だが、儚はこの時初めてこの世界を真っ直ぐ見つめたような気分になった。
眩しい、たくさんの人々が行き交う。
儚の世界では考えられないような高層ビルが並ぶ姿には圧巻。
いつも、ローブを被って自らを暗く狭い場所へと押し込んできたがゆえに、この景色がなんとも眩しく映るのだ。
「はあ……」
キラキラとした世界に目を輝かせる儚。
逆に、そんな儚に目を奪われる通行人達。
儚の人並み外れた美貌が輝いているからである。
「ちょっといいかな?」
「ヴェッ!?」
唐突に声をかけられた儚は驚き奇声を上げる。
儚に声をかけたのは、好青年風のスーツを着こなす若い男であった。
前髪を分けて額を出すことで明るさを、タレ目がちな瞳は人懐っこいという印象をそれぞれ与える。
「ごめんごめん。驚かせちゃったね。こういう者なんだけど……」
男は儚に名刺を差し出した。
名刺にはズババプロダクションプロデューサー。
遮二無二マスオと記されていた。
もちろん芸名である。
「君、アイドルに興味ないかな?」
「あ、あ、あ、あ……」
儚はパニックに陥っていた。
突然若い男から話しかけられるということは儚にとって非常に恐ろしいことなのである。
「あ、えっと大丈夫かな? 日本語話せる?」
「あ、いあ、ああ……」
儚はパニックの末────。
「ガギゾス・ゼグバ?(アイドル、ですか?)」
グロンギ語で話してしまった。
「君……どこの国の言葉なんだいそれ!」
「グロンギ……」
「グロンギ……? 一体どういう意味なんだ……。でも、とにかく面白い! 君ならアイドルとして輝ける! どうかな!」
「ガギゾス……(アイドル……)」
スカウトされている儚。
その様子を、ビルの影から望遠レンズで覗くものがいた。
「ふーん……。ま、ちょうどいいわね、あの男」
カメラから目を離したドクターハカリは怪人の魂二つを、遮二無二マスオに向けて解き放った。
ひぃん……。
ど、どうしよう……。儚がアイドルになったら、この世界の芸能界終わる……。
世界が儚一色に染まる……。
「ヴェヘヘ……」
「どうしたんだい……うっ!?」
「えっ……っ!? 取り憑かれた!?」
折り目正しいスーツの好青年の身体が、艶めかしい緑と獣のような黄色の毛皮に黒い斑模様に覆われる。
左手には円形の鋼の盾を持ち、右手には両刃の大鎌を構える魂融合怪人が誕生した。
談笑していた通行人達は悲鳴をあげて逃げ惑う。
騒がしい外の様子に気付いた千佳が儚のすぐ近くに怪人が現れたことを目撃し、咄嗟に外出ていた。
「儚!」
「チカさん! 皆さんとお店の中にいてください!」
「ふんっ!」
大鎌を振るう怪人。
屈んで回避した儚は助かったが、その斬撃の余波で街路樹が斬り倒されたのを見て、一気に緊張感が高まった。
「わざわざ近付く必要……なし!」
墓守ノベルトとキセキレジスターをローブから取り出し、儚は黒いベルトを腰に巻き付ける。
キセキレジスターを手首のスナップで開帳させ、怪人の斬撃を掻い潜りながら細筆でキセキレジスターに英霊の名を記していく。
《ボディ 仮面ライダースカル》
《アーマー アポロガイスト》
「変身……」
キセキレジスターを閉じながら合掌。
黒いボディに骨格を想起させるように銀のラインが全身を駆け巡る儚の周囲に風と炎が舞い上がる。
《仮面ライダースカル×アポロガイスト》
《街の涙を拭う骸骨男 非情なる太陽神 日輪骸装》
《仮面ライダーハカイブ パニッシャーマグナム》
日輪の如き盾と専用銃ガイストマグナムを構える紅き銃撃手。仮面ライダーハカイブ パニッシャーマグナム。
堅牢な防御とガイストマグナムによる銃撃で敵を制圧するハカイブが数多持つ姿の一つ。
「ジャガーバンとメ・ガリマ・バ……。ジャガーカマキリ……プロデューサーと名付けてあげましょう……はっ!」
ガイストマグナムのトリガーを引くハカイブ。
連射された銃弾は……全て、ジャガーカマキリPの盾に阻まれてしまった。
「なかなかの防御力……。ですが」
バックルからキセキレジスターを取り外したハカイブ。
ガイストマグナムで牽制しつつ建物の影に入ると、即座にキセキレジスターの右端の頁に英霊の名を書き加えた。
「仮面ライダーケ、タ、ロ、ス……」
仮面ライダーケタロスと記したキセキレジスターをバックルへと戻すと、おどろおどろしい声でアナウンスがされる。
《ウェポン ケタロスメテオ》
音声が告げると、ハカイブはガイストマグナムの折り畳まれた銃身とストックを展開。
ライフルモードへと移行させると、銃口にブロンズのケンタウルスオオカブトのような形状のグレネード弾が装備される。
「プロデュース……させてくれぇ……!」
駆けるジャガーカマキリPの前に躍り出たハカイブは腰を低く落とし、トリガーを引いた。
ケタロスメテオが発射された反動で、ハカイブの中でも最重量のパニッシャーマグナムでも後退させられるほどの反動。
それ故に、威力も絶大。
「っ!?」
独特の風切り音を鳴らし飛ぶケタロスメテオ。稀に幻聴が聴こえてくるという謂われがある。
盾で防御するジャガーカマキリPであったが、ケタロスメテオの威力は想像を遥かに越えるものであった。
真っ赤な炎をあげて大爆発。盾は粉々に砕け散ってしまった。
その隙を、ハカイブは見逃さない。
これを好機とガイストマグナムを連射するハカイブであったが、ジャガーカマキリPにはまだ恐るべき能力があった。
「速っ!?」
「君は完璧で……きゅうきょ……」
「言わせてたまるか……!」
高速で駆けるジャガーカマキリPをなんとか追うハカイブであるが、パニッシャーマグナムは防御に特化した姿のため機動力ではジャガーカマキリPに分がある。
高速で動き回り、ハカイブを翻弄するジャガーカマキリP。このスピードにあの斬撃が加えられたら。
想像するのも恐ろしい。
「プロデュース……!」
「その熱意には堪えてあげたいですが……! ぐっ……!」
ハカイブは大鎌の斬撃をパニッシャーシールドで受け止める。動きが止まったこの瞬間、ガイストマグナムを零距離で命中させる。算段であった。
しかし、ジャガーカマキリPは防御された衝撃を利用しバク宙。距離を取り、再びハカイブを翻弄する気でいる。
だが、この瞬間こそジャガーカマキリPの隙。
ハカイブはキセキレジスターを手にしていた。
《ボディ 魔進チェイサー》
《アーマー 仮面ライダーサソード》
「変身」
《魔進チェイサー×仮面ライダーサソード》
《鋼の番人 刃の貴公子 死神毒剣》
《仮面ライダーハカイブ マシンヤイバー》
紅い銃撃手から紫の剣士へ。
身体各部のマフラーが青い火を噴き、ハカイブを高速の世界へと誘う。
「はっ!」
蠍の鋏に似た緑の複眼、紫のボディ、青い刃が残光し、三色の光線を描いてジャガーカマキリPを追撃する様を映し出す。
無数に響く剣戟の音が、響き渡り────。
「今っ!」
「プロっ!?」
短時間で数えきれぬほど刃を交えた二人。
優勢なのは……ハカイブ。
傷を負い、ハカイブに背を見せ逃走するジャガーカマキリP。
その背に、ハカイブはジャガーカマキリPの最期を告げる。
「死神に代わって、剣を振るいます……」
バックルのキセキレジスターを閉ざすも、すぐに開帳させる。
《死神毒剣! 死神毒剣! マシンヤイバーブレイク!》
チェイサーヤイバーの青い刃を濡らす毒液を、ハカイブは斬撃波としてジャガーカマキリPの背へと向けて放った。
なんとか逃げようとスピードを上げるジャガーカマキリPであったが……。
「クロックアップ……」
ジャガーカマキリPと、放った毒の斬撃波が。世界がハカイブ以外スローモーションになったかのよう。
ハカイブは逃げるジャガーカマキリPの前に立ち、再び毒の斬撃波を放つ。
前と後ろからの二段攻撃。
ジャガーカマキリPがこれを認識するのは……。
「クロックオーバー……」
「なっ────」
命中する瞬間である。
前後からの斬撃波に切り裂かれ、ジャガーカマキリPは爆発。
取り憑かれていた遮二無二マスオ自体はダメージを負った様子もなく、気を失っているだけである。
ハカイブは変身を解き、儚の姿へ戻るとキセキレジスターを両手で開き、ジャガーバンとメ・ガリマ・バの魂を回収。戦士の墓場へと送り返すのであった。
シャッター音が響く。
ずっと、この戦いを見ていたドクターハカリによるものである。
連写して儚の姿を写真に収めていた。
「仮面ライダーハカイブ……。ハカイブの名を継ぐ者……」
そう呟くと、ドクターハカリの口角が上がる。
だが、すぐにその笑みは消えるのであった。
「ドクターハカリ~」
「は~い。なんですか~クロフト部長~」
「お前、経費で馬鹿高いカメラ買ったって……それかぁ!」
ドクターハカリの背後から迫っていたクロフトが、ハカリが手に持つカメラを指差し叫んだ。
「お前、馬鹿! なにしてんのマジで!」
「仕事のためなんだから経費使っても良くないですか~?」
「俺らの仕事でそんな馬鹿高いカメラ使わないの!」
「使いましたよ~。墓守の戦いを撮影してました~」
「なに! 墓守がどんな奴かは撮れたか!?」
クロフトの問いに、ドクターハカリは小悪魔的な笑みを浮かべて愛嬌を見せて……謝罪した。
「ごめんなさ~い! 戦い終わったらすぐにいなくなっちゃって撮れませんでした~!」
「撮れませんでした~! じゃねぇだろぉ! お前それ自費で買えよ!」
「そんな~。若い女子社員さん集めて飲み会開いてあげますから許してくださいよ~。それに~開発中のあれ、完成の目処が立ったので~。完成したら、まずは部長に。ね?」
「……本当だな?」
「ええ!」
「よし、分かった」
「やったー! 部長優しい~!」
「やめろ! 俺には嫁も子供もいるんだぞ!」
クロフトの右腕に抱きつくドクターハカリ。
ニコニコとした笑みの裏に、何かが秘められている。
ちなみに、カメラの経費申請は認められなかった。
帰路につく五人。予定より早い帰りのため日はまだ高い。
儚と莉緒以外はため息をついたりと意気消沈といった様子であった。
「はあ。なんか休み気分じゃなくなったわ……」
「怪人なんか現れるからだよ、まったく」
「まあまあ。怪人は儚ちゃんが倒したから、大丈夫だよ」
「そうだけどさ~」
そんな会話を聞きながら儚は歩いていたが、儚は何か意を決したような表情を浮かべ、足を止めていた。
「儚?」
「あ、えと……あの……。ま、また皆さんと遊びに行きたいです!」
儚は自分でも予想以上に大声となってしまったことが恥ずかしくなり、色白の肌が紅潮していた。
そして、この空白の時間がどんどん気まずくなってくる。
「あ、あう……」
「……うん! また皆で行こうね! 今度は望さんも一緒に!」
「は……はい!」
「サンは……あいつはいいか」
「そ、そこは大家さんも誘ってあげましょうよ……」
「もう夏だからな。江ノ島とか行くか?」
「海! プール! フー! あ、水着買いにも行かないと!」
「私、江ノ島ならシラス丼食べたいな。研究したい」
「相変わらずねー」
みんな口々に次に出かけるならどこに行くかという話題で盛り上がる。
さっきまでの意気消沈ぶりが嘘のように。
そのことが嬉しくなって、儚もまた笑顔を浮かべるのであった。
儚「は、儚の……ライダー怪人大研究……イエー……」
今日紹介するのはこちら……。
仮面ライダーアナザーアギト
身長200cm 体重97kg
自分だけがアギトでいいという思いから仮面ライダーアギトさんや仮面ライダーギルスさんと戦ったこともありましたが、自分の闇と向き合いアギトさん達と協力して戦った戦士です……。
そして今回の怪人は……
蜘蛛男
地獄からの使者……ではなく、ショッカーが生み出した改造人間。
仮面ライダー1号さんが初めて戦った怪人です……。
儚「次回も見てください……」
祝!シャニソンリリース!
儚「ひぃん……ハカイブ関係ない……」