中野家if ~アナザーエイジストーリー~   作:真樹

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※作中のゲームは某ハリネズミが看板キャラのゲーム会社がリリースした実在のオンラインゲームのオマージュです。


14才_三玖ちゃんは敗北が知りたい
三葉のクローバー事件


 この年、日本を震撼させた一大3Dアクションオンラインゲームが日本国内でリリースされた。

 その名も『ファンタジーコズミックオンライン2』。

 プレイヤーは惑星間を旅する大船団の戦闘員となり、星々に出現するモンスターを討伐するというものだ。

 そして、リリースから三か月が経過した頃、そのゲームをプレイしているものならば知らぬ者はいないトッププレイヤーが爆誕した。

 

 その名は『スリー』。

 

 特定の時間にしかログインしないことから、学生か社会人であろうと予想されるこの者は、神がかったプレイスキルにより瞬く間に界隈を震撼させた。

 一説では、アカウント作成した初日に最高難易度をクリアしたとか。

 はたまた24時間常時ログインしている、お前は食事と入浴と排泄、何より睡眠はどうしたと疑われるような廃人をタイマンで下したなど、所説流れていた。

 

 そして、ネットの彼らは知らぬことだが、それらの噂は真実である! 

 

 この者は他のゲームには顔を見せないことから、おそらくこのタイトルにのみ天賦の適正があったのであろう。

 そんな、日本で大流行しているゲームのトッププレイヤーであるスリーの正体こそ──

 

「GG、今日もサポートありがと……っと」

 

 名門女子中学に通う少女、中野三玖であった。

 今日もまた一仕事、()()であるクエストのクリア画面を表示させたままチャットをした。

 直後、怒涛のように流れるログたち。

 

『スリーさんお疲れ様です!』

『今日も最高のプレイでした!』

『またキャリーお願いします』! 

 

 このゲームは複数のプレイヤーが同時にプレイするゲームであり、対戦相手はコンピュータである。

 そのため、制作会社側はトップ層のプレイヤーであろうと容易にクリアできないよう、もはや調整ミスを疑うレベルの高難易度のクエストを設置しているのだが、スリーが参加したクエストでの失敗率は0%であった。

 その恩恵にあやかろうと、ハイエナの如く集まるプレイヤー達からの賛辞であった。

 そんな、ネットに慣れた者が見れば明らかなお世辞であろうログに対して、当の三玖はと言えば、

 

「フッ……」

 

 と含みのある笑いと共に、愉悦感に浸っているのであった。

 悲しいことに、彼女がゲームという文化に触れ始めたのはまだ去年、妹から戦国時代を題材にしたゲームを借りて以来だったため、ネットリテラシーはまだ勉強中であったのだった。

 

 チラリと、ノートPC脇の時計を見ると、父から言いつけられている一日のゲーム時間をもうすぐ超えようとしていた。できて次が最後だろう。

 ※補足だが、すっかりゲームにハマった三玖は父へ懇願しゲーム用ノートPCを買い与えられている。

 

 三玖はクエストに参加しているものでなく、自分を出迎えるべく待っているプレイヤー達がいるロビーへ出てから、全体チャットをする。

 

「次でラストにする。付いてこれるやつだけ付いてきな……っと」

『了解です! 当然ついていきます!』

『俺も参加します! フレは置いてきました! あいつはこの戦いについていけないからな!』

『スリーさんの素早すぎるテクニック、俺でなくちゃ見逃しちゃいますからね』

 

「フッ……」

 

 やはり同志たちは共にきてくれるらしい。

 慣れた手つきで次のクエストを受注すると、今度のクエストに参加してくれる他プレイヤーを待つ。

 それに呼応して、次々と参加してくるプレイヤー達。

 皆、何度も戦場を共にした見知った名前たちだった。

 しかし、その中で一つだけ知らない名前があった。

 

「誰、これ。"クローバー"?」

 

 読み上げた名前は、単語の意味自体は知っているが、このゲームにおけるプレイヤーネームとしては知らないものだった。

 

「もしかして、また私の新しいファンかな。挨拶してあげよ」

『クローバーさん、よろしくおねがいします』

 

 定型文のような文章だが、『スリー』が送るのだから光栄だろうとふんぞり返っていると、少しの間の後クローバーから返事があった。

 

『よろしくおねがいします!!!!』

 

 三玖のPCからクソデカい爆音が鳴り響いた。

 このゲームにはチャット一つとっても多様な機能がある。基本的なものとしては、プレイヤーの発言はログに表示されるだけでなく、プレイヤーが操作する3Dモデルのアバターから漫画のように発言内容を吹き出しとして表示させるなどだ。

 吹き出しでの強調など、吹き出しにも様々なエフェクトを付与することができるのだが、こともあろうにこの新顔は一番やかましいもの選択してきたのであった。

 それはもう、あまりの音量故に慣れたプレイヤーなら使わないほどのものだ。

 

 あまりにもデカい音量だったらしく、直後隣の部屋から──

 

『三玖! うるさいわよ!?』

 

 と二乃の怒鳴り声と共に壁ドンが聞こえた。

 

「ご、ごめん!」

 

 ゲーム画面へ目を戻すと、他プレイヤーも鼓膜を破壊されているらしく、ログでは既にクローバーに対して非難轟轟であった。

 三玖も文句を言ってやろうと思ったが、そのあまりの責められっぷりにこれ以上の追撃は可哀そうだと思ってしまった。

 

「まあまあ、誰だってミスはあるよ……っと」

 

『流石スリーさんです! 了解です!』

『新入りはやるならルール守れよ!』 ※無論そんなルールはない。

『でもスリーさん、こいつ初心者に加えてベータ勢ですよ?』

 

「え」

 

 いつものように取り巻きが勝手に盛り上がる中で、最後の取り巻きのログだけが目に止まった。

 ベータ勢とは、いわゆる携帯ゲーム勢のことだ。

 このゲームはマルチプラットフォームでのクロスプレイを可能とする。要するにパソコンと据え置きゲームと携帯ゲームなど、異なるゲーム端末でも一緒に遊べてしまうのであった。

 嫌ならば各端末専用のフロアがあるが、承認欲求のモンスターであった三玖は誰でも参加可能のフロアでゲームをしていた。

 そのため、クローバーのプレイヤー情報を参照できるネームタグを閲覧してみると、確かに携帯端末からのアクセスであることを示すマークが付いていた。

『プレイセンターベータ』。携帯ゲームの中ではハイスペックらしいが、他端末のプレイヤーからの評判はすこぶる悪い。

 その理由は単純に携帯ゲームなので、パソコンや据え置き機には性能が劣り、ラグや陳腐なプレイが発生しがちなのが原因であった。

 ※とはいえ、上手い人は上手いのだが割合で言えば足を引っ張るプレイヤーが多いように見られるという話である。

 そしてそれに加えて、クローバーのレベルにも気が付く。

 

「5レべ……はぁ?」

 

 このゲームは敵を倒すと経験値を貰え、一定値まで溜まるとレベルが上がり強くなる。古き良きRPGスタイルだ。

 そして、この時の三玖のレベルは45、このゲームにおける最高レベルだ。

 クローバーの5レベルは、チュートリアルを終えて30分もあれば到達できるレベルだ。

 つまり完全に初心者。しかも地雷。

 

「一回解散しようかな……いやいや、参加してくれた他のプレイヤーにも悪いし」

 

 迷った後、三玖はチャットへ打ち込む。

 

『構わない。俺がキャリーしてやる』

『流石スリーさんです!』

『了解です!』

 

 三玖の鶴の一声で、あっという間にクローバーを受け入れる空気へと変貌する。

 そんな空気になったおかげか、当のクローバーもやる気を出したらしく、

 

『スリーさんありがとうございます! 私、足を引っ張らないよう頑張ります!』

 

 などとのたまっていた。

 

 本音を言えば、リタイアしてほしかった。

 

 そしてゲームは始まった。

 

 ゲームの展開は凄惨な内容だった。

 クローバーが足を引っ張る。とにかく引っ張る。

 初心者が最高難易度のクエストに参加しているのだ、すぐに倒されてしまうのはもはや必然だろう。

 けれど、問題は生きている時の方だった。

 三玖が参加している最高難易度のクエストともなると、プレイヤー達はゲーム中で最強の武器を持っている場合の方が割合として多かった。

 それでもなおゲームを続けているのは、このゲームを極めたいからか、はたまた純粋に楽しいからなのか、他の武器も全て手に入れるためであった。

 そして、最高難易度で出現する武器となると自然と落ちるものではない。手順が必要なのだ。

 例えば敵の尻尾や角など、特定の武器を破壊しなければならないなどだ。

 

 それをクローバーは壊さない。壊さないのにドンドン敵を倒す。

 武器がドロップする部位というのは、基本的に個別でHPが用意されている。

 壊れるまで攻撃しないと、部位が壊れないのだ。

 しかも質の悪いことに、容易に武器をドロップさせないためか、部位に設定されているHPと敵本体のHPが近似値となっている場合が多い。

 そのため、余計なダメージを与えないよう熟練のプレイヤー達は細心の注意を払って攻撃をするのだが、後一撃で部位が破壊できるかというタイミングでクローバーはトドメを指す。

 

 流石に、再び非難が殺到する。

 三玖もこれには擁護できなかった。

 早く強くなりたい気持ちはわかるが、それでもマナーは守ってほしい。

 

(もしくはマナーを知らない?)

 

 そう考えていると、二乃とは反対の部屋から声が聞こえてくる。

 

『よっ! ほっ! やった、また倒した!』

「まさか……」

 

『ゴメン、一瞬afk』

 

 チャットにそう入力すると、三玖はPCの前から離れて立ち上がった。

 ※AFKとは、ゲーム用語における離席を意味する。

 

 部屋を出て、そのまま隣の部屋の扉をノックもせずに勢いよく開ける。

 

「四葉……!」

「あ、三玖!? あの、これは、違くて……!」

 

 部屋の中では四葉がベータを持って遊んでいた。

 飛び込んで来た三玖に慌てふためく素振りをする。

 

「三玖にはゲーム卒業って言ったけど、たまには息抜きもしたいし」

 

 おそらく、去年ぐらいにゲームを貸してくれた時に言った言葉をきにしているのだろう。

 

「そんなことどうでもいい……! とりあえず今すぐゲーム抜けて……!」

「ええ! せっかく三玖と同じマッチに入れたのに!」

「……わざとなの?」

「あ……たまには遊んでみたいかなーっとか……ほら、風太郎君との約束のために私最近勉強しっぱなしだったし」

「わかった、今度遊んであげるから……今は私のフレに迷惑かけないで……!」

「はい」

 

 それだけ言うと、頭を冷やすためにトイレに寄ってから自室に戻った。

 再びヘッドホンを付け、PCに向き直るとログが大量に流れていた。

 おそらく、クローバーこと四葉がクエスト中に抜けたことでまた怒り狂ってるんだろう。

 

 一応確認のため、ログを最後の既読の場所まで遡る。

 最後の既読の後、一番最初の発言者は四葉だった。

 

『ごめんなさい、姉から怒られたので落ちます』

『姉フラ草』

『お前現実でもそんな煩いのか』

『いや、スリーが私のお姉ちゃんで』

『は?』

『は?』

『は?』

『え、きみいくつ?』

『14。お姉ちゃんも同い年』

『ロリキター!』

『スリーさん中学生ってマ?』

『だから夜のちょっとしか見かけ──』

 

 バンッ、とPCを閉じた。

 そのまま、顔を両手で覆う三玖。

 

「身バレした……もうログインできない」

 

 実際には性別と年齢だけだが、ネットリテラシー勉強中の三玖であってもこの先の展開が容易に想像できた。

 ただでさえ信者の多い自分だ。性別と年齢がバレただけでも面倒くさい付きまといが急増するだろう。

 だから今まで年齢不詳の男として振舞っていたのに、一瞬で台無しになった。

 

 後に、スリーとクローバーという少女ふたりによるブースティング行為としてこのことは『三葉のクローバー事件』と呼ばれるようになった。

 以降、三玖は『ファンタジーコズミックオンライン2』へログインすることなく、引退した。

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