上杉楓(4):風太郎と四葉の娘。幼稚園生。
いつものように夜遅く、喫茶なかのの扉が開かれた。
二乃「いらっしゃーい」
勇也「マルオじゃねえか。こんな時間に何の用だ?」
マルオ「……お前こそ何をしている。ここは僕の娘の店だぞ」
勇也「ここの二階は俺の家だっつーの」
三玖「お義父さん、らいはちゃんがお嫁に行っちゃってからここで晩酌するようになっちゃって」
マルオ「三玖。この男をお義父さんと呼ぶ筋合いはないはずだよ」
勇也「なんだ嫉妬かぁ?」
マルオ「黙れ」
二乃「言葉つっよ」
三玖「でも上杉さんとか、フータローのお父さんとか呼びづらいし」
マルオ「では呼ぶ必要もないだろう。上杉、ここから出ていけ」
勇也「客がオーナーに向かって出て行けとは妙なことを──」
マルオ「黙れ」
勇也「娘が嫁に行きたてで絶賛メンタル弱り中だぞこちとら。大声で泣くぞ?」
三玖「とても弱ってる人の言葉とは思えない……」
マルオ「そろそろ入ってもいいかな? この子をいつまでも外にいさせたくない」
楓「……こんばんわ」
勇也「楓も来てたのか! 久しぶりだなぁいつぶりだよ!」
マルオ「やめろ来るな。楓に触るな」
勇也「おいおいまた嫉妬か? お前一緒に住んでる割に懐かれてねえもんな。良いおじいちゃんになるコツ教えてやろうか?」
マルオ「お前に頼ることはない」
二乃「相変わらずお父さん達仲悪いわねぇ。孫の前なんだから空気の良い家庭を見せようって気にならないの?」
マルオ「そんな繊細な立ち回りを僕ができたなら君たちと打ち解けるのに十年もかからないだろう?」
二乃「めちゃくちゃ卑屈な上から目線やめて!」
三玖「楓ちゃんとりあえず席に……もう座ってるね」
楓「あのね、ママからね、ニノママとミクママになかよくしてあげてって言われたの」
二乃「四葉……! 本当にうちの子はいい子に育って……!」
三玖「誰目線のつもり? っていうか感動するとこそこ? 楓ちゃんじゃなくて?」
二乃「楓ちゃんは常に天使だから別格なの! 生きててくれるだけで尊いんだから!」
三玖「わかる」
勇也「わかる」
マルオ「わか──」
二・三・勇「ん?」
マルオ「…………」プイッ
勇也「それにしてもマルオと楓の組み合わせって珍しいな。四葉ちゃんはどうしたんだ?」
マルオ「仕事で帰りが遅くなるらしい。本当に珍しいことに、今日は休みの僕しか家にいなくてね」
三玖「五月は林間学校で泊まりだったっけ」
二乃「ついでに言えば一花もロケで出張ね。それでここへ来たってわけね。うちは託児所じゃないんだけど?」
楓「……かえで、じゃま?」
二乃「全然そんなことないわよ!? むしろずっとここにいたっていいくらい!」
勇也「そりゃいいな! マルオんところじゃなくてうちの子になるか!?」
三玖「それはダメ!」
勇也「三玖ちゃん史上一番の大声」
三玖「…………お父さん、せっかく来たんだし何か飲む? 最近お酒も出すようにしたんだよ。楓ちゃんもジュース出すからね」
マルオ「僕は結構だよ。めでたいことでもない限り飲まないのは知ってるだろう」
三玖「そっか。でももう夜だし、珈琲とか紅茶は寝るのに差しさわりが出るかも。お水でいい?」
マルオ「ああ」
楓「じいじ、お酒のまないの?」
マルオ「そうだよ」
楓「ママがね、言ってたの。お酒のめないパパ、ちょっとだけかっこわるいって。じいじも?」
マルオ「ワインをもらおうか」
三玖「おめでたい日しか飲まないんじゃなかったの……!?」
二乃「これは親バカなのか爺バカなのか……」
勇也「どちらにしてもこいつ丸くなりすぎだろ。人に気を使うタイプじゃなかったはずだぞ」
マルオ「聞こえてるぞ。あまり僕をからかうな」
勇也「んだよノリが悪いな。せっかくお前にも可愛い一面が見えたって話だろうが」
二乃「確かにお父さん仕事で忙しいの相変わらずだし、私達ですら楓ちゃんとお父さんが一緒にいるの見るのレアだけど」
三玖「フータローが見たら普段のぎこちなさとかもかなりマシになりそう……」
マルオ「二度は言わないよ。 次に同じことをしたら僕にも考えがある」
勇也「へえ、怒ったら何するんだよ」
二乃「ちょっと煽らないでくださいよお義父さん」
三玖「でも姉妹たちだけじゃなくて、お義父さんもセットでってなったらどうするのか気になるかも」
マルオ「スター〇ックスに出資してこの店の前に出店させる」
二・三・勇「舐めた口利いてすんませんでした」
マルオ「わかればいい」
勇也「こいつ無駄に金持ってるからマジでできそうなんだよな……」
二乃「ついでに言えば性格的にもやりかねないし……」
マルオ「(スマホ取り出し)ああ、お世話になってます中野です。実は新店舗のお話を──」
三玖「ワインお待たせしました……!」
マルオ「冗談だよ。繋がってない」
三玖「心臓に悪いからやめて……!」
マルオ「これは、そうかもうボージョレーの季節だったね」
三玖「解禁日は少し前だけどね。一応喫茶店だから、普通のしか置いてないよ」
二乃「楓ちゃんはジュースでいいわよね。はい、オレンジジュースって……って、ゲームなんて持ってきてるの?」
勇也「知ってるぞ。ス〇ッチってやつだ」
三玖「そんなの誰でも知ってます。楓ちゃん、ソフトは何遊んでるの?」
楓「しゅいかげーむ」
三玖「物凄く流行に乗ってる……!」
二乃「なにそれ?」
三玖「今凄い流行ってるやつ。お父さん達はともかく、二乃が知らないのはヤバいよ」
二乃「知らないわよ。ゲーム興味ないし」
マルオ「一応それは僕が選んで買ってあげたゲームだけどね」
三玖「お父さん以下……」
二乃「それはちょっと……マジで傷つくかも」
マルオ「失礼だね」
勇也「おめえは何で知ってんだよ?」
マルオ「患者の中には子供も多いからね。話題を合わせるのは怖がられないようにするための近道だよ」
二乃「あー、確かに子供の頃って病院とかやけに怖かった覚えあるわ」
三玖「子供……? 高校生の頃だって注射が嫌で逃げ回ってなかった?」
二乃「自然と高校生時代を子供の頃って言うようになってる自分に気が付いて今凄いショックを受けたわ……」
勇也「あー、あるよなぁそういう時期」
二乃「同情が更に辛い……!」
マルオ「いい加減嫁の貰い手を見つけたらどうだい?」
二乃「お父さんがそれ言う!?」
三玖「何で二乃の失言で私までダメージ受けないといけないの……!」
二乃「それにそういうこと言うお父さんが一番フー君と私たちのことを邪魔してたじゃない!」
勇也「お前そんなことしてたのか? ちっせぇ男だな」
マルオ「あれはお前が息子の躾がなってなかったからだ」
勇也「あ?」
二乃「ちょっと喧嘩はやめてください! 楓ちゃんが見てる!」
楓「じいじたち、なかわるい?」
勇也「え、いや、んなこたねえよな? な? マルオ?」
マルオ「いや、僕はお前が嫌いだが?」
勇也「空気読めよ! やっぱ全然変わってねえなお前は!?」